異能 1
ターク達がカランコエ村の老人の家で世話になってから数日が経とうとしている。ガリカに向かうまでの間タークは老人の木こりの手伝いをしていた。しかし情報を集める為、料理を習いに行っている美人のデルとルビーを囮にして新しい隣人の様子を見に集まった近所の何人かの村人達と接点を持った。無害そうな笑顔浮かべると親切な村人達は六周刻の間に起きた災禍についてタークに教えてくれた。
要約するとおおよそこのような事である。
「目が覚めるような風が吹き間近のモンソニアを見上げると赤と青の柱が現れて混ざり紫の星を生んだ。やがて星は消えたがそこから無数の魔族が現れて様々な国を滅ぼした」
「アルウェンシスも滅び魔族の軍勢はそこで新たな国を作って支配を始めたがたびたび王都のあった西方では大小様々な色の光の柱が立っている」
「支配から逃れた様々な民達がどこかに集まり国を作って逃げ延びた。勇者がガリカに滞在しその亡命を助けている」
「魔族はプレイオスピロスという絶対支配者の命令によって神を殺すための道具を血眼になって探している。」
「砂漠からやってきた様々な異国の人たちは故郷を救う為に旅立っていったがそのことごとくは死んだだろう」
タークにはまるでそれが伝承じみたホラ話にも思えたが必死に逃げ落ちた村人達が嘘をついているとは思えなかった。ある者はその話を始めた途端に恐怖で目が痙攣したり、魔族に故郷を焼かれた怒りのあまり罵声を浴びせてきたり極限に置かれた戦場の兵士などと似通った様子を見せたからだ。
ある村人などはアルウェンシスの兵士だったといいその証拠に、タークも王軍の前線指揮で参戦していたネポス大戦のネポス征伐戦勝記念金貨を持っていた。タークは正体を伏せて話を聞いていたが兵士の話はまさにその戦場の者しかわからない口振りであったので、その者からアルウェンシス滅亡が確かだと伝え聞いたとき王国や公爵家を守れなかった自身の不甲斐なさとその不運を呪いいよいよその禍々しい真実に苦悩した。
しかしガリカに老人と共に向かうのが最善であるという確信と生き延びた人々がいるという希望がタークを静かに励ました。勇者と呼ばれる者、新たな国そしてプレイオスピロスという魔の皇帝。まだ知らなければならない事もいまだ多くあるのだ。ガリカにいるアイスバーグなる商人は情報通だと老人から聞いているしその期待通りであれば僥倖であろうというものだとタークは思った。
そしてモンソニア連峰の西端にあるとされるピレナの港町ガリカに出発する前の晩。空き宿の家でタークはデルとルビーに重々しく話をした。最初は置いていかれると思って泣いていたルビーだったがデルが諭すと素直に話を聞いた。
「明日ガリカという港町に行くがお前達も連れて行く」
ルビーは目を輝かせ、その娘を案じていたデルも心なしか笑顔であった。二人は抱き合って永遠に離れないのではないかと思わせるほど
「まだお母さんとお父さんといっしょにいられるのね!すごくうれしい!!」
「ルビー、これは旅行じゃないの。お父さんはやることがたくさんあるから余計な苦労をかけちゃダメよ?」
「うん。わかってるもん。ね?お父さん」
「ルビー。お前はあまりわかっていないかも知れないが今回の港町への旅は危険なんだ。道中でさえ恐ろしい魔物が出ると聞いている。だから今回はあまり勝手な事をしないように母さんと一緒にビオイデスに家ごと入れておく」
「お父さん私も戦えるよ!」
「ダメだ。お前は母さんに勉強を教えてもらいなさい」
「ルビー!また腕を跳ね飛ばされるわよ!いう事を聞いて大人しくしなきゃダメなの!」
デルが厳しく言うとルビーがびくっ。としてあの日の事を思い出したのか少し寂しそうにちじこまった。
「うん…わかった…」
「ルビー。一緒に戦いのお稽古でもしましょうか?ビオイデスにはたくさん剣もあるしお父さんほどじゃないけどお母さんも戦えるから!元気だしなさい」
「ほんと…?やったー!」
デルの力量は正直なところタークも不詳ではあったがひとまず子供の扱いは専門外であったので任せることにした。道のりは長いのでその稽古とやらの合間で魔法の勉強なども二人でしてくれれば戦力も上がり様々な不安が解消されるだろう。何よりルビーはデルにしっかり懐いている。そこまで考えたあとタークとデルはルビーを寝かしつけて宿の一階で準備をはじめた。
ルビーは、がうがう。とわけのわからない寝言たてて可愛く眠っている。
「はじめるぞ…」
「ええ!“お父さん”」
「…よせ」




