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第72回 芙蓉記 第17話 黄泉がえり

<芙蓉記登場人物リスト>


カドモス  (六合星のカドモス)中原からの流れ者

ダーナ   (勾陳星のダーナ)元オレア国天文官 魔法使い

イアソン  (貴人星のイアソン)知将、元行商人

ルキアノス (玄武星のルキアノス)元オレアの武官、槍の名手

ネクタリオス(青龍星のネクタリ)用心棒家業、弓の名手

タキス   (天空星のタキス)双鞭の使い手 魔法使い

レアンドロス(白虎星のレアンドロス)元ハニア国海軍士官

ミルトス  (太常星のミルトス)僧侶 治療術使い

デルフィネ (太陰星のデルフィネ)パトライ国第五王女 女将

ミュージカ (天后星のミュージカ)発明少女

芙蓉姫    パテリア王。炎王



ホル    パテリア国宰相主補佐

カルスダン パテリア国宰相補佐

パサナテル パテリア国宰相補佐


ミケーネ  占い師、(アルマロスのミケーネ)

ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物


シャヘル   冥界の王 十人の妖魔の主


ウーマー   妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー) 

コスタ    妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる

ハスタ    妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇

アエヌス   妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者 

ラング    妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング)  大蛇に乗る

ベネノ    妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる

カーサー   妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る

カスピス   妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)

グラッシス  妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る

ベナ     妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い


<中原諸国>

テルプーサ 中原北部の国

コザニ   テルプーサの東の隣国

パライ   テルプーさの南の隣国

パサカイ  コザニの南西の隣国

オレア   中原の大国。後の王都フローレオ近郊

バールバス オレアと覇権を争っている国。ユンクタス河から移動して来た。

シキュオーン オレアの南の隣国

オリュントス バールバすの南の隣国

ハニア   シキュオーンの南の隣国、海に面する

 レビダスは弓の練習に余念がありませんでした。彼の弓は天下一品でしたが、それも全て日々の演習のたまものでした。彼は基礎練習に時間を費やし、基本技こそが最高奥義という哲学をもっていました。蘭公主のことでは、頭を痛めていましたが、内心、王族でなかったらどうしただろうと思うことはありました。今は奇妙な流れで、反乱者となりましたが、政府側であったら自分はどうしただろうと、別の可能性も考えてみました。

 何処からか、竪琴の音色が流れて来て、それはフィディアが謡う、芙蓉記でした。


 ネクタリオスは行方不明になったデルフィネを探して、彼女の故郷パトライに着いた。パテリア国炎王の側近という地位を利用し、パトライ王に直接会い、行方を探したがなんの手がかりもなかった。王はデルフィネの帰還を喜び、迎え入れたところまでは分かったが、それ以降の足取りが掴めなかった。カドモスは羽根が帰ったことから、デルフィネは妖魔に敗れたと判断していたが、ネクタリオスはまだ認ていなかった。かつて、デルフィネが自分を探したように、今度は自分が彼女を探す番だと思って居た。

 しかし、パトライ国の誰に聞いても、彼女のその後について知る者はなかった。誰も彼女を見ていないとは奇妙なことで、国全体が、口を閉ざしているようだった。何の手がかりもなく、奇妙な教えが流行っていることに嫌悪した彼は、その国を去ったのだった。ネクタリオスとしては彼女の墓に花でも捧げたかったが、それも叶わなかった。

 ネクタリオスが王都に帰りついてみると、カドモスが彼を待っていた。カドモスは旅の支度をしており、その格好は軍勢を引き連れ西に向かうものではなかった。彼の話すことによれば、再びゼノビオスと再会し、冥王打倒の方法について相談したらしかった。聖剣グラディウスを手に入れ、ダーナが神具を持ち帰れば、それで十分なはずであったが、カドモスは、自分にせいで、陛下が力をだせなくなるのではないかと恐れていたのだった。それで、もっと強力な助っ人はないのだろうかと、ゼノビオスに相談したのだった。

 セノビオスとしては、聖剣がある以上十分な戦力と判断していたが、確実に冥王を葬るには、力ある者の力を借りる必要もあるであろうと同意し、その方策を与えた。

 その方法とは。かつて、人間が造られる遙か昔、神々の時代。世界に秩序はなく混沌としていた。その世界には世界を創造するほどの力を持つ者がいたが、その姿は混沌としてとらえどころがなかった。運命が誕生した時、世界に回転が起こり、新しき者の存在が現れた。混沌の者は次の混沌の誕生者によって打ち破られ、それを土台に次の世界が構築され始めた。こうして何度もの交代を繰り返し、世界に秩序がもたらされた。最後に八柱神が誕生したときは、世界は完成間近だった。かれらも同様の運命をもっており先代の混沌を打ち破らなくては成らなかった。しかし、先代の混沌の神は強かった、彼らはなんとか倒し、世界の統治神となったが、先代を世界の土台にしてしまうことは出来なかった。そこで彼らは異空間に封じ込めその周囲を煉獄の壁で覆い尽くしたのだった。その場所こそが地獄の世界であり、冥界とは不死ながら死の状態にある混沌神を包み込んでいる場所なのであった。

 カドモスが行おうとしているのは、冥界の最深部、地下深くに眠っている混沌神の肉体の一部を持ち帰るといったものだった。混沌神の力の一部を地上に蘇らせて、冥王にぶつけるといった作戦だった。この任務は困難で、敵の本拠地の最深部まで行かなくては成らず、途中、冥王によって始末させられる危険性がかなりあった。しかし、カドモスはこれに賭けてみようとしていた。

 ダーナからの報告では冥王の魔力は強大で、我々全員が束になってかかっても仕留めることは困難で、神器に頼るしかないとの結論にいたっていた。カドモスが危険な賭にでるもの分からないことではなかった。彼は地獄に行っている間の、炎王の警護をネクタリオスに頼んだのだった。

 詳しい説明を聞いたネクタリオスは同意し、カドモスを地獄に送り出すことにしたのだた。ただし、芙蓉姫こと炎王には、西部への援軍との名目で都を離れることこととし、納得させた。こうして、ネクタリオスは都の警護を任された。その後、ハニアに唯一絶対神を奉じる邪教が広まり、復活と救済さらに審判が信じられるようになったので、僧のミルトスは、これを調査すべく現地に向かったのだった。


 西部で激戦が繰り広げられているさなか、都では平安な日々が続いていた。ネクタリオスは地方で反乱の様子も無く、退屈しており、平民の服に着替えると、街で噂話を聞いて回ったのだった。中原の戦が終わり、各地の街が豊かになっているようだった。諸国の関所もなくなり、物流は盛んに成り、商業が発展し、農民が安心して農作業が出来るように成ったため、農産物の生産量を上がっているようだった。噂話のなかで。ネクタリオスが気になったのはパライ、テルプーサ辺りの何気ない話だった。それによると、戦場跡地から奇妙なうめき声が、風流れて聞こえてくるというのだ。怖い作り話は庶民の娯楽であったが、何故かネクタリオスは気になった。

