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第73回 芙蓉記 第18話 未来への伝言

<芙蓉記登場人物リスト>


カドモス  (六合星のカドモス)中原からの流れ者

ダーナ   (勾陳星のダーナ)元オレア国天文官 魔法使い

イアソン  (貴人星のイアソン)知将、元行商人

ルキアノス (玄武星のルキアノス)元オレアの武官、槍の名手

ネクタリオス(青龍星のネクタリ)用心棒家業、弓の名手

タキス   (天空星のタキス)双鞭の使い手 魔法使い

レアンドロス(白虎星のレアンドロス)元ハニア国海軍士官

ミルトス  (太常星のミルトス)僧侶 治療術使い

デルフィネ (太陰星のデルフィネ)パトライ国第五王女 女将

ミュージカ (天后星のミュージカ)発明少女

芙蓉姫   パテリア第三王女


デクスター カドモスの弟分

ラエバス  カドモスの弟分


黄初    パテリア王

御形    パテリア王妃

幸武    パテリア第一王子

黄武    パテリア第二王子、後パテリア王

紅花    パテリア第四王女


シャヘル   冥界の王 十人の妖魔の主


ウーマー   妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー) 

コスタ    妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる

ハスタ    妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇

アエヌス   妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者 

ラング    妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング)  大蛇に乗る

ベネノ    妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる

カーサー   妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る

カスピス   妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)

グラッシス  妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る

ベナ     妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い



<西部諸国>

パラ    ウンダ河上流左岸

タラース  ウンダ河中流左岸、大国(後のメディス)

ザンクレー ウンダ河下流左岸

ギオン   ウンダ側河口左岸

ユーベイ  ウンダ河上流右岸(後のアデベニオ)

オイア   ウンダ河中流右岸、大国

ロクロイ  ウンダ河下流右岸

シノーペ  後のシルバの森縁東

ソロイ   後のシルバの森縁西

アンキュラ 後のシルバの森の東、シノーペの北

エデサ   後のシルバの森の西、ソロイの北

シューロス 後のソサ南部

ヒスティア 後のカーボ、シューロスの東

 ソシウスはかつて、グレーティア、プエラ、自分の三人で旅をした時の事を、皆に話していました。美術品コレクターの領主の招きを受け、自分は領主の家で酔っ払い、グレーティアは昔の遺物に魔法の攻撃を受け、災難にあったことなどを、懐かしく語りました。

 これを聞いてきたフィディアは何かを思いついたのか、千年前の出来事を謡い始めたのでした。


 帝都に妖魔が来襲し、大混乱に陥れていたころ、西部では、ルキアノスがエデサにある最後の魔法城に向け進軍を開始していた。パテリア軍は、タキスが倒されたことで、魔法軍の指揮系統に混乱が生じたが、それらを一時的にルキアノス傘下に編入し、体勢を立て直していた。一方、ミュージカは魔法城「お菓子の家」にて、エデサの情報を収集し、ルキアノスを援護していた。情報収集機「番頭さん」が、エデサの魔法城より、戦車部隊が出撃し、パテリア軍を迎え撃とうとしているのを察知すると、ミュージカは直ちに、ルキアノスに「囁きさん」によって連絡し、戦車「亀さん改」を送りだした。

 両軍の戦車部隊は、平原で遭遇した。木々が少なく、草地が広がるその一帯は戦車戦にはもってこいの場所だった。平原の端と端に戦車部隊が並び、人の姿がない奇妙な陣容だった。風にはためく旗も無く、馬の嘶き、槍の林もなかった。ただ、鉄の塊の中から、震えるような音が辺りに鳴り響き、戦車の指揮官が上半身を出して、敵の様子を覗っていた。

 エデサ戦車部隊が横一門になって、前進してくると、パテリア「亀さん改」も前進し、射程の範囲まで近づいた。最初に火を噴いたのはエデサの戦車だった。短期間に改良を加えられたのか、エデサの火力は「亀さん改」より、長距離を攻撃できる性能だった。この攻撃により、パテリア戦車軍は三両が戦闘不能となったが、走行速度など機動力についてはパテリア戦車が勝っていた。火力の飛距離の劣勢など、瞬く間に縮め、優位性を無きものとし、接近戦に持ち込んだ。「亀さん改」の連動した動きは、素早く、エデサ戦車を四両大破させた。エデサ戦車部隊も、パテリア戦車部隊の背後を捉えようと旋回したが、大回りとなり、そこを次々に亀さん改に破られた。

 戦車戦は、パテリア軍が勝利し、平原を制したパテリア軍は、歩兵部隊をさらに進軍させた。このまま、パテリア軍は優位に戦いを進めるかと思いきや、「亀さん改」に対抗する戦力をエデサ軍は出してきたのだった。それは低空を飛ぶ、乗り物だった。

 この兵器は、パテリア軍の「揺り籠」と同じものだった。低空を飛び、空中の留まり、兵員を地上に降ろす、空の運搬船だった。パテリア軍の揺り籠は歩兵を城内に送り込む為の、輸送機であり、それ故、ミュージカの付けた名前は、「籠」だった。しかし、エデサのそれは、戦うための空飛ぶ兵器だったのである。機体には、風撃の魔法が装備され、上空から、地上目がけ攻撃を加えるのだった。

 水上対水上、陸対陸と平面的な戦闘概念しかなかったミュージカは、立体的思考に驚かされた。戦いは立体的になっていたのだった。戦術としては、制空権を押さえ、地上軍を前進させる。その為、空対空の戦いに勝利するといったものに変わっていたのである。直ちに、陸対空の戦いに対応為なければならなかったが、戦場は開発するだけの時を与えてくれなかった。そこで彼女が考えたのが、既存の兵器を応用することだった。「揺り籠」の運搬能力は優れ、重量のあるものも空に持ち上げられる、その能力を利用し、空中戦闘機とすることだった。歩兵強化装具「熊さんは」本来、魔法城に突入するための強化武具だったが、状況に応じ装備を変えられたので、これを揺り籠に乗船させ、戦わせることにしたのだった。

