第71回 芙蓉記 第16話 魔法城
<芙蓉記登場人物リスト>
カドモス (六合星のカドモス)中原からの流れ者
ダーナ (勾陳星のダーナ)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン (貴人星のイアソン)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星のルキアノス)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星のネクタリ)用心棒家業、弓の名手
タキス (天空星のタキス)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星のレアンドロス)元ハニア国海軍士官
ミルトス (太常星のミルトス)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星のデルフィネ)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星のミュージカ)発明少女
芙蓉姫 パテリア第三王女
デクスター カドモスの弟分
ラエバス カドモスの弟分
ラピス ミュージカの祖父、発明博士
バシル ラピスの弟子
ミケーネ 占い師、(アルマロスのミケーネ)
ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物
シャヘル 冥界の王 十人の妖魔の主
ウーマー 妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー)
コスタ 妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ 妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス 妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者
ラング 妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング) 大蛇に乗る
ベネノ 妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー 妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス 妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス 妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ 妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い
<西部諸国>
パラ ウンダ河上流左岸
タラース ウンダ河中流左岸、大国(後のメディス)
ザンクレー ウンダ河下流左岸
ギオン ウンダ側河口左岸
ユーベイ ウンダ河上流右岸(後のアデベニオ)
オイア ウンダ河中流右岸、大国
ロクロイ ウンダ河下流右岸
シノーペ 後のシルバの森縁東
ソロイ 後のシルバの森縁西
アンキュラ 後のシルバの森の東、シノーペの北
エデサ 後のシルバの森の西、ソロイの北
シューロス 後のソサ南部
ヒスティア 後のカーボ、シューロスの東
宴会でのことストレニウスはドクトリ先生相手に、昔、シルバの森の無法者ペラ一家を相手に戦った時のことを話しました。その話の中で魔法具が登場するので、ドクトリは興味深く聞いていました。魔法具は千年前に廃棄され、今はほとんど残ってはいまでんでした。伝説として、高度な魔法具が古の時代にあり、人々を驚かせたと知られていたのですが、どの様なものであったのかは誰もしりませんでした。
疑問に思ったドクトリは、芙蓉記のその部分を、聞かせてくれるようにフィディアに頼んだのでした。
彼女は承知し、竪琴を手に取ると、ゆっくりと謡い始めたのでした。
皇帝黄武の死によって、パテリア帝国を二分する戦いは、収束した。皇帝の亡骸は帝都に運ばれ、芙蓉姫は兄の亡骸を前に、涙した。東部方面の軍勢は、皇帝と芙蓉姫の戦いが簡単に決着がついてしまってしまい、両者の戦いに影響を及ぼすことはなかった。東部方面軍はユンクタス河付近まで進軍しており、突如おこった内乱に、引き返し、戦いに加わることは出来なかった。西部方面のカドモス等が、移動できる部隊から次々に中原に兵を移動させたのと違って、守備部隊を残し、全軍で移動しようとしたことが、遅くなった理由であった。さらに心理的要因では、皇帝に従うか、芙蓉姫に従うかで将軍内で分かれていたことがあった。このまま中原に戻れば、そこで分裂し、味方同士の戦いかねない状態であった。簡単に皇帝と芙蓉姫の決着がつき、内心彼らは安堵した。彼らは直ちに芙蓉姫へ忠誠を宣言し、東方に留まり、命令を待った。
パテリアの人々は芙蓉姫の戴冠式が、直ぐに始まるであろうと期待したが、帝王不在のまま日々が過ぎていたのだった。表向きは兄の喪に服しているということだったが、芙蓉姫が帝位に就くことを拒んでいたからだった。彼女は不幸な最期となったが、兄を慕っていたし、その兄を殺して帝位につくことなど考えられなかったのである。
しかし、いつまでもパテリア皇帝不在のままでは問題があり、カドモス等は誰を皇帝に据えるべきかで悩んだ。皇帝の卑属は全員亡くなっており、彼の兄、第一王子の幸武の子が候補と挙げられたが、凡庸な人物であった。もう一人の王子は道楽者で、政治に疎い人物で、任せれば国が危うくするような者だった。
芙蓉姫は女性であったこともあり、本当は帝位に就くことなどありえなかったが、芙蓉姫へのパテリア人の人気は高く、別の人物を皇帝にすれば、再び帝位をめぐって争いが勃発する可能性をはらんでいた。
カドモスが仲間に相談すると、やはり芙蓉姫を中心にまとまったほうが良いとの結論に達した。そこでタキスはかつてイアソンが一案を残していたことを皆に伝えた。
カドモスは直ちに、姫に謁見を請うと、姫の前に仲間を揃えた。
「どうしたのです。私はまだ兄上の喪に服していますよ」
カドモス等の改まった行動に、警戒しながら、芙蓉姫は言った。
「姫にお願いが御座いまして、このまま国の主がないまま時を過ごす訳にはいきません、そろそろ、皇帝になって頂きたいのです」
姫はうんざりとした顔をした。
「私は女性です。資格などありません。私の親族に誰かいるでしょう」
「適当な人物がいないのです。誰もが姫のご即位を望んでいます」
カドモスは説得に汗だくになった。
「皇帝の座は兄上のものです。私は絶対その座には就きません」
芙蓉姫は意気地になった。
「姫、皇帝陛下は皇帝を名乗られていましたが、それは自身で作られたものでした。であれば、あまりこだわりださるのも」
「私は、兄の地位が欲しかったのではありません」
「皇帝の地位を大事になさっておいでなのは分かりました。パテリア国の伝統ではパテリア王は族長会の議決によって決まると言うことですが、その伝統は尊重なされるのですか?」
話題を変えてきたので、姫は警戒した。
「無論です。兄君もそうやってパテリア王になられましたし。王家はパテリアの地に流れ来て、この地で王位になったのは、部族長会の支えがあってのことです。カドモス、確かに兄君は部族長会を無視し、勝手に皇帝を名乗ったのは、伝統の冒涜だけど、大きくなった国では仕方ない事だと思います」
彼女はカドモスが皇帝の名目を軽くし、その座に担ぎ上げようとしていると読んだ。
「陛下が創設された帝位は黄武陛下だけのものでしょう。私は姫様の心がよく分かります。パテリアの帝位は姫以外が良いのかもしれません。ところで、慣例通り族長会議にて次期王を選定頂くといたしましょう。これは帝位のについてではありません。それならば姫もご納得頂けるのでは?」
「仕来りは尊重しますが、いったい誰を推薦するのです」
「もちろん、姫様です」
「私は皇帝などならないと申したはずです」
芙蓉姫は、むきになった。
