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第40回 王子と王女

<登場人物>


グノー    主人公の兄弟子 魔法使い

メディカス  僧侶(酔遊仙のメディカス)防御魔法、治療魔法、躰術

ホーネス   スカラ国戦士(神槍のホーネス)槍の使い手

レピダス   黒虎騎士(銀弓のレピダス)弓、双頭槍の使い手

デュック   元宰相の子(斜行陣のデュック)参謀、双鞭の使い手

アスペル   女盗賊(黒豹のアスペル)スリング、手裏剣、メイスの使い手

ストレニウス 赤鬼騎士(重戦車のストレニウス)双手剣の使い手

ソシウス   斧使いの大男(旋風のソシウス)バトルアックスの使い手

エコー    ヘテロ青竜騎士(鎚人馬のエコー)風の魔法使い、ヴォーハンマー

フィディア  芙蓉記伝承者(譚詩曲のフィディア)竪琴


グレーティア 主人公

プエラ    主人公の幼なじみの娘



ビルトス   主人公の師(本名ダーナ)

デスペロ   魔法宰相

コンジュレティオ 軍総司令


芥子菜王妃  パテリア大国王妃

歴山太子   パテリア大国王子、嫡子

那破皇子   パテリア大国王子

蘭公主    パテリア大国王女



ホスティス  ヘテロ国魔法宰相

ローサ    ホスティスの養女

チューバ   白狼騎士(ローサの警護係)


トラボー   反乱軍首魁

ハレエレシス 反乱軍参謀、ブルマの乱首謀者

フィデス   トラボー配下魔法使い

ファルコ   トラボー配下武将

アミコス   反乱軍参謀、竪琴の使い手、元魔法省官吏

ファクルタス 反乱軍魔法使い、ブルマの乱生存者

アルゴン   反乱軍武将

オティス反乱軍武将

ホルディウム 反乱軍財務


ローム    ナティビタス知府

マリタ    ロームの妻、デスペロの娘

 ナティビタスへ聖剣探索の旅をしていたローサ達は、その中間点の王都フローレオにいました。かって西部のウンダ河を北上した旅はアデベニオへの巡礼の旅であり、二本の足で歩き続けるものでしたが、今回のヒパボラ河の中部の旅は船を使い快適なものでした。

 彼等は、港町フォルムから定期船に乗ると、あとは船まかせで、過ぎゆく岸辺の景色を眺めながらくつろいでいました。しかしその旅もつかの間のことで、日をあまりかけず王都フローレオに到着したのでした。。その間、すれ違った船の数は多く、フォルムから王都まで、数々の物資や人の移動が確認出来たのでした。やはりこの河はパテリアの要であり、大動脈でした。そして、フローレオをさらに上流に遡ればかつてのパテリアの都ナティビタスに通じるのでした。フローレオの到着したローサは、そのまま一気に、船による旅でナティビタスに至ろうとしましたが、それは叶いませんでした。

 というもの、ナティビタスで反乱が起こり、定期船が運行を見合わせているからでした。反乱軍の数は少数で、その古都の周囲に四万の兵が集まり、いまや攻撃を仕掛けようとしているとの噂がありました。人々は、反乱はほどなく収束に向かい、日常が戻ると判断していました。その間、定期船は見送られたのでした。

このことを聞きつけたローサはパテリア人は反乱が続き、このような事件でも、あまり驚かなくなったのだろうかと思ったのでした。彼女は、川岸を北に徒歩で行こうかとしましたが、お供のチューバはこれに反対し、騒ぎが治まるまでフローレオで待つことを提案したのでした。

 旅の途中で足止めを食らったローサ達は、船着き場を後にして、王都の門を目指して進んで行きました。左手にには白い巨大な橋がヒパボラ河の対岸まで延び、先は霞んで見えませんでした。「なんて大きな橋だろう」とローサは感嘆し、しばらく眺めていました。彼女の故郷ヘテロにもユンクタス河が存在はするものの、上流の方であり、ここまで巨大な橋はなかったからです。どんな技をもって対岸まで橋を架ける事が出来たのだろうとローサは思い入りました。

