スピリット 3
もはやそれは天に至るほどの、虚な緋色の驚天の刃。
短剣かと思われていた赤黒く刃のない均圧石板は
剣身などではなく、今やその僅かな層から爆発的圧力で
炎より熱くペレイデスより緋い幻影の刃を現出させる。
脅威的な魔力にあてられた、姿の見えない龍の咆哮が
モンソニア連峰の厳の断崖から木霊する。
もはやその光は西側の斜面を焦すほどの眩さだった。
心身を失ってしまいそうな至近の夕陽は光だけを残して
フェティダの身体ほどの長さに瞬間的に濃縮される。
エレクトラムであった。
遥か古代に失われたはずの魔力を閉じ込めた奇石。
手にした者は永劫に呪われるといわれる呪物。
ーー見つかるな。逃げろーー
故知らぬ者の声が、フェティダの耳に届き
緋剣の記憶が莫大な情報を持って脳に流入する。
荒涼とした砂漠の剣『グラッスラ』
記憶することを許されぬ、魔を引き寄せる剣だ。
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アルバとグラウカは謎の力によって転移させられていた。スピリットとは違う何か良からぬ者の力に違いない。今や彼らは先ほど登ってきたはずの山から、ちょうど真裏に位置するであろう場所で、強烈な魔力を帯び収束した赤い、天高く伸びる光刃を見つめ、立ちすくむしか無かった。
しかし、アルバの聖眼は捉えた。フェティダの魔力だ。
古い魔力と混ざり合うその魔力は、膨大だが邪悪な気を帯びている。何かが確実に、始まってしまうのだ。恐ろしい何かが。勇者は叫ぶ。
「フェティダァア!!!!! やめろおお!!!!」
しかし、無情にも静止した時は動き出した。
エレクトラムの妖しい光に魅せられた、心を持たない
邪神達は、探し求めていた力を人界に見出してしまった。
束の間の平穏が崩れ去るように、世界は二つに乖離し
次元の縫いとめられた空が亀裂を生じ、食い破られる。
アルバの霊剣ギスレーヌもまたその神域の本性を現した。
さまざまに発色する燐光と魔力の渦が大地を震わせる。
突如、霊剣から巨大な蒼の光の柱が立ち昇る。
テネブリスを封じ込めた霊剣の真の姿。
緋に染められたモンソニアは、瞬く間に山頂を挟んで打ちつけられた蒼と混ざりあって、光を失うほどの創世の紫の閃光をあげ天上に巨星を産んだ。