 エデサ軍の空飛ぶ乗り物からの攻撃を受けて、パテリア軍の戦車部隊は十両を大破させられ、痛手を被っていた。エデサ軍の空中戦力は蝿のようにパテリア軍に付きまとい、上空から空撃を仕掛け、「亀さん改」は地上を逃げ回っていた。

 するとそこに、空に横一文字にならび、飛行する一団が現れた、パテリア航空部隊だった。「揺り籠」は一直線にエデサの航空部隊に襲いかかった。これまで自由に空を飛び回り、眼下の戦車を襲っていたエデサ軍は、突如来訪した空の敵に列を乱した。

 その瞬間を逃さず、パテリア軍は攻撃を仕掛けた。エデサの空の兵器は、自由に飛び回れるものの、攻撃が前方にしか出来なかった。これに対しパテリア軍の火力装備の強化歩兵部隊「熊さん」隊は四方に自由に攻撃できた。揺り籠に敵側面に付かせると、次々に打ち落としていったのだった。

 エデサの空の部隊は打ちとされ、残存機は戦場を逃れた、この戦いでミュージカは攻城戦にて、航空戦力を用い、空から爆撃を仕掛け、歩兵部隊の地ならしをする爆撃機作戦を思いついたが、彼女がその兵器を開発するだけの時はなかった。


「ウーマーの旦那が用意してくれた、兵器がまたやられましたよ。どうします?」

 戦況を見つめていた、バシルは弱った顔をすると、ハスタに顔を向けた。

「知るか!」

 ハスタは不愉快そうだった。

 ウーマーは彼らに魔法城の守備をまかせると、自分は冥界へと帰っていった。ハスタにとって不満なのは、くだらぬ玩具を押しつけられたことだった。ワルコの将が魔法具なるものを作り、それに、ウーマーが興味を示し、自分も作成したものが、玩具だった。ウーマーはこれらの玩具を尊重し、魔法の新たな可能性と賞賛していた。しかし、ハスタにとってそれは屑に等しかった。魚に、人工の尾ひれを与えるようなもので、わざわざ魔法具なるものを使わなくても、それらのものは出来たからである。

 必要とするのは、人間等下等生物で、牙も無く、固い皮膚を持たない軟弱なものにはこれらの道具が必要なだけだ、とハスタは思っていた。

 魔法城を作り、人間を相手に、戦争ごっこをすることに、ハスタは辟易していたのである。

「しかし、ソロイに魔法城は落とされ、最後のこの城も同様なことになれば、ウーマーの旦那もお怒りになると思われますが」

 遠慮気味に、バシルはハスタの顔色を覗いながら、言った。

「心配するな、魔法具については目障りだが、背後にワルコの将が控えているとなると、俺は見捨てることはしない。攻め来る軍のワルコの将は、玄武星か。かつて俺と彼の男は痛み分けをした。今度は仕留めてくれよう」

 ハスタは報復に燃えていた。

「安心しました。すると魔法具は不要でしょう。私はこれで、お暇を」

 バシルは消えゆくように去ろうとしたが、彼の足が動かなかった。驚き彼は足を見ると石と化していた。

「旦那、なにをされるのです」

バシルは手をばたつかせた。

「お前にはまだ用がある。玩具を使って戦ってもらわないと、後でウーマーがうるさいからな」

「ですがパテリアの魔法具の車両がせまっています。どうしたら・・・」

「お前は馬鹿か。ウーマーがこの城に長距離砲を設置したはずだ。それを使え」

 言われて、バシルは目が覚めた。

「そうでした。あれなら戦車も敵わない。でも足が」

 バシルは足を見下ろすと、元通りになっていた。

「怖い人達だ」

 バシルは恨めしそうにハスタを見つめ、逃げられないと実感した。

「ところで、お前が持って居るそれは何だ?」

「これですか?これはハスタの旦那が、ワルコの将が来たら試せと申されて、置いて行かれた物です」

 バシルは首から提げた宝箱を、手の上にのせた。

「それでハスタは、どうしろと言っていた?」

「ワルコの将によって、多くの妖魔を失うことになったので、ワルコの将が攻め込んで来たら、この箱を相手に向けて開けと」

 ハスタは興味深く、宝箱を眺めた。

「どうやら、此の箱はワルコの将を封じ込める為に作られたようだな。強力な吸引力によって対象物は箱の中の異次元に吸い寄せられ、封じ込められるようだ。この箱の中に入っては、内部から脱出は困難であろう」

 バシルは宝箱が、恐ろしい物であると知り、思わす手を放した。

「おっと。大切に扱えよ。ウーマーが怒るからな。しかし、それは必要が無い。俺は武芸をもってワルコの将を倒すつもりだ。その様な玩具で助勢されたとなると恥だ」

 ハスタは宝石箱を受け止めると、バシルに差し出した。すると彼は、ルルの近くにそっと置いたのだった。


 パテリア機動部隊は遙か歩兵本軍の先を先行して、エデサの魔法城を目指していた。先の戦いで制空権を確保したパテリア軍は「亀さん改」の戦車隊を進めていたが、突如、空を斬って強力な魔法の雷撃が襲って来たのだった。地面は叩かれ、戦車が粉砕された。

 エデサの魔法城から長距離砲による攻撃だった。

 まだ、敵の魔法城は見えなかった。突如、空から強力な攻撃を受け、戦車隊は列を乱し、地上を逃げ回った。

 亀さん改が、次々砲門の餌食になり、それは次第に後続の歩兵部隊まで迫ったきた。ルキアノスは魔法部隊に命じ、空からの魔法攻撃に対し防御するように命じたが、砲の威力は強く、彼らは持ちこたえられなくなった。すると、上空を一条の線が延びると、エデサの魔法城からの攻撃を、跳ね返したのだった。

 青空に二つの光線が伸び、上空でぶつかり合い、火花を散らしていた。

「お菓子の家」からの砲門による反撃だった。ルキアノスはミュージカの素早い対応に感謝すると、進軍の足を速めた。

 パテリア軍が魔法エデサの城まで、たどり着いてみると、その城は今までの二倍の大きさを誇ったいた。これまでのように、霧で隠したりぜず、その威容は白い山脈を背後に、堂々としたものだった。

