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25:飛躍

 このようにして、残す大公爵のうちの一人、山の大公爵も屈服させることに成功した。


 彼女は巨人であったが、惑星ほどの大きさの竜と一戦交えたこともあるロガーノの敵ではなかった。


「ばけもの」


 大公爵、グラムモンドは悔しそうにそう毒づいた。


「え、名前はロガーノだけど……」


 彼がそう答えたので、いよいよ巨人は自分の敗北を認めざるを得なかった。


 自分以外のすべてを小石かアリのように扱ってきた彼女だったが、ロガーノの前では自分こそが矮小な小人のように思われたのだった。


 こうして、無事に四人の大公爵の署名を得、意気揚々と最後の一人の元へと出発した一行であったが、抜け目なく送り込まれた刺客がリソマーリに致命傷を負わせたため、その気分も霧消した。

 

 東方の古い民族からかつて学んだ神秘的な魔法が、彼女の一命を繋ぎ止めた。もっぱらロガーノはその時まで、この魔法を自分の腹痛を治すために使っていたのだが。


 それでもリソマーリは血を吐いて、その苦しみようはとても見ていられるものではなかった。コルデッスすらも、同情の顔を隠せなかった。


 休息できる場所を求め、最寄りの村に彼らは滞在した。燃えるような熱を出し、リソマーリと同じ部屋にいるだけで、誰もが汗をかくほどだった。


 それでも特にツシヌレは、自分が脱水症状を起こしかけているのにもかまわず、太陽と月のめぐりも無視して、付きっきりで看病をしていた。


 リソマーリの治癒には、まだまだ時間がかかるようだった。


 しかし、今度の敵、最後の大公爵にして、竜と魔族の血が半々ずつ流れる最大の脅威、ニド=ヘリオトロップは、それを待ってくれるほど有情でも、愚かでもなかった。


 外からの騒がしい声でロガーノが目を覚ますと、すぐにその声に村人ばかりでなく、魔物の鳴き声も混じっていることに気がついた。


 すぐに駆けつけ、明らかにこの一帯に通常出没するのよりもはるかに格上と思われる敵を掃討したが、このような襲撃はその日一日中続いたのだった。


「出てけよ」


 村人の一人がロガーノに言った。


「あの魔物どもの狙いはお前らのようだ。お前らが魔物を呼び寄せたんだろう?」


「出てけ」


「出ていけ」


 憎しみの込もった声はいつまでも続いた。やっとその声がやんだのは、ロガーノが頭を下げたためだった。


「……死にかけている仲間がいるんです。わたしは今すぐ、この始末をつけに行きます。その間は、わたしの仲間がこの村を守るでしょう。命に代えてでも」


 それだけ言うと、彼は仲間たちがいる建物へと戻った。しばらくすると、ひどく言い争う声が中から聞こえてきた。


 悲鳴も聞こえた。なにか明らかに刃傷沙汰と思われるどたばたが聞こえた。それもやがて消え、まったくの沈黙が訪れた。


 次の瞬間、窓を破って、猫に追われるネズミもかくやと思われるほどの韋駄天で駆け抜けていく人影を村人たちは見た。それは後から考えると、ロガーノだった。


「ばか。ばか。ばーか」

 

 ツシヌレは地団駄を踏み、辺りにあるものを手当り次第、ロガーノが消えていった方角に向かって投げ続けた。


 それは日が沈むまで続いたので、村人はそれまで彼女に事情を聞くことができなかった。


「あのばか、一人で魔王城へいっちまったの」


 月が昇るころ、やっと村人の一人がおずおず話を聞くと、ツシヌレは栗のいがにくるまれたかのような声でそう言った。


「……死んじゃうかも」


 そうつぶやくと、村人を家から追い出し、ばたんと音を立てて戸を閉めた。


 彼女はその夜も眠らず、少女が負うにはあまりにも酷な熱にうなされているリソマーリのそばで、目の前で死にかけているのと、魔王城で死にかけているのと、両方の仲間のことを想い、ずっとなにかを考えていた。


 コルデッスはそのさまを、影からずっと見つめていた。


 月が沈むより、日が昇るより速く駆け抜けたロガーノは、ツシヌレにぶっ殺されかけたあの時から、ほとんど時間を置かずに魔王城へと到着した。


 もともと、第一話であの虚弱な魔王が悲鳴を上げていなければ、とっくにここへたどり着いていたはずだった。


 ちょうど今まさに魔王城へ走ろうとしたその瞬間、あの弱々しい悲鳴は聞こえてきたのだった。


 あのアーミラの見栄っ張りな虚飾のはりぼてのお城とは違って、魔王城には実質を伴った邪気が、殺意が、城壁の隅々からも立ち上ってくるようだった。


 城門を乗り越えた瞬間、全方位から、精鋭中の精鋭たる魔物の軍団が、彼めがけて襲ってきた。


 あまりにも彼の到着が早すぎ、多少面食らっている感はあるものの、よどみなく殺戮への衝動を発揮している点は、すべての魔物に共通していた。


「こんな熱烈な歓迎は初めて」


 ロガーノは感動の声を上げ、お礼に一太刀浴びせかけた。


 一太刀とはいっても、ばかみたいに範囲の広い一太刀で、首のない死体が彼の周囲にたちまちにして出現し、まるでたちの悪いいたずらのようだった。


「こんな芸当、仲間がそばにいたんじゃ、とてもできないもんね」


 思いっきり彼が剣を振ると、こびりついた血が弧状に跳ね散り、前方に赤い道を作った。

 

「あんまりソロの挑戦者を舐めるもんじゃないぜ」 

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