第45回 芙蓉記 第6話 変 容
<芙蓉記登場人物リスト>
カドモス (六合星のカドモス)中原からの流れ者
ダーナ (勾陳星のダーナ)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン (貴人星のイアソン)知将、元行商人
タキス (天空星のタキス)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星のレアンドロス)元ハニア国海軍士官
芙蓉姫 パテリア第三王女
黄武 パテリア第二王子、後パテリア王
紅花 パテリア第四王女
ドルアス パテリア国宰相
ミケーネ 占い師、(アルマロスのミケーネ)
<諸国>
パテリア 北の山岳地帯ある小国
エーリス パテリアの西にある同盟国、第二王女の嫁ぎ先
ピュロス パテリアの東にある同盟国、第一王女の嫁ぎ先
テゲア パテリアの南にある中立国
シプノス ピュロスの南にある国。ピュロス領への野心あり
メガラ 山岳の諸国より盆地地帯にあり軍事力を強めている
カルキス 大河の上流あり、国力は十分。後の古都ナティビタス
ヨアニナ メガラ国の東の隣国
<翡翠記登場人物>
グノー 主人公の兄弟子 魔法使い
メディカス 僧侶(酔遊仙のメディカス)防御魔法、治療魔法、躰術
ホーネス スカラ国戦士(神槍のホーネス)槍の使い手
レピダス 黒虎騎士(銀弓のレピダス)弓、双頭槍の使い手
デュック 元宰相の子(斜行陣のデュック)参謀、双鞭の使い手
アスペル 女盗賊(黒豹のアスペル)スリング、手裏剣、メイスの使い手
ストレニウス 赤鬼騎士(重戦車のストレニウス)双手剣の使い手
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)バトルアックスの使い手
エコー ヘテロ青竜騎士(鎚人馬のエコー)風の魔法使い、ヴォーハンマー
フィディア 芙蓉記伝承者(譚詩曲のフィディア)竪琴
グレーティア 主人公
ビルトス 主人公の師(本名ダーナ)
ドクトリ オリムメガラの魔法使い、古代魔法を復活させようとしている
ドクトリは禁断魔法を復活させようとした人物でした。パテリア国ではこの様な事は禁じられており、誰も試みるものは居なかったのです。ところが偶然にも彼の兄弟子のダーナ(別名ビルトス)が禁断魔法であるイルマットを不完全ながら復元してしまい、噂に聞く古の技を目の当たりにしてドクトリは、これに憧れてしまったのでした。
古の魔法は伝承が途絶えたものの、直ぐ間近に存在するのだと彼は確信しました。そうして、この様な優れた技を禁じる政府に対し、批判的な考えを持ち始めたのでした。かれはこの禁断魔法の力によって、ヘテロ国との際限ない戦いに終止符を打ち、戦争に終結させようとしたのでした。
しかし、この考えは政府より異端として糾弾され、彼は役職を解かれるという憂き目に遭うことになったのでした。そうして彼は国に失望し、隠者となってオリムメガラにて古の魔法の研究を続けたのでした。こうして、なんの成果もなく日々は過ぎ、彼は人々から忘れ去られた存在となっていたのでした。再び彼が政治の表舞台に現れたのは、古都の乗っ取りを企てた、反逆者達からの呼びかけによってでした。現在、彼は反逆者の主要メンバーとして、ナティビタス一帯の支配者となったのでしたが、そんな中、彼が急いだのが、古代魔法の魔法使集団の結成でした。「政府では禁じられた、しかし反乱軍の中ではそれはない、ならば思う存分試させてもらうとしよう」というのが、彼の考えでした。ドクトリは現代の勾陳星のダーナになることを夢見ていたのでした。
「先生。幻術を使える女をお捜しということでしたが、居ましたぞ」
慌ただしくデュックは部屋に入ると、杖を構えたドクトリに呼びかけました。
「すまない。手間をとらせたな」
ドクトリは顔を向けず、正面を向いたままでした。
「礼には及びません。ここは魔法の城で守られていますが。魔法使いが不足してます。いざ戦いになったとき、魔法使いがいないのでは、不安です」
デュックは一気に水を飲み干すと、口を拭きました。
「その通りだな。我らはここから一歩も出ることができない」
「しかし、何故幻術師をお求めなのです。しかも女をご希望とは」
「女の攻撃魔法使いは何故発狂する?」
ドクトリは杖を置きました。
「先生は、彼女等の感情の不安定さが、魔法を制御できずに、自らを焼いてしまうからと申されましたが」
「その通りだ。女性は男子より魔法との相性が良すぎるといえる。皮肉なものだな、明らかに女性の方が大きな力を秘めているというのにな。この問題点がなければ、政府の魔法使いの上位者は女性で占めてしまうであろう。この飛び抜けた力は古の魔法に通じるものがあると俺はにらんでいる。だから女性の力が必要なのだ。では次の質問だ。女幻術師は何故発狂しない」
「それは分かりません」
デュックは両手を挙げました。
「かく言う、私にも分からんのだよ」
意地悪くドクトリは言いました。
「だが、幻術と称されているが、その母体は魔法であり、本来禁じられるべきものであった技が、闇世界で密かに伝承されてきたというものだ。攻撃魔法となんら違いはないはず。
おそらく、攻撃魔法の一気に物理変化をさせる力は、感情に敏感に反応するのに対し、幻術の技は対象者の心理面にゆっくりと作用させるために、彼女等の心を焼き尽くすことがないのであろう。そこで幻術を通じて古代魔法の謎を解き明かそうと考えた」
「先生は幻術から古代魔法を復元なされよとしているようですな。しかし、それは男子を使った方が安全で確実なのでは」
「それで、失敗し続けたのだよ。王都の魔法省で何度試みたことか」
ドクトリに苦々し思い出が蘇っているようでした。
「近頃、二人の女魔法使いに出会った、この二人は攻撃魔法の使い手であったが、精神が安定していた。これは普通あることではなかった。これを一般の女性に適用しよとも考えたが、とりやめた」
「ほう、それは何故です」
「二人は異質な存在だったからだよ」
「それはグレーティアの事でしょう?」
「そうだ、あの娘の存在は異様だ。他の魔法使いとは違うのだ。ナティビタスの魔法城を復活できたのもその力によるところがある」
「私は、その訳の分からない存在に振り回されぱなしですがね」
デュックはため息交じりに言いました。