 これは相当の被害を覚悟しなければならないだろうと、ルキアノスは思った。

 その頃、お菓子の城で情報システム「番頭さん」で戦場を俯瞰していた、ミュージカは機械の異常に見舞われていた。これまで戦場の全ての情報が集まっていたのだったが、突如途絶えのだった。魔法城からの状距離砲の軌跡は追えたが、肝心の魔法城周辺の様子がまるで分からなくなり、しかもお菓子の家の砲門がパテリア軍を狙い初めたのである。

 番頭さんが、乗っ取られようとしていると、ミュージカは察した。彼女は直ちに、コア部分を閉じると、システムをダウンし、進入路を消し去った。この間、パテリア軍は魔法城の攻撃にさらされたが、直ちにミュージカは番頭さんを再起動させると、健全な状態に戻した。敵の番頭さんへに侵入経路は特定出来たが、エデサの魔法城内部の様子が分からないのは変わらなかった。

 ミュージカからの連絡により、お菓子の家が攻撃されていることを知ったルキアノスは、退却するのでなく、魔法部隊に軍を魔法で守るように、指示を出すと、力ずくで城に取り憑こうとした。戦車を惜しみなく投入すると、それを盾に、熊さんを纏った重装歩兵部隊に突入させたのだった。

 魔法城の攻撃は激しく、次々に亀さん改は大破し、その陰から熊さん隊は前進し、ついに魔法城の城壁にたどり着いたのだった。

「人間共が城に来たか」

 ハスタは他人ごとの様だった。

「旦那、敵は攻城戦に慣れてきたようです。防御網をかいくぐって来ました」

「のようだな。この城が他の城と違うことを、人間にしらしめよ」

 ハスタは落ち着いていた。

「どうするんです?」

「お前は馬鹿か」

 ハスタはバシルを退かせると、操作盤をいじった。

 魔法城の城門に一斉攻撃を仕掛けていた、パテリア熊さん部隊は、突如動かなかった。

彼ら全員を襲ったもの、それは恐怖だった。熊さん隊は物理攻撃でなく精神攻撃を受けていた。

 恐怖した兵士は、体を震わせ、逃げだしたのだった。異変は熊さん隊だけでは無かった、後方で二次攻撃の準備をしていた、本軍にも精神攻撃が襲っていたのだった。

兵士が、無気力になり次々にへたり込んだ。

 パテレア軍は牙を抜かれたしまった。戦いにおいて相手兵の精神を攪乱する作戦があるが、その攻撃の極致というものが、魔法城からの精神攻撃だった。これで全てのパテリア軍は無きに等しかった。だれも槍や剣を杖代わりにして動かなかったからである。

 最後の魔法城は精神攻撃によって守られた城だったのである。

「将軍ここは、退却いたしましょう」

 諸将の提案に、ルキアノスは臍をかんだ。

「ミュージカ。我々は城からの影響を受けて、戦意喪失の状態にある。これを退ける方法は無いか?」

 ルキアノスは囁きさんを用いて、遠く離れたミュージカに問うた。

「残念ながら、将軍。遠く離れたここからでは、なんの手立てもありません。方法があるとするならば、制御装置のルルを機能を止めるだけしかありません」

「ならば、こちらに来ることはできまいか?」

「残念ながら、魔法城の砲門は、パテリア軍に照準を合わせたままです。それを封じるために、ここからの援護が必要です」

 ミュージカに意見は、道理だった。魔法城が精神攻撃に切り替えたとはいえ、その砲門からの攻撃は依然として脅威だった。

 魔法城の精神攻撃は、一番効果的な方法だった。戦わずすて、相手を退けられるからだった。そして、その魔法城の精神攻撃を跳ね返せるのは、ルキアノスのみだった。

 決着させるべき時が来たかと、彼は決意した。魔法城に単身乗り込み、妖魔との決闘を望んだのだった。

 彼の愛馬も恐怖に怯えていた。ルキアノスがたてがみを撫でると、馬は落ち着き背を許した。ルキアノスは馬に跨がると、羽根を取り出すと武具を身に纏った。妖魔を仕留めるという決意が、神秘の武具を用いさせたのだった。彼の手にある一本槍が、神槍の如くに煌めいた。

 ルキアノスは魔法城に向けて、単身突撃した。恐怖に覚え、土塁に縮こまる、パテリアの兵士の上を、颯爽と飛び越え、馬は平原を駆け抜けてゆく。目の前には、山脈を背にした大きな魔法城が立ちはだかっていた。

 熊さん隊がたどり着いた地点まで至ると、城から無数の魔法の光線状の攻撃を受けたが、ルキアノスはことごとく、槍ではじき返した。彼の纏った神秘の武具には、その異様な魔法など効きははしなかった。彼はそのまま、城門に至ると、取り残された熊さんが装備していた、砲にて門を攻撃したが、それは微動だにしなかった。

 仮に精神攻撃により、苦境になかったとしても、門を破壊し城内に攻め込むには困難があったことが分かった。ルキアノスは諦めたかのように、砲を放り投げた。

 彼が考えたのは、神秘の武具に備わっていた魔法秘技による攻撃だった。彼は槍を握りしめると、魔法の絶技を放った。

 魔法奥義ラ・ジュスティッツィアが発動した。

金牛のサインとともに剣と天秤が現れ出で、その荘厳な力の前に魔法の城門は跡形も無く吹き飛んだ。 強固な魔法の城門であったが、ワルコの将の前には、障子にも等しかった。

 この様子を城の上から、見下ろしていた妖魔のハスタはほくそ笑んでいた。

「そもそも魔法城そのものが陳腐なのだ。ワルコの将相手に、なんの障害となるものか。あの魔法奥義の威力はただならぬ物。この様な小道具を頼りに籠もっているのが間違いなのだ。ようは我らが直接対決して、勝敗を決すれば良いことではないか」

「旦那、どうします。魔法の攻撃も受け付けません」

「お前は、この玩具で遊んでいるがいい。俺は大人の会話を奴としてこよう」

 ハスタは自慢の槍を小脇に抱えると、ルキアノスのいる城門にくだっていったのだった。

 城内に攻め入ったルキアノスは、中心に高くそびえる塔目指して、馬を走らせた。魔法奥義によって破壊された城内を過ぎると、曲がりくねった通路から、隠れ潜んでいたエデサの兵が戦いを挑んできた。彼らはミュージカの考案したバターナイフと同様の魔法の剣を携え襲いかかってきたのだった。