 彼は政庁に行くと、部下に命じ、この噂の詳細を調べさせた。待つこと数日して、報告がなされた。かつてパテリア軍が戦った戦場地帯でうめき声が響き渡っていたのを聞いた者がおり、その戦場跡に人が徘徊しているのを目撃したものもいたようだった。さらに別に事件として近隣の村を匪賊が襲い、住民を虐殺しており、治安部隊は賊の特定を急いでいるとのことだった。この事件は不思議な事件で、村は破壊され、血があちらこちらに落ち、争った跡があるのに、村人の誰の死体がないことだった。

 不可思議な事件が起こっていたので、ネクタイリオスは軍の小部隊を送り、事件の首謀者を捕らえる様に指示した。事件は、これで解決するはずであったが、その後、ネクタリオスにもたらされた報告は、部隊が壊滅したという報告だった。単なる墓荒しの野武士ふぜいが、近隣の村を襲っているのと判断したが、これは反乱規模だった。直ちに、大部隊を差し向け、これを鎮圧するように命じた。しかし、これでも苦戦し、ネクタリオスはただならぬことが起こっていると分かった。戦いの詳細を訊いてみるとこの様なものだった。


 賊のが出没する地帯に到着し、まず先遣隊の陣屋を調べてみると、幕屋は破壊され、辺りに血が飛び散り激しい戦闘が行われていたことがわかった。やはり不思議な事に、兵士の遺体は無く、どの様に殺されたのか不明だった。早速、捜索隊を出し、周囲を探したが見つけ出すことは出来なかった。賊は森に潜んでいると思われ、隠れ家を探すのは難しかった。仕方なく夜を待って、賊が動き始めるのを見計らって、賊の正体を突き止めようとした。夜となると、森が騒がしくなった。部隊は周囲を巡回し、賊を探した。暫く隊列を組み、進んで行くと賊に襲われ、被害にあった村を通過した。村は暗く灯りが点っていなかった。一人の兵士が暗闇で人の姿を見かけたが、行ってみると誰もいなかった。燃えて崩れた家にばかりの村に、好んで誰れが来るだろうかと、そこは見過ごした。

 次に先遣隊の幕屋に再び行ってみると、暗闇にうごめく人の姿があった。灯りも点さずそれは確認できなかった。生憎、月は新月で夜は暗かった。賊に違いないと判断し、奇襲を掛け捕縛するつもりで、密かに兵を進ませた。賊は、何かを探すように徘徊し、うめき声を上げた、森でしていた微かな声と同じものだった。賊の間近に迫った部隊は一気に賊を襲った。賊より部隊の兵が多くゆとりの戦いのはずだったが、思わぬ展開となった。賊は、パテリア正規兵の服を纏っていた。部隊長は驚き、攻撃をやめたが、賊はそれまで、無気力に徘徊をしていたはずであったが、それをきっかけに、剣を抜くと襲いかかったのであった。部隊長は「味方だ!」と知らせたが、そのまま戦闘に突入してしまった。

 やむを得ず、応戦したが、先の攻撃停止命令で、隙をつくった為、被害者をだしてしまた。正規軍の服を着た賊は、訓練された動きを見せ、手こずらされた。部隊長が驚いたのは、賊が剣で心臓を貫かれても動く事だった。しかも片腕を切り落とされても、痛みも感じないようで平気だった。思わぬ敵に遭遇し、兵士達は戸惑った。幾度となく切り結び、胴を横一門切り裂き、肩から袈裟切りにしても、敵は動き回るのである。部隊長が敵にの頭を剣で二つに裂いたが、賊は構わず攻撃を仕掛けてきた。異様さに気がついた彼は、賊の首を切り落としてみるとそれでも動いたので、やっと相手をしているのが、人ではないと悟ったのだった。

 部隊長は盾で固くガードし、賊を囲み込むように指示し、刺股をつかって押さえ込む方法にでた。うでを切り落とし、武器が使えないようにし、盾と刺股で徐々に範囲を狭め、ロープを対角状に投げ、賊を中心に回り、巻き捕ったのだった。

 賊に動きが緩慢で、しかも賊より多かったので、成功したが、同数であれは彼らの方が負けていたはずであった。味方には負傷者がいた。剣による傷で、直ぐに縫い上げ傷を塞いだ。賊に噛まれて、歯形の付いた者が二名ほどいたが、これは何の治療もしなかった。

 松明を点し、賊を確かめてみると、賊の顔はただれていた。それは顔だけで無く腕や足など腐食していたのだった。彼らの服は正規軍のものであり、その記章から、先遣隊であることが分かった。彼らは亡者として生きていたのだった。

 隊長は、亡者に理性が残っているのではないかと、語りかけてみたが、うめき声が聞こえるだけだった。

 死体が無くなる理由は分かったが、どうして彼らがこうなったのか理解出来なかった。

未知の賊によりこの様な姿に変えられたしまったのか、謎は深まった。しかし、亡者は縄の中でもだえ、危険なので、ここで処分しなければならなかった。隊長は次々、首を落としていったが、それでも亡者は動く。首の無くなった一体を引きずりだして、自由にさせてみると、やはり動き出す。隊長が剣で両足を切断しても、残った腕で這いずり回り、その腕を切り落したら、胴だけで動こうとした。百足を殺しているようだった。

 隊長の出した結論は、燃やすといったものだった。鎖で、亡者を繋ぐと、柴に火を点けたのだった。亡者は燃え上がり、辺りを明るくしたあと、燃え尽きた。

 部隊長は、この辺り一帯で起こっていることが分かり、一旦装備品の見直しを図ろうとした。火を主体とした装備品に変えようとしたのだ。

町に戻り、支度をしていたところ、負傷した部下の様子がおかしいと、報告があった。かれは、直ぐに、治療室にいってみると、噛みつかれた二人の部下だった。彼らは血が濁っているのか、黒ずんでいた。あえぎ苦しんで居るので、部隊長は彼らを勇気づけた。しかしその甲斐も無く、部下の言葉は理性をもったものでなくなり、うめき声や奇声に変わったのだった。目は白めを向き、やがて呼吸は停止した。隊長は嫌な予感がし、二人を台に縛り付けさせてみと、暫くして体を動かし始めたのだった。医者に調べさせると、心臓は止まっていた。

 このことにより、部隊長は先遣隊は如何に亡者になったかを理解した。噛まれることにより亡者になってしまうのだ。ここで、隊長は部下に命じ、亡者の掃討訓練をすることにした。残酷な判断だったが、これから、不死身の亡者と戦わなければならないのだ。経験が必要だった。部下に噛まれないように革の防具で身を包み、盾は大きめを装備させた。

 亡者になった二人を広場に放すと、火矢で追い込み、盾で囲い、刺股で首を押した。そこに油壺を一斉に投げ入れ、火を放った。亡者の二人はあがいたが、逃れることが出来ず、その場で崩れ落ちたのだった。亡者は燃えやすかった。枯れた木に火を点けるようなもので、瞬く間に燃え上がり、灰となったのである。