「その力を使って、幻術使いをワンランク引きあげてみようと思う」
「危険ではないですか。幻術使いが暴走したらどうやって止めるんです」
「手はないな。しかし試してみる価値はある」
ドクトリは笑いましたが、デュックは渋い顔をしました。
後日、幻術使いがナティビタスにやって来ました。この女、かつてナティビタス近郊の村で敬い恐れられた人物で、彼女自身も相当の自信家で傲慢な態度をしていました。かつて宰相の娘夫婦がこの地に赴任し、各種おふれを出したことろ、彼女はこれを完全に無視をしたのでした。知府の妻マリタはこれに激怒し、魔法使いを多数引き連れてくると、彼女をさんざんに打ちのめし郡から追放したのでした。今回、恨み連なる知府夫婦が居なくなったことにより、舞い戻ったのでした。
幻術使いは、案内された王宮の荘厳さに眼を奪われていましたが、やがて自分こそこに城の持ち主にふさわしいという傲慢な気持ちがわき上がってきたのでした。やがて大広間に案内され、そこで待ち受けていたのはドクトリ達でした。
幻術使いはドクトリの風体をみて、一見気のいい隠居老人だが、どこか危険な雰囲気を肌で感じたのでした。彼女は逆らわないのが賢明だと判断しました。
「ようこそ我らが城へ。貴女がナティビタスで名をはせた幻術使いであることは聞き及んでいました」
ドクトリは語りかけました。
「お招き頂き、有り難う御座いました。悪女マリタが居なくなり、やっと故郷に帰ることできました」
幻術使いは深々と礼をしました。
「ここに、おいで頂いたのは他でもない。我々に協力して頂きたいと思ってな」
「なんなりとお申し出ください」
「我々は政府軍に対抗する為に、魔法使いの強化が必要となった。そこで古の魔法を復活させようと考えている」
「禁断魔法ですか」
彼女は少し、しりごみました。
「心配することはない。得意な幻術の技をどの様なものなのか?」
「目の前に怪物がいるように錯覚させるものです」
「よし分かった。そこにいる兵士に幻覚を見せるがいい」
ドクトリが指し示すと、屈強な兵士が五人ほど待ち構えていました。
幻術使いは一礼して、兵士に向かうと手を振りました。するとそれに応ずるように兵士が身構え、何も無い空間をにらみました。舞台での演技でもするかのように、五名の兵士は、横に広に広がりじりじりと前に進むと、何かを取り囲みました。
ドクトリ達にはなにも見えませんでしたが、兵士には巨大な怪物がうなり声をあげて襲いかかろうとしていたのでした。やがて一人の兵士が素早く横に交わすと、横から飛び出しました。そして剣を振り下ろし、素早く戻りました。兵士と怪物は間合いをとり、攻撃を繰り返して居るようようでした。
「よし、それまで!」
ドクトリは制すると、幻術使いは姿勢を正し、兵士達はなにかに解放されたかのように警戒を解きました。
「見事な技だ。歓迎する。しばしこの王宮でくつろがれるとよい」
幻術使いは接待を受け、緊張もほぐれ始めた頃、ドクトリに案内され別室に向かったのでした。そこにはグレーティア、フィディア、エコーにホーネス、ソシウスが居ました。
「この部屋で、貴女の幻術の強化を試してみようと思う。この試みは古の魔法を探る手がかりとなるはずだ。彼女等が貴女をサポートする」
紹介された人は綺麗な娘でした。妖術使いは、この娘は何者であろうかと、怪しみました。ドクトリは再び五人の兵士を揃え、フィディアに竪琴を奏でさせました。
「いま、この空間は幻術の技を無効にしている。試しに掛けてみるがいい」
そう言われて、幻術使いが技を試みましたが、兵士は平然と起立したままでした。彼女は技が効かないことに少し青ざめドクトリを振り返りました。
「驚くことは無い、竪琴の娘が幻術を打ち消しているだけだ。しかし、これを打ち破って幻術を掛けなければ、古の魔術までは到達できない」
彼女は回りにいる者達がただ者でないことを実感したのでした。
「私には、これ以上どうもできませんが」
「心配するな。この娘がサポートする」
すると、金髪の娘が前に進み出て、彼女の横に立ったのでした。
「グレーティア、彼女の幻術に力を与えるように意識してくれ」
そう言われて、娘は彼女の背後に回り、両肩に手を置いたのでした。
「これからが本番だ。今一度技を試みるがいい」
彼女は手を挙げると、五人の兵士に向かって技を出しました。しかし一向に変化は見られず。沈黙が続きました。彼女が少し弱気になった頃、背後から支えてくれる娘から力のようなものを感じ、それは飛び出しました。
兵士達は、驚き尻餅をつき、再び立ち上がり剣をとると、間合いをとって襲いかかろうとしました。しかし幻覚の怪物がよほどの猛獣なのか、踏み込むこともかなわず、床を転げ回って逃れるばかりでした。
ドクトリは幻術が強化されてことに喜び、ねぎらいの言葉を彼女に掛けようとして、愕然としました。幻術使いが全身を鱗で覆われ、頭には羊のような角が生え、足が獣のように変化していたからでした。背後にいた、グレーティアはもっと驚いていて眼を大きく見開いていました。ドクトリは息をのみ、眼を擦りましたが、変化はありませんでした。このことはドクトリだけではありませんでした。エコーやホーネスも同様に目撃したのでした。ただ、幻術使いだけは、技に集中して、自らの変化に気がつかないようでした。
「そ、そこまで!」
ドクトリが合図すると、幻術使いは安堵し、兵士達は疲れ切ったように床に腰を下ろして息をついていました。するとどうでしょう。幻術使いの彼女の姿は、瞬く間に元に戻り、彼女は自分の身に何が起こっていたのか、気づいていませんでした。
ドクトリは動揺を悟られまいと、彼女に接し、ねぎらいの言葉を送りました。
「ご苦労だった。成功の様だ。今日はゆっくり休まれるとよい」
衛兵に部屋に案内するように、命じると兵士達にも言葉を掛けました。幻術使いと兵士達が去った後で、ドクトリ達は硬い顔になり、話し合いました。
「今の現象はなんだったのでしょうか」
エコーが尋ねると、ドクトリは首を振りました。
「分からん、何が起こったのか。彼女は体が変化していたのは確かだ」
「女性の攻撃魔法の使い手は発狂し、幻術使いは変化するということでしょうか」
「いや、これまで幻術使いが化けるなどの話は聞いたことが無い」
「私と関係しているのでしょうか」
グレーティアが心配そうに尋ねました。