 お供のチューバは、大人しくその様子を眺めていましたが、彼の場合、橋の軍事的意味について考えていたので、同じ物を見て違った思いをしていたのでした。しばらく川べりで佇んだ後、ローサはチューバに促されると、フローレオの城門目指したのでした。

 王都は巨大な城壁で守られた、大都でした。城壁がそそり立つように高く。奥行きがあり、大軍が押し寄せても、そう簡単に落とすことは出来ないでしょう。 かって隣国のガッリアが勢力を強め、フローレオを陥落させたことが歴史上存在はしましたが、その様な天才は二度と現れることなどなく、もし彼女のヘテロ国が王都まで攻め込んでも、王都の堅い守りには手を焼きそうに思えました。

 城門は大きく、沢山の人や荷馬車が吸い込まれていました。検閲を受ける先で込み合っていましたが、多くの門番が配置され、比較的滞り無く出入りがなされていました。城内にはいると、真ん中に大道がありました。彼方の王城まで真っ直ぐ延びた道は、無駄に広く公園であるかのようでした。中央は石畳、端には小石が敷かれ、両脇には並木が続き、点々と白い彫造が並んでいました。それは先に行くとどんどん小さく見え、やがて王城の大門に行き当たるのでした。そしてその道の脇には大型の建物が建ち並び、二階や三階のの高楼から町行く人を見下ろす人の姿がありました。

 二人は中央道を真っ直ぐに進もうとすると、男がやって来て声をかけたのでした。男は宿屋の呼び込みでした。愛想良く挨拶した後、男は宿を探しているかと尋ねてきたのでした。まだ王都にはいったばかりで、そこまで考えていませんでしたが、定期船が何時再会するのか不明の為、宿泊先を確保することは必要であり、男の言われるがまま、宿をとることにしたのでした。

「 お嬢様、また町を散策いたしますか。ここはパテリアの中心地。いろんな物を見ることも有意義かと思われます」

「そうですね。ここで見たり聞いたりしたものが、後々役に立つことがあるかもしれませんねえ」

 すると部屋を案内していた、ウエイトレス(仲居)が語りかけました。

「お客さん、フローレオは初めてですか?」

「はいそうです」

 明るく話しかけるウエイトレスに一瞬とまどったものの、ローサは微笑み返しました。

「ここには。国中のいろんなものが集まっていますよ。メディスなんかは演芸で日本一なんて自称してますが、本物はこのフローレオなんです。田舎芝居とはわけが違います。そんな具合にありとあらゆるものが集まっているんです。お客さんは、どういったものにご興味がおありなんです」

 そう問われて、ローサは何気なく尋ねました。

「例えば、芙蓉姫の聖剣のことなんて分かるのかしら?」

 ウエイトレスは意外な質問に、口を開いたままでしたが

「まあ、お若いのにそんな伝説にご興味があるんですか?」

「はい」

「どこか、上品な方だと思いました。知性に富んでいらっしゃるんですね。そういったことは、年輩の方が好んでいらっしゃると思いこんでいました。私はその伝説については存じ上げませんが、この王都には王立図書館になら答えがあるのかもしれません」

 ローサは初めて聞くものに興味を示しました。

「図書館とは何なのです?」

「本が一杯揃えてあるところなんです。私は字が読めませんからまったく縁がないところなんですが、貴族階級の方になると有意義なところなのでしょう。聞くところによると、国中のいろんな本が集められ、誰でも本が閲覧できるらしいのです」

「誰でも、読める・・・」

 ローサは首を傾げました。書物は高値で貴重品です、それを開放しているのだとは信じられませんでした。ローサの父の書斎にも本が沢山あったものの、それは個人のためで、他の者が手にすることなどないのです。それに盗人が持ち出すことが十分ありえたからです。

「そのような所が本当にあるのですか?」

「はい。ご興味があられるようなので、私がご案内いたしましょう」

 こうして、ナティビタスへの旅は中断したものの。ローサは聖剣について、調べることが出来るようになったのでした。


 王立図書館は庁舎城に隣接した建物にありました。庁舎城や王宮と違い、一般に開かれているため、警備の数は少なく、容易に中に入ることが出来ました。書を求めてくる者などいないものと思っていたローサはその人の数に驚きました。図書館という施設もさることながら、学術に熱心な人々が沢山いることに、信じられないのでした。