 ルキアノスは最初の攻撃を受けた際、剣から魔法が飛び出してきたので驚いたが、バターナイフと同等のものであることに気がつくと、易々とこれを交わし、一気に蹴散らした。そうして、城の中央近くまで来たとき、黒い甲冑の出で立ちの男に遭遇した。

 妖魔第三位、針山獄のハスタだった。

 ルキアノスはその人物に見覚えがあった。かつて都を襲い、彼を苦しめた男だった。ルキアノスは馬から降りると、別に妖魔が潜んでいないか周囲を見渡した。

「俺以外だれも居ない」

 妖魔はルキアノスに語りかけた。

「親切なことだな」

 ルキアノスは、ハスタを警戒しながら、近づいていった。

 両者は顔が良く分かる位置まで来ると、立ち止まり、宿敵の顔を見つめた。

 城内の広場には、ワルコの将と妖魔が向かい合わせに立ち、鋭い二本の槍が天を指していた。

「怪我は治ったようだな」

 ハスタはルキアノスを眺めた。

「おかげさまでな。仲間に治療術を持った者はいてな。そういうお前はどうなのだ?」

「我々は地獄の妖気を浴びれば、元に戻る」

「温泉みたいなものか」

「お前達の、それがどんなものか分からぬが、そうなのだろう」

 まるで、友人であるかのように、二人は会話を交わした。

「ところで、妖魔のお主が何故、槍を持つ?お前達には魔法の技があるだろうに」

 ルキアノスは疑問をぶつけてみた。

「槍は俺の誕生とともにあった。これは俺そのものだからだ。そういうお前も槍にはこだわりがありそうだな」

「俺は天下無双の槍を目指しているからだ」

「ほう、それは奇遇だ。私も槍の頂点にありたいと思って居る。しかしこれはどういうことかな。妖魔に俺が有り、ワルコの将にはお前が居る」

「偶然であろう」

 ルキアノスは素っ気なかった。

「まあ、よい。この前の決着をつけようか。お前が勝てば、彼の塔は自由に出来る。この城には俺以外の妖魔は居ない。安心して戦え」

「親切なものだな。だが、それは勝てるという自信の表れと読むべきものかな」

 両者は槍を構えた、光に輝く二本の槍が広場の中央で向かい会った。

 将と妖魔は微動だにしなかった。

 目に見えぬ、意識の攻防が繰り広がれ、一瞬の隙も許されなかった。両者は動かぬまま額から汗が流れた。

 この時、妖魔を追いかけていた、バシルは広場で二人が向き合ったまま動かなかったので、呆気にとられてしまった。まるで石化したかのようであったので、恐る恐る近づいてみた。バシルはウーマーによってワルコの将を箱に封じ込めるように、命令されていたので、それを果たすべくここに来たのだった。

 その箱は実験的に作られたもので、実際有効なのか試させる意味合いがあった。作成したウーマーはワルコの将の勾陳星のダーナを警戒しており、彼を除く術として考案したのだった。ウーマーの報復を恐れたバシルは言いつけ通りに箱を、ルキアノスの方に向けようとしたが、ここである思いがよぎった。

 ここで妖魔を倒したら、自分は逃げることが出来るのではないか?

 というものだった。

 無形の攻撃を繰り返していたハスタは、ゆっくりと近づいてきたバシルに気がついた。彼が箱を持っていたので、ウーマーの命令を遂行しようと為ているのが分かり、神聖な決闘を汚されてはと、一瞬、妖魔の意識が散漫になった。

 この瞬間をルキアノスは見逃さなかった。鋭い槍が僅かな隙を突いて、ハスタの左に刺さった。妖魔に激痛が走り、前身が痺れた。ワルコの将の槍はただの槍ではなかった。

 ハスタは安全域まで飛び下がると、バシルを怒鳴った。

「その箱を使うなよ。これは神聖な戦いだ!」

 ハスタの剣幕に、バシルは動けなくなり、二人の決闘の様子を、震え上がって見た。

 妖魔は一気に加速すると、ルキアノスにせまり無数の槍を放った。当然これをワルコの将は迎え撃ったのだが両者は互角で、お互いが傷ついただけだった。

 両者は無数の傷を負い、傷口から血が滴り落ちた。前回の戦いと同様の結果になりそうだったが、今回は少し違った。バシルに気を取られ、そこを突かれたハスタの傷は深かったのだった。このまま戦えば、先に果てると感じたハスタは魔法奥義を使うことを決意したのだった。槍では互角だが、魔法については自分達のほうが優位と感じたからだ。

 ハスタは槍を繰り出すとともに、魔法奥義ラ・フォルッアを放った。獅子が咆哮とともに現れ、その獅子を巨人が口から引き裂いた。その力は巨大な圧力として、ルキアノスを襲った。

 ルキアノスは一瞬ハスタの槍が鈍くなったので、何かあると直感した。そしてハスタから異様な圧力を感じたので、咄嗟に強大な魔法であること悟り、自らも魔法奥義ラ・ジュスティッツイアを放った。

 天秤と剣が現れ、迎え撃ったが、両者の魔法は激しくぶつかり合い、その威力にハスタもルキアノスも街の建物にたたき付けられたのだった。

 魔法の戦いは、熟練したハスタの方が少し上だった。ルキアノスは後れて技を放ったせいもあったが、ラ・フォルッアの力によって大怪我をしていた。ハスタは立ち上がれないルキアノスを槍で仕留めようとしたが、彼自身も負傷し、立っているのがやっとの状態だった。

 槍を杖代わりに、ルキアノスに近づくと、地面に転がり動けない彼を槍で貫こうとした瞬間、ハスタは体が引っ張れる感覚を受けた。ハスタが異変の方に顔を向けると、箱を開いたバシルの姿があった。