「幻術の術式に変更を加えたのかね?」
「いいえ、私は幻術については分かりません。防御魔法でしたら読み取れますが」
「なるほど、もしやこれは魔法そのものの、性質によるものなのかもしれない」
「どういう事だ?」
ソシウスは口を挟んできました。
「何かによって、魔法の力は抑制されてきたが、その力が除かれた時、本当の姿が垣間見えたということかな」
「人じゃなくなるてことなのか?」
「分からん、禁断魔法の域は禁じられた理由の一つとして、これがあるかもしれない」
「タブーを破ったら、真実の姿が垣間見えたということなのか」
「古の魔法は獣化を引き起こすものなのか・・・・」
ドクトリは深く悩んでいる様子でした。
「仮に獣化を引き起こすとしても、我々は進まなくてはならない。ビルトス老師はこの世ならざる者との戦いを予言されていた」
ホーネスはドクトリを勇気つけました。
「しかし何故獣化をしてしまうのか、これはこの場だけの一時的なものなのか、普遍的なものか気になるところだ。このような獣化の話は聞いたことが無いが」
すると、それまで隅で控えていたフィディアが遠慮気味にドクトリに言いました。
「先生、姿が変わってしまう話なら、芙蓉記に語られています」
「本当か」
「お聞きになりますか?」
「無論だとも、さあ話して聞かせてくれ」
フィディアは喜び芙蓉記を語り始めたのでした。
カドモスを亡き者にしようとしていたパテリア王黄武は、策略によってカドモスを敵領内に取り残し戦死させようとした。しかし絶対絶命になったカドモスは、芙蓉姫とダーナに救われ、油断したカルキス軍の逆手をとって支城を落としたのだった。この情報は、直ちにメガラにあった黄武王の下に伝えられ、彼を驚かせた。
「あの男、城を落としおった!」
王は地団駄踏んで悔しがった。
「まさか僅かな手勢で、攻城戦に勝利するとは思いもよらぬことでした」
宰相ドルアスは額に汗をかいていた。
「あいつは、森の中で敵に囲まれ果てるはずだったが」
王は宰相へ批難めいた顔を向けた。
「事は計画度通りに進んでいたようです。ただ最後の詰めで、思わぬ邪魔がはいりました」
「分かっておる。三の姫のことだな」
「はい」
「まさか、妹があのような危険を冒すとは思っていなかった。その点は予が甘かった」
「将軍には魔法使いの集団はほとんど帯同させていませんでしたので、単純な兵力差で活着がつくはずでしたが、姫がおでましになると全ての計算が狂ってしまいます」
「我が妹ながら、恐ろしい存在だ」
黄武は腕を組んだ。
「陛下、まだ全てが終わった訳ではありませんぞ。カドモスは支城を取ったとしても、まだ孤立しています。援軍を送らなければ、囲まれ兵糧攻めに遭います」
「そうであった。しかし姫はどうする?」
「姫がいるとなると、城もかなり持ちこたえてしまうことでしょう。姫には帰還を命じください」
「しかし、城は落としたものの、森は敵兵が潜伏していて安全とは言えないぞ」
「ならば、五百の兵を送り森を支配下にしましょう」
パテリア王は安堵すると、後を宰相に任せた。
数日後、イアソンはピュロス王に付き従い、パテリア王の前に現れた。彼はピュロス王に兵の無心をする任務を与えられていた。黄武のもくろみでは、一月ほど説得や出兵には日がかかる予定であったが、予想に反しイアソンは素早く達成してみせたのだった。しかもピュロス王直々の出兵に黄武も驚いた。
「ピュロス王家再興のためにご尽力頂き感謝申し上げます」
ピュロス王は深々と黄武に礼をした。
「礼には及びません。両国は同盟国。メガラの侵略から戦い合った間柄ではありませんか」 パテリア王は親しく話しかけた。
「パテリア王家としては、この度、カルキスの支城を攻め落とされたとか、おめでとうございます」
「なあに、たまたまじゃ」
「ご謙遜を。貴国にはカドモス将軍という猛将がいらっしゃるという話を聞きました。羨ましい限りです」
これには、黄武は苦笑いするしかなかった。
「聞けば、カドモス将軍は四百の手勢で支城を守られているご様子。もしもの事があって、名将を失えばパテリア国の損失となります」
「ありがたいお言葉。いま援軍の手配をしているところです」
「是非、我がピュロス軍二千をお加えくださりたい」
ピュロス王の目は真剣だった。
「二千の軍勢ですと」
ピュロス国はメガラ国によって完膚なきまでに滅ぼされたはずであったが、それだけの兵がどうやって集まったのか、黄武には信じられなかった。
「我が民はパテリアの恩義に報いたいと、願っています」
「しかし、復興途中の貴国に一番危険な戦場に送るわけには・・・・」
黄武はなんとかして、断ろうとしていた。
「陛下、ピュロス国王の恩義をお汲みください。かれらは形として表したいのです」
イアソンが口を添えると、黄武は困った顔をして、宰相に顔を向けた。
「ピュロス王のご厚意お受けいたしましょう。我が軍はまもなく援軍を送ります」
観念したように黄武は承諾した。
二人が退くと、王は玉座に深く腰を落とすと、気分を紛らわすかのように、指で股をを叩いた。
「二千以上も援軍にいったのでは、カドモスに力を与えるようなものだ」
「どうして、あそこでお断りになられないです」
宰相はため息交じりに言った。
「兵を要求して、なんの仕事をさせないという訳にはいかんだろう」
「後方支援をお願いすれば、よかったではありませんか」
「そうであったな」
「こうなったら仕方ありません。姫救出後は、左岸まで戻って頂くとしましょう」
宰相ドルアスは計画が狂い始めたので、いやな予感がしたのであった。
数日後、黄武を訪れた二人の人物が居た。エーリスとテゲアの王であった。洪武は支配地の分配について交渉にやって来たか、パテリアが両国よりも千多い、兵四千を揃えたことについて説明を求めに来たのであろうと想像した。特に魔法使いについては盟主としてパテリアが独占し同盟の魔法使いの管理を一手に引き受けており、疑念の元になるのは分かっていた。
「いかがなされました。お二方が、揃ってお越しなされるとは」
黄武は玉座を立ち、足早に二人に駆け寄ると、手を握った。
「突然の訪問で失礼いたしました」
「何を、おっしゃいます。我らはいつでも歓迎いたします。立ち話もなんですので、別の部屋で一献いかがです?」
黄武は杯を傾ける仕草をした。