 訓練は、苦い後味となったが、自信は得た。数日後、部隊は亡者が現れている一帯に着き、探査を開始した。亡者の分布を調べるためだった。それによると五カ所の村でうめき声が聞こえ、森の奥に大きな集団の固まりがあると言うことが分かった。深追いはさせなかった。相手は亡者であり不死身だからだ。

 部隊は、一つ一つ村の亡者を、火によって退治した、この戦いで、部隊は不死身の存在に対する恐れを無くした。残るは森の奥の大集団だった。森に火を放すのが簡単な方法だったが、この森は湿気があり火は広がらなかった。そこで、部隊長は、亡者を草地まで誘き寄せる作戦を決行することにした。森の亡者の近くまで部隊を進め、亡者に追わせるといったものだった。亡者は知性を無くし、罠を仕掛けてくる心配はなかった。誘えば必ず追っかけてきた。草地の先には窪地があり、ここまで誘い込むと、回りから一気に火を放し焼き殺すつもりでいた。その後は残った亡者を完全に仕留め、感染を防ぐはずだった。

 作戦通り、亡者は部隊を追いかけて来た。どうやら、元平民ばかりのようで、女子供まで居た。武器を持つ者はおらず、数は多かったが、だいぶ慣れきた兵士にとっては、羊を柵に入れるような作業だった。森の大半の亡者が窪地に集まり、部隊長は火攻めの命令をだした。窪地は竈の中のように燃え上がり、黒い煙を舞上げた。

 部隊長は、安堵し、取り残しの亡者を、かたづけるべく部隊に指示をだそうとして、周囲に気がついた。大軍の亡者が彼らを取り囲んでいたのだった。煙が彼らを呼び込んだのだ。森の亡者に注意を向けすぎて、状況の変化を忘れていたのだった。しかも彼らを囲んでいるのは、軍隊であった。恐らく、戦場近くから、パテリアの戦いで敗れた兵士達が蘇っているようだった。多勢無勢で、しかも相手は不死身の戦士だった。

 部隊長は、敵の一角を崩し、突破することを決心した。盾で部隊を堅め、強引外に逃げようとした。手当たり次第に、火のついた油壺を投げ、道を切り開いたが、途中、部隊長は噛まれた為に、脱出を断念し、部下を外に逃がすと。自分は亡者を引きつけ、自らに火を点け、亡者ととも最期をとげたのだった。

 以上の報告を受け、ネクタリオスは自ら出向く決心をした。背後に妖魔の暗躍が感じられたからである。彼はパテリア王に同意を得ると、軍勢を率いて、テルプーサの地に向かったのだった。この亡者との戦いは、通常戦力では無理だった。魔法軍の力が必要だった。しかし、パテリアの魔法使いは西部戦線と東部戦線に赴いており、都にいたのは、予備の魔法使いや、訓練生ばかりだったのである。やや戦力としてはこころもとなかったが、これ以外の選択肢はなかった。

 ネクタリオスは軍船に兵を乗せ、テルプーサに着いた。その後の、状況を尋ねると、亡者の軍勢は町二つを襲い、市民を亡者に変えると、大軍勢になって溢れ、周囲の村を襲っているとのことだった。ネクタリオスは魔法使いを中心に、部隊を編成し、彼れらには火器をそなえさせた。この火器はミュージカが発明したもので「漁り火さん」と呼ばれていた。

 昔、ネクタリオスがミュージカとオイア国からの決死の脱出劇を繰り広げたさい、ウンダ河の船着き場で敵をくい止めるために、即席で作成した、火炎放射器が原型だった。その後、レアンドロスの為、携帯用の火器として改良したが、使われ終いだった。漁り火さんは魔法の炎でなく、普通の炎をだすが、それは遠距離まで届かせる事が出来た。重量も軽く、連続放射が可能だ。魔法の力の消費量が少なく、長時間の使用に耐えられた。

 ネクタリオスは亡者は、この戦力で焼き尽くすと決心していた。彼は軍勢を二つの町に進めたが、おもわぬ事態になっていた。町は亡者の兵士によって支配されていたが、多くの亡者がテルプーサに拡散したことだった。ネクタリオスは臍をかみ、町を攻めた。

 予備部隊とはいえ、魔法使いの戦力は絶大だった。不死である亡者の兵士を、ちりじりに吹き飛ばしたのだった。残った亡者を漁り火さんで、掃討すると、あつさり町を取り戻した。問題は四散した亡者を、どう追いかけるかだった。


 ネクタリオスがテルプーサで亡者を相手に、追いかけっこをしていた頃、都の炎王のもとに、伝令者がやって来た。それによると、パライにおいて、戦場から死人が蘇り、脅威を与えているとのことだった。

「陛下、亡者の軍が、テルプーサとは別に、パライに出現したようです」

 宰相主補佐ホルが報告した。テルプーサと違い、パライは河を越えたすぐそこだった。

「ネクタリオスによれば、亡者は不死身であり、感染すれば誰でも亡者になってしまうようですね」

 炎王は、亡者が拡大しないか、不安を覚えていた。

「恐らく、魔法で、蘇ってきたのでしょう。原因を取り除けばよいのですが。生憎なことに、ネクタリオス殿はテルプーサに出かけてしまいました。将軍の誰かを向かわせましょうか?」

 宰相補佐のカルスダンが提案した。

「魔法使いが居ない今、通常戦力では対応できません。蘇ったのはオレア国、バールバス国、シキュオーン国の中原連合軍です。中核は中原最強のオレア軍団です。先の戦いにおいてもパテリア国は簡単に敗退いたしました。彼らがさらに不死身になって帰ってきたのです。太刀打ちなど出来ましょう」

 これに異議を申し立てのは、同じく宰相補佐のパサナテルだった。

「どうしましょう」

 炎王は迷ってしまった。彼女はカドモスが居ないことを残念がった。

「恐れながら。その中原連合軍を打ち破ったのは、陛下の魔法です。その彼らが蘇り、再び牙を向けたののであらば、陛下の御手によって地獄に戻してはいかがでしょうか」

 将軍の一人が、申し述べた。パテリアの救世主としての伝説は、諸将にも浸透していた。

「私が、出向くべきなのでしょうか・・・」

 炎王はためらっていた。亡者とはいえ、かつて人だった者を死の世界に落としたのは彼女で、再び直接手を出すのを、嫌がっていた。その心を察して宰相主補佐ホルはアドバイスを送った。