 パテリアの力はこういう所にあるのかもしれないと彼女は思ったのでした。静かに書物を読みふける人を横に見て、受け付けまでやってきました。ウエイトレスの説明では受付で書を借りるということでした。受付の図書員はどの書を求めているの尋ねました。これにはローサは戸惑いました。どうやらリストから書を選択し図書員に貸し出を求めるといった方式の様でした。ローサが困っていると図書員は彼女に二三質問すると、別の係員に命じて、いくつかの書を持って来させたのでした。

「これは、芙蓉姫の伝承をまとめたものです。古い時代の書なので、現在の様に変形したものでなく、元来の姿が分かります。聖剣についても記載されているはずです」

 そう言われて、渡されたのは羊皮紙の書でした。彼女はそれを受け取ると、読書の場所に向かいました。館内を見渡すと、若者の姿もあり、幅広く利用されているのが分かりました。フローレオには貴族の学院があり、その学徒がこういうところを利用しているのでした。ヘテロでは書は所有者から借り、回し読み、模写するのが一般的で、フレーレオの研究者は恵まれた環境にあるのだとローサは思いました。

 窓の近くに座り、巻物を広げると、そこには巻物一杯に書き込まれた文字がありました。「古文だわ」

 ローサは、悩ましげな顔をしました。

「どうしました。何か困ったことでも?」

 チューバは、彼女に問いかけました。

「古い言葉なので、一部意味が分からないところが出てくるのです。でもなんとか読んでみます」

 そしてローサは集中して、書を読み始めました。

 本に興味のない、チューバは少し離れたところで彼女を見守り、時が過ぎて行きました。館内が静かで、ローサを見守っていたチューバは、寝入ってしまい。気が付いた時はローサは読み終わっていました。

「どうでした。なにか手がかりでもありましたか?」

 目を擦り、チューバは彼女に問いかけました。

「あまり成果があったとは言えません。父の書斎にはパテリアの寓話の本があって、私はその本で芙蓉姫の話は知っていました。それは子供に読み聞かせるような単純な英雄物語で、夢に満ちたものでした。諸国の悪い王を姫が倒して、世界に平和をもたらすものです。しかし、この図書館の本はより専門的でとらえ所がなく、どうにでも解釈できるものでした。この本は伝承の破片を寄せ集めたもので、意見が分かれ、しかも詳細に書かれたものではないのです。古文のため読み違いをしている可能性もあり、私の手に負えないようです」

「そうですか」

 そういった事が得意でないチューバは残念がる彼女を、慰める方法が見つかりませんでした。彼女がため息をついていると、それを見かけた老人が二人のもとに近づいてきたのでした。怪しい人物にチューバは警戒をしました。

「君たちは、学生さんかね?」

 老人は、白い鬚につるつるの頭の人物で、にこやかに話しかけたのでした。

「あ、いいえ」

 ローサが戸惑っていると、老人はお構いなしに、彼女の読んでいた、巻物を覗き込みました。

「やはりこの書物だったか。お嬢さんこの書が読めるのかね?」

「いいえ、私には読むだけの力がありません」

「そうであろう。この古文はちゃんと読める人がすくない。分からなくて当然じゃよ」

「そのようですね。ところでお爺さんは読めるのですか?」

「勿論じゃとも。私は古い時代を研究しておってな。その書も何回も読んでいるのじゃよ」

 老人は自慢げに話すとローサの顔が明るくなりました。

「もしよろしければ、この本の書かれていることをお教え願えませんか?」

 この言葉が老人の心を刺激したのか、気をよくした老人は乗る気を起こしたのでした。

「お若いのに、研究熱心なお嬢さんだ。よろしい私が解説をしてさしあげよう。ここで話しをしては他の人の迷惑になるので、その本を返却した後、談話室でお話いたしましょう」

 こうして二人は老人に連れられて、別の部屋に移動したのでした。

「先ほどの本は、仮に読めたとしても、難解なのです。それは伝承されているものを列挙してあるだけで、互いに矛盾だらけの状態だからです。そこから先は自分で推理しなさいという案配なのです。そこで自分なりの仮説を立てる必要性があります」

