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23:トランシルヴァニアの落とし子

 このあたり一帯の墓という墓に眠る死者が、この巨城を築くために動員されたにちがいなかった。


 あらゆる時代と文化圏を横断する、まったくわけのわからない様式で、自然の石をそのまま柱としている部分もあれば、極端に人工的かつ前衛的な支柱が空間のド真ん中にデザインされていもした。


 外部からしてかような混沌であるのだが、内部はその比ではなかった。


「あれ……? この絵、ずいぶん昔に盗まれたって騒がれてたものじゃありません?」


 ツシヌレは回廊に飾られた一枚を指差した。


 この城の主、吸血鬼アーミラは、あらゆる時代の、あらゆる土地から盗みを働き、自分の巣を絢爛に飾り立てていた。


 絵画、宝石、彫刻、彫像、銅像、仮面、書物、鎧甲冑、宝剣、その他吸血鬼の目に麗しく映る万物が、この城に収集され、なんらの法則も見いだされない乱雑さで配置されていたのだった。

 

「なんだ、こんなものを持っていたなどとは一言も聞いておらんぞ」


 とコルデッス。


「いったいこんなものの何が良いのだ……吸血鬼の考えることはわからんな」


 大広間のひとつには、未だ分別されざる、雑多な宝物の山が山と連なっていた。


 どれもこれも、まだ埃のひとつもなく、今までロガーノが見た盗品と比べて、この城に拉致されてから日が経っていないように見えた。


「これも死者を操って集めさせたのでしょうね」


 ロガーノは、見ていると正気が溶解して耳から流れ出そうな絵のひとつを手にとった。


「死んだ人でもなきゃ、こんなんには手を触れたいとも思わないでしょうし」


「大公爵さんたちは世界を支配したいんじゃないの?」


 リソマーリは途方も無い財宝の地平を呆れて見つめた。


「そのアーミラとかいう吸血鬼はただコレクションをしているようにしか思われないんだけど」


「まあ。あいつのことだ。魔王を目指すというのも、世界の財宝を自分の意のままにしたいという欲望への足場でしかないのだろう」


 コルデッスが言った。


「その通りだ。追われた魔王よ」


「我は追われてなどおらん! ……とうとう姿を見せおったな」


 声は上方から届いた。言うまでもなくこの城は縦にも横にも無限に広大であり、神々の住まうあの山よりも高い階数を誇っている。


 黒い翼を大儀そうに羽ばたかせ、威厳を最大限保つかのように、おそろしくトロい速度で、件の大盗人が現れた。


「我こそがこの宝飾無限の巨城の主にして最も世界を統べる魔王の座に近くある開闢より連綿と断絶なく続きし純粋なる高貴なる稀少なる無欠の血の一族の末裔にして最大の才覚と力量と優美と威を授かりしこのまったき」


「死ね」


 リソマーリはアーミラの口上と体をぶっ貫くための矢を脈絡なく放った。無限の殺意と力を帯びた巨矢はぐんぐんと速度を増し、一秒後にはあの減らず口から真紅の噴水を噴き出させるかに見えた。


「……まったく」


 リソマーリは目を見張った。放った矢は今アーミラの手の中にあった。彼女はそれを小枝のように扱い、真っ二つに折ってしまった。


「エルフというのは品位に欠ける。まあ、我が種族以外のすべてについて言えることだが……エルフ自身は自らを高貴なる出自と思い込んでいるぶん、特に醜悪だ」

 

 アーミラはその赤い目でリソマーリを睨んだ。


「では、話を戻すとしよう。えー、我こそがこの宝飾無限の巨城の主にして……」


「おい馬鹿。もういい。貴様がどういう輩であるのかはこの我が最もよく知っておる」

 

 コルデッスがどなった。


「我を裏切り、かような悪趣味ふんぷんの掃き溜めを作り上げるのに腐心する、薄汚いこそ泥でしかない。即刻処刑を申し渡したいところだが、あいにくまだやってもらわねばならない仕事がある」


 コルデッスは例の信任状を取り出した。


「ほら、とっととこれにサインせよ」


「聞くに堪えない侮辱。好き勝手にそれをぶちまけた挙げ句、この上なお我に命令を下すというのか……」

 

 怒っているようだ。


「下賤なる出自の者共。この我自らがその血を絶やしてやることを光栄に思うがいい。……まあ、この広間まで生き残って来たことは、多少褒めてやってもよいがな」


「でも別に、特になにもありませんでしたよ。妨害とか……」


 ロガーノは首を傾げた。


「ほう。強がりを言ったものだ。我が操りし死者の内でも精鋭のもの、生前は名を轟かした戦士や英雄を、一部隊を壊滅させるに足るほど遣わしたはずだがな」


「ねえ、そんなのいたっけ?」


 ロガーノらは顔を突き合わせて相談した。


「フン。気にするな。ああいう大言壮語がやつの悪癖なのだ。我が保証するが、何らの刺客の存在も認められなかった」


 コルデッスは鼻で笑った。


「いましたよ」


「ぶっ」


 ツシヌレの言葉にロガーノもコルデッスも噴き出した。


「そう。いた。でもどうしてか、わたしたちには近づいてこなかったんだ……」


 リソマーリも首を傾げた。


「怖がってたのかな?」


「……え?」


 今度はアーミラが戸惑う番のようだった。

 


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