「我が軍は、兵を西部戦線と東部戦線に使い果たし、王都には治安部隊しか存在しません。丸裸の状態です。しかし、陛下は別軍団をお持ちです」

 主補佐ホルは、芙蓉姫が自ら気がつくように、その先は言わなかった。

「冥界の怪物ですね」

「その通りです、妖魔が地上の者だったものを、利用するのであれば、我々は冥界のものを利用するだけです」

 炎王は冥界の門を開き、怪物立ちを地上に召喚することを決意した。直ちに、彼女は、主補佐ホルとともに、軍を引き連れ、パライの東の丘陵、龍穴へ進軍させたのだった。炎王の出撃に、都は沸き立った。パライで大反乱が起こり、炎王自らが鎮圧に向かったとの噂が広がったからである。

 竜穴に到着した炎王は、周囲を見渡してみると、かつてダーナに連れられてきた場所であることが分かった。炎王は兵を巻き込まれないように高台に避難させると。巨石の上から手を天に広げ、念じたのだった。すると黒い空間が一角に広がったかと思うと、風が流れてきたのだった。やがて、体に感じる震動が起こったあと、冷風ともに雲が立ち上った。そそり立つ雲はやがて横に広がり、巨大な雲の門となった。冥界の門だった。

凍るような風が、門の内部から吹き荒れ、雲間に稲光が走り、雷鳴が轟いた。兵士達はそれだけで怯えていたが、やがて門の奥から、地響きのようなものが聞こえてきて、門の中から、雪崩をうつように、怪物達が現れいでたのだった。地上の物とは相容れない、異形の生物に、兵士は背筋を凍らせた。やがて竜穴の一帯は怪物の群れで覆われ、埋め尽した。これらの者が、炎王によって呼び起こされなかったならば、兵士達は恐怖から逃げ去ったことであろう。炎王を守っている将軍でさえ、声もでなかった。

「陛下。中央にいる巨大な竜が獣の王で御座います。ダーナ殿が教えてた通り、獣の王に命じなければなりません」

 主補佐ホルの催促に、彼女は動揺を抑え、恐れず、怪物を見定めたのだった。怪物達は獣の王を中心として円を作っており、中央にいくのに従って、巨大になっていた。中央には竜の群れが有り、一際大きな竜が獣の王だった。

 炎王は手を前にして、目を閉じ、意識を獣の王に向けると、心が繋がった。

「私達を呼んだのはあなたですか?」

 獣の意識が聞き取れた。

「はいそうです。貴方を私が召喚しました」

「では主よ、なにをお望みです?」

「ここより、西の地で亡者溢れています。それを退治してほしのです」

「承知しました。我が軍は西に向かいましょう」

 心の声は消え、怪物の軍団は動き出した。一団は雄叫びをあげ、砂を巻き上げ遠ざかった。

「お見事で御座います。陛下」

 緊張が緩んで、へたりこんだ彼女を、主補佐ホルは助け起こした。

「他の補佐達は、住民に避難をやってくれているでしょうか」

「大丈夫でしょう。我々は怪物の跡を追いかけましょう。どこかで、怪物を止める必要ががあります」

 冥界の門は役目を終え、雲が流され、形を変えていた。やがて、静かにその姿は風にかき消され、青い空だけが残った。

 亡者の群れが平原にあった。瞬く間の四つの町を滅ぼした亡者の軍団は、血を求め彷徨っていた。テルプーサに起こった亡者と違い、彼らは規律だっていた。亡者となり、人としての人格や理性はなかったが、戦士としての記憶だけはあり、その怒りの炎が次の獲物を探していた。彼らは、生きていた時以上に強力な軍団となっていた。全身を鎧で纏い、盾に剣や槍を持ち、統制のとれた動きをしていた。

 しかし、彼らに東から脅威が現れたのだった。それは雄叫びをあげ、地面を叩き、砂を舞い上がらさせ、彼らにせまってきた。亡者の軍は、死人になって恐れなるものが無かった。心がなかったからである。軍団は怪物の群れに向かい、円錐陣をひいた。そこは広く開け、容易に側面を突破されそうだったからである。

 亡者軍団と冥界の怪物軍は平原でぶつかり合った。亡者の軍団は、何層もの盾の防御で、怪物の突撃を防いだが、外輪の軽量級の怪物のあと中量級が押しよせると、耐えられなかった。陣は打ち破られ、亡者は押しつぶされた。しかし、戦いは簡単に決着しなかった。千切られた体をものともせず、たとえ押しつぶされても、彼らは死ななかったのである。

 亡者は多くの怪物を倒しはしたものの、それ以上のの怪物攻撃を受け、体は引きちぎらればらばらになって大地に散らばったのだった。ここまで来ると肉の固まりは、霧になり消え去ったのだった。

 大きな亡者の軍を倒した後、炎王は獣の王に命じて、各地に散らばった亡者を追いかけさせ、危機を取り除いたのだった。

「さて、これで亡者は片づきましたが、怪物達を冥界に返す方法はご存じですか?」

 主補佐ホルが尋ねると、炎王は狼狽えた。

「私、知りません。どうしましょう。ダーナは帰還していないし」

「仕方ありませ。ではどうでしょう。ヒパボラ河の右岸に誰も住んでない一帯があります。あそこに移動させては。ダーナ殿が帰りしだい、冥界に戻すということでは」

 主補佐ホルの提案に、炎王は賛同し、獣の王に意識を会わせると、河を渡りその地で待機するように命じたのだった。

 今回の亡者騒動で、芙蓉姫は冥界の怪物を使う術を得。冥王と戦う準備は着々と進んだのだった。


 炎王がパライで、獣の王に命じて、亡者を掃討いた時、ネクタリオスはテルプーサ一帯の亡者を始末し、炎王には合流せず、一旦は都のあるオレアまで帰還していた。彼としては、北部のあとは南部において同様の事件がおこると、見ていたからだ。

 都に帰ったネクタリオスは、部下に命じて、亡者を見かけたことがあるか、調査させたのだった。しかし、バールバスやシキュオーンにはないようで、ネクタリオスを安堵させた。しかしそれもつかの間で、都で怪しい動きがあるとの報告を受けたのだった。

それは、都の民が亡くなり、遺族は葬儀を終え、墓地に埋葬したのだが、翌日、花を捧げに来てみたところ、墓が荒らされていたとのことだった。此の件は、墓荒しの事件として、捜査中であり、現在犯人を特定できていなかった。

 ネクタリオスは椅子を吹き飛ばすほどに、勢いよく立ち上がると、現場にむかうことにした。まだ現場はそののままだった。掘られた土が、もりあがったままであり、棺は新品だった。棺の中には遺体があり、どうやら貴重品が無くなっているようだった。ただの墓荒しだった。ネクタリオスは失望すると、庁舎に帰り、炎王の帰還を待つことにした。

 その後のこと、ネクタリオスは寝室で就寝中、部下が激しく、ドアを叩き、彼は起こされた。部下は大層あわてているようで、息を切らしていた。

「亡者が来襲しました。都は大混乱です」

 その言葉に、ネクタリオスは飛び起きた。

「詳しく話せ!」

「郊外の共同墓地より、死者の群れがなだれ込み、都は混乱状態です。夜中のことで、警備も手薄で、侵入を許してしまいました。騒ぎを聞きつけ警備兵が支度をし、応戦しようとしていますが、各自ばらばらの行動で、街の中がどの様な戦況であるか不明であります」