「皇帝の地位にあった者は、今後、黄武皇帝ただ一人となります。これはパテリアの王を決める族長会議です」
「図りましたね」
姫は不満そうに、カドモスを見つめたが、彼は涼しい顔をした。
「分かりました。貴方がそのようでしたら。私がパテリアの王になったら貴方には宰相を命じます」
芙蓉姫の仕返しだった。
「姫それは無茶です。適当な人物にすべきです」
「それが条件です」
姫はヘソを曲げていた。
仕方なく承諾したものの、カドモスは頭を抱えた。
姫の下を退いたカドモスは、タキスにつめよった。
「お前がイアソンの計略があると教えてくれたがいいが、俺が宰相をやらなくてはならんぞ、どうすんだ」
「まあ、そう怒るな。皇帝の位を有名無実として、姫を王位に就かせる作戦は成功したではないか」
「お前は、俺が内政が得意だと思うのか?」
「まあ、並だろうな。心配するな。宰相補佐を選任すればいいのだ」
それを聞いてカドモスは少し安心した。
「先の戦いでドルアス宰相は失脚したが、それの孫のカルスダンが優れている。まだ歳は若いが、いい人材だ。それと、タキスの右腕だったホルがいる、こちらは熟練の技をもつ。それに旧オレアで財務を担当したパサナテルはなかなかいい。帝国の運営はこの者達に任せればいい」
「名目宰相なら、なんとかなるだろう。姫から名指しされた時は、慌てたぞ」
「本来であれば宰相はイアソンが適任だったが、仕方が無いことだ」
タキスは大きくため息をついた。
「だからこそだ、何時死ぬか分からぬ者が宰相などできぬよ」
「なんだ、お前死ぬ気か?」
タキスは茶化した。
「まったく。魔法使いの軍団長さんは、最期の最期まで生き残るんだろうな」
「無論だ」
二人は大笑いした。
途絶えていた族長会議が行われ、これまで女子が王に選ばれることなどなかったが、芙蓉姫が満場一致で選任された。カドモス等の根回しで、会議は計画通りに進み、反対する者などなかった。芙蓉姫は本意に反してはいたが、約束したこともあり、これを受諾し、戴冠式が帝都で最大に行われたのであった。人々は芙蓉姫の即位を喜び、曲を奏で、花を撒いて祝った。こうして芙蓉姫は炎王名を授かり、パテリア王として、国に秩序をもたらしたのであった。こうして、パテリアは実質は帝国であったが、帝位は黄武だけのものとなり、以降、皇帝を名乗るものはいなかった。俗に黄武皇帝を始終皇帝と呼んだ。
冠を付けた炎女王は、人々の祝福を受け、パテリアの未来は順風満杯に見えた。諸国のお祝いの挨拶が終わり、奥に下がると。彼女は疲れ切って、椅子に体を預けた。窓の外には、薔薇のアーチが見え、雲がゆっくりと流れていた。
彼女がうたた寝をしていると、呼び起こす声がした。遠い声は次第に近くなり、彼女は飛び起きた。彼女が目を開くと、そこに立っていたのはミケーネだった。
「ごきげんよう。今日はおめでたい日ですね」
彼女の微笑みは、ガラスのような冷たさがあった。
「突然、お越しになるのですね」
「いろいろ忙しくてね。あなたは私との約束通り、国の支配者になりましたね。良いことだわ」
「私は、王位には就きたくなかったのです」
「なんて贅沢な言葉でしょうね。世の中は皇帝になりたくて、必死な者が多いというのに。彼らに失礼ですよ。それに私は貴女に地上の王になって貰うつもりはないの、世界の支配者になってもらいたいの」
「これ以上、なにが有るというのです」
女王は椅子の肘掛けを叩いた。
「冥王シャヘルと戦い、世界の支配者になって貰いたいわ。それは私との約束。そして私はパテリア国を存続させる」
女王はかつて彼女と交わした約束を思い出した。ミケーネは手を取り外に導くと、大空を見上げた。
「五番目の星が登ったわ。彼の星はトリアド。あと二つで最期だわ。これらの星は貴女と冥王シャヘルの戦いを監視しているのよ。なかなか難しい戦いになるわね。良いわね。冥王との戦いには全力を出しなさい。そうして自分を大きくしなさい。いつまで十将が守ってくれると思ってはなりません。自立するのです。妖魔も十将も貴女を戦いに結びつけるものです。彼らが倒れた後、貴女は一人で戦わなくてはならないのですから」
ミケーネが指さす先には、月を背に、燦然と星が輝いていた。
女王は、ミケーネの言葉に寒気を感じ、彼女に顔を向けたが、忽然と姿を消していた。
二日後、カドモスは王都の西にいた。旧オレアの臣下であったパサナテルにパテリア国に仕えるように、説得に来ていたのだった。宰相の補佐の二人はパテリア人で難なく決まったが、パサナテルはオレア国の者で、簡単にいかなかった。仕方なく、カドモスは彼の家に贈り物を届けさせ、彼の家族の心をつかむと、やっとパサナテルから同意をもらった。
事が上手くいったカドモスは、鼻歌交じりに馬を都に進めていると、草原に木々が所々生えている場所で、大石に腰掛けて、彼を眺めている男に出くわした。カドモスはどこかで見た光景だと怪しんでいると、その男はゼノビオスだった。カドモスは馬を降りると、駆け寄った。
「あんたでしたか。貴方の忠告通りに、妖魔の奴が現れ、貰った羽根のお陰で、何度か退けることが出来ました」
「それは良かった。味方した甲斐があるというものだ」
「一つ尋ねていいだろうか?」
「なんなりと」
「芙蓉姫。いや、女王は人ではないのは本当ですか?」
男は暫く目をとじ、カドモスに優しく言った。
「惚れているのか?」
「いや・・・」
カドモスは口ごもった。
「恋愛感情は捨てるのだな。でなければ彼女を失うこととなる。彼女がお主に恋心を抱くのであれば、彼女は人となり。魔力を弱めるであろう。それは冥王への敗北を意味する」
ゼノビオスの顔は厳しくなっていた。
「女王は冥王に殺されるのですか?」
「殺されるというか、吸収されるのだよ。魔力としてな。そして彼女の人格は消し飛ぶ」
この説明に、カドモスは震えた。
「冥王の一部となるのですか!」
「そうだ、なかなかすごい戦いだろうが」
カドモスの顔は青ざめていた。
「勝てば?」
彼は聞き直した。
「無論、彼女は人として残り、冥王は存在そのものが消えてなくなる」
カドモスは彼女は消えないと、なんども呟いた。
「その為に、私は現れたのだ。吸収されない手立てを教えよう。よいか、遙か神々の時代、ある神によって造られた、防具があった。この武具は神々の戦いのさなか、世界の狭間に落ちてしまったのだ。これを纏えば、冥王の吸収を防ぐことが出来る」
「本当ですか!」
カドモスは前のめりになった。
「ただし、故あって、ワルコの将あるいは妖魔でなければ、触れる事が出来ないのだ。俺がここに持ってくる訳にはいかなかった。それで、お前達十将の中から、魔力に優れた者に、世界の狭間にまで、神具を取りにいって貰いたいのだ」
「ダーナは優れた魔法使いだから、彼なら適任でしょう」
「ならば、そのものにこの球を与えよう。これが世界の狭間へ導いてくれる事だろう」
カドモスは、大事にそれを受け取ると、懐に閉まった。
「よいかもう一度言っておく。姫との恋愛はするな。彼女を女にしてはならない」
こうゼノビオスは厳命すると、姿を消したのだった。
芙蓉姫と初めて出会った時、カドモスは山賊で、彼女は王女だった。彼女は手の届かない存在だったが。数々の困難が二人を近いものとした。しかし、彼女は女王となり、また遠い存在となった。彼は彼女が即位した時は満足していたが、心の奥では残念がっていた。相反する気持ちが渦巻き、自分でもどう思っているのか分からなかった。しかし、その彼女が死んでしまうどころか、冥界から来たわけのわからぬ奴の、一部となるだなど、身の毛のよだつことだった。人ならぬ彼女を好きになった、苦しさと、残酷な運命にカドモスは怒りの炎を燃やさせたのだった。
カドモスが都に帰ってみると、ダーナが帰還しており、少し疲れた様子のダーナは、香を焚いてくつろいでいた。
「風呂に入っていないのか?」
カドモスは剣を掛け置くと、ゆっくりと近づいた。
「これは、臭い消しの為ではない、心を静めるためのものだ」
「その様な瞑想じみたことは、坊さんのミルトスがやることだと思っていたが」
「これは、心が動揺した時に、良い効果がある。おまえさんのようにね」
ダーナは大きく息を吸って見せた。