「貴様、なにをする!」

 ハスタは抵抗しようとしたが、負傷した彼には、あがらう力は残っていなかった。箱に流れ込む風と供に、彼の体は流れ、箱の中へと吸い込まれていったのだった。

 妖魔を封じ込めた、バシルは紐でぐるぐる巻きに箱をし、再び開かないようにした。そうして、起き上がれないルキアノスの、元に近づいたのだった。

「旦那、大丈夫ですか?」

 バシルが声を掛けると、ルキアノスは意識を戻した。

「奴はどうした?」

「これこの通り、箱の中に封じ込めました」

 バシルは陽気に箱を振ってみせた。

「何故、俺に味方した?お前は妖魔の手先ではないのか」

「ご冗談を。私は脅されて従って居ただけです。今が逃げるチャンスだ思いましてね」

「とにかく、礼を言おう。名前は何という?」

「バシルです」

「その名前。もしやラピス殿と関係があるのでは」

「はい、その弟子です」

「なるほど、では制御装置のルルの所在は分かっているな?」

「もちろんです。塔の建物の中に有ります」

「すまぬが、俺を連れて行ってくれ、兵士達を正気に戻さなくてはならない」

「わかりました」

 ルキアノスはバシルに助け起こされると、槍を杖に塔を目指した。

 塔は魔法奥義ラ・ジュスティッツィアで破壊されたが、未だ、パテリアの兵士は正気に戻っていなかった。塔そのものは、他の魔法城との連携のものであり、単体となった今ではエデサの魔法城の要ではなかった。依然として、エデサの魔将城はパテリア軍に向け砲門から攻撃を加えていたのだった。空を熱線が飛び、遙か遠く、お菓子の家からも空を裂いて一直線に光線がはしり、これを上空で打ち破っていた。

 幾度となく、パテリア軍の上空で閃光がぶつかりあっている姿を、遠く確信したルキアノスは、バシルに指揮室を在処を問うた。

「貴方が城内に入られたことにより、自動制御となりました。もう私はどうすることもできません。一応、その建物の地下が指揮室となります」

 バシルの指す方をみると、地下への階段があった。

 ルキアノスはその階段を降りて行くと、お菓子の家にある機器に似たものが並ぶ部屋に出た。彼は周囲を見渡すと、中央の台座に卵形のオブジェがあった。

 ルキアノスは囁きさんにより、お菓子の家のミュージカに対処法を求めると、彼女は囁きさんを通じて、制御装置とつながり、エデサの魔法城に制御を調べた。

 彼女が出した結論は、制御装置のルルによって、エデサの魔法城は動かされ、一体化していること、さらにルルは改造が加えられ、修復不可能ということであった。そこでルキアノスは意を決して、ルルを破壊することにした、ミュージカがルルを大事にしていることは知っていたが、物騒な魔法城を残す訳にはいかなかったのである。

 ルキアノスの槍が伸び、保護板を貫くと、中のルルを粉みじんに破壊された。こうして最後の魔法城は落ちたのだった。

 かくして、シノーペ、アンキュラ、ソロイ、エデサの魔法城なくなり、パテリアはその版図を西域の西部まで広げたのだった。


 ルキノスがエデサ攻略を完了した頃、中原では黄泉がえりの事件が収束し、都を失ったパテリアはナティビタスへの遷都を開始していた。冥界より戻ったカドモスは芙蓉姫より遷都の意志を聞き驚いたが、都が妖魔によって無残に消されてしまったことから、同意し、提案をしたのだった。

 冥界に行ったカドモスはいよいよ冥王シャヘルとの戦いが近づいていることを実感し、中原がその戦いの舞台になることを恐れていた。そこで彼は、冥王との決戦の舞台を西域に求めた。おりしも、西部制圧の報告は、宰相であるカドモスにもたらされており、ルキアノス等を苦しめた魔法城を利用し、冥王への防衛戦を構築しようとしたのだった。カドモスが提案したのは、副宰相をナティビタスに据え、全ての政務を彼らにまかせ、皇帝である芙蓉姫には西域に行幸という形を取り、冥王を誘き寄せるといったものだった。

 帝都に皇帝が居ないとは、おかしな話であったが、冥王との戦いに民を巻き込まさせない苦肉の策だった。

 カドモスは直ちに、西域のルキアノス、ミュージカ、デクスター、ラエバスに妖魔の魔法城を利用し、防衛網を構築するように指示し、東部方面軍を中原に帰還させ、パテリア軍がナティビタスや西域に移ったことによる空白地帯を埋めさせた。


 宰相カドモスの命令を受け、ルキアノス等はどうやって防御網を構築するかを相談していた。

「姫様が近くにおいでなさりますと、魔法城は以前にも増して強くなりますが、塔を破壊いたしましたので、それに代わるものを考えなくてはなりません」

 ミュージカは、あこれ思案していた。

「壊すのがやっとだったからな。まさか利用するとは想定してなかった」

 とルキアノス。

「私は、お菓子の城の小型版の城を、その東に作ろうと考えて居ます。先の戦いに於いて、お菓子の城の制御を押さえられたことがありました。非常の指令部として予備の城を用意しようと思うのです」

 ミュージカの、この小型城は実際使われることなく終わり、千年後も起動する唯一の魔法城となった。残念なことにその城の主は犯罪者たちであった。

「それはお嬢に任せるとして、我々は魔法具狩りを行うとしよう。残党兵が魔法具を所持していて、暴れ回っている」

 ルキアノスは西域を安定させるには如何にすべきか考慮中だった。

「異邦人である我々にはかなりの反発がある。通常の武器であれば、ねじ伏せることも容易いが、魔法具を所持していると厄介だ」

 デスクスターは渋い顔をした。

「だから兄貴は、ここを魔王との戦いの場にしたんだと俺は思う」

 とラエバス。

「あり得るな」

 デクスターはラエバスの顔を見た。

「それは、どうかな。エデサで大規模な反乱が起きているようだ。此処かに魔法具が多量に隠されているようだ」

 ルキアノスには、そんな事どうでも良かった。彼は戦いを求めていた。

 旧シノーペ国に大規模な反乱が起こり、ルキアノスはこの武装が、充実していたことから注目していた。この地は魔法城戦の最初の城であったため、魔法具についてはその行方は放置した面があった。しかし、残党が魔法具を使い、背後に勢力を築かれては厄介だった。早速ルキアノスはエデサより軍勢を動かすと、鎮圧に乗り出した。