「今日はよしましょう。黄武殿も遠征の準備でお忙しいようですので」
テゲアの王が断ると
「パテリア王、我々の準備はできましたぞ」
とエーリス王は勇ましく言った。
「準備。なんのです?」
黄武が首を傾げると
「カルキス遠征の準備です。我が国三千はすでにヒパボラ河に向かっており、テゲア国三千も一日遅れで合流するはずです」
黄武は目眩がした。
「なにか、誤解をされているようですが。私は征服しようとはしていないのですが」
「王、抜け駆けはいけません。我らは同盟国。貴国が潰れたら我が国も困ります」
テゲア王は小さく笑った。
「我々は、知っているのです。貴国の猛将カドモス殿がカルキスの支城を落とされたこと、かの国の攻略の足場は固めたということでしょう。さらに、ピュロス王に二千の兵を求め、パテリア軍四千を加え六千数百の軍勢で攻められる」
「いや、それは防衛の為の軍事行動で、ヒパボラ河まで退却する予定なのだ」
黄武は喉を枯らせて言った。
「我らは、大人しく留守をせよと言われるのか?」
「誤解だ」
黄武は詰め寄られ、手で押さえる仕草をした。
「聞くところによれば、カルキスの支城には芙蓉姫がすでに着任されているとか。三の姫が戦場にあるというのが、パテリアがいかに本気であるか分かるというものです。彼女の魔法の力で一気にカルキス軍を滅ぼすつもりなのでしょう。王が単独で攻め落としたいのは分からないでもないのですが、それでは我々も面白くない」
テゲア王は少し脅したような、眼差しを向けた。
「我々は、無理矢理にでもこの戦いに参戦しようと、話し合いましてな。カルキスは総数三万の軍勢です。六千では心も無い。我らを加えて一万二千の兵で立ち向かわれるがよろしい。王よ。ご同意いただけますかな」
半分、怒っている口調に黄武は飲まれ、やむなく両国が参戦することを了解したのだった。テゲア、エーリスの二王は高らかに笑うと、帰って行った。
「話が大きくなったでは、ありませんか」
後で話を聞いた宰相ドルアスは王に詰め寄った。
「そう言ってくれるな。相手は思い込んでいたんだ」
「カルキスは大国ですぞ。今三万軍勢でも、周辺の国のから数千の軍勢が集まり、さらに大軍勢になる可能性もあります。こちらは一万二千ですぞ」
「カドモスを葬るつもりが、なんでこうなったのか。まったく奴は災いの種だ」
黄武は頭を抱えた。
「今回は、奴を殺めるのは諦めましょう。ヨアニナ国に出向させたタキスを急ぎ呼び戻し、魔法部隊を指揮をさせましょう。さらに任務を果たしたイアソンを、姫のもとに使わします」
宰相ドルアスは、火遊びが国を滅ぼしかねない大火を招いたと悔しがった。こうしてパテリアは四千の兵を出兵させることとし、ヒパボラ河左岸に連合軍一万二千が結集したのだった。
カルキスはパテリア連合軍の右岸への渡河を阻止せんと、再び水軍を出したが、パテリアの水属性の魔法使いによって目的を果たせなかった。魔法使いの戦いでは、パテリアに僅かの分があったのだった。
パテリア連合軍一万二千はカルキス領土内に侵入し、西に軍を進めた。そのころイアソンとタキスは支城に到着し、カドモス達との再会を喜び合っていた。
「姫、只今参上致しました」
「待ちかねましたよ」
イアソンとタキスが並んで挨拶をすると、芙蓉姫は嬉しそうに笑顔で迎えた。
「大軍勢でやってくるとは以外だった。なにをしたイアソン?」
カドモスは意地悪そうに尋ねた。
「ピュロス王には領土に籠もっては、属国に成り下がってしまうから、同盟の一員である姿を黄武王に焼き付けるように進言し、テゲアとエーリス二人の王には書面にて、パテリア王がカルキス攻略に本腰になっており、獲物を独り占めにするつもりだ。放っているとパテリアの発言が強くなるので、参戦したほうがいいと書いて送った。これまで我が国主導で行ってきたので気になっていたのだろうからな」
「まったく、お前は意地が悪いな。おかげで梯子を外されずに済みそうだ」
カドモスはイアソンを拳で軽く突いた。
「どうやら彼は協力してくれたようだな」
離れた場所で立つダーナを見て、タキスは言った。
「彼は一番の立役者だ。この城は一人で落としたようなものだ」
「なるほど、俺との約束を守ってくれたというわけか」
タキスはゆっくりとダーナに近づき手を差し出した。差し出された手を見て、ダーナは直ぐには反応しなかったが、タキスの感謝の念を感じ、手を握った。
「ところで、カルキス軍の動きはどうだ」
イアソンは尋ねると。
「今のところ、策を練っているといったところだ。陽動を何度か受けたが、本格的な動きはない」
とイアソンは答えた。
「慎重だな」
「魔法使いに警戒しているようだ。魔法戦力の探り合いといったところか」
「我ら一万二千の軍勢など、カルキスは三万の軍勢で一飲みにしてしまう所だろうが、踏み出せないでいるのだな」
「敵は兵を千のブロックにして点在させている。一気に魔法でやられないようにするためだ。これら全ての集団に魔法を使うのは不可能との判断だからであろう。王城までの森に広く待機させている」
「よく調べがついたな。何人斥候に放ったのだ」
「ダーナの魔法だ。あいつの魔法では相手の様子が手を取るように分かる」
イアソンが怪しみダーナを振り返ると、彼は詰まらない顔をして指を振った。するとイアソンの前にこの一帯の立体の俯瞰図が現れたのだった。これにはタキスも興味津々で見入ってしまった。
「俺たちの城はここだ。そして我が軍はまだ後方、河の近くに集結したままだ。そして敵水軍はここで機会をうかがっている。河から森の間には敵の斥候が広く放されている。我々の城から敵の王城の間には二本の河と森がある。敵はここで待ち構えているが、南に別の集団が迂回して東に向かっている」
イアソンは口笛を鳴らした。
「これはすごい。一目瞭然ではないか。この迂回する一団は森に潜み、後から来る本軍の長蛇になった所を、側面から襲うつもりであろう。森に隠れては魔法は使い辛いからな。そして魔法使いを投入するのはこの空き地だな」
「そこは以前俺が罠にはまった土地だ」
「ならば、我々は本軍を餌に、森で奴らを迎え撃つとしよう。しかしその前に森に放された斥候を始末しないと。眼を奪うことからだが・・・」
「それなら我々に任せてくれ、ダーナほどでは無いが、探査の技の使い手がいる」
「なら任せた」