「俺は遠慮しておく。ところで教えを受けることはできたのかい?」
カドモスは、ゼノビオスとの会話で、まだ心が揺れ、香どころではなかった。
「手痛い指導を受けてね。命からがら逃げてきた。冥王は侮りがたいぞ」
ダーナはあっさり言ったが、カドモスは思わずダーナの目を見た。
「まさか、冥界に行ったのか!?」
「そうだ、冥王の力どれ程か試してきた」
「無茶な。たった一人で冥界へ行くなどと」
カドモスは呆れかえった。しかし、敵の内情を知りたいという好奇心が、それを上回った。
「冥王の圧倒的な魔力。今の姫では殺されてしまうだろう」
ダーナの言葉に、カドモスは声を失った。
「安心しろ、冥王の言葉から、決戦の時は少し先のようだからな。地上の支配するために奴らはやって来るのだと思って居たが、どうやら冥王は、失われた力を取り戻す為に、戦を仕掛けてくるようなのだ。それを差し出せば地上への興味も失せそうだが」
カドモス怒りで手を震わせた。
「その差し出すものとは、姫自身なのだ。俺は再びゼノビオスと出会った。彼は冥王が彼女を吸収してしまうと言っていた。俺は姫を犠牲にして、世界を救いたいとは思わない。俺は間違っているのか?」
「それで、分かった。貴方の心の動揺がな。なにか魔法の力ななるものを所有しているかと思ったが、譲り渡せる者ではなかったようだな。もちろん、私は彼女を守るつもりでいる。というのも冥王が力を手に入れたた後に、何かが起こるような気がしたのだ。空にいくつかの星々が立ち上っているが、無縁ではないと思うのだ」
ダーナの言葉に、カドモスは安堵し、懐から球を取り出した。
「これはゼノビオスがくれた物だ。姫を吸収から救ってくれる防具らしきものがあるようなのだが、その場所をこれが教えてくれるようなのだ」
ダーナはそれを受け取ると、手のひらにおいて観察した。
「なるほど、指針となるというわけか、しかし、指し示しているのは、この世界ではないぞ」
「世界の狭間らしい。その神具が神々の戦いの中で、そこに落ちたらしいのだ。しかも、妖魔か我々でないと触れることが出来ないらしい」
「良き情報を得たが、何故我々でないと、不味いのだ。なにか秘密があるな」
ダーナは慎重だった。
「行ってもらえないか。我々では別世界に行くことなど出来ぬ」
カドモスは、遠慮気味に恐る恐る尋ねた。
「無論だ。少しは戦えるようになる。実は私も彼女の武器を用意していた」
ダーナは背後から、二振りの剣を取りだした。
「聖剣グラディウスだ」
カドモスはその剣の神々しさに見とれた。
「此の剣は所有者を選ぶ。私は姫こそが所有者だと直感した。そこで検証をしてみよう」
ダーナはおもむろに立ち上がり、カドモスを招いて、姫の所に向かった。
芙蓉姫は女王となっていたが、公務以外でも彼らには目通りを許していた。いつもの王座がある場所でなく、彼女の庭だった。
「カドモスどこに居たのです。国務の仕事がたまっていますよ」
彼女は、無理矢理女王にしたカドモスに一矢報いようと、嫌みをいった。
「その仕事をしてくれる人物を説得に行ってきたのです」
「まあ、そうして宰相の仕事は、誰かにまかせ。また、どこか遠くに戦いに行くのでしょう」
彼女はすねて見せた。
「仕方ないのです。冥王との戦いが始まりそうなのです」
その言葉に彼女は胸を抱き小さく震えた。ミケーネの言葉が蘇ってきたからだった。
「ミケーネがやってきたの。私に一人で戦いなさいと言うの」
「あの女が、やって来たのですか。やつめどんな企みをしているんだ」
カドモスは周囲を見渡したが、隠れ潜んでいる者は居ないようだった。
「カドモス。私は怖いの。これまで多くの人を殺めて来たわ。その報いでしょうか」
「そんな事御座いません。我々がお護りいたします。ご安心を」
「しかし、私のためにレアンドロス、イアソン、デルフィネが犠牲になりました」
「彼らの死は無駄ではありません」
カドモスは近づき、彼女の手を取ると、落ち着かさせた。
「陛下、これをお試し頂きたい」
二人の様子を見ていたダーナは、これでは勝てぬと苛立ち、無理矢理割り込んだ。
白いテーブルの上に二振りの剣が置かれたのだった。
「この剣の所有者であれば、剣を鞘から抜くことが出来ます」
強引に割り込んできたダーナに、女王は驚いたが、言われるまま剣を手に取った。そしてゆっくりと抜いたのだった。
鈴の音の様な鞘から抜かれる音がした後に、神々しく輝く剣が出てきたのだった。それは小さく震動し、生きているかのようだった。
皆、その剣に見とれ、この世のものではない、神々の剣であると感じ取ったのだった。
「これで此の剣が姫のものであると確定したな。しかし此の剣。所有者の心理に敏感に反応するようだ。意志が強い者が扱えば、最大力を発揮するが、消極的だと抑制されるだろう。なにはともあれ、これで戦える」
ダーナは満足した様子で、彼女に剣を鞘に収めるように言った。
「こいつで、冥王と戦えるのか?」
カドモスは、目の前が開けたように、明るく語りかけた。
「無論だ。だがこれだけでは不十分だ。冥界に行ったことで、ある技を思いついた。試してみるか」
ダーナはそう言うと、空に円を描き、カドモスと女王を連れ飛び込んだ。暗闇を疾走しているようで、彼女はかつてミケーネによって城まで移動した時と同じ感覚を味わった。
飛び出た所は、都の北西の丘陵地帯だった。南にはガリオス河が流れていた。
「一瞬でここまで来たのか」
カドモスは周囲を見渡し、ダーナの技に感嘆した。
「空間のを渡ったのだ。さて、ここは都から一番近い竜穴だ。奴らは冥界からの出入りに此処を利用する。陽の場所を利用するのは意外だったが。私は冥界で地上を襲うための軍勢と出会った。それらは怪物の群れであり、これは人間の軍隊が太刀打ちできるものでなかった。これに対処するには如何すればいいか、私は考えた。ところでカドモス。敵が新兵器を使っており、その保管庫を見つけたらどうする?」
「そりゃ、くすねて、こちらも使うさ」
「その通り、この竜穴に冥界の門を出現させ、その怪物を我らの戦力とする」
ダーナの計画にカドモスと女王は驚いた。
「誰がするのです」
彼女は尋ねた。
「貴方です。陛下。これは莫大な魔力が必要です。冥界から怪物が登ってこないのも、未だ力不足によるものです」
「しかし、私には・・・」
しかしダーナはそんな言葉はお構いなしだった。彼女に付き添い、冥界の門の開き方を教え込んだのだった。目の前に巨大な雲が立ち上がり、門となって、冷たい霊気を噴き出し、黒い雲間から雷鳴と閃光が走った。この偉容にカドモスは圧倒され、二人が人間離れしていると感じたのだった。
この次、ダーナは冥界の怪物の召喚の術を伝え、二頭の怪物を冥界の門から呼び出した。
それらは醜い姿であったが、彼女の命令に従い、僕のようだった。
一通りの技を伝えたダーナは、安堵し、彼女に冥界の門を閉じるように、言った。
巨大な雲は次第に小さくなり、辺りに青空が広がった。女王は疲れて、ふらつくと、カドモスは、あわてて支えた。
「私は、このまま世界の狭間に旅立ちます。陛下はグラディウスの扱いに慣れ、怪物の戦力を利用できるようになられてください」
そう言うと、円を描き、カドモスと芙蓉姫を、王宮へと運んだのだった。もとの庭のい戻ったカドモスは疲れ切った彼女を腕に抱き、部屋に運ぶとソファーに寝かせた。彼は近くの椅子に腰掛けると、姫が人間離れした戦いに耐えられるのか不安になった。
帝都で政変が起こり、新パテリア王として芙蓉姫が王位に就いた頃、西域では守備をまかされたカドモスの弟分のデクスターとラエバスは、バシルなる人物がシノーペ、アンキュラ、ソロイ、エデサ、ユーベイの五国連合を結成したと情報を得ていた。パテリア国が二つの分かれている間こそ、シノーペとしては、旧オイア領に攻め込めたはずだが、軍事行動を起こさず、デクスターとラエバスは怪しんだ。そして間者を送り込むことで、なにが起こっているかを悟ったのだった。シノーペは単独で無く、五国の力を集めて、パテリア国と相対するつもりだった。それぞれの国には、新たに、恐るべき早さで城が造られ、怪しい道具まで、技術者を集め作っているようなのだった。