 ルキアノスは西部方面軍の五分の一の軍勢で、シノーペに到着すると、残党兵の分布状況について調査を始めた。しばらくすると、大方の反乱者が、とある森に隠れ潜んでいるのが分り、ミュージカと連絡をとり、潜んでいた反乱者を一網打尽にした。森には多くの魔法具が蓄えられ、これを回収し、任務を完了した。魔法具は敵にあっては、厄介な武器であり、パテリア国のみの所有としなければならなかった。この魔法具狩りは、後継者に引き継がれ、芙蓉姫の時代に、西域の魔法具は全て、パテリアが押収し、三代にて、破壊された。それゆえ、魔法具はこの時代だけのものとなった。

 反乱者を鎮圧した後、ルキアノスは魔法城修復のため、シノーペの城に向かった。魔法城は機能停止の状態であり、城内は閑散としていた。

 彼は、部下に魔法城の状況を調べさせるととともに、自らも、破壊された塔の近くの、指令室にミュージカに頼まれた魔法具を設置しに向かったのだった。五名の部下とともに指令室に入ったルキアノスは、大きな台座に魔法具を設置すると、役目を果たし、安堵した。少々疲れを覚えたルキアノスは、近くに、体を休める座り心地よさそうな椅子を見つけ、これに体を預けた。長旅の疲れが取れるかのようで、ルキアノスは安らいだ気持ちになった。しかし、次に彼は胸を貫く痛みに襲われ、自らの胸に眼を向けると突起物の様なものが突き出ているのを目の当たりにした。思わず胸に手をやると、背後から固い金属が心臓を貫いているのが分かった。

 彼の部下は、将軍が胸を突き刺されて居るのに気がつき、駆けつけたが、その時はルキアノスは息絶えていた。神槍で名高いルキアノスは、妖魔カーサーの椅子に仕掛けていた罠にひっかかり絶命したのだった。

 その日、中原にいたカドモスはルキアノスの羽根が箱に舞い降りたので、彼の死を悟った。


 西部のタラースに到着した、芙蓉姫は臣下を伴い、さらに西のシノーペに至った。同行したカドモスとミルトスはルキアノスの墓に行くと、死を悼んだ。

 カドモスは早速魔法城お菓子の家に向かうと、ミュージカと今後について打ち合わせをした。

「私が中原に居る間、ここを守ってくれて有り難う。君の大切にしていたルルを破壊してしまったことは済まなかった」

 カドモスは、彼女の貢献に感謝するとともに、詫びた。

「いいえ、それは仕方がなかったのです。それにタキスさん、ルキアノスさんを失い、おじ様はお悲しみですし」

「多くの仲間を失った、すでに仲間は貴方を含め、四名になってしまった」

 カドモスは妖魔との戦いが容易でないことを痛感した。

「魔法城を強化する指示は承りました。既に五城は連結し起動しています。エデサ、ソロイ、アンキュラ、シノーペの四城は修復し、それらはこの、お菓子の家が統御しています。さらに、お菓子の家予備城として小型のものを近くにこしらえています。魔法具を備えたパテリア機動部隊はお菓子の家周辺駐屯しています。おじ様はこれからどうなさるつもりです?」

「冥王シャヘルは姫を目指して、地上にやって来るということが分かった。不敬ながら、姫を餌に此の地に冥王軍を誘き寄せ、決戦を仕掛けるつもりだ」

「それで、魔法城を蘇らせたのですか?」

「そうだ、中原にある城は人間を想定したもの。強固を誇った中原の帝都は妖魔一人に押し潰されてしまった。もっと強固な城が必要なのだ」

「であればお役にたてますが、それで中原は大丈夫でしょうか」

「姫がここに居れば、西部を目指すはずだが」

 カドモスは少し不安になった。

「おじ様、それでは保険をかけるとしましょう。ナティビタスを中心として、防御の魔法を展開しましょう。こちらのような強固なものいとは言えませんが、万一のためです」

「それは助かる。正直不安だった。ついでにもう一つお願いがあるのだが、冥王軍との戦いにおいて、主戦力は冥界の怪物達となる。この猛獣があちらこちらに散らばっていては厄介なことになるので、囲い込む柵が欲しいのだ。出来るか?」

「その怪物がどの様なものか分かりませんが、やってみましょう」

 困惑ぎみのミュージカは方策を考え始めた。

 この後、西域を巡り、地形を調べ、作戦地を選び、魔法具を備えたパテリア軍の訓練を施したのだった。しかし、冥王軍が地上に攻め上って来る日は来なかった。あれほど活動的だった妖魔の噂も消えて、西域には平和な日々が過ぎた。

 カドモスはダーナが異界に旅立ち、なかなか戻ってこないので、苛立っていたが、西域に留まっていた芙蓉姫は退屈していた。

 彼女は西域には島々が浮かぶ明媚な海があるという噂を聞きつけ、行ってみたいとカドモスに相談したのだった。餌である姫が動いたのでは作戦の根幹に関わることだったが、姫の希望が強く、仕方なく彼は了承したのだった。

 海へ向かう道は低い山々を練って進むことになり、少々不安もあったが、精鋭軍を付けさせれば大丈夫との判断だった。海までの行程には、盆地の中にヒステア国があったが、この国はパテリア国に臣下の礼をとっており、謀反を起こす心配もなかった。

 仮にそうだったとしも、カドモスが本気を出して攻めれば容易く攻め滅ぼすほどの国だった。パテリアの右に立つ国など無かった。

 芙蓉姫は近衛兵に守られ、南にくだった。山間をねって進む様子に、彼女は生まれ故郷の山々に姿を重ね合わせた。

 こうして芙蓉姫は山間を抜け、ラウド海に出た。

 初めて見る海の景色に彼女は、胸躍らせ、妹の紅花姫とともに、浜辺に立ったのだった。故郷のパテリアでは山々に囲まれて湖が静かに佇んでいたが、海では、強い波が起こり、水の中に山があった。彼女達は、音を立てて寄せる波に足を浸し、高くなったり、低くなったり変化する水に、はしゃぎ、追い寄せる波に、砂浜の上追ったり追いかけられたりした。