森を回り込み東に向かっていたカルキス軍は命令通りの地点に到着して、パテリア軍がやって来るのを待った。パテリア軍は行軍の為、長い列になって通過するはずであり、その本軍、王を狙うのが目的であった。気になるのは斥候からの報告が突如途絶えたことであった。しかし、地理に疎いパテリア軍はこの森の中を思い切った行動に出ることなど、考えがたく、カルキス軍は森に潜んでパテリア軍の通過を待った。どれだけ待ったことだろう。次第に周囲に霧がかかり、街道の様子が分かりにくくなってきた。
静まりかえった森に、不安感がカルキス軍を襲った。暫くすると、霧の中から見慣れぬ兵士の陰が浮かび上がってきた。パテリア軍である。カルキス軍は鼓動を高鳴らせ、敵王の通過を待った。霧の中に煌めく装飾のついた武具をまとった人物が現れたとき。突撃の角笛は鳴らされたのだった。一斉に斜面を駆け下り、パテリア軍に間近に迫った瞬間、その姿は霧のごとく消え去ってしまったのであった。これには兵士達も狼狽え、指揮官が魔法の罠にはまったことに気がつき、慌てて退却を命じたが、時すでに遅かった。道に飛び出ていた者達は、魔法の業火に焼かれて、一瞬にて灰と化したのだった。多くのものが森に逃れたが、そこにはパテリアの伏兵が待ち構えていて、彼らを襲ってきた、指揮が崩壊してカルキス軍の兵士は思い思いに逃れ、その先の原っぱの飛び出したのだった。
ここでカルキスの兵士は逃げ場を求めて、周囲を見渡した時、足に草が絡みついて来たのだった。踏みつけた草が瞬く間にのび、刀で切り刻んでもすぐ絡みついてきたのだった。首を絞められるものが続出し、この難から逃れたものは、蟻のの大群や蜂の大群に襲われ果て、それを逃れた者は濃い霧に襲われたかと思うと、肉が剥がれ落ち白骨化して地面に崩れ去ってしましたのだった。
こうしてカルキスの奇襲作戦は失敗し、連合軍は無事、カドモスのいる支城まで到達したのであった。
一万二千の兵は城内には収まりきれず。支城近辺に待機した。諸王は陣屋に向かい戦況を確かめた。
「陛下」
芙蓉姫は駆け寄ると、兄に深々と礼をした。
「姫よ心配していたぞ。なんと無謀な事をしたものだ」
黄武は芙蓉姫の肩に手を置いた。
「私はいてもたっても、居られなくなく陛下のお許し無くここまで来てしまいました」
「お前は心優しいので、部下の身が心配で致したことであろう。兄はお見通しだぞ」
宰相には今回の件を芙蓉姫に罪を問うようにと言われていたが、黄武はできなかった。
「カドモスはこの城を守ってくれました。是非お褒めの言葉を」
黄武は一瞬、怒りの炎が心に燃えたが、それは表に現さず、近くに控えていたカドモスに労いの言葉をかけた。
「パテリア王、姫との再会はそこまでとして、早速今後の作戦会議といきますかな」
テゲア王はエーリス王とピュロス王とともに、机の前に揃っていた。全員、盤上の駒に厳しい眼差しを向けていた。色分けされた駒は、カルキス軍と連合軍の駒であったが、カルキス軍は連合軍の倍の数が広げられていたのであった。
「先の森での戦いで五千の兵を打ち破ったので、カルキスの兵は二万五千となりましたがそれでも倍近くあります」
イアソンは棒でカルキス軍を指した。
「我々が兵士を急ぎ増やしたので、メガラ領内に攻め込んで来られた時より見られる姿になったが、それでも差があるな」
テゲア王は厳しい顔をした。
「さらに、ここは敵領内で、地の利はあちらにありといったところか」
勇ましく出陣したものの、直接のぶつかり合いを前にして、エーリス王も尻込みしていた。
「しかし、我々には魔法の戦力があります。これまでの戦いではカルキス軍の魔法使いを退けていると聞き及んでおりますぞ。これからの戦いは単に兵士の数では決まりません。魔法使いを、どこで投入するかが勝負の分かれ目となるはずです」
新しく仲間に加わったピュロス王は、自分の印象を強くするため、虚勢を張った。
「王城までに二本の川があり、カルキス軍は街道の橋で待ち構えています」
イアソンは二つの橋を指し示した。
「奴らは橋を壊さなかったのか?」
「自信があるのかもしれません。我らが一方の橋を渡ってしまったら。もう一つは壊すかもしれません」
「上流に橋はないのか?」
「かなり上流で、迂回させるとなると遠回りになります」
「ならば、この橋を強行突破となる訳か」
「ただしこの橋にかかって居る場所は川がコの字に急速に曲がっており、橋に近づけば、正面、さらに左右の三方からの攻撃を受けることとなります」
「まったく忌々しい」
黄武は床を蹴った。
「魔法で橋を壊されて、浅瀬を渡るところを襲われては大変です。魔法戦力を投入して一気に橋を占拠しましょう」
ピュロス王が提案すると、他の王は同意した。かくして連合軍は支城より軍を進め、橋の奪取を計画したのだった。
王達の協議の後、カドモス等は別室にで話し合っていた。ダーナの俯瞰の術にて、敵の動きを探っていたのだった。
「カルキス軍は橋に強固な防衛陣を構えた、土嚢が積み上がられ、柵ががもうけられている」
「まったく便利だなその術は。しかし魔法使いかどうかの分類はできないようだな」
イアソンは物珍しげに眺めた。
「兵力に余力があるから、どこか浅瀬を渡り奇襲を仕掛けてくるはずだ」
カドモスが問いかけると、
「この下流の一団が怪しい。上流に注意を向けさせ、一気に渡河するつもりなのであろう」とダーナは指さした。
「ならば、その一団は俺が対応するとしよう」
「そうなると、魔法使い集団なんだが、駒は揃っているか」
イアソンがタキスに顔を向けると、彼は浮かない顔をしていた。
「どうした。なにか心配事でも起ったか?」
怪しみイアソンが尋ねると
「魔法使い集団に異変が起きた」
とタキスは呟いた。
「なんだと。今度の作戦の主力は彼らなんだぞ!」
イアソンは驚き、迫った。
「不可解な現象が起き始めたんだ」
「どんな?」
「一部の魔法使いの体が変わってしまったのだ」
「変化するだと。どの様にだ」
「ある者は鳥のような体に、ある者は昆虫のような部位が現れ、ある者は獣のような体に変化した」
「もっと詳しく話せ!」