しかし、政治家でのバシルなる人物に心当たりがなく、発明家のラピスは弟子を連想したが、その人物は機械技術はあるものの、臆病で外交的な人物ではなかったのだった。判断を仰ぐべく、デクスターとラエバスは「西域に動き有り」と、帝都のカドモスに連絡したのだった。
西域の一番外れ、背後に高い山を持つ、エデサ国でのこと。王都の近くに、人夫が数多く集められていた。
「バシル殿。この不思議な城はなんなのです?」
エデサ王は、王都の近くに構築された要塞城を視察に出かけ、監督のバシルに尋ねた。
「これは魔法城です」
バシルは恭しく答えた。
「この様な城が他の国にも、造られたのか?」
「左様です。ユーベイ国は賛同いただけませんでしたが、四ケ国に造られました。これから攻め来るパテリア国は魔法なるものを使います。それに対抗するには魔法の力でしか敵いません」
「確かに、そなたの乗ってきた戦車なる物に、わが精鋭の騎兵は為す術もなかった。あのような軍勢が攻めてきたら、ひとたまりもあるまい」
「パテリアは昔は山間の小さな国でした。それが瞬く間に中原を統一し、今度は西域を支配しようとしています。この魔法城が出来れば、防衛力は増します」
「しかし、何という早さだ、不思議な車で地面を削り、これまた大きな車が土や石を運ぶ。木々で覆われていただけの山が、瞬く間に要塞に化けた」
「これが魔法の力です」
エデサ王は感心し、バシルを頼もしく見たのだった。王の耳には技術に優れたオイア国がパテリアに敗れたとの報告は入っており、その戦いが従来の戦いとは違ったものであるとは分かっていたが、どう対応すればいいかまるで分からなかった。その時、遊説者とした現れたのがバシルであった。彼は五カ国連合を唱え、魔法城を建て反撃することを提案したのだった。王はその説に共感し、領地内に大規模な防衛網を作りに同意したのだった。
「これをご覧下さい」
そう言って、バシルが木片を宙になげると、何処から打ち抜かれたのか、それは粉々になって砕け散った。
「この様に、城内には、至る所から潜入者を自動で攻撃します。内部の道は変化し、容易に中心まで進めないでしょう。もちろん外部にも、この攻撃は放され、長距離の魔法砲が敵を狙い撃ちにします。城の壁は魔法攻撃を跳ね返し、物理攻撃にも耐えられます。城の離れた所には、霧を発生し、毒ガスを放します。注目すべきところが、これらの制御が自動で行われることです。敵味方を認証し、状況の変化に迅速に対応します。この城に頂上にある塔が、他の魔法城との連絡をとっています。四つの城が互いにむずぶつけ、敵情報を共有し、魔法の力を供給しています。そして、近隣の魔法兵器はこの塔を通じて、力を与えられます。パテリア軍はこの塔を攻略しないかぎり四カ国に攻め入ることなどできないでしょう。そして四つの塔の中心となるのが、このエデサの魔法城です。ここはパテリア軍から一番遠く、本営に一番良いところです」
王が魔法城の中心に顔を向けると、円錐形の上に皿を乗せた金色の塔が見えた。王は魔法城の偉容に圧倒され、これは誰も攻め落とすこととなどできまいと思った。こうして王が王都に帰還すると。バシルはあごひげを外すと、ソファーでくつろいだ。
「お疲れの様だが、お前に頼みたいことがある」
背後から声がして、バシルは飛び起きた。いたのは妖魔のウーマーだった。
「あんたでしたか、脅かさないで下さい。表からおいででしたら、お迎えいたしますのに」
「そんなことはどうでもいい。お前は直ちに、シノーペに向かい王にパテリア国内のオイアに攻め込むように指示しろ」
「戦ですか。まだこの城は完成してませんが?」
「八割方完成だ。お前が指揮するとこもあるまい。卵形の制御装置は設置したか?」
「ルルですかい。そりゃもちろん動力源ですからねえ」
バシルはウーマーを怒らせないように従順だった。
「しかし、旦那。私は遊説士みたいに、王と重臣の前ではしゃべれません。できれば誰か他にいませんかね」
「先ほど王に、見事に語っていたではないか。まあよい。お前が舌を動かせないならば、私がお前の舌を操ってやろう」
「もしかして、もっと効率的な方法をご存じなんじゃないですか?」
「王と重臣を木偶にして操ればいいのだがな、それでは個性が無くなり面白くない」
「旦那は、変わっておいでだ」
バシルは、大きくため息をつくと、前線のシノーペに向けて旅だった。
パテリアのオイア守備隊は隣国シノーペより軍勢が攻込んで来たとの情報を得て、迎え撃つ態勢を整えた。守備をするのは、カドモス配下の、デクスターとラエバスだった。先の戦いで、鉄の塊で自由に動き回る戦車が登場したので、ミュージカによりこちらも戦車を用意して、対抗しようとした。ミュージカは自分の作成した物に名前をつける癖があり、戦車を「亀さん」と呼称し、仕方なく二人はこれに従った。
戦車は歩兵を護り、進軍させるもので、敵と遭遇するや敵陣に突っ込み混乱させ、味方歩兵を突入させるものだった。先の戦車戦で大いに攪乱され、軍が壊滅の危機に至りそうになった。戦車の受像部分を破壊し、なんとか回避したものの、戦車の脅威はぬぐい去れなかった。そこで、戦車には戦車で対抗し、ミュージカ発明の魔法の剣でこれを破壊しようとした。魔法の剣。ミュージカはこれを「ばたーないふ」と名付けた。理由は不明だ。
デクスターとラエバスは軍を進め、国境近くで待ち構えた。平原に姿を現したのは予想通りにシノーペの戦車軍団で約四十両であった。岩山の高台でこれを見届けたが、なにか違うことに気がついたのだった。戦車の背後には、歩兵がいなかった。敵は戦車だけでやってきたのだ。よく戦車を観察してみると、戦車の胴体は一段盛り上がり、その先に突起物が飛び出ていた。歩兵部隊が居ない以上。都市を制圧される心配はなくなったが、まずは敵の戦車をなんとかしなくてはならなかった。二人は直ちに亀さん隊に指令を出すと、ばたーないふを装備した歩兵を引き連れ進ませた。
両軍は平原で激突した、パテリアの亀さん軍は背後に歩兵を引き連れていたので、遅かったが、シノーペ軍は早かった。ある一定の距離まで近づく戦車の突起物から、魔法の火炎を放ってきたのだ。魔法の炎は只の火ではなかった。当たれば爆発しそのものを破壊し、周囲を火の海にするものだった。次々にパテリアの戦車は離れた位置から、攻撃され大破されていった。これに不味いと悟った二人は直ちに、騎兵に命じバターナイフを装備させ、出撃させた。彼らが到着した頃、亀さんは大半が大破し、歩兵は逃げ惑うていた。
シノーペの戦車は単なる歩兵の盾でなく、対戦車を意識したものだった。騎兵体は、戦場に着くと、戦車向けて攻撃を仕掛けた、敵戦車の突起物からの攻撃は脅威であったが、その先端を見ていれば、どちらに攻撃をしかけるか分かった。魔法の火をくぐり抜け、戦車に飛び乗ると、戦車の突起物をばたーないふで切り落とした。バターナイフは素晴らしい切れ味だった。その名の通り、固い金属がバターのようにとろけて切れてしまったのである。戦車は突起物が無くなると、魔法の攻撃が出来なかった。騎兵隊は戦車本体をバターナイフで切り刻むと、車体は割れ、動けなくなってしまった。およそ騎兵軍が半数以上を、破壊した頃、シノーペ戦車軍は、バターナイフの威力を悟り、退却したのだった。
デクスターとラエバスは辛くも勝利したが、敵の戦車が機動戦を挑んできたので、なにか手を打たなくてはと危機感をもった。
彼らがオイアの城に戻ってきたとき、西域の異変の報告を受けていたタキス、ルキアノスは援軍に来ていた。
「奴ら戦車だけによる機動戦いを挑んできました。魔法の刀がなかったら、敗退していたでしょう」
デクスターは、敵が侮れない戦力を有しているのを必死に説いた。
「攻めてきたのはシノーペというより西域連合であろう。俺が魔法軍団を連れてきたから、安心しろ」
パテリアの魔法軍が強力で、申し分なかったが、デクスターは戦車の改良に新戦法の採用など、西域連合には知恵者がおり、斜め上の発想をしてくると警戒したいた。
「今回は西から攻めてきたが、ユーベイ国からも南下をしかけてくる可能性がある」
ルキアノスは地図を広げ、ウンダ河上流を指さした。
「ならば、対岸のパラ国に命じて、脇を突かせよう。そなれば気になって動けまい」
