少女盗賊 2
サウンデルは、トゲ耳のついた頭を考えるように揺らしながら、あらましを語り始めた。
『ご主人様が眠ってしまった後、私は近くの村に向けて
パリエースの階段を真似て作ってみました。あまりご主人様ほど上手には行きませんでしたが、なんとか降りられる程度には発動できましたので、なるべく人目につかないように、少し村から離れたこの空き家に辿りつきました。』
『この空き宿の裏手に着地したあと、スキル変化で人の姿に自分を変えて、ご主人様のお洋服を拝借し着替えました。そのあとは空き家の中に魔獣や人がいないか確認する為に忍びこんで、偵察し、特に異常が見られなかった為、軽くお掃除をしてターク様のもとに向かったのです。』
『ご主人様を隠した物陰の近くから、何やらガサゴソ。と荷物を漁るような物音が聞こえたので、パッと覗きこむとそこには人間の少女がいて、大切になさっているだろう立派な鞍を持ち去ろうとしていました。私も魔獣ですから、人間のか弱い少女程度には手こずるわけもなく、ぴょい。とひと投げしてビオイデスにーー』
そこまで聞いて、タークはなるほど様々な事象の説明がついた。盗賊が何故ビオイデスに閉じ込められているかや、ここまで無事には降りれないであろうと思っていたサウンデルの足取り。そして、駒に変え人に変え大きさを変えるそのスキル。メタモ。不思議だとは思っていたが、強力な魔獣ならそういうこともあるだろう。と勝手に勘違いしていたタークであったが、まさかサウンデルが神の祝福であるスキル持ちであるとは思わなかったのだ。
ーー早めに聞いておくべきだったなーー
そしてまた、この馬がメイドの役を大変巧くこなしているのを見て、存外、演技が上手いものだと感心した。
「それでこの村の者に接触はしてないだろうな?」
「はい。ですが空を飛んだ馬に乗る騎士というのは大変目立つでしょうし断言は致しかねます」
「そうだろうな。実際閉じ込めたという盗賊の女子もそれを見てここにきたんだろう。だが、まあいい。ビオイデスから椅子でも引っ張り出して、お前も座れ」
サウンデルは扉近くのビオイデスにたかたかと歩幅小さく近づいて、背を伸ばし、んーしょ。というふうなことを言って椅子を引っ張り出した。ここでさらに疑問が湧いて出た。
「待てサウンデル。何故ビオイデスを使える?ビオイデスはこの世に一つしか存在しないマントで、魔力神経を通わせたもの以外は、何をどう念じようが、収納したり、引き出したりすることはできないんだ」
「何をおっしゃいますかご主人様っ。私と契約してくださったじゃないですか?」
「お前が勝手に忠誠を誓っただけだろう。儀式もしていないし……いや……制約調印の言霊か。合点がいった。口を開くな」
「んん!? んんん!」
ーーつまり神殿で忠誠を誓うとのたまったときに勝手に魔力神経を結んで人馬一体にしてしまったわけだ。こいつの髪の色が俺に似ているのも魔力神経が同調してしまった影響だろうし。空中で睡魔に襲われて昏倒したとき感じた魔力の枯渇感もこいつの生命活動に必要な魔力を吸われての事か…ビオイデスを使用できるのもその為……ーー
はぁ……。タークは寝かされた古い寝台の上で大きなため息をついて、サウンデルにもう喋って良いと告げた。口をもごつかせた様子を見ると、どうやらさまざまな制約を、主であるタークが声ひとつで行使できるようである。しかし、どうでもいい事だがタークにはある疑問が一つ残っていた。
「ひどいですよ……」
「ちなみにお前はメスか?」
「ご興味がおありですか?」
サウンデルはスカートの短い裾をゆっくりつまんで、白い肌をこちらに見せつけようとしている。タークは顔を左にそらして何も見ないようにするが、駄馬はそろそろ慎ましく近づいて、耳元で甘い声をわざとらしく出し、こう言った。
「メスですよぉ。ごしゅじんさま……」
「わかった。もういいからやめてくれ……」
だいぶ精神的に参ってきていたタークであったが、逸らした視線の先にはもぞもぞと蠢いているものがある。壁に吊るされたビオイデスはいよいよガタガタ揺れはじめて、中の盗賊を吐き出したそうにしているのだ。喚くような引っ掻くような金切り声がマントから響いていた。
ーーできればまともなただの盗賊であってくれ。神よーー
古い宿の寝台で、タークは心の底から神に祈った。