 部下は、早口で伝えた。

「分かった。兵宿舎の兵をたたき起こし、防護革と大きめの盾を装備し、火矢と”漁り火さん”を携帯させよ。まずは魔法宿舎に向かい、魔法使い達と合流するぞ」

 ネクタリオスは、服を着ると高台から街を見下ろした。暗がりの中を亡者に襲われる市民の姿があった。亡者は街に侵入したばかりでのようで、門の方か死者のうめき声や、女の叫ぶこえが聞こえた。兵士はたたき起こされ、彼の前に揃ったが、まだ眠気眼だった。

「亡者の群れが、街になだれ込んだ。我らはこれを一掃する。諸君等はテルプーサで経験済みで恐れるものはなにも無いであろう。市民を我々の力で守るのだ」

 ネクタリオスの言葉に士気ははあがった。まず、魔法宿舎に向かったが、既に魔法等は応戦中で、次々に亡者を粉々に吹飛ばしていたが、逆に張り切りすぎて、街を破壊して仕舞わないか心配であった。ネクタリオスは魔法使いと合流すると、部隊を編成し、亡者への反撃にでた。亡者は次々の城内に侵入し、ネクタリオスが部隊を揃えた頃は、街の中は死者で溢れかえっていた。そしてこれまでと若干違うところは、噛まれた人はしばらくすると、亡者に変わっていったということだった。その為、街の中は爆発的に亡者で溢れかえったいたのである。しかも、墓場から蘇ったもの達は、ぼろぼろの服をまとっていたが、感染して出来た亡者は新しい服であったので、市民との識別が難しかった。

 ネクタリオスは一斉に反撃にでたが、これが思わぬ事態を引き起こした。焼かれた亡者が火のついたまま、彷徨い。建物に引火ささていたのである。大量の亡者を始末するのには、焼き殺すしかなく、不死者を相手に被害は恐れてなどいられなかった。そこで彼は亡者を都の中に封じ込め、一気に焼き殺すことにしたのだった。それにこの頃、街に火が燃え広がり、火の海になっていた。

 ネクタリオスは墓場と反対の西門から市民を脱出させるように指示し、東門を大きく開き亡者を中におびき入れるようにしたのだった。その後、兵士には「漁り火さん」を最大出力で火を放すように指示し、魔法使いには建物の破壊を心配せずに、全開で魔法を放すように命令したのだった。パテリア兵は亡者の群れを効果的に追い詰め、次第に数を減らしていったのだった。

 亡者が近づけないでいる様を見ていたネクタリオスは、この光景の中にに違和感を覚えた。それは亡者の中にいる、犬の行動だった。その犬は亡者の中を散歩でもするかのように歩き回り、時々休んでは落ち着き払って周囲を眺めいる。

「以前の時は女官だったが」

 ネクタリオスはそう呟くと、弓を構えると、矢を放ったのだった。

 とぼけた感じの犬は、横を向いていたが、矢を交わしたのだった。続いて、ネクタリオスは犬の心臓と頭を同時に狙ったが、犬は一本は口で、一本は後ろ足で踏みつけ、矢を止めたのだった。

 ネクタリオスは羽根を取り出すと、武具を纏い、犬を襲った。咄嗟に犬は高く飛び上がり、ネクタリオスはそれを追った。

「貴様等は人だけで無く、獣のも化けるのか」

 燃え上がる屋根の上に立ったネクタリオスは犬に言った。犬は、顔をあげて横目で彼を見つめ、笑っているようだった。

「良く分かったものだな。我々にとって、犬も人も違いは無い。違いがあるのは、お前達の傲慢な考えからだ」

 そう言うと、犬は姿を変え、人の姿となった。妖魔だった。

「私は妖魔第二位、穿肋獄、ミトラのコスタだ。死者を蘇らせ、新世界の到来を告げにやって来た。喜べ、祝福の時は近いぞ」

「そう言えば、ハニアで妙な教えが広まっていると聞く、おまえの仕業か?」

「審判の時は近いと教えただけだがな。つまらぬ尾ひれがついてしまった」

「やはりそうか。ならば北のパトライで邪教が流行っていいるが、それもお前の仕業か?」

「あれは尖刀獄、カスピスの仕業だ。奴はワルコの将を群衆の石打ちで殺させたと自慢していたが、くだらない奴だ」

「やはりそうだったか。道理で人々が協力的でなかったはずだ。彼女の亡骸は俺が突き止めるとしよう」

「それは無理だな。今からお前は死ぬからだ」

 コスタは獲物を捕らえているような目した。ネクタリオスは体が引き延ばされ、どこかに飛ばされるような感覚を味わい、不味いと感じ、なんとか逃げ切った。

「ほう、かわしたか」

 コスタは関心したようだった。今度はネクタリオスが攻撃を仕掛けようとしたが、どれだけ走っても、妖魔に近づけなかった。彼が走れば走るほど、遠ざかっているのであった。

「ほれ、地獄の亡者どもがお前の肉を欲しがっているぞ」

 ネクタリオスが体を見渡すと、沢山の亡者がかれの体に纏わり付き、地獄に引きずり込もうとしていた。彼はこれらを蹴散らし、一気に魔法奥義ラ・ステラを使って、コスタを仕留めようとした。空に輝く星が舞い上がり、光り輝いた。やがてそれは地上に何かを放すはずであったが、それは打ち消された。コスタの魔法奥義イル・ジュディーツィオがその技を封じたからだった。

 ネクタリオスは上空から激しい、圧力を受け、屋根の上から建物ごと、押しつぶされたのだった。しかし、彼は、砕け散った建物の残骸のなかから、立ち上がった。

「ほう、その羽根の武具だが、なかなかの強度だな。しかし、次は耐えられ得まい」

 コスタは屋根の上から、地上のネクタリオス目がけ、奥義イル・ジュディーツィオを放った。ラッパが響き渡り、天使が舞い降りると、棺が開いた。ネクタリオスの目には巨大な山がのしかかってくるのが見えた。咄嗟に、ネクタリオスは奥義ラ・ステラを放った。

今度は、コスタの本気の魔法だった。ネクタリオスを中心に頭上から圧力を受け、都全体が押しつぶされ、平地となった。コスタは余裕で勝ち誇り、ネクタリオスが最期に放ったラ・ステラの威力を両腕で弾きだした。彼には魔法技で魔法技で負けるなど考えられなかった。その瞬間、コスタは左目に痛みを感じた。彼は驚き、手を持ってくると、なんと矢が左目に刺さっていたのであった。コスタは矢を引き抜くと、矢の先に、自分の目玉がついていた。ネクタリオスは魔法技に注意を向けさせ、矢を放っていたのである。魔法の技量に勝っていたコスタは、ラ・ステラを弾いた瞬間、もう攻撃はないと油断したのである。

