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砂漠の騎士  作者: 波崎ひかる
第一章
22/39

カランコエ村のルビギノーサ 3


 真夜中の肌寒い月明かりの中。

 デルとルビギノーサは二人、寝台の上で眠っている。


 

 今朝、ルビーが目覚め、はらはらと涙を見せると、誰にも呼ばれたことのない本当の名を二人に教えてくれた。その生まれやこの村にいるいきさつなどは語らなかったが、壮絶な出来事があっただろう事は容易に推察できたし、警戒心を解いた幼い子供を問い詰めるほどにはタークも冷酷ではなかった。


 デルはビオイデスから出されたドレスを受け取ると姿を二十周刻前半の艶っぽい黒髪の美女に変容させた。今は寝台で眠りにつくドレスも、もとはリリウムに送るために拵えさせたという点では、メイド服と同じではあったが、これは成長しきった身体の尺をとってあるものであったので、従者のような少女の姿では当然余ってしまうわけである。


 しかし想定外のことは起こるもので、リリウムより少し恵まれた姿に変容したのかだいぶ女らしい身体つきをしており、服を脱ぎ変容させたときには、強心臓のタークでさえ気がおかしくなってしまいそうになり慌てて部屋を飛び出す始末であった。


 目立たないドレスを着て、髪をまとめたデルをみたルビーの反応はタークとは違ったもので「本当のお母さんみたい」や「お父さんおんぶして」などと言っていた。そんな母のようなデルも、痛く少女が気に入ったのか抱き上げてキスをしたり、タークの持ってきた林檎を一緒にかじってタークと星の海を泳いできた話をし、本当の母子のように過ごしていた。そして今や二人で眠りについて、安らかな寝息を立てている訳である。



 ーー何があったら俺を父親に感じさせるのだ……



 この黒騎士も家族を知らない。幼い頃の記憶は無いし、気がつけば孤児院にいた。自分を引き取り我が子のように育ててくれた公爵夫人の暖かい笑顔が思い浮かぶ。今朝の親子のようにはしゃいでいたデルも、少し、あの笑顔に似ていた気がする。


 タークも椅子に座り親子のような二人を見つめ眠った。


 

 タークが朝目覚めると寝台に座るデルのふとももの上で目が覚めた。


 ルビーはサウンデルのおさがりのメイド服を着て、小さい部屋の中をくるくる踊っている。メイド服とは言ってもエプロンなどは取り払ってあり、一見すればどこかのお嬢様のようだ。エボルス避けの馬の耳のような棘の頭飾りが、不思議とタークにも可愛く思える。



 「お父さんありがとう!お洋服もらったのなんてはじめてだよー!」

 

 「ルビー良く似合ってるわよ。大切にしなきゃね」


 「……」



 はぁ…。深いため息をついてタークが思考をまとめる。

ルビーとはここで別れる。旅を再開し、リトープスなる妖魔を討ち滅ぼし一刻も早く公爵家に帰還しなくてはならない。その為には足手まといになる要素はできるだけ残しておきたくはないのだ。



 ーー気の毒だが話さねばなるまい……



 しかしタークが起き上がろうと上体を起こすと、その意図に勘づいたデルが、両頬に陶器のような冷たい手で触れて、柔らかなくちびるでタークの言葉を殺した。タークは驚愕した。なぜこんな人間らしい振る舞いを、この擬態した魔馬がするのか。その理由が一瞬分からなかった。


 タークが一瞬硬直した瞼を見開くと、深い青色のデルの瞳が赤や紫にちりちりとその色を明滅させている。恐らくこのルビギノーサという娘が心配だろう事は、この騎士でさえ理解できたのである。



 ーー怒っているんだな……だがこの娘は旅には連れていけない!



 タークも鬼の形相で見つめ返し、押し倒して牽制しようとするがそれをみているルビーの様子が何やらおかしい。



 「お父さん……お母さんが大好きなのはわかるけど子どもの前でそんなことしちゃだめなんだよ!」


 「違うルビギノーサ!これはお前の為を思って!」


 「お父さんたら……ルビーがさみしくないように妹弟を作ってくれるんですって」


 「ーーえっ……そうだったんだ!お父さん……わたしおそとで野獣捕まえてくるね!」



 ルビギノーサは笑顔でスキップしながら、短剣を持って部屋の外に出ていった。部屋にのこされた二人はそれぞれ少女を気遣って怒鳴りながらもみくちゃになっている。そもそもが盗賊であったという少女の前提すら、二人の頭には既にない。



 「サウンデルなにがしたいんだ!」


 「あの子は一人では生きていけません主よ!」


 「魔馬風情が!召し物を被って人になったつもりか!連れていけば、あの子はいずれむごたらしく魔獣に喰われ、死ぬかもしれんのだ!お前もわかるだろう!」


 「ーーうぐっ!……やめ……て……」



 王国ですら見せたことのない激昂をタークは撃発させた。そして女の首をぎりぎり。と絞めるあげると、サウンデルにまとわりついた控えめな化けの皮を、首元から腰までビリビリと引き裂く。


 女の豊かで甘い臭気が霧のように広がって、か弱い白い肌と豊かな乳房があらわになり、デルが頰を染めて目をつむり顔をそらす。


 ーーやりすぎである。タークは自らを省みて、冷静になった。



 「……すまない」


 「……たしかに私が間違っていました。ただ、罪滅ぼしがしたかっただけなのかもしれません。でもこの気持ちはなんなのですか?奴隷の生き方しか知らないあの子にターク様が見せてくれたような美しい景色を、わたしも見せたいのです……」



 デルはきらきらとひかる無数の虹彩の瞳を点滅させながら、大きな雫をぼたぼたとその胸にこぼす。激しく乱れた胸の鼓動で、その水滴が艶美な河を谷間に生み出し、長い黒髪が、交わらないはずの白い肌と、透き通るように調和した。



 「好きにしろ……俺もそうさせてもらう」


 

 タークは何故自分がそうしたかわからないが

 デルがしたようにその口を薄く冷たい唇で覆った。

 


この続きのタークとデルの夜伽のお話は「流刑人」ですが

ムーンライトノベルのほうで展開される性的要素が多分に含まれる成人向けのお話です。本筋には極端に関係しないお話ですが是非ご覧ください。物語自体はこのまま続きます。

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