「実は、この現象は、この遠征前より発生していたもので。魔法使い集団を強化している段階から分かっていたものだった。ある日、魔法使いの教練で気分を悪くするものが現れ、容態を調べていたところ、皮膚が異様に角質化しているのを発見した。その時は皮膚病として判断し、薬を与えていたところ、やがてそれは消失した。ところが、別の使い手が今度は眼に違和感を訴え始めた。これも診察してみると、眼の瞳の形が猫の目のようになっていたのだ。これにはどの様にすべきか分からず、悩んでいるとやがて、いつのまにやら元通りになったのだ。これは魔法との因果関係があるに違いないと察した俺は、その後注意深く観察した。体の一部変化は無作為に起こり、特定の魔法に限定して発生はしなかった。しかもその変化は一時的なものであり、すぐに元の姿に戻った。体の変化は現象が小規模だったので、そのもの達は隔離し、別の仕事を与え魔法から遠ざけることとした。
次にその現象が現れたのは今回の遠征で水軍においてだった。このとき俺はヨアニナ国に出向していたため、直接目撃をしなかったが、水の魔法使いの内五名が不可解な体の変化を訴えたのだった。この者達は、さらに大きく体が変化したらしく。驚いた仲間が一名を魔法で殺害してしまった。
ヨアニナ国より帰還した俺は、遠征が決定すると、この問題の解決すべき術を探したが見いだせなかった。この前カルキス五千を森で撃退する時、現象が起きるかもしれないと判断した俺は、魔法使い部隊の者に敵を驚かせるため魔法で一時的体に変化させるが、直ぐに元に戻るので、恐れて同士討ちしないようにと、指示をだした。はたして、森での戦いにおいて、体が変化するものが続出した。今回の変化は、さらに進行したもので、体の一部どころか全身が変容したのだった。魔法使いの部隊は私の話を聞いていたので、混乱は起らなかったが、気味悪がっていた。彼等は敵を驚かす為とはいえ異様な姿になることに抵抗を持ち始めた。面白いことに変容は醜い姿だけでは無かった。美しい姿になった術者もいた。透き通るような羽に、煌めく体のようなものなど、妖精のような容姿だ。
森での戦いでは、別の変容があった。それは魔法使いだけでなく、周囲の森自体が変わったのだ。一風変わった木々に変わり、見たことも無い動植物で溢れたのだ。俺には何が起こり始めているのか、さっぱり分からないでいる。魔法使い達の動揺を考えたら、果たして戦いに集中できるのか、逃亡してしまう危惧さえ感じるのだ」
タキスの悩みを聞いて、イアソンは言葉を返せなかった。
「なんだその様な事で悩んでいるのか」
馬鹿にしたようにダーナが言うと、カドモスは尋ねた。
「何が起こっているのだ?」
「魔法の使い手が増え、互いに干渉し合い力を増幅させているんだ。簡単に言えば魔法の世界が展開されているのだ」
「理解できないが。魔法の術に関係しているのか」
「そうだ、この世界のもので無い術がまかり通っているのだ。それが現れるとするならば、この世界でないものが表れるのは必定」
「いろんな形で体に表れるのは何故だ?」
「そいつの思念が形になって表れただけだ。別に驚くこともあるまい。いままで肉の形に隠れて見えなかったものが表に現れただけだからな」
「すると体に表れた変化はそいつの心自体なのか?」
「皆、怪物で現れた訳ではあるまい、綺麗な姿になった者もいる」
「なるほど、そうだったな。しかし直ぐに元に戻るのは何故だ?」
「魔法を使い続けるわけではあるまい、魔法の世界はそれと共に元に還って行く」
「すると、魔法を使うとこうなるのか?」
「二つの世界を制御できる者は変化はしない。私のようにな。しかし自己の心が不安定なものは無数に姿を変えるだろうな」
カドモスはダーナの言葉に魔法の世界の不安定さを深く感じた。
「俺たちは火を手に入れた猿のような者だな」
自嘲気味にタキスは言った。
「その通り、本来この火はもたらされてはならないものであった。世界は玉の上の盆のように不安定になった」
タキスは深くため息をついた。
「そう気を落とすことはあるまい。橋での戦いで、敵味方の魔法使いが技を放す。おそらく再び変容をみせるが、カルキスの魔法使いはまだ変身を経験していないであろう。そこでお前がはったりを行えば動揺することだろうよ」
意地悪くダーナは言った。
「ダーナの言うとおりだ。お前が自信をもたないと。他の魔法使い達が不安がる」
カドモスはタキスの肩を叩きを勇気つけた。
パテリア連合軍一万二千は支城より進軍し、程なく第一の架橋に到達した。川を挟んで両軍は陣を構えたが、カルキス軍の陣は幾重にも柵を立て強固なものとなっていた。
石の橋を渡った向こう岸には、土嚢が積まれ、魔法の攻撃から身を守るようになっていた。素直に橋を渡れば、湾曲した川の両側から、飛距離の長い弓の餌食になりそうだった。
パテリア軍は兵力ではカルキス軍に劣っていたのだが、魔法の力によって劣勢を跳ね返してきたのだ。幾重にも張り巡らされた陣に恐れをなしては、先に進めなかった。もちろん密かに上流から川を渡り、敵を側面から攻撃する手立ても考えていたが、それは数で優勢なカルキス軍が想定していることであり、効果が見込めなかった。この戦いは魔法使いを中心としたもので、今までの戦術が一切通用しない、未知なる戦いであることは両軍とも分かっていたのだった。
橋での攻防はカルキス軍有利の状態であった。パテリア軍は橋の細さもあり少しずつ兵を進め、対岸に橋頭堡を築く必要があったが、そこまで多くの被害がでそうだった。魔法使いを前面に戦いを挑みたかったが、魔法使い同士の戦いの余波で、橋が壊れてしまってはもともこもなく、強引な手がだせないでいた。逆にカルキス軍は持ちこたえられなくなれば、橋を破壊すればよかったのだった。
はじまりは橋の上の通常戦からだった。パテリア連合軍は突撃し、橋の上でカルキス軍と激突した。橋の上は兵士で溢れ、密集したなかで激戦が展開された。パテリア軍が押し始めると、カルキス軍は無理をせず自陣まで徐々に交代した。それにつられパテリア軍が一気に対岸まで迫ろうとしたとき、左右の対岸より矢が大量に放され、パテリアの兵士を仕留めた。これに対しパテリア軍は盾をもった部隊を前進させ防ぐと、さらに重装備の兵を前に押し出すと、対岸に到達したのだった。
対岸に到達したパテリア軍は一気に攻め入りたかったが、対岸の左右の攻撃を受けて兵を送り込むことが困難になっていた。パテリア軍はそこで魔法使いを投入すると、対岸に黒い霧のようなものが広がり、次第に周囲を囲ってしまったのだった。座右からの弓の攻撃を受けなくなったパテリア軍はこの気に、一気に兵を進めた。これに対しカルキス軍も魔法戦力を投入し、霧を打ち消そうとし、岸辺では天候がめまぐるしく変化した。この間にパテリア軍は多数の戦力を渡らせ、橋頭堡を確保したのだった。