コスタは魔法では負けなかったが、普通の武器には負けたのだった。

 怒った、コスタはイル・ジュディーツィオを何度もネクタリオスの上に放し、都を窪地に作り換えた。

 その夜、パライにて亡者の掃討を終えた芙蓉姫は、大事に預かっていたカドモスの箱に、ネクタリオスの羽根は舞い降りたので、涙した。

 

 ネクタリオスを始末したコスタは、魔法で亡者たちも一緒に粉砕したことを後悔していた。窪地になった都の縁に立ち、一旦冥界に帰還するか思案していた。今回は冥界まで堂々と侵入して、仲間を消滅させ、冥王に勝負を挑んできた傍若無人な奴への意趣返しだった。これで、自分の腹の虫は治まったのか、自問自答したのだった。ワルコの巣は壊した。ワルコの将も屠った。しかし、自分は負傷し、肝心の地獄に押し入った奴がいない。

釈然としない気持ちが残った。

 コスタがは顔を上げると、都だった窪地の先がなにやら明るい。彼は凝視すると難を野逃れた人間が、火をともし暖を取っていた。コスタはこれを始末して最期としようとした。

 近くの墓地は、使い果たし、南に目を向けてみると、遠くに手頃な墓地があった。コスタは墓より死人を蘇らせ、都の廃墟まで、移動させえたのだった。潰された土地に亡者がうめき声をあげ、血を求めた。

「さあ、肉を喰らい、血をすすれ。お前達の渇きは癒やされるであろう」

 コスタは、街の外に避難した市民を指さした。

 亡者はふらふらと歩みだし、窪地を出て、生き人を目指した。

「いかんなぁ。死者の眠りを妨げては」

 瓦礫に腰掛け、コスタに言葉をかけたのはミルトスだった。

「おまえは、何時からいる?」

 コスタは気配に気がつかなかったので狼狽えた。

「何時からと言われてもなあ。私は墓地で、故人の冥福を祈っていたところを、強引にここに運んだのは貴方ですよ」

「無理に移動さでたので、こんな塵まで拾っていたか・・・」

  コスタは虫でも潰すつもりで、魔法を放った。しかし、それはミルトスに届かなかった。

「貴様何者!」

  コスタは、今居る相手が、ワルコの十将であると感じたのだった。

「妖魔よ。人は、喜び悲しみを幾たびも経験し、道に至るのだ。その体は乗り舟であり、彼岸へと渡してくれるものだ。だから、その舟は務めを終わったものであり、大地に帰すものなのだ。その器を使い、戯れてはならない」

「坊主、俺に説教か?」

 コスタはあざ笑った。

「見ろ、俺は死者を蘇らせ、不死を与えた。老いること無く、死ぬこともない。世界に福音がもたらされ、新世界は到来したのだ」

 コスタは亡者を指し示し、高らかに言った。

「人は老いの中に永遠を知り、死の中に普遍を悟るのだ。それは生老病死の中から、永遠 普遍の真理を見いだすからだ。妖魔よ。変化変滅する事象に中に、人はいないのだ」

「命すら、自由に出来る俺の力、坊主。欲しくは無いか?」

 コスタは、ミルトスの心の中の渇きを、探ろうとしたが失敗した。

「この亡くなった方達は、本来の姿に戻させてもらいますぞ」

こう言うと、ミルトスは手を振った。すると、柔らかな風が吹いて、亡者の頬をなでた。亡者はうめき声を止め、苦痛の顔は、満ち足りたものと変わり、光の中に浄化されていったのだった。廃墟に亡者の群れは消えてなくなった。

「ふざけた奴だ、俺がせっかく亡者の楽園を創ろうとしたのに」

 コスタは亡者の術をあっさりと破られて、歯ぎしりし、ミルトスを仕留めようとした。

「貴方は自分の王国を創ろうとしたのですか。しかし、人の心の王国は、己の心だけの王国。何者も支配などできないのですよ」

 ミルトスは防御魔法で軽々と交わした。

 その時、亡者の声が都跡地からしたので、調べに来た兵士が居た。彼は、ハスタとミルトスの姿が見えたので、様子を覗っていると、これに目を付けたコスタはミルトスへの嫌がらせとして、棒を投げて、突き刺したのだった。すると、ミルトスは近づき、兵士の胸に突き刺さった棒を抜くと、元通りに戻したのだった。

「貴様、俺と同じように生死を自由にできるのか!」

 コスタは、ここで相手の能力に気がつき、周囲を見渡していると、曼荼羅で囲まれていた。

「こっそり、奥義イルモンドを使っていたか。抜け目ないやつだ」

 術中にあっては、迂闊な行動は怪我をしかねかねなかった。コスタは大きく跳躍し、技の外にでようとしたが、引き戻された。ここで大半は狼狽えてさらに術にはまる所だったが、彼は違った。引き戻される癖を読み取り、隙を見いだしたのだ。ここで彼は魔法奥義イル・ジュディーツィオを放った。ラッパが鳴り響き天使が舞降りると棺が開いた、大きくのし掛かる力を受けて、ミルトスの三千大千世界の一角が崩れ落ちた。しかし、ミルトスは三千大千世界の流転還滅をかけてきた。コスタに縁起の渦が襲いかかり、彼を飲み込もうとした。コスタは因果の糸を書き換え、避けると、再びイル・ジュディーツィオを放し、イル・モンドを揺るがした。技は拮抗し、どちらも決定打を与えることは出来なかった。

 しかし、コスタはネクタリオスから受けた矢傷が悪化し、そのまま戦い続けることが困難になりかけてきていた。彼は三千大千に魔法技をしかけ、破壊された箇所から外に逃れたのだった。

 こうして民はコスタの脅威から救われたのだった。偶然にも、コスタがミルトスを連れてきたことが幸いだった。ミルトスは亡者に噛まれ、変化が起こり始めた者を優先的に治療し、その後、瀕死のものや、傷の深い者を治していったのだった。そして、宰相補佐のカルスダンとパサナテルは近隣の街から、救援物資を送らさせるように手配した。

 都が襲われたの報は炎王の耳にもはいり、彼女は急ぎ都に帰還した。押しつぶされ窪地と化した都を、目の当たりにした炎王は、呆然となった。兄が皇帝として頂点を極めた都が、跡形もなく消えたのだった。兄の思い出を一つなくしたような気分になったが、心の隅では解放されたようにも感じた。

