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24:特効地点

 犬が飼い主に似ると言われるように、使役された死体も、その使役者の性質を克明に映す鏡となる。


 よく誤解されていることとして、死体を操るのは十中八九黒魔術のうさんくさい外道の人非人のネクロマンサーばかりである、というものがある。


 確かに死体を操ろうと企むものの多くが、なにかいかがわしく、法にもとるような目的を意図している事実は否めない。


 しかし必ずしも邪悪な道士ばかりが死体を用いようとするのではなく、魂の在り処の究明や、死後の世界への探索などといった、純粋に学究的な好奇心を満たそうとするものも少なくないのである。


 彼彼女らは死者にこの上ない敬意を払い、複雑怪奇な蘇りの儀式と、それに伴う儀礼的なこれまた奇々怪々なる振る舞いを完璧に成し遂げたその上で、初めて自らの目的を謙遜しながらも明かすのである。


 そのように呼び覚まされた死者は、生前の道徳心を損なうことなく、むしろ肉体の枷を外された分より純化されたとも呼べる有様で、清らかな霊魂の姿のまま現世に降臨する。


 しかし、先述したようなよこしまなる死霊術師の場合、このようにはいかない。彼らのはらむ邪気が詠唱の言葉を通して魂を汚染し、似たような性質のアンデッドにまで堕落せしめてしまうのである。


 望まぬ復活を遂げしこれらの死体が忌避するものは、やはり術者自身と同様であり、すなわち清浄なるありとあらゆる存在である。


 たまに持ち上がる死者の軍団の復活という騒動の際、有力な避難所候補として最寄りの教会が提案されるのにも、このような事情が関わっている。


 で、我らが勇者たるロガーノは、当然このディバインパワーが強力に極まっているわけで、それはつまり彼がこのような死者共からしてみれば、まさしく「歩く教会」としか呼べないほどにまばゆく、忌避すべきものとして目に映ることを意味するのだった。


「だから言ったじゃないすか。ムリです、って」


 かんかんに怒り狂ったアーミラにより召集された刺客の一人が、平謝りに謝りながらも弁解していた。


「主人の命令に逆らうというのか? また元の腐ったただの肉と骨に戻りたいというのか?」


「いっそそうしてください。正直この距離でも……」


 刺客はロガーノのほうをちらりと見、すぐ骨ばった、というか骨そのものの両手で目を覆った。


 /\ 

 

 こんな感じで。


「もういい!! 消え失せよ!」


 彼女が一声そう叫ぶと、煙となって刺客は消えた。後には硫黄のような臭いが残るばかりだった。


「わははははは!! 気まぐれな部下にはお互い苦労するな、アーミラよ!!」

 

 品位もへったくれもなくコルデッスは爆笑した。


「気まぐれな上司にもね」


 ロガーノはぼそりとつぶやいた。


「く。く。く。ああ!! もう我慢ならぬ! 我自らが貴様らに手を下してくれるわ!!」


 アーミラは激高した。


「さっきから同じこと言ってるぞ」


 ロガーノが指摘した。


「やるなら早くやってくれ給えよ」


「か……!!」


 もはや言葉もなく、ロガーノの期待に応えてなのかどうかは知らないが、アーミラは空中から猛然と突っ込んできた。


 コルデッスだけが避け損なった。


 魔王にしては悲しいほど華奢な体が中空をぶっ飛び、はるか彼方の広間の壁にびたんと貼り付けられた。まるで虚弱のカリカチュアである。


「ぐ……わ……我のことはいい……そいつを……倒してくれ……」


 気を絶つ寸前に気力を振り絞って口にした言葉ではあったものの、当然ながらそんな満身創痍の体で吐かれた言葉の声量などたかが知れており、これを聞くものは誰ひとりとしてないのだった。


「あいつなんか言ってたか?」


 アーミラが繰り出す無数の邪法をかわしつつ、ロガーノはふたりに訊ねた。


「わかりません……」「知らない」


 ふたりは首を振った。


「まあ、どうでもいいけど……」


「こら!! 我が全力で相手をしてやっているというのに無駄口を叩くでないぞ!!」


 アーミラが怒りまくって叫んでいる。広間いっぱいに魔術を展開しているというのに、たちの悪い羽虫かなにかのようにロガーノが完璧に回避するのだから、この苛立ちにも無理はない。


 ただ、たとえ狙いすました一撃でさえも、ロガーノに当たるかどうかは怪しいところなのだ。


 それだというのに、「まあこれだけ弾幕張っときゃ一発くらいあたってくれるでしょ」的な楽観視、数撃ちゃ当たる的オプティミズムの精神では、当然一発の被弾とて望むべくもないのである。


 やっぱり見た目が派手なだけだ、とロガーノはつくづく思った。吸血鬼というのはどれもこれも、技の見栄えばかりを気にし、その威力や燃費にまでは思い至らないという悪癖を持っていた。


 死者の使役にしてもそうだった。完全な服従を強いていたのなら、あの刺客が「ちょっとあの人こわい……」なーんて個人的な理由でわたしを襲わなかったなんてこと、あるはずがない。


 確かにこれほど多くの死者を蘇らせたのはあの大公爵にちがいないだろう。ただ、あんまり統率のほどは上等ではないようだ。……やっぱり見た目重視なのか。インパクトか。数なのか。


「ま、そんなショーもそろそろ潮時か?」


「は?」


 アーミラは突然後ろから響いた声に固まった。ツシヌレやリソマーリを攻撃しようと躍起になるあまり、もうひとり、一番接近されたくないタイプの敵がいたことを、すっかり失念していたのだった。


 それに対する後悔を感じる間もなく、終焉。


 強烈な一撃が、こめかみを直撃した。


「やっぱり、吸血鬼も他の種族と変わりないな」


 地上に屈辱的なポーズでうずくまったアーミラの姿に、ひゅーと口笛を吹いて勝利宣言。


「頭叩けば死ぬ」

 

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