タキスは、小石をパラ国からユーベイの国境近くまで移動させた。
「いい手だ。西域連合は戦いを望んでいるようだな。カドモスは皇帝が無くなり拡大路は必要ないと、収束に向かわせようとしたが、事象は逆にむかっている」
「あなたにとっては、それが望みでしょう」
ルキアノスは戦いを望んでいた。妖魔が現れないことへの不満が、西域連合にむかっていたのである。
「ネクタリオス様はお帰りでないのですか?」
彼ら集まっているのに気がついたミュージカは、ネクタリオスの姿が見えないので残念がった。
「久しぶりだね。お爺さんはお元気かい?」
タキスは、陽気に彼女に語りかけた。
「おかげさまで、祖父は元気にしております。タキス様もお変わりなく」
ミュージカの挨拶が終わるやいな、ラエバスが彼女に飛についた。
「お嬢さん。亀さんは駄目だっよ。敵は魔法の火を放す、戦車を作ってきたんだよ」
「まあ、それは予想外でした。歩兵の方の戦いになるとばかり思っていましたから。今日は魔法の盾を創り上げたところです」
「魔法の盾?なんだい」
「魔法攻撃を跳ね返す盾です。名前は”クッキー”。歩兵の方に持っていただければ、役にたつでしょう。ただし問題があります。物理攻撃に弱いのです。ですから相手によって使い分ける必要がありますわ」
「それはありがたい。でもね。戦車に対抗する戦車が必要なんだよ」
ラエバスは懇願した。
「分かりました。亀さんの上に、武器を付けましょう。名付けて親亀子亀・・・」
「待ってくれ。長すぎる。亀さんじゃ駄目か?」
「それでは”亀さん改”ではどうでしょう」
彼女にヘソを曲げられてはと、ラエバスは逆らえず、しぶしぶ了承した。
ラエバスの話が終わったので、タキスは地図を指し示し、今後の作戦を話し合った。
「亀さん改が完成しだい、シノーペに進軍する。この戦いは魔法軍を前面に戦ったほうがいいだろう。ルキアノス。貴方はバターナイフとクッキーを装備し、亀さん改をを引き連れ進んでくれ」
タキスは二つの小石をシノーペの王都に移動させた。
「お待ち下さい。その前に落とさなくてはならないものがありますわ」
突然、ミュージカが口を挟んできた、彼女が作戦に関わることは珍しく、一同は彼女が内を言うのか注目した。
「私はダーナ様の探査の術を見せていただき、それを魔法具として応用しようとしています。まだ完全な段階ではありまでんが、試験段階でわかり得た事があります」
「それはダーナの技で、敵味方が手に取るように地図のようにわかるものか?」
「そうです。相手の配置や、その様子が居ながらにして分かるというものです」
タキスはダーナ無しで、術者以外の者が出来ることに興奮した。
「それで、不完全だけど、なにが分かったのかい?」
「西域には四つの魔法の要塞があり、この囲まれた範囲には魔法の力が展開されています。迂闊に飛び込んだら、餌食になります。四つの要塞が連絡を取り合い、力を増幅させています。まずはこの要塞を除く必要がありますわ」
「要塞を避けてシノーペの王都に進軍しては駄目か?」
ルキアノスは一気に勝敗を付けようとしていた。
「敵の魔法具の力が強く、危ういでしょう。それに兵站の問題があります。敵中で立ち往生ということもあり得ますわ」
「しかし、魔法の要塞となると、厄介だな」
タキスは腕を組み、魔法軍の被害を案じた。
「私が攻城戦の魔法具を造りましょう。そして、相手の魔法が分からない以上、対応するために戦いには私も同行します」
ミュージカの申し出にタキスは驚き、それを止めたが、内心喜んだ。結局、ミュージカはデクスター預かりとなった。
こうして、ミュージカによる魔法具の増強がおこなわれ、パテリア軍はシノーペ向けて出撃したのだった。
亀さん隊を先頭に、歩兵、騎兵と続き、魔法軍がすすんだ。亀さん改は八十両まで増産されてており、改造がほどこされていた。車体は潰れたせんべいのように平たくなり、その本体の上に可動式の平たい饅頭が乗り、そこから長き突き出た棒が伸びていた。車体は魔法をはじき返すクッキーの技術が応用されていた。特筆すべきことが、燃料タンク部分はなく、ミュージカの卵のララから、エネルギーを供給されていることだった。さらに、戦車には、戦車に取り憑いた敵を始末するための乗員はいるものの、亀さんの制御はララによって行われていた。これにより、戦車隊全部が敵に向かって、一糸乱れぬ動きを動きをできるのだった。高速に旋回し、魔法砲を全車両が一斉に目標に向けて放せるなど改良が施されていた。
軍勢は先の戦場を通過した。崩れた亀さんが道の両脇にねじ曲げられたような無残な姿で散らばり、その先では敵の戦車が切り刻まれたように転がっていた。暫く進んだが、シノーペの軍勢はおらず、偵察隊によって調べさせると、王城には守備兵ばかりで、どこかに待ち構えているようだった。ここでパテリア軍は当初の目的通りに、魔法城向けて向きを変えたのだった。
ミュージカの情報統合機、呼称「番頭さん」の探査によれば、河沿い近くに、巨大な魔法反応が見受けられ、それが魔法城らしかった。残念なことに、彼女は戦車の作成に時間をとられ、番頭さんを完成させることが出来ず、情報が不確かだった。
パテリア軍が進軍していくと、次第に霧が立ちこめてきて、前が全く分からなかった。
亀さん隊を四台一組として、砲塔を一台目は前に、二台目は右、三台目は左、四台目は後ろとし、四組を横広がりに、霧の中を進ませた。すると霧の中から音をたたて突っ込んでくるものがあった。敵の戦車軍だった。霧の中であったが、敵は確実に亀さん隊を確認し攻撃を仕掛けてきた。するとミュージカは大きく回り込み、移動砲撃を仕掛けた。敵戦車隊は亀さん隊を追いかけたが、それを見計らって、彼女は八組の部隊を送り出し、敵戦車を襲い大破させた。霧の中の戦車戦はパテリア軍の勝利に終わり、敵戦車を五十両を壊し、敵戦車部隊を壊滅させたのだったが、状況は余り良くなかった。
戦場を覆っていた霧は幻影らしく、敵戦車隊がこちらを把握できたことが、その証拠だった。目を奪われた状態で勝利できたのも、番頭さんがあったので、敵の状態が把握で来たことによる。ここで、ミュージカはあることに気がついた、戦車戦において、戦車の位置情報がずれたことだった。彼女は、この城の周囲が空間的迷路状態であることに気がついたのだ。番頭さんの、処理能力に救われ、位置をを修正しながら戦車隊を運用して勝ったが、魔法城の中央塔を破壊しない限り解決しない問題だった。
そこで、ミュージカは音声による通信手段の「囁きさん」を部隊長に渡すことにしたのだった。
パテリア軍は霧の中を進み、魔法城の目の前まで進んだようだった。しかし兵士達の目の前には、深い霧が立ちこめ、全く見えなかった。ここでミュージカは番頭さんを見て驚いた。魔法城の側面の一カ所に、魔力が集まっているのが分かった、彼女は直ちにタキスに「囁きさん」で、魔法で防御しながら、左に待避するように命じた。タキスは直ちに軍を移動させると、その後を強烈な火炎魔法の攻撃を受けた。魔法城からの砲撃は凄まじいものだったが、発射まで、時間が掛かることが救いだった。
この砲撃を避け、霧の中の迷路状の囲いを突破しやっと、城壁までたどり着いたものの、城壁からの光線の一斉攻撃を受け、一旦、主砲の圏外まで退却することとした。
ルキアノス、タキス、デクスター、ラエバスは一旦、ミュージカのもとに集まり、攻略法を協議した。ルキアノスは強行突破を主張したが、タキスは戦車を盾に壁近くに陣地を構築することを主張した。彼らは、これまで出会ったことのない敵に頭を抱えていた。良い手立てが見つからないでいると、それまで話に加わらなかったミュージカが、やっと番頭さんに魔法城の解析を終わらせたのだった。
彼女によれば、正門から中央の高台までは固定式迷路になっており、正門さえ突破させれば、迷うことはなく、さらに内部の光線は威力が外ほどでなく、クッキーを装備した兵で十分耐えうるものであるということだった。この城の攻略は中央の塔を破壊することであり、そうすれば、城周囲の防御も無くなってしまうということだった。
そこで彼女が提案したのは、敵正面まで塹壕を掘り進める案だった。もちろん空間変動でそのまま掘ったのでは、ばらばらなってしまう。そこで彼女は、可変のパターンを解析し、塹壕が繋がるように工夫して、掘り進めることにしたのだった。