 芙蓉姫の立つ場所はラウド海でも、島々が点在し、比較的波が穏やかな場所だった。彼女はこの場所を大変気に入り、七日間留まった。東にはコメという村が有り、港町となっていたが、芙蓉姫が留まっていた所は、五件の民家がある程度の、なにもない土地だった。

 西に小高い山が有り、村人はアグラチオと呼んでいた。

 芙蓉姫は海に面した小高い山が気になり、登って見ることにした。警護を任されていたデクスターは危険だと反対したが、姫の決意は固く、彼は仕方なく山を厳重に固めると、姫を登らせた。

 山の中腹まで登ると、大小様々の島が広がる様がみてとれた、さらにその向こうには、どこまでも果てしなく広がる、ラウド海があった。

「これが海なのね」

 芙蓉姫は、感嘆し、妹の紅花に語りかけた。

「まるで宝石箱のようだわ」

 紅花も、景色に見とれていた。

「そうね。なんて綺麗な景色なんでしょう。再び生まれてくるのなら、こんな場所にしたいわね」

「まあ、皇帝陛下になった姉君は。宮殿で贅沢の限りなのに、みずぼらしい」

「私は、なりたくてなったわけではありませんよ」

「でしたわよね。山間の小さな国が、海にまで広がるだなんて、亡くなられたお父様が、お知りになったら、大層驚かれたことでしょう」

「これもカドモスの力によるものです」

「お姉様、あの方を愛しておいでなのですね。兄上は大変嫌われていましたが、今は反対する者もいませんよ。その思い自由にできますよ」

「紅花。私達には大変な事が待ち受けて居るのです」

「ミケーネという女性の予言ですか?構わないではないですか。愛に障害はつきものです。姉上はあの方と一緒になるべきです」

「そうねえ。ここが、宝石箱なのなら、なにか収めなくてはね」

 芙蓉姫は話をはぐらかした。

「まあ、だったらこここに、愛の巣でも作りなさい」

 紅花はやり返した。

 

 海を満喫した芙蓉姫は、カドモスのいるシノーペまで戻ろうとしたが、途中、ヒスティア国王の招待を受けた、芙蓉姫はヒスティアに向かおうとしたが、デクスターは、王が臣下の礼ととっているとはいえ信用できないと止め、結局、国境近くの王家の館に出向くことになった。

 デクスターは館をくまなく調べ、安全だと判断すると、ヒスティア国の歓迎の宴の準備を許し、怪しいところがないか目を光らせていた。

 ヒスティア国は広い盆地の国であった。北にサンダピア山があり、広く豊かな平原をもっていた。森は多く切り開かれ、麦畑が広がっていた。山に囲まれた地であったが、実りは豊かであった。

 ヒスティア国王の屋敷は、盆地の入り口近くの、美術品に溢れた屋敷だった。王が大国のタラース国やオイア国に、山の中の国と馬鹿にされないように、こしらえた屋敷だった。広い庭には生け垣が幾何学的な迷路のようにこしらえてあり、その所々に彫像が据えられていた。

 見事な庭に、芙蓉姫は見とれ、幾何学の美しさについて知ったのだった。

 歓迎の宴が進み、芙蓉姫は音を奏でる柱があると聞き及び、庭にその柱をもとめ、程なくして、緑の生け垣の中、白い柱群を見いだしたのだった。

 建物の柱が壁も無く、庭の中に四十本立ち並んでおり、その下に立つと、まるで天空を支えてきるかのようだった。芙蓉姫がしばらくその柱の下に佇むと、どこからから、シャボンのような音が流れてきて、彼女を恍惚とさせた。

 警護のデクスターは音楽に興味がなかったので、つまらぬ玩具と馬鹿にし、ヒスティア人に怪しい動きをする者がいないか厳しい視線を送っていた。

 すると、それまで妙なる調べを奏でていた柱が、突如、耳を塞ぎたくなる音を発し始めたのだった。デクスターは異変に気がつき、芙蓉姫をみると、彼女は頭をかかえうずくまっていた。デクスターは剣を抜き、救援にむかおうしたが、音の圧力の前に気を失ったのだった。

 芙蓉姫は抵抗し、なんとか魔法を使って逃れようとしたが、音の圧力を受けて、魔法を出すことができず、意識が朦朧として、倒れた。


 

 その頃、お菓子の家にいたミュージカは南方、ヒスティア国に巨大な魔法の発現を感知した。彼女は番頭さんを使い、調べてみると、魔法城の痕跡があった。

 しかし、この魔法城はこれまで戦って来た魔法城とは違った。かつての魔法城は芙蓉姫の魔力をルルを介在して、魔法城をなりたたせていたが、これはそうではなかった。冥王シャヘルの力によって直接打ち立てられた魔法城なのであった。

 その城は強大な魔法力を秘めていて、かなり厄介なしろものだった。しかもその城内に芙蓉姫の存在が確認されたのである。

「もう逆らう者は無いと安心していたのが間違いだった。まさかヒスティアが謀反を起こすとは」

 カドモスは落ち着かなかった。

「兄貴、おれが救出に向かいます」

「待て、ラエバス。お前まで罠にはまっては、もともこもない。姫は屋敷で捉えられ、ヒスティアの魔法城に幽閉されているようだ。デクスターはおそらく別の場所だろう。問題なのが魔法城だ。ミュージカ手はあるか?」

「冥王の強大な力が魔法城を覆っています。そのため番頭さんの探査能力が著しく制限され、解析ができません。お菓子の家の長距離砲を使い、威力偵察をしてみまよう。ヒスティアの魔法城の防御能力が分かるかも知れません」

 ミュージカは魔法城五城を連携させ、一斉に冥王の魔法城目がけ攻撃を開始した。空を無数の閃光が南に伸びていった。ヒスティアの地に激しい閃光があがり、盆地を明るくした。