「私も、真実はなんなのだろうと思いました」

 ローサは共感したようでした。

「私が、長年この書を読んで感じたことは、芙蓉姫は二つのものと闘っていたような気がするのです」

「二つのものですか?」

「パテリアの姫は、国内統一の為、多くの国を滅ぼしています。二つどころか、幾つもも国を相手していると思いますが」

 チューバが話しに加わりました。

「そういったことではないのです。姫は領土拡大の戦いの他に、別のものと闘っていたのではないかと思えるのです」

「別のもの。内政的なものですか?」

 ローサにはその意味が理解できませんでした。

「多くの断片は、現代の様な戦いが行われていたように述べられていますが、ある断片は高度に発達した魔法が存在し、想像を超える戦いをしていたと記載されています。私は他の文献にて失われた魔法という話を見かけているので此方を支持致します。彼女が魔法を手に入れ、領土を拡大をするに従って、相対する敵方にも魔法使いが登場し劇的に能力を上げています。西部攻略次点では、魔法の城や兵器が登場し、彼女を苦しめているようです」

「そうなんですか。一般的に流布されている英雄物語は、兵隊を使って国を一つ一つ攻め落とすお話ですが」

「ほとんどの文献ではそう書かれていますね。かつて私は、古代史を共に研究した三人の一人、現宰相のデスペロ殿のからその一端を聞き及んだことがあります。苦境に立った彼女は、怪物を戦力にしたようなのです」

「怪物をですか。あり得ません。あれは酷く危険なものです」

 実際、怪物と遭遇した彼女にとってそれは信じがたいものでした。黄泉の怪物を使うなどとそれではまるで、地獄の住人のように思えたからでした。

「他の断片では姫が、敵の放った怪物を退け、脅威を除いたとありますが、実際は真反対。デスペロ殿の主張が正しいと思えるのです。ですから魔法宰相は芙蓉姫を聖なる存在としてとらえていません。」

「それはパテリア人には吃驚の事実ですな」

 興味深くチューバは身を乗りだしました。

「つまり敵対する諸国に魔法の技術を供与し、姫をそこまで追い込んだ相手がいたと思えるのです」

「それは深読みではありませんか」

「私は都合のよい断片だけを集めて、この様な推論を出しているのかもしれません。まったく怪物を使うなど、正気の沙汰ではないですからね。しかし彼女は聖なる存在ではなく、デスペロ殿の申されるようにパテリアを滅ぼす存在なのかもしれません。国を大きくした英雄は同時に国を滅ぼす存在であったという、灰色の姫だったのかもしれません。彼女の直属の武将が戦で次々に姿を消します。一般的伝説では十将は、諸国との戦いにおいて華々しい戦死をしますが、これは作られたものと判断しました。十将全員が亡くなったのは事実でしょう。しかし、それは国盗りの戦いにおいてではなかったでは無かった。彼等は西部では無く、北部において命を落としたと思われます」

「北と言ったら、山岳の小民族ですよね。強かったんですか」

 戦いの話しになってチューバは生き生きしてました。

「小部族の彼等ではありません。もっと違うものと思います」

「なんですかそれは」

「分かりません。しかし強敵であるのは確かでしょう」

 戦好きのチューバは敵のいない山岳地帯にどんな敵がいたというのか、想像できませんでした。ここでローサは自分の一番の関心事を持ち出しました。

「私は芙蓉姫の聖剣について調べていたのです。なにかご存知ありませんか?」

「聖剣の伝説はありますねえ。しかし、あまり重要度はないようで、ほとんど載っていません。しかしこれも説が分かれ、存在を否定するものもあります。おそらく儀式的なもので、枝の様な形であったとか、長剣であったとか、形状がはっきりしません。二振りの剣というのが有力です。一つは雄剣、もう一つは雌剣と一対の剣です。芙蓉姫は魔法が有名で武具については、存在が薄いといえます。魔法使いという性格から使う必要もなかったと思えますね。芙蓉姫の陵墓に副葬品として埋葬されたとも、パテリアの何処かに隠されたというものもあります。面白い事に、その剣はパテリアでなく隣国ヘテロの王都ターバスからもたらされたそうです、面白いでしょう」