「陛下、民をこのままにしてはおけません。どこかの都市に移動させるべきです」

 宰相主補佐のホルは、パサカイであれば難民を受け入れ可能と判断していた。

「ナティビタスに民を移しましょう」

 炎王はひとこと言った。

「あそこは中原の北、随分離れています。長旅になりますぞ」

「この都は兄上の都でした。私は私の都が欲しいのです。今後ナティビタスがパテリア王国の王都となるのです」

 遷都の宣言だった。

 ホルは北の外れに、中央の組織があるのは反対だったが、炎王の決定には逆らえなかった。こうしてパテリアの都はネティビタスとなり、五百年、首都で有り続けた。


 一方、地獄に向かったカドモスはダーナのように竜穴を通じて、冥界に入ってはいなかった。ゼノビオスに貰ったバッジは異空間を渡る力があり、直接虚空に飛び込み地獄の一角に舞い降りたのだった。ダーナから地獄の様子は聞いていたものの、薄暗く、穴の中にいるようだった。ぼんやりとした地獄の太陽が世界を照らしていた。ほどよい暖かさはなく、寒いか、熱いかの両極端で、腐敗臭や獣臭が溢れている場所があった。冥界は冥王の結界が及び、見つかれば脱出は困難であったが、カドモスの持つもう一枚のバッジの、妖魔から姿を隠す力のお陰手で見つからずに済んでいた。

 しかし、冥界の最深部まで到達しなければならず、そこは冥王の力が及ばない場所であり、神々の力によって封じられた場所であった。なにが起きるかわからなかった。彼がゼノビオスに注意されたことは、バッジは姿を消すが、足跡は消せないこと。地獄の中で戦い、跡を残すなということだった。要するに戦闘は避けよとの指示で、鼠のようにしていなければならなかった。カドモスの背中には、背嚢が背負われ、この袋一杯の肉を持ち帰らなければなかなかった。その肉をどの様に戦闘に使うのかは不明だが、先時代の神々の肉であれば、想像出来ないような力を秘めているのは確実だった。

 地獄は気持ちの良いものではなかった。しかも、その奥深くとなると、しりごみしたくなるのが普通だった。しかしカドモスは、姫を、冥王の体内に取り込まれてなるものか、と言う思いが、勇気を奮い立てていた。地獄は敵地、隠れ潜み、冥王や妖魔から隠れて奥に進まなくてはならなかった。

 バッジの力もあり、地獄の怪物は、カドモスに気がつかなかった。ダーナは怪物達をなぎ倒し進んだが、その点はカドモスは楽だった。地獄は広かった、走り疲れた彼は、バッジの力を借り、小さくジャンプして進んだ。しばらく進むと、地獄の亡者が見かけられるようになった。彼らの行為を眺めていると、巨大な針山の上を、足から血を噴き出させ、苦痛の叫びを上げながら、旅している一行に出くわした。周囲には誰も彼らに無理強いしている者はおらず、彼らが自ら針山に登り、苦痛の声を上げているようだった。地獄の亡者は変わり者だと笑い、カドモスはその場を去ると、次は、地面を転がる球の様なものに出くわした。よく見ると。人が大きな石の球を、手で押し上げているのだ。亡者は重さに必死に耐えながら、球を坂の上に押し上げようしていたのだ。面白い光景もあるものだと、カドモスは疲れていたので、石に腰掛け、袋から乾パンを取り出すと、食し始めた。この先、ゆっくりおした暇が無くなりそうであり、今のうち腹を満たしておこうとしたのだ。

 カドモスは石を押し上げる亡者をしばらく見ていたが、疑問に思った。石を坂の頂上近くまで押し上げると、球は転がり落ちて、再び亡者は坂下から押し始めたのだった。それを何度も繰り返すのだ。誰も強制するものなどおらず。止めれば解放されるのに、壊れたように繰り返すのだ。そこでカドモスはミルトスの教えを思い起こした。彼によると、何人も心の王国の自分を縛ることは出来ない、心を縛るのは唯一、自分自身のみだという。

この亡者も、転がすのを諦めれば楽になるのに、それに気がつかない。何度も苦しみながら愚行を繰り返すのだ。

 ミルトスはそのことを、こう言っていた。人は自らによって囚われる。明らかなるならざる事により、その苦しみの中に埋没してしまう。その自分の造り出した世界に自分を輪廻させるだ。輪廻の中で転生を繰り返し、愚かさに気がつくまで繰り返される。故に自己の創造してした輪廻世界から脱したものを、勝利者と呼ぶ。

 ミルトスの教えは良く分からなかったが、地獄に来て、多少なりとも意味を知ったのだった。カドモスは食事を終え、乾パンを袋にしまったが、一つ地面に落とし、気がつかなかった。

 次の亡者達の世界は、少し残酷な世界だった。亡者は獣のように狂っていて、亡者が亡者を喰らっていたのだった。数人の亡者が一人の亡者を襲い、腸をかきだし、食らいついているのだ。しばらくすると、その群れは別の誰かを襲い、尻の肉を堪能したりしていたのだ。しかも興味深いことが、さきほど喰われたはずの亡者は、元通りになると、今度は別弱者を襲い肉をくらっていたのだった。目玉を美味しそうに、口に入れる様を見てカドモスは気持ち悪くなり、その場を去った。

 次の世界は、区切られた亡者の世界と違い、広い世界だった。ここには沢山の冥界の猛獣がいた。一匹だけでも倒すのは人の力では困難そうで、それが無数にいたのだ。まるで蛇の巣窟に飛び降りたような気分だった。怪物を一頭でも倒し、潜入しているのを知られるのを恐れたカドモスは、注意しながらその場えを過ごした。

 ダーナによればこの先に、冥王の宮殿はあるはずであった。カドモスはなんとかここを突破し、冥界のさらに奥に進もうとしていた。家賃滞納で、大家を恐れる賃借人のようだった。彼はこともなく通り過ぎ、安堵した。それから先は、ダーナも行ったこともない世界だった。

 カドモスはさらに冥界の奥に進むと、辺りはさらに暗くなった。生物らしきものがいるのは分かったが、それが何なのかわからなかった。ただ牢獄に繋がれた囚人のように、もがいているのは感じられた。さらに深く先に進むと、存在そのものがなんなのか分からないものがいるようだった。ここまで来ると、妙な圧迫感を感じられ、吐き気をさせた。異臭で充ち満ち、耐えられなかった。

 

 抽腸獄のウーマーは地上より冥界に戻っていた、仲間が次々に討ち取られ、数を減らしていたからである。魔法具を使ったワルコの僕への攻撃は成功せず。魔法城が本城だけになっていた。ウーマーは亡者の獄あたりまでたどり着いた時、いかに冥王に弁解するか考えて居た。いつものように、亡者が飽きもせず、石を押しいるの見て、愚かと笑い、振り返って、一気に全員でワルコに襲いかかるべきではなかったか、と反省していた。

 何気なく、隅に目をやると、石の上に何かがあった。怪しみそれを手にとってみると、乾パンであった。

「人間が冥界に潜入している」

 ウーマーは聖域を荒らされたように、怒りで髪が逆立った。

 良く調べてみると、足跡が砂地に残されていた。ウーマーは生きて冥界からは返さぬと追跡したのだった。


 カドモスは道を見失っていた。もう随分と冥界の深部まで行っているはずだった。冥界の深部は右も左も上も下も分からぬ世界だった。世界の創造の前はこうだったのだろうか、バッジの力がなければ、ここまで来られなかったであろう。カドモスはさらに下に、青い光いを見いだした。空虚な海の中を漂っているようで、強烈な力の場を感じさせた。カドモスはさらに降りていった。