カルキス軍は攻撃性の高い魔法使いに橋の破壊を命令したのだったが。時すでに遅く、多くのパテリアの魔法使いが、渡り終えており、阻止をされたのだった。ここで魔法使いと魔法使いの戦いとなると思いきやそうはならなかった。張り巡らされた塹壕や土嚢が邪魔で直接魔法を当てることができず、苦戦した。しかも、隠れ潜んだ敵に襲われる魔法使いが続出したのだった。無敵と思われた魔法使いも、隠れた兵士の弓矢には弱かったのだった。このため、白兵戦では魔法使いを囲みこむ様にして、通常兵が守るという形に自然になっていった。
戦いは次第に魔法使い同士の戦いとなり、大地を空を激しい閃光と衝撃波が襲った。その激しさに両軍の兵士は立っておられず、身近なものにしがみついたのだった。両軍の魔法戦力はここでは互角であった。魔法力自体は若干パテリアが優勢だったが、魔法使いの数においてはカルキスの方が多かったのだった。そのため一進一退の攻防が繰り広げられ、彼らが戦った場所は大地がどんどん削られ、無残な姿に変わっていったのだった。
しかしその均衡は、一つの事件によって破られることとなった。魔法の戦いが苛烈になるに従って、魔法使いの体が変化したのだった。魔法使いの大集団のなかから変身するものが続出したのだった。
パテリア連合側ではすでにこの現象は魔法使いと兵士に伝達され、狼狽える者はなかったが、カルキス側は恐怖した。カルキス側に同士討ちなど混乱が起き、魔法使いの集団は瓦解した。均衡は一気に破られ、カルキス軍は崩壊し、パテリア軍は配送するカルキス軍を追撃した。
その頃、カドモスは下流にあって、密かに背後を狙うカルキス軍を迎え撃っていた。予想通りにカルキス軍は浅瀬を渡河しようとしており、カドモスは弓で一斉攻撃を仕掛けたのだった。弓の攻撃にカルキス軍は列を乱したが、名のある武将が指揮をしているのか、それをものともぜず、果敢に対岸に攻め渡ってきたのだった。この勇気にカドモスは敬服すると、全軍をもって迎え打った。草が茂った河原で両軍はぶっかり合った。カドモスが敵将に挑みかかると、敵将も駆け寄った。両雄の間に剣ののひらめきがあり、カルキスの将は崩れるように草の中に倒れた。これを見たカルキス兵は戦意を喪失し、戦闘を放棄し逃げた。
パテリア連合軍はさらに西に進軍すると、二つ目の橋にカルキス軍は待ち構えていなかった。驚き怪しみ、小高い丘を見つけると兵を休ませることとした。カルキス軍の姿が見えないので、敵は野戦を放棄し、攻める城戦にて決着をつけるつもりであると判断したのだった。やがてカドモス軍が追いつき合流を果たすと、王城攻略の策をねった。先の戦いでカルキス軍は多く兵を減らしたといっても、パテリア連合軍以下とは考えにくかった。強固な城の防御を盾に作戦を立てているはずであると、まずは城の守りを調べることで一致した。
作戦会議が終わり、カドモス達は幕屋に戻ると、今後にいつて話し合った。彼らが、背後のヒパボラ河の防衛について論議していたところ、思わぬ人の訪問があった。
芙蓉姫だった。
これには再びカドモスは驚き、どうして支城を離れ、この様な危険な戦場にやって来たのか責めた。
「そう、怒らないでください。私の出番のようなのです」
芙蓉姫はそう言うと、ダーナを招き入れた。彼はいつもの様に愛想の無い挨拶をした。
「お前達は、カルキス軍は攻城戦に切り替えたと思っているだろうが、それは違うぞ」
「どういう事だ?」
イアソンは身を寄せた。するとダーナは俯瞰の術を使った。
「みろ、この先の平原にて、カルキス軍は全兵力を集中している。ここでパテリアを殲滅するつもりでいる」
「何故だ、魔法戦力を警戒していたのではないのか」
「以前言っただろう。中原の進めば進むほど人材は豊富だと。魔法使いもしかりだ」
「すると、カルキス軍は強力な魔法使いを手に入れたということか」
「前回の戦いでは、カルキス軍は変身の事件に驚きて取り乱したが、もう何が起こったのか理解していることだろう」
翌朝、パテリア軍は進軍すると、ダーナの予告通りに、平原でカルキスの大軍が待ち構えていた。横一文に並ぶ姿は勇壮で、緑の旗が無数にはためいていた。
パテリア軍も反対側に左右に展開させ、体勢を整えた。
両軍にらみ合ったまま、相手の動向をうかがっていたが、仕掛けたのはカルキス軍だった。
敵左翼から、飛び出してくるものがあった。戦車である。
土煙を立てて戦車が平原を疾走してきた。パテリア軍は以前にメガラ国との戦いにおいて対魔法戦術として、戦車戦を経験していた。これと同様のものと判断したのであった。しかしその予想は違っていた。戦車に御者とともに乗車しているのは魔法使いであった。
戦車が疾走し、車から魔法攻撃が飛んできたのだった。
戦車の走行に気をとられていたパテリア軍は、突然の魔法攻撃に狼狽えて、列を乱した。
この機をとらえ、カルキス軍右翼が突撃を開始した。槍や剣を持った兵士が、雄叫びをあげて走り、パテリア軍歩兵は対応できないで居た。タキスはこの事態に魔法戦力を左翼に向け、迎え撃った。突撃を仕掛けていたカルキス軍は魔法攻撃を受け、勢いを失い躊躇していると、戦いは戦車の魔法使いと、徒歩のパテリア魔法使いとの戦いになった。
先の戦いで多くの魔法使いを失ったカルキス軍は苦肉の策として戦車戦と魔法を組み合わせたのが効をそうしたのだった。機動力を活かし、次々にパテリアの魔法使いを討ち果たしていった。この事態にタキスは土属性の魔法使いに命じ、草原自体に攻撃を仕掛けさせた。すると地面は魔法攻撃にずたずたに切り刻まれ、凹凸が激しく戦車の走行が困難になったのだった。戦車をこうやって防ぐと、突撃してきたカルキス軍に対しては、水属性の魔法使いと土属性の魔法使いの命じ、大地を沼地化させたのだった。こうして、時を稼ぎ、混乱したパテリア軍を立て直したのだった。
カドモスはこの戦いを見て、戦車による魔法使い戦術がカルキスの目玉であったとは考えにくく、ダーナの言葉が脳裏をかすめた。カルキス軍は再び軍を押し出すこともなく、待機したままだった。これは明らかに遠距離戦を狙っているとカドモスは察した。するとカルキス側から五名の者が前進してくると、一斉攻撃を仕掛けてきたのだった。パテリア左翼めがけて閃光が草地を走り、多くの将兵が一瞬に消失した。左翼の半分を無くし、破壊力の驚いたタキスは、彼らこそが秘密兵器であったと悟り、魔法使いの命じ、五人に対し攻撃を命じた。