「千年前には遊牧民が分裂していて、統一したものがありません。ターバスなんてその頃は草原です。何故そんなところが選ばれたのでしょう。山脈で囲まれたヘテロの真ん中でだからでしょうか」

「ターバスは昔、神の落とし物と言われていたから、それから着想をえたんじゃないですかね」

 老人との会話は有意義で、二人はパテリアの古の歴史に想像をかきたてられました。別れ際、老人はナティビタスで古代魔法の研究に熱心な人物を紹介してくれ、聖剣伝説はその人物に尋ねるように教えて呉れたのでした。図書館で出逢った老人と別れた二人は、その後町を散策し、夕刻宿に戻りついたのでした。

 こうして聖剣について僅かな情報を手に入れた二人は、二日後、ナティビタス行き定期汽船の運航を確かめにいきましたが、相も変わらず、見合わせ状態で、再開のめどは立っていませんでした。これにローサは失望し、このまま何日も足止めをされるのなら、貨物船にでも何とか乗せてもらうか、陸路で北に目指そうかと考えていました。

 宿で少し塞ぎ込みのローサを見たウエイトレスは、陽気に話しかけました。

「お客さん、占いなんてお好きですか?」

「占いですか」

 ウエイトレスの言葉に、ローサは戸惑いました。そういうものにあまり興味がなかったからでした。しかしウエイトレスは、女の子はこういうものが好きであると、お構いなしに続けたのでした。

「フローレオには一杯占い師がいて、いろんな占いがあるわよ。恋人と出逢うことができるか、占ってみてはいかかかしら」

「私は恋人だなんて。考えていません」

 ローサが断ると、ウエイトレスはチューバを一瞥すると勝手に納得して、話を変えました。

「では、お人探しはどうかしら。生き別れになった人とか親戚にいませんか?」

 ウエイトレスがこう提案すると、ローサは目を見開いたのでした。

「分かるのですか?」

「勿論ですとも。フローレオには、戦で行方不明になった人達の、身内の安否を報せる、お婆さんがいるんですよ。なにか手がかりになる品々を持っていくと、占ってくれます」

 ローサは俯いたまま、何かを考えているようでした。いつもと違った彼女の反応にチューバは気が付き、どうしたのだろうと心配しました。

「お婆さんを紹介して貰えないでしょうか」

 何かを決めたように、ローサはウエイトレスさんに、話しかけました。

「いいですよ。お婆さんは、この町一番の透視術者なのよ。きっと満足できると思うわ」

 こうして、ローサは占い師の家を紹介され、訪ねることになったのでした。チューバは占い事は人を騙して居るようで、好きになれず、不満もありましたが、ローサが向かうというのでやむなくついて行きました。

占い師の館は宿から東に向かった、中流階級の家々が並ぶ一角に存在しました。魔女の館というより、ごく普通の家であり、手入れの行き届いた庭がありました。ここはかつて蘭公主が訪れたところでした。

「お嬢様がこの様なものに、ご興味をもたれるとは意外でした」

 非難じみたチューバの言葉でした。

「戯れ事です。許してください。先ほどのウエイトレスさんの言葉を聞いて、ふと思ったのです。もしかしたら生みの親が生きているのではと」

「お嬢様は、お父上を慕われておいでとばかり思っていました」

「勿論、父上は私の親です。敬愛の念は変わりません。しかしワルコという娘と出会って、彼女が靴屋の娘として育ったことを聞いたとき、少し思ったんです。私にもそんな人生もあったのかもしれないて。それで産んでくれた親とはどんな方なのであろうかと、気になるようになったのです」

「あの娘のことですか。平民でしたが、どこかしら気品がありました。しかしお嬢様には及びませんよ。なんといってもヘテロの魔法宰相の娘と靴屋の娘では雲泥の差があります」