塹壕が完成したら、魔法軍が正門に集まり、魔法攻撃を加え、さらに遠距離から、魔法の自走砲、「射的くん」の攻撃を加え、門を破壊するものだった。ただし、この作戦は一度だけのものであり、二度目は射的君が魔法城の主砲によって粉砕されるとのことだった。
門が開けば、クッキーを装備した歩兵によって、城内に突入し、敵に目もくれず塔を目指し、それを破壊するといったものだった。
この案が採用され、塹壕がどんどん掘り進まれていった。敵もこれに手をこまねいて居るわけで無く。兵を城から出して、邪魔をし、これに対しルキアノスは奮戦し、はじき返した。こうしてやっと魔法城の正門まで掘り進んだのだった。この日は天候が悪く、風雨が吹き荒れていた。これは魔術による物で無く、自然現象による物だった。
戦車、亀さん改を囮に、魔法城の主砲に火を噴かせると、この間髪を狙って、ミュージカは「囁きさん」でタキスとルキアノスに合図を送った。正門まえの塹壕から、「クッキー」を装備した、魔法使いが飛び出て一斉に魔法を放すと、離れた位置から「射的くん」が一斉放射をしたのだった。
城門は魔法の圧力に屈し、体をよじって倒れた。城内がさらされると、いっせいにパテリア軍は城内に突入した。魔法城の城内は敵を識別して自動で攻撃する光線が張り巡らされていたが、魔法具の盾「クッキー」によって防ぐと、タキスとルキアノスは軍を一気に進めた。城内は迷路になっていたが、ミュージカが番頭さんをつかい、教えていたので迷うことはなかった。魔法城の守備を信じ切っていた、シノーペ軍は慌てて正門へ兵士を送ったが、パテリアの兵をとらえたのは、塔まで半ばのあたりだった。
ルキアノスはタキスに後を託し、自分は寄せて来たシノーペ兵を迎え撃つことにしたのだった。そうしてやっとタキスは頂上の塔までたどり着き、配下の魔法使いとともに、魔法を放ったが、塔は微動だにしなかった。
全ての苦労が否定され、衝撃をタキスを襲った。ミュージカは塔の強度を見誤たかと地団駄踏むと、部下に命じて、再度魔法攻撃を加えた。灰色の塔は何事も無かったようにそびえ、タキスに無力感を与えていた。責めあぐんでいると、下の方が騒がしくなって来ていた。敵が攻め登ってきているようだった。
「このままで不味い」
タキスは焦ったが、手立てがない。強力な魔法はないのかと嘆いていたが、その時閃いた。
彼は懐から、羽根を取り出すと、武具をまとった。
「この武具に備わっている魔法ではなんとかなるのでは」
タキスは、塔めがけ、全力で魔法奥義レレミータを放った。
暗闇が辺りを覆い、カンテラの炎が点った。闇が流れ、塔は砂のように崩れ消え去った。
作戦は成功したのだった。力の供給を失った、魔法城は沈黙し、城内でパテリア兵とシノーペ兵は泥だらけになり、戦いあっていた。やがて勝敗は決し、パテリア軍の勝ちどきが城内に響き渡ったのだった。
「おじさま、見事でした」
泥だらけになり、疲労困憊していたルキアノスとタキスをミュージカは褒め称えた。
「嬢ちゃんの手柄だな。それで状況はどうなった?」
タキスは尋ねた。
「西域を覆っていた結界が消えました。私達は西域で不利な戦いをすることもないでしょう。しかしまだ三つの塔が残っており、これらを倒さない限り、西域連合は魔法の戦力を保持していることになります。次はアンキュラ国にある二番目の塔がよろしいでしょう」
「分かった。君がいると心強い」
「残念ながら、同行はしません」
ミュージカの言葉にタキスは困惑した。
「私はシノーペとソロイの境に魔法城を構築したいと考えて居ます」
「無茶だ。こんな城をどうやって。それになんの目的があるんだ」
「シノーペの城を改造するのです。それにここには主砲など、魔法具が残っていますし、丁度よろしいのです。敵の魔法動力源は恐らくルルでしょう。それはエデサ国にあり。まだ完成していないようです。そこでそれに対抗する魔法城を建て、魔法負けしないようにするのです」
「分かったが、亀さん改は如何する?あれ無しでは厳しい」
「もちろん、魔法城から遠隔操作しますわ、番頭さんが完成しつつありますから、離れた位置でのそちらの様子は分かるのです」
ミュージカが何かを押すと、いくつかの光景が宙に映し出された。
「これがアンキュラ国の魔法城です。構造は同じですが。内部の配置が少し異なります」
タキスは、かつてダーナが見せてくれていた技を、ミュージカが再現したので、物による魔法の時代を感じたのだった。
ラエバスはミュージカとともに、シノーペの城を目指し、タキス、ルキアノス、ラエバスはアンキュラ国を目指した。アンキュラの平原で戦車戦があった。アンキュラスの戦車は魔法の砲の威力はあったが、固定式だったために、連携して動きながら砲撃する亀さん改の敵では無く、瞬く間に大破させると、一路魔法城目指したのだった。
亀さん改の動きはなめらかで、連動しており、これが遙か彼方から操作されていることなど信じがたいものだった。魔法城の近くに陣を構え、霧の中に作戦を行おうとしたとき、彼らの背後に現れたのはユーベイの敵援軍だった。ユーベイ軍が背後から迫って来ているとの情報はミュ−ジカより受けていた、タキスは、通常戦力やってきたユーベイ軍をあざ笑うと、策を試みた。
ユーベイ軍と戦い、ワザと負けて、霧の中に誘い込んだのだった。魔法城をしらないユーベイ軍は、まんまと誘い込まれ、魔法城の主砲の餌食になったのである。これにより、魔法城の自動防御はなんらなかの条件がいることがわかった。タキスはアンキュラが友軍を攻撃してしまったので、条件を直していると判断し、試しにユーベイ兵に化けさせて潜入させてみると成功した。そこで、タキスは自らも変装し、数名とともに城内に入ったのだった。光線の攻撃は受けなかった。周囲にはアンキュラ兵がのんびりと警備をしていた。
タキスは、何故友軍を攻撃するのかと激怒してみせ、怪しまれないように振る舞った。やがて夜になると、タキスは配下と供に、中央の塔を目指した、ミュージカから教えられた城内の地図は頭に入れていた。月明かりが無く暗かったが、迷わなかった。
警備をかいくぐり、高台まで登り詰めると、そこには青い塔が建っていた。
「今度は被害も出さずに済みそうだ」
とんとん拍子に事が済んだので、タキスは余裕で、懐から羽根を取り出すと、武具をまとった。しかし、彼が魔法レレミータを使おうとしたとき、背後から声がした。
「なるほど、お前はワルコの将のようだな」
その言葉に、タキスは身構えた。
薄暗い中で、その男は、笑った。黒い衣が姿を闇に消していた。タキスは警戒しながら、仲間に下がるように指示し、打ちかかる準備をしたが、男は構わず、顔を空に向けていた。
月明かりのない夜空は、星が充ち満ちていた。
「地上の夜か、綺麗なものだな」
妖魔は戦うそぶりなど見せず、タキスを動揺させた。
「お前、なんで戦わないのだ」
「戦う?俺とお前がなんで?」
拍子抜けしの、妖魔の言葉だった。
「無論、われ等は敵同士だからだ」
タキスはからかわれているようでむきになった。
「冗談じゃない、そんなものに縛られたくないものだな。そもそも我らは何故戦っているのだ」
「お前達が、地上を狙っているからだ」
タキスは構わず、雷撃を餌に、こっそり風撃の魔法を放そうとしたが、それは、一瞬で封じられた。タキスは驚き我が手を見た。
「なるほど、魔法の技はだいぶ慣れているようだな。しかし威力に乏しいな」
「お前は、この塔を守っているのか?」
「俺がか?第一位のウーマー玩具を造っているので、見学に来ただけだ」
タキスは怪訝な顔をして、妖魔を見つめた。
「いいか、俺たちは、ワルコ、冥王に替わり戦いを繰り広げている。それは何か意味があるのか?冥王シャヘルの力は強大で、彼だけで、全て事が成就できるのだ。なのに、お前達、そして俺たちの仲間は、戦いあって死んでいった。それは無駄死にたと思わないのか」
タキスには思ってもみない考え方だった。彼は妖魔が敵では無いように思えてきた。
「だが、お前達は魔法城を作っている。戦いが複雑なものになっているぞ」