「攻撃は命中しましたが、城は無傷です。かなりの強度です。長距離砲では、撃破は難しいようです。内部より破壊するしかないでしょう」

「熊さん部隊に、強化した兵器をもたせ、突入させるしかないようだな」

 魔法城戦で二名の仲間を失っていたので、カドモスは渋い顔をした。


 カドモスは軍勢を率いて、姫の救出に向かった。ヒスティア国の盆地に入ると、広大な盆地の中央あたりに、巨大な黒い塔がそびえているのが分かった。上空に黒い雲が立ちこめて、ただならぬ城であることは、見て取れた。

 カドモスは自走砲の射的くんを城の前に揃えると一斉攻撃を仕掛け、戦車隊の亀さん改を先頭に、熊さん隊を突入させた。しかし魔法城は強固で落ちなかった。そこで、カドモスは自らも神秘の武具をまとい、突撃したのだった。

 かつてルキアノスが、単身魔法城を落としたことがあったので、自らも試みようとしたのだった。カドモスは城門にたどり着くと、魔法奥義リンペラトーレを放った。しかし冥王の作り出す魔法城は固かった。僅かなゆがみを作り出すのがやっとで、これでは、熊さん隊を城内に突入させることは不可能だった。

 カドモスは、そこで、胸のバッジを思い起こし、これによって、冥王の作りだす壁を飛び越えられるのではと思いつき、その力を使ってみると、効果はあった。カドモスは、瞬間的に起きる亀裂に、意を決して飛び込み、城内に潜入したのだった。

 城内に潜入できたものの、熊さん隊を中入れる手立ては見いだせなかった。彼は兵を城内に招き入れることを諦め、ここは単身解決する道を選らんだ。

 城内の圧力は、かつて冥界で味わった、冥王の結界を彷彿させるものだった。城内には亡霊の様なものが存在し、カドモスを襲ってきたが、彼は一撃で粉砕すると、奥を目指した。しばらく進むと、捉えられ、鎖に繋がれた、デクスター達を発見し、カドモスは解き放し自由にした。デクスターは自分の不始末を詫びたが、カドモスは許し、彼らと供に姫を探した。そこで囁きさんの反応があったので、カドモスが耳を寄せると、ミュージカが姫の所在を特定していた。

 ミュージカはカドモスが城内に消え、通信不能になっていたので、その解決策を見いだし連絡をとって来たのだった。姫は東に進んだ先の建物に幽閉されていた。カドモスはデクスター達を従えて、そこに向かった。建物の周囲には、亡霊が行く手を阻んでいたが、それらはカドモスの魔法奥義の前に、瞬殺された。

 姫は建物の中で、途方に暮れていた。建物の周りには、気味の悪いものが囲んでおり、怖くて出られなかったのである。すると、カドモスが部屋に飛び込んで来て、その姿に姫は歓喜した。

「陛下ご無事で」

「助けに来てくれたのですねカドモス。私は心細くて、仕方がありませんでした」

 芙蓉姫はカドモスに胸に飛び込んでいた。

「もう大丈夫です」

「ここは何処なのです?」

「冥王の魔法城の中です」

「冥王が地上に来ているのですか?」

「恐らく、これは前触れでしょう。地獄の冥王の力はもっと強大だった」

「あなたまさか地獄に・・・」

「さあ、ここを出ましょう。城外を目指すのです」

 カドモスは姫の手をとり、城外を目指したが、脱出する方法を見いだせなかった。バッチの力はカドモス一人を外に出せたが、姫や部下を送ることは出来なかった。迷ったカドモスはミュージカに相談したのだった。

「どうしても、脱出する手立てが見いだせない、なにか良い方法はないだろうか」

 カドモスは囁きさんを通じてミュージカに語りかけた。

「その結界は、冥王の力によって作られています。同等の力によって破るしかないでしょう」

「同等と言っても、そんな戦力はないが」

 カドモスは困惑した。

「番頭さんの解析によると、おじ様の近くに、冥王と同等の高魔力の反応があります」

 驚き、カドモスは周囲を見渡したが、それらしきものはなかった。

「そのようなものは、何処にも無いぞ」

 彼は眉を細めた。

「姫様ですよ。姫様に魔法を使っていただくのです」

 カドモスはこの答えに、頭を打たれた。

 芙蓉姫は魔法の女王なのであった。

「それしか、ないのか?」

 カドモスには、姫が人であって欲しという願いがあった。

「ありません。冥王と同等の力が必要なのです」

 彼は、やむなく芙蓉姫に事情を説明した。

「私がですか?」

「ミュージカがそれしかないと言っていました」

 カドモスは悔しそうだった。ただの女性であって欲しいと願っていたが、彼女が人ならぬ存在であることを認めることになるからだった。

「分かりました。やって、みましょう」

 姫は微笑み、大きく手を広げた。

 巨大な火球が湧き上がり、それは冥王の魔法城を包み込み始めた。

 冥王の魔力と、ワルコの魔力が直接ぶつかりあおうとしていた。巨大な火球は魔法城に落ち、炎は城を覆った。冥王の結界は吹き飛び、彼らは自由になった。

 カドモス等は命からがら、城外に逃れると、魔法城を振り返った。巨大な黒い塔は火炎に飲み込まれ、溶けるようにして崩れ落ちていっており、魔法城の城壁は、飴のようになって流れ、灼熱が辺りを覆っていた。

「これがワルコの力なのか」

 カドモスは呆然と立ち尽くし、彼女が自分の手の届かない存在であることを、まざまざと教えられたのだった。


 多忙につき、二ヶ月ほど小説の活動が止まっていました。間を開けると、何処までお話が進んだか思い出せないものですね。特に芙蓉記のほうは進行中なので何とか思い出せましたが、翡翠記の方は、全くです。

 さてタイトルが「未来への伝言」となっていますが、これは第六回の「過去からの伝言」に対応させたものです。六回を書いていたころ、芙蓉姫はヒスティアの王に暗殺されようとする設定でしたが、それを忘れてしまって、冥王に操られ、芙蓉姫を捉えたという風になってしまいました。今回、タイトルをつなげるところまで来たので、なにか嬉しいです。 尚、芙蓉姫が遊んだ海岸は、後の、グレーティアの故郷、港町マーレ町です。

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