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砂漠の騎士  作者: 波崎ひかる
第一章
28/39

スピリット 3



 もはやそれは天に至るほどの、虚な緋色の驚天の刃。


 短剣かと思われていた赤黒く刃のない均圧石板は

 剣身などではなく、今やその僅かな層から爆発的圧力で

 炎より熱くペレイデスより緋い幻影の刃を現出させる。


 脅威的な魔力にあてられた、姿の見えない龍の咆哮が

 モンソニア連峰の厳の断崖から木霊する。

 もはやその光は西側の斜面を焦すほどの眩さだった。


 心身を失ってしまいそうな至近の夕陽は光だけを残して

 フェティダの身体ほどの長さに瞬間的に濃縮される。


 エレクトラム(神魔合金)であった。

 遥か古代に失われたはずの魔力を閉じ込めた奇石。

 手にした者は永劫に呪われるといわれる呪物。


 ーー見つかるな。逃げろーー


 故知らぬ者の声が、フェティダの耳に届き

 緋剣の記憶が莫大な情報を持って脳に流入する。


 荒涼とした砂漠の剣『グラッスラ(指し示す者)』

 記憶することを許されぬ、魔を引き寄せる剣だ。



 ***********************************************************



 アルバとグラウカは謎の力によって転移させられていた。スピリットとは違う何か良からぬ者の力に違いない。今や彼らは先ほど登ってきたはずの山から、ちょうど真裏に位置するであろう場所で、強烈な魔力を帯び収束した赤い、天高く伸びる光刃を見つめ、立ちすくむしか無かった。


 しかし、アルバの聖眼は捉えた。フェティダの魔力だ。

古い魔力と混ざり合うその魔力は、膨大だが邪悪な気を帯びている。何かが確実に、始まってしまうのだ。恐ろしい何かが。勇者は叫ぶ。

 

 「フェティダァア!!!!! やめろおお!!!!」


 しかし、無情にも静止した時は動き出した。


 エレクトラムの妖しい光に魅せられた、心を持たない

 邪神達は、探し求めていた力を人界に見出してしまった。

 

 束の間の平穏が崩れ去るように、世界は二つに乖離し

 次元の縫いとめられた空が亀裂を生じ、食い破られる。


 アルバの霊剣ギスレーヌもまたその神域の本性を現した。

 さまざまに発色する燐光と魔力の渦が大地を震わせる。

 

 突如、霊剣から巨大な蒼の光の柱が立ち昇る。

 テネブリス(星の瞬き)を封じ込めた霊剣の真の姿。


 緋に染められたモンソニアは、瞬く間に山頂を挟んで打ちつけられた蒼と混ざりあって、光を失うほどの創世の紫の閃光をあげ天上に巨星を産んだ。



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