「こいつか。ウーマーは何故か人間にこだわりがある。人に干渉し、地上を混乱させようとしているのだ。この前は奴は、俺に、ある国を混乱させるように命じたが、つまらなかった。お陰で傷を負ってしまった」
「お前達は一枚岩ではないようだな。では、俺がこの塔を始末するのに異議はないのだな」
「無論だ。こんな事を為なくても、我々は人間を滅ぼせる」
妖魔は場所を空けると、両手を広げて見せた。
すかざず、タキスは魔法秘技ララミータを放った。塔は一瞬で闇に飲み込まれちりぢりになって消えた。
妖魔は拍手をした。
「良い物を見せてもらった。それがララミータか」
「俺はタキス。お前は?」
タキスは、一風変わった妖魔の名前が気になった。
「俺は妖魔第四位、焼手足獄、セルヌスのアエヌスだ」
そう言うと、妖魔は姿を消した、タキスはその男がイアソンを殺した妖魔とは気がつかず、好意をもったのだった。
こうしてアンキュラ国の魔法城は落ち、アンキュラ国はパテリア軍の攻撃を受け滅んだ。
つぎにパテリア軍が向かったのはソロイ国の魔法城だった。途中、パテリア軍はミュージカの作り出した魔法城に立寄ることになっていた。
ミュージカが魔法城としたのは、シノーペ国の難攻不落と呼ばれた要塞だった。シノーペの本体は倒したものの、残党が守っているはずなのに、如何にして少人数宇で攻め落としたのか謎だった。彼女はその魔法城を「お菓子の家」と呼称した。
魔法城については、難なく城内に入れたので、普通の城との違いが分からなかったが、高台に誇大な砲門を備えていたので、それが異質だった。それに空に向けて筒が何本も立ち並び目的が不明だった。ミュージカは忙しく立ち回り、作業を指揮していたが、時々番頭さんの戦略画面を見ながら、調整を施していた。
「ご苦労様でした。魔法城を二つ倒したことにより、力はだいぶ弱まりました。次はソロイ国ですが、残念なことに、妖魔らしき者が居ることがわかりました。そうなると、攻め落とすことは格段に難しくなります。要塞の砲門は強化されており、今度は城内部まで可変式の迷路になっています。機動力としての戦車も充実し、百両が待ち構えています。
これに対し、私は歩兵力を強化し、機動力を増すために、機械化歩兵部隊を考えました。歩兵の体を魔法の道具で包み込むと言ったもので、胴体の部分にエントリーし、脳から筋肉へ命令を、そのまま機械に直結させ、機械の手と足を動かすといったものです。機械の手にはクッキーやバターナイフ、通常の武器の剣などを操れるようにしてあり、足は高速で動かすことができます。魔法城の主砲への熱エネルギー反応について、読み取り、回避行動を自動的に行います。名称は”熊さん”です」
タキスの前には大きな手足を持った軍勢が立ち並んでいた。これまで見たことのない軍勢の姿に、彼は呆気にとられた。
「次にご紹介するのは、重力制御の魔法を応用してものです。装甲車を浮上させ武器を積み高速で移動させるといったものです。また、空中から兵を下ろし、空挺隊として運用できます。”揺り籠”と呼称します。こちらの羽根のついた筒状のものですが、これは、浮上し、犬のように自由に空を飛んだあと、目的物に着弾したあと、魔法を放し、周囲を破壊するものです。”燕さん”です。それから番頭さんはだいぶ完成し、詳細が分かるようになりました。バシルと呼ばれた人物は、祖父の弟子の方でした。彼はエデサ国の魔法城にいて、ルルを使って、数々の魔法具を生産しているようなのです。私は彼からルルを取り戻さなくてはなりません」
ミュージカの傍らには、卵形のララがあり、彼女はそれを大事そうにしていた。
ソロイ国はパテリア軍がアンキュラ国を滅ぼした後、こちらい向かってきたので、手はず通り戦車百両で迎え撃った。この動きを察知していた、ミュージカはこれに対抗して亀さん改、七十両を先鋒として機動部隊進めた。亀さん改は遠隔操作型に改良されており、もう人は乗り込んでいなかった。両軍が激突した一帯は平原地帯で、戦車が動き回るには十分の広さがあった。草原一帯の霞がかかり、辺りは視界ゼロだった。これはソロイの魔法城の広域幻覚により、作られたものだったが、番頭さんにて作戦図上に全ての動きを把握しているミュージカにはなんの影響もなかった。むしろ、戦車内でパテリア軍を待ち受けるソロイ兵に、高い緊張を与えていた。
ミュージカは、番頭さんの、情報収集能力を利用し、そのシステムに、亀さん改の機動力を生かし、一対複数の形態を作るべく、計算させた。全ての戦車が状況に応じ効率的な動きをさせるというものだった。両軍は一斉に攻撃をしかけ、一時は敵味方入り乱れの戦いのようだったが、計算され動いている、亀さん改は次第に一対二の場面を作り出し、囲むようにして各個撃破を繰り返したのだった。
戦いは収束したのは、直ぐだった。ソロイ軍の車両は二十両となり、ソロイの戦車隊は魔法城に退却したのだった。パテリアに残ったのは五十両ほどだった。パテリア軍はそのまま前進し、魔法城を包囲したが、城の主砲の飛距は長く、亀さん隊を先頭にさらに近くに進もうとしたが、砲撃にあい、なかなか近づけなかった。これまでの魔法城の攻防では霧が全体を覆っていたが、ソロイの城の周囲は晴れ渡っていた。緑豊かな土地に先に大きな岩山がありその上に大きな城が建っていた、さらに頂上には白く大きな塔がそそり、青空に映えていた。自信の表れだった。
そこで塹壕作戦を行おうとしたが、掘り進むと何処からか敵が現れ、これと戦い撃退すると、再び奇襲を掛けてくると言った具合で、敵は魔法城の周囲であれば自由に現れ消えることができたのであった。この敵の動きに、苛立ったルキアノスはソロイの王都を襲い、ソロイ軍をお引き出す作戦を提案したが、それによって自動化された魔法城が落とせるはずもなく、採用されなかった。ここで囮の作業をして、邪魔をするソロイ兵をおびき出し叩く事を繰り返していると、奇襲は次第に治まった。塹壕はそのまま掘り進んだが、その上を城の主砲が襲い、パテリア兵は首を縮めながら先へと延ばした。
しかし、その先に彼らが見たものは、土から湧き上がった、人の背丈の六倍の、巨人たちだった。ここで主砲が巨人を前にして、砲撃で出きないと感じたタキスは、機動甲殻化歩兵部隊「熊さん」を投入した。熊さん隊は一気に、前線まで走り抜け、巨人相手に戦闘を開始した。巨人は土の人型であり、全体が土で、重い腕を振り回すなど、単調な動きだった。大きさで威圧し、重量で相手を踏みつぶすみたいな攻撃は、熊さん隊には通用しなかった。熊さんは魔法盾「クッキー」で防御しつつ、魔法剣「ばたーないふ」で応戦し、瞬く間に巨人を土として戻したのだった。その勢いのまま、熊さん隊は正門に近づき、背中に背負っていた、自走砲に備え付けてあった砲を肩に担ぎ、一斉に放ったのだった。
さすがに近距離で、砲撃を受けた城門はきしみ始めた。彼らが居る位置は、近すぎて主砲の攻撃が届かず、取り付く兵を一掃する光線の攻撃はクッキーによって防がれた。
城門を突破するのには、最大の機会だった。
しかし、喜んだのもつかの間、突如門の前に一人の黒い服の男が舞い降りて、立ちはだかったのである。妖魔第八位、尖刀獄、ヒユブリスのカスピスだった。彼はパトライ国でデルフィネを死に追いやり、邪教が根付いたことを確認すると、仲間の所に戻っていたのだった。カスピスは熊さん隊の門への砲撃を全て、打ち消すと、熊さん隊に魔法を掛けた。
熊さん隊に怠惰が襲い、かれらは機能停止となった。カスピスは満足し去ろうとしたが、再び熊さんは動き始めた。これはミュージカが遠隔操作をしていたのだった。ふたたび門への攻撃を仕掛けたが、これをカスピスが黙って見ているはずもなかった。彼は魔法を放し数体を撃破すると、熊さん隊全員を始末しようとした。魔法の盾など彼の前には無力だった。しかし、ミュージカはカスピスをロックオンずると、自動追尾航行魔法具「燕さん」を発射し、カスピスを狙い撃ちにした。妖魔はひるみ、この隙に、彼女は素早く熊さん隊を退却させて、被害を最小限に止めた。
門の強度は弱まり、これはチャンスだった。門の近くには怪物立ちの崩れた土が積み上がり、主砲の攻撃から防いでくれていた。ここで、ミュージカは対エデサ戦用に準備していた魔法城主砲をソロイ戦に投入することにしたのだった。見せれば対策を講じられることにはなったが、門を突破するにはこの機会しかなかった。
