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14:安直なキャラ付け

 言うまでもないことだが、エルフの耳は長い。


 なぜ長いのかというと、これまた言うまでもないのだが、まったくわかっていない。


 しかしロガーノにとって、エルフの耳が長かろうが短かろうが、どうでもよいことだった。


 今から会うかもしれないエルフの、その姉が問題なのである。


「あー、どうすりゃいいのか?!!?」


 【大森林】間近に築かれたエルフの里に向かう道中、ロガーノはひたすらうめき声を上げ続けていた。知らない人が聞けばお産でもやってんのかと誤解されたであろう。


「合わせる顔がない。『あー、きみ、ツシヌレの妹? やーやーよろしく。ところでさ、君のお姉さん死んじゃったんだ』なーんて、言ってごらんなさいよ。即座に集団リンチコース突入ですよ」


「うるさいやつだ。別に貴様が殺したわけでもあるまい。堂々としていればよいだろう堂々と」


 コルデッスが言った。


「君はいいね。何もしても何をしなくとも、とにかくずっと堂々としていられるんだもの。いやほんと、羨ましい特性ですよこれは」


「……愚弄しているのか?」


「え? いや、いやいやいやいや。ほんとにそう思ってますよ。マジ。本心。心根から。だいたい、もう起こっちまったことは変えられんのだし、ならくよくよするよか、堂々としていたほうが得なんだってこと、わかっちゃいるのだけれどねえ」


 ため息と嘆息を呼吸のように行いつつ進んでいたロガーノだったが、ついにはその虫の息すら止まってしまった。


「か、か、着いちまった」


 ロガーノは胸を押さえてぶっ倒れた。


 前方に、そこが里の入り口であることを示す門が見えたのである。


 霊樹を削っって作られたそのアーチが、ロガーノにとっては希望を剥奪する地獄の門のように見えた。


「おい、さっさと行くぞ」


 コルデッスはつま先でロガーノの尻をつついた。


「あー、生き返ってくれねえかなあ、ツシヌレよ」


 無茶苦茶をこぼしつつ、しかたなくロガーノは立ち上がった。


 門まであと数歩というところで、熱烈な歓迎。


 およそ百本の矢である。


「な!?!」


 コルデッスは驚愕のあまり全身カチコチ。半ば非生命のその体を素早くロガーノは背後へかばい、反力の呪文を口にした。


「なんともはや、正確なエイミング」


 小枝でつつかれた巨人ほどの動揺も、彼にはなかった。


「そのぶんだけ、跳ね返すのもお手頃ってもの」


 百本の矢(推定)はあまりにも正確に、ロガーノ目がけて収束するように放たれていたため、彼は自分の前方のわずかな範囲に力場を設置するだけで、やすやすとこの難局を脱出することができた。


 推進力を逆転された矢は、四方八方、あらぬ方向に飛び散って、木漏れ日の下でうたた寝していたオーガの尻にぶっ刺さるなどしていたが、ロガーノの知ったことではない。


 矢が飛び交う寒気のするような音が消えると、後にはただ木々の葉が擦れ合う音だけが残った。どうも、向こうさんの予定が狂ったらしい。


 すると、一人のエルフが困惑ぎみにご登場。目には油断もスキもあったもんじゃない光がギラってるが、どうしようかな的な表情は隠しきれないチャームポイント。


「わずかだが邪気を感じる」


 突風のようによく通る声がそう告げた。


「お前ではない……お前の背後にいる者だ。いったいそいつは……いやまあ、お前もだけど……何者だ?」


「わ、わずか?」


 鉱石の買取金額のあまりの低さに仰天した採掘師のように、コルデッスの声はすっとんきょうだった。


「ふざけるな!! 我こそは魔王なり!! この世に混沌と破壊と死と破滅と支配と暗黒と邪気と邪悪と絶望と滅亡と闘争と流血と戦乱と……」


「事情をお話しします」


 コルデッスの名乗りを打ち消して、ロガーノは言った。


「……それで魔族と共に旅をしているのだな」


 先ほどのエルフはうなずいた。ロガーノは彼女がこの里の長老であったと知ってぶったまげた。


 エルフと共に過ごしていた過去があれど、人間がかの種族の年齢を推し量ることには甚だ困難が伴うのである。


「しかし、本当に魔族なのか? このあたり一帯に出没する魔物のほうが、まだもうちょっと邪気が強いような……」


「しーっ! しーっ! また騒ぎ立てられちゃ困るでしょ」


 ロガーノは慌ててその先を続けさせなかった。コルデッスは円卓の一方で、提供された食事にがっつくなどしている。


 やはり適切に調理された食物しか口にしようとはせず、さんざん腹を空かせていたのだ。


「我は高貴なる出自を持つ身の上なるぞ! 下賤な生き物の食らう、ナマの動物や植物など食べられるか」


 などとのたまっている割には、食べ方はずいぶんと意地汚くロガーノには思われた。長老が彼女を物珍しそうに見やるたび、ロガーノの顔は反射的に赤くなる。


 ヤ、なぜおれがコルデッスのことで赤面しなくちゃならんのだ。こんなやつのやることなんて、おれには一切合切関係ないというのに……


「【大森林】に入り込んだ魔族には、こちらも手を焼いておってな」


 長老の話に引き戻される。


「べつに野望もなく暮らしていた魔物を言いくるめ、次々と配下を増やしている。このままでは大森林から魔物があふれ出し、そこらじゅうに跋扈しかねない」


「それを防ぐためにも、われわれが」


「しかし、あそこはとんでもなく迷いやすい土地なのだ。戦闘には自信があっても、道を失って餓え死にしたのではしょうがない」


「そうですね」


 ロガーノはうなずいた。


「正直、わたしも方向感覚には自信があるほうじゃありません。前に一度、厠を探してあちこちうろつきまわった挙げ句、吸血鬼の城に入り込んでしまったことがあります」


「大丈夫だったのか?」


「はい。……まあ、ちょっと前時代的な便器でしたけど」


「そ、そうか。とにかく、道案内が必要だろう。既に一人に声をかけてある……人数が多すぎても、お前の邪魔になるだろうしな」


「ありがたいありがたい」


 長老の館の戸が叩かれた。


「おう、来たか。入ってくれ」


「はい」


「ぶっ」

 

 ロガーノは飲みさしの茶を前方に噴出した。戸の外側から聞こえてきた声が、今現在最も聞きたくない声の序列首位独走中のまさしくあの声だったからだ。


「……あ、ロガーノさん!」


 ツシヌレの妹、リソマーリが良心の呵責を呼ぶ笑顔でロガーノの目に飛び込んだ。


「お姉さまはご一緒ではないのですか?」








 

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