 青い光は巨大な氷が放つ光だった。この氷山は虚空の海の中に浮いているようだった。そこから、流れ出る力に激しい圧力を感じた。初めて感じる、魔法力を超えた神秘の力といいうべきか。カドモスは近づき、氷のなかをのぞき見ると、巨神が眠っていた。山ほどある大きさの巨神は、神々しさをもっていた。

「これが、滅ぼされた先代の神々に違いない」

 この圧力の中に、長く踏みと止まることは困難だった。深海の奥に潜ったように、圧力が強く、羽根の武具をまとい、バッジの力を借りて、やっといることができていたのである。

 カドモスは肉片が取れないか、探ったが、巨神は完全に氷の中にあった。カドモスは思い悩み、数体の巨神を探りやっと一体の頭部が氷が薄いのが分かった。彼はその部分に、武具の斧を振り落としただった。五芒星の輝きとともに魔法奥義リンペラトーレが発動し、氷を打ち砕いた。割れたのは頭部の一部の氷だった。氷は只の氷でなく、魔法奥義をもってしても、ほんの少ししか壊せなかった。しかし、巨神の耳たぶの部分が露出し、カドモスは切り取ると、背嚢に入れたのだった。持ち帰るには十分な量だった。

 カドモスは身体が、圧力に負け、押しつぶされないうちに、深層部から脱出した。命からがらの作業だった。上に戻ったといっても、まだ奥の方だった。水の中から陸にあがったように、動けたが、それでも冥王の宮殿はまだ上層にあった。

 相変わらす、そこは巣薄暗く、生物なのかなんなのか分からないものが徘徊しているようだった。

「ここで何をしている。人間」

 その声に、カドモスは驚き、飛び下がった。

「ここから下に行ってきたというのか。この下は我々でも危険で、行ったことがないが」

 妖魔ウーマーは、足下の異空間に目をやった。

「潜りの訓練だ。冥界の水泳はなかなかだったぜ」

 カドモスは去ろうとしたが、ウーマーに行く手を阻まれた。

「お前の背中の背嚢から、強烈な霊力を感じるぞ。それはなんだ!」

 カドモスは苦し紛れにリンペラトーレを放ったが、ウーマーは完全に封じてしまっていた。

「奥義も、台無しだな。お前の技など、俺には通じぬ」

 ウーマーは一撃で、カドモスをたたきのめすと、背嚢を奪った。その中を見て、唸った。

「これほどの力が、冥界の奥に眠っていたのか。此の力、冥王様以上だ」

 ウーマーが見とれた瞬間、カドモスは背嚢を奪い取って、バッジの力を借りて姿を消した。

「おのれ、貴様、姿を消したな。妖魔を目くらましにするとは、これは魔術ではないな!」

 ウーマーはカドモスの姿がみえず、いきり立っているようすだった。直ぐに、姿を消したまま、逃げるつもりだったが、ウ−マーは全方向に魔法を放ってきたのだった。カドモスは慌てて、周囲を逃げ回った。

「逃げ回っているようだが、いいことを思いついたぞ」

 ウーマーは、四方八方に放していた魔法を一点に絞ってきたようだった。

「どんなに姿を消しても、背嚢の力がお前の場所を教えて暮れるぞ」

 ウーマーの放った技が背嚢を直撃し、耳たぶの肉が散らばった。肉片の一部が顔に当たったのでカドモスは咄嗟にそれを掴んだが、残りは散り散りになって、冥界の深層部に沈んでいった。妖魔を前にして、再び降りるのは無理だった。やむを得ず、彼は肉片を手に脱出を図ろうとした。しかし、ウーマーは結界を張り、彼を逃さなかった。

「見えぬのなら、檻の中で、特定するだけだ。覚悟しろ」

 ウーマーは無数の魔法を走らせ、姿を隠したカドモスを追い詰めた。やもうえずカドモスは魔法を弾くと、これを待っていたかのように、ウーマーは魔法奥義イル・パーパを放ってきた。荘厳な響きとともに法衣と笏が現れ、三角と四角の印が結ばれた。妖魔の中で最強の魔法だった。カドモスは魔法で防ぐことも間に合わず、思わず拳を打ち出したのだった。

 魔法奥義と素手がぶっかったが、弾け飛んだのはウーマーのイル・パーパだった。衝撃を受けて、ウーマーは吹き飛ばされ、動けなかった。カドモスはなにが起こったの、分からず、己の拳を見つめてみると、自分が肉片を握っていたことに気がついたのだった。

「この肉片の力なのか」

 カドモスはその力に、興奮し、地上を目指して急いだ。しかし、冥王は地下での戦いに気がつき、カドモスに遠距離攻撃をしかけてきたのだった。そのたびに、カドモスは肉片の腕で防ぎ、一目散に外を目指した。すると、冥王は結界を強くし、彼を封じ込めた。

 退路を断たれたカドモスは、冥王の結界に苦しんだが、魔法技リンペラトーレに肉片の力を注ぎ込み放すと、冥王の結界は吹き飛んだ。そのまま冥界の上層まで到達したカドモスはバッジの力を使って、地上に帰ってきたのだった。

 カドモスが一息つくと、そこに待ち構えていたのは、ゼノビオスだった。いつものように石に腰掛け、カドモスが来るのを待っていた。

「首尾良く、行ったかな」

 ゼノビオスは尋ねた。

「妖魔の邪魔が入って失敗した。しかし、かけらは持ち帰った」

 カドモスが肉片を渡すと、ゼノビオスは受け取り品定めをした。

「この肉片の力は本物でした。これがあれば、冥王に対抗できます」

 カドモスは、この計画に期待を寄せて言ったが、ゼノビオスは浮かない顔をした。

「残念ながら、この肉片は力を使用済みだ。戦いには使えぬ」

 カドモスは逃げる際、使ったことを後悔した。

「いま一度、冥界に行こう」

「よせ、もう難しくなった。今回、これは使用できないが、次の時代に役に立つだろう。この肉片は私が預かる」

「次の時代?」

 ゼノビオスの言葉が理解出来なかったが、計画は失敗したことは確かだった。カドモスは世界の狭間に向かった、ダーナが成功することを祈った。

  


 ダークソウル3というゲームで、亡者の雑魚キャラが登場するのですが、これをズバズバと斬ると、お陀仏になるのですね。しかし、亡者は刀で切りつけた位で動きを止めるのだろうか?という観点から、翡翠記では亡者は焼き殺さなければ活動を停止しないとの設定にしました。亡者の弱点はどこなんでしょうね。

 カドモスが地獄の底から肉片を持ち帰ってきました。この肉片、翡翠記を初めからお読みの読者は、どこで登場したか、もうお分かりでしょうね。そう、あの培養巨人ですねえ。

やっと、ネタばらしになりました。

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