だか一つの気がかりが、妖魔カスピスがミュージカの存在に気がついたことだった。魔法具の全てが、彼女の管理下にあることを知ったカスピスが、襲わないはずがなかった。
すると、ルキアノスが彼女の警護に向かうことととし、魔法城はタキスとデクスターで行うこととした。問題はミュージカの魔法城まで、距離があったことだが、羽根をつかい武具を纏って走ると、馬より早く走れたのであった。ルキアノスは槍を片手に、疾走した。
ミュージカの魔法城「お菓子の家」の主砲が動き始めた。巨大なその砲門はゆっくりとその先を、エデサからソロイへと目標を変えた。「ララ」から注ぎ込んだ力が砲塔内部に蓄えられて、それは高エネルギーとなった。お菓子の家全部に震えるような震動が起こり、一気に打ち出された。高エネルギーは一直線に宙を走り、遠く離れたソロイの魔法城を直撃した。城門は吹き飛ぶどころか、消えて無くなった。
これに勇気づけたれた、タキスは全軍あげて突撃を命令した。戦車隊を先頭に走り抜け、ていると、「お菓子の家」から放される砲撃が、遠く彼方から一条の光になって伸び、魔法城の主砲を打ち砕いているのが分かった。魔法城と魔法城の直接対決だった。まさしく城を落とすにはこの機会しかなかった。タキスは全力で走り抜けると、城の城壁から光線が襲ってきたので、魔法軍に命じ、壁面の出口への攻撃をしかけ、魔法具装備の歩兵軍を城内に突入させた。
城内ではソロイ軍との戦闘となり、激戦が繰り広げられたが、魔法部隊をもつパテリア軍が優勢で、城内部に進行した。タキスが空を見上げれば、お菓子の家から離された攻撃が塔を襲っていたが、上空で弾かれていた。タキスは内部に侵入し、破壊するしかないと悟った。城周辺の光線が封じられると、ここで空挺部隊の「揺り籠」が投入された。宙を移動してきた、揺り籠は次々に兵士を降ろしていった。勝利はパテリアの者だった。しかしそれは妖魔を相手にしては確定ではなかった。
タキスは、城内の可変迷路をミュージカの指示に従い、塔の近くまで登り詰めたところで、カスピスは妖魔と出くわした。彼は素早く羽根を取り出すと、武具をまとった。
妖魔は序列三位、針山獄、一角獣のハスタだった。彼が手に持った槍を一振りすると、部下の兵士は石化した。
「やはりお前は特別のようだな」
ハスタは石化した兵士を砕こうとしたが、タキスがそれを防いだ。
「槍の奴はどうした?俺は前の戦いのケリを付けたいのだがな」
「お生憎だな、彼は別件で忙しい」
ハスタは詰まらぬ顔をした。
「どうやら、俺が娘の城を襲うべきだったな」
「ルキアノスに何故、こだわる」
「天下に至高の槍の使い手は二人はいらぬ」
タキスは妖魔が槍にこだわっているので、危険な槍を除こうとした。
「あんたは魔法は得意者ないようだな」
「どうしてそう思う?」
「槍が自慢てことは魔法が弱いでことだ」
「なるほど、面白い。ならば槍なしで相手をしよう」
ハスタは槍を壁に立てかけた。
間髪を入れず、タキスは魔法の攻撃を放った。ハスタは軽々とそれを受け止め、タキスに返した。タキスは腕を交差し、なんとか防いだ。
続いて、タキスは高速で動き、分身の技を使ったが、ことごとく打ち破られ、本体のみとなった。タキスの魔法の技という技が封じられ、仕方なく魔法奥義レレミータを放った。
暗闇がハスタを包み、カンテラの明かりがともり、闇の流れに押し流されそうになった。すると、ハスタは魔法技ラ・フォルッアを放った。咆哮する獅子ともに、魔神が現れ獅子を引き裂いた。その魔法の衝撃を受けタキスのレレミータは崩れた。
「レレミータなかなかの技よのう。ラ・フォルッアが完全に決まらないとはなあ」
ハスタも少しは傷ついているようだったが、タキスほどではなかった。まだ余裕が有り、次は完全にレレミータを破る自信をもっていた。
一方タキスはハスタと自分の魔力の差を実感し、次はないと分かった。そして彼は決意した。
ふたたび、タキスは戦いを挑み、奥義ララミータを放った。すかざす妖魔のハスタもラ・フォルッアを放し迎え撃った。獅子の咆哮は響き渡り、魔神が獅子を割くと、その衝撃がタキスを襲った。その衝撃を受けて彼の体は四散した。
ハスタは勝負に勝ったと、意気揚々としたが、自分にララミータの技がかかって居ないことに気がついた。慌てて振り返ると、塔は暗闇の中でカンテラの光に導かれ砕けていく姿が見て取れた。ハスタは舌打ちした。
「俺は勝負に勝ち。戦いに敗れたという訳か」
ハスタは壁に掛けた槍を手に取ると、石化したタキスの配下に目をやった。
「俺の負けだ、城はお前達にやる」
と言うと槍を一振りすると、兵士達をもとに戻し、消えたのだった。
一方、「お菓子の家」で、魔法城が破壊されたことを知ったミュージカは安堵した。残るは、エデッサにある魔法本城だった。そこにはルルがあり、魔法の強度はこれまで以上だった。しかし、今回の事件は自分の造ったルルが引き起こしたものであり、彼女としてはなんとか回収しなければならなかった。
彼女は遠隔操作でソロイの魔法城の設備を集めると、エデサの魔法本城との決戦に備えた。魔法城の主砲は改良し自走砲として、再利用が出来そうだった。それに敵戦車は無傷で制御装置を付ければ予備隊として使えそうだった。
ミュージカが、装備を調ていると、お菓子の家への潜入者が現れた。妖魔のカスピスだった。彼は城内の光線をことごとく交わして、城内に入っていた。お菓子の家も可変式迷路となっていたが、これも易々と突破した。そしてミュージカの管制制御室までやってきたのだった。
ミュージカはカスピスが姿を現したので、咄嗟に振り返り、彼を見た。黒い衣の男が、入り口にもたれ、こちらを見ていた。彼女はボタンを押すと、カスピスの回りに結界が張られた。しばらくカスピスは圧力を受けて動けないでいたが、強引にはじき返すと結界は敗れた。
「驚いたな。妖魔を一時的に動けなくするとは、驚きだ。このままお前を生長させては後々面倒なことになる。死んで貰うぞ」
妖魔はミュージカを始末しようとしたところ、壁を破ってレルキアノスが現れたのだった。
「どうやら、間に合ったみたいだな」
ルキアノスは槍を突き立てカスピスに警戒しながら、ミュージカの無事を確認した。
「邪魔をしおって。まずお前からかたづけるとしよう」
カスピスは怠惰をルキアノスに仕掛けたが、通じなかった。仕方ないので、闇から手を呼び出し、ルキアノスを襲わせた。するとルキアノスは慌てず、槍で闇を貫くと、それは消えたのだった。技を破られ、ワルコの将を甘く見ていたことを反省したカスピスは、魔法奥義ラッペーソで葬ることとした。
彼は最大の魔法を呼び起こし、首つり縄が登場したごころで、喉を一瞬でルキアノスに貫かれ呼び起こせなかった。ルキアノスの動きは素早く、魔法を放す暇も与えなかったのだった。カスピスは喉を押さえ苦しむと、すかざす、ルキアノスは心臓を貫き、止めを刺した。ルキアノスの槍は羽根の武具であり、只の槍でなかった。カスピスは体が崩壊するのを感じた。やがて妖魔の姿は塵消え、ミュージカの危機は去ったのだった。
都で西域の戦いが報告されると、心配になったカドモスは援軍に向かおうとしたいた。彼は、旅の支度を部屋でしていると、羽根が舞い降りて静かに、箱の上に乗った。驚きカドモスが羽根を調べてみると、タキスのものだった。
今回は長い、お話となりました。しかしこれでも一回分の戦闘が次回に持ち越しになってしまいました。立て続けに芙蓉記の話は続くので、不満な読者もおあられるかと思いますが、ご容赦のほどお願い致しまず。
芙蓉記と翡翠記を交互にお話を進めてきたのですが、その配分を誤っていました。翡翠記が三極体勢に入り、これからと言うところで、気がついてしまったんですね。芙蓉記を終わらせないと、ここから先の翡翠記が書けないてことを。
それで慌てて、書いてしまったので、連続してしまったという次第です。
えー。映画「君の名は。」を観に行きました。映画の内容よりも、前列の隅の席だったので首がきつく、そつちの印象が強かったです。満席の映画なんて行くもんじゃないですね。