だが五名の魔法力は強く、なかかな打ち破れなかった。それどころか、パテリアの魔法使いの攻撃の合間を狙っては、パテリア軍を襲って来たのだった。
パテリア中軍に被害を受けたとき、ダーナが芙蓉姫と言葉を交わしたのだった。すると姫は意を決したように前に進め出ると、呪文を唱えた。魔法使い達は突如、強大な力が戦場に現れ、何事が起こったのか思わず全員、その力の方向を振り返ったのだった。その瞬間力は解放され、巨大な火球がカルキス軍を襲ったのだった。カルキスの五人の魔法使いは力に圧倒され、抵抗する間もなく、蒸発し、その背後のカルキス軍も砕け散ったのだった。
一瞬にしたカルキスの左翼右翼の端を残して、勝敗は決したのだった。
芙蓉姫の力により、カルキス主力を破ったパテリア連合軍は、王都城に到着した。パテリア軍は城を囲み、攻城戦を始めようとした。しかし、この時ダーナは勝敗の決した戦いで、平民に被害が及ぶことは、望むことではないと、単身城に乗り込んだのだった。城内にはまだ、多くの兵士や魔法使いがいたはずであったが、ダーナは難なくこれを落とした。
パテリア連合が入城し、その夜は祝宴となった。
「なんだ、ここを去るというのか?」
カドモスは杯を零した。
「少しここに居過ぎた」
ダーナは腕を組んでいた。
「目当てのミケーネに逢っていないだろうが」
「どうやら、あちらが感づいているようだ」
「どうだ、仲間になちゃもらえないか?」
すると、ダーナは静かに天を指さした。カドモスが見上げると、輝く大きな星があった。
「天上に二番目の星が登場だ。この星。星のあらず。何かを数えているようだ」
「確かに、昼でも見える変な星と思っていたが、いつの間にやら二つあるとは」
「世界にいろんな異変が起こっているようだ。俺はそれを確かめに行く」
ダーナの顔を見てカドモスは決心が堅いことを悟った。
「そうか、達者でな。再びここに戻ってくるんだろう」
「どうしてだ?」
「お前、原因を除くのだろう」
カドモスがダーナを直視すると
「そうだったな」
とダーナは薄く笑い、背を向け小さく手を振ると、闇に消えていった。
「あいつに旅出させてしまっあのか!」
タキスはカドモスに詰め寄った。
「奴の自由だろうが」
「なんて惜しいことをしたんだ。あいつは、とんでもない魔法使いだったんだぞ」
「それは分かっている」
「いいか、ダーナは天才だ。一目見た魔法を簡単に使いこなす。それだけで無い、作り出すこともできるんだ。こいつが敵に回ったら、勝ち目はないぞ」
「それも承知している」
「馬鹿かお前は」
「あいつは戻ってくる。奴の星が許さないさ」
カドモスは静かに答え、タキスはそれ以上言えなかった。
カルキスの王都陥落後も戦闘は続いており、南部の水軍が最後の抵抗を続けていた。これを聞きカドモスは軍勢を南にむけた。彼が急ぎ向かったのは、ある目的があったからだった。カドモスが到着したときカルキス軍は激減し、水性の魔法使いにより、軍船から追われ丘に逃げ込んでいた。兵士達は疲れ切っていた。
カドモスは丘を取り囲むと、カルキスの王都が落ちたことを伝え、指揮官との話し合いを求めた。カドモスが待っていると、そこに現れたのは、以前出会っていたレアンドロスという男だった。
「我々の指揮官は負傷し、起き上がれない状態だ。代わりに私が話し合いに来た」
男は、剣をパテリアの兵士に渡した。
「十分さ。おれはパテリアの将カドモスだ」
「レアンドロスだ。一度名乗っていたな。それで我々に降伏を求めているのか?」
「その前に、お前は星を追いかけてこなかったか?」
意外な問いに、レアンドロスは眼を見開いた。
「何故分かる。確かに俺は白虎星を追いかけてこの地にやってきた」
「それだったら。もっと北に行かなくてはならなかったな」
カドモスは笑った。
「俺はお前に、興味がある。カルキスに一宿一飯の恩義があると言ったな。ならばそれを果たして貰おう」
「どういう事だ?」
「今、兵士には突撃の為の待機をさせている。多勢に無勢、カルキス軍に勝ち目は無い。そこでだ、お前がわれ等の仲間になるというのであれば、取りやめる」
「俺はカルキス人ではない。その様な脅しにはかからぬぞ」
「いいや、お前は、奴らを見捨てるととはできない」
強く言われて、レアンドロスは歯ぎしりした。
「カルキスへの最後の奉公だ」
カドモスが促すと
「分かった仲間となろう」
とレアンドロスは同意した。
魔法の作品で最近気に入ったものは「魔法少女まどかマギカ」と「リトルウイッチアカデミア」です。前者は主役逆転に吃驚したことと、後者は少女の憧れがわずか20分にうまくまとまっていたので好きになりました。魔法物もいろんな種類があるものですね。
さて翡翠記ですが、この作品の誕生にはこんな訳があるのです。
私は漫画やアニメが好きなのですが、小説を書いている友人がいるのですな。この人物が魔法世界のお話を計画したんです。それが世界地図を作成し、諸国の年表を作成するほどの細かい設定をした、しろのものだったのです。
この計画を聞いて、これはすごい物語になりそうだと楽しみにしていたのです。(勝手に史記を連想)ところが何年たっても始まらず、当人に尋ねたところ「時代がファンタジー小説が当たり前になってね」という答えが返ってきたんですね。そりゃ確かに、ファンタジーがゴミの様にあるのは確かだけど、誠に残念。
そして何年もたってギャグ漫画作成に飽きたころ、ファンタジーの小説でも書いてみるかと思ったんですね。友人は作家さんみたいな作品にしたかったのでしょうが、こちらは最初から素人作品という感覚で書いているので、ここまで約半分まで書き続けることができたんですね。
でも最近は書いていると、ファンタジーといえど背景の設定をちゃんとしてないと、まともに書けないことに気がつきました。特に政治制度や風俗、経済、歴史など。その点友人の様な下準備をしとくべきだったと後悔しています。
芙蓉記6話は前半長く書いたので、後半かなり圧縮してしまいました。攻城戦は無くなるし、レアンドスとの水上戦もなくなちゃいました。