「まあ、お上手ね。でも本当は私は瀬戸物屋の娘になるはずだったかもしれませんよ」

「まさか、それだったら、王女さまだったかもしれませんよ」

「まあ」

 ローサはおかしくてお腹を抱え込みました。

二人は玄関で呼び鈴を鳴らし、暫く待つと、中から若い女性が出てきました。お婆さんとなかり思っていたので、二人は小首を傾げました。女性に占いを受けにきたのだと説明すると、中に通され、一室に入ると今度はお婆さんがいたのでした。

 占いの部屋は奇妙な骨董品で一杯でした。部屋には香の香が立ちこめ、部屋の中央にはたっぷりと水を注がれた大きな杯がありました。その水は暗い部屋を照らす蝋燭の光りを反射してきらきら輝いていました。しわくちゃのお婆さんは、ローサに席を勧めました。

「さて、何を調べて貰いたいのかな」

 お婆さんは口をもぐもぐさせていました。

「お婆さんは、透視の能力の方だと伺って来ました。なんでも見ることができるのですか?」

「何でもというのは無理じゃなあ。持ち物を通じて見ることが出来るにすぎない」

 すると、ローサはペンダントを取り出し、机の上に置いたのでした。

「私は生みの親について知りたいのです。これを手がかりに探してほしいのです」

 差し出された物を見て、老婆は頷くと、ベルを鳴らし目を閉じたのでした。瞑想する老婆を見つめ、胸を高鳴らせローサは答えを待ちました。やがて老婆は水が注がれた杯を見つめ語ったのでした。

「いかなる映像も浮かんでこないことから、このペンダントの持ち主は、この世にはいない。それが貴方の親であるあるなら、残念なことじゃが」

 ローサは手がかりの糸が切れ、ため息をつきました。しかし彼女にとって育ての親であるホスティスこそが親であるという意識が強かったので、それは容易に受けとめられました。

「このペンダントは長らくヘテロにあって。その以前はこのフローレオに留まっていたようじゃな」

 この言葉にローサは驚きました。

「どうやらヘテロからおいでのようだね。貴方の映像ばかりが浮かんでは消えてゆく。親の手がかりが掴めないままでは不憫じゃのう。少しこの物に関わった人に範囲を広げてみるとしよう」

 ローサは養父のことが知れてしまってはと、焦りました。

「持ち主の姿は映らないが、なにかが形を成してきた。やはりその姿はくすんでよく分からないが、貴方には兄弟がいたようじゃ。その者は生きている」

「兄弟ですか?」

「その通り、存在を感じるのは、それだけじゃ。親は亡くなっているであろうが、兄弟は何処かで生きている」

 独り身であった、自分に兄弟がいると言われて、ローサは動揺しました。

「その兄弟について何か手がかりになるものはありませんか?」

「無理じゃ。このペンダントが教えてくれるのはそこまでじゃ」

「そうですか・・・」

 ローサには喜びと、失望が混じり合った複雑な気持ちが渦巻きました。彼女はこれ以上の占いは控えようとしました。半分気まぐれで生みの親について、占ってもらうつもりでしたが、自分がヘテロの者だということが読まれ、警戒したためでした。ローサはお婆さんに、いくらかの礼金を渡すと、早々ととそこを後にしたのでした。

 帰り道、フローレオの街並みは、違った風に見えました。ローサは建物や道行く人を見ては、ここが私の故郷だったのかしらと、辺りを見渡しました。

(父は西の町メディスの出身。生まれた町はご存知で、懐かしそうにされておいでだった。でも私にはこの町にその様な思い出はない。ヘテロのターバスが私の故郷だわ)

 そんな風に彼女は自分自身に話しかけていました。

「お嬢様あまり気になさいませんように。きっと口からでまかせに違いありません。ヘテロについても、我々の訛かなにかで判断したに違いありません」

 占いを信じないチューバは、老婆を非難しました。

「チューバ、大丈夫よ。私はヘテロ宰相の娘よ。占いに惑わされたりしません」

 言葉を返すと、ローサは元気な足取りで宿に向かったのでした。


 王都フローレオの庁舎城にて、魔法宰相デスペロは不愉快さを露わにしていました。

やたら、床や、椅子の足を、杖で何度も叩き、何度も呟いていました。

報告の為執務室にいた、部下のプロディティオは上司がいつになく苛立っちるので、内心愉快でたまりませんでした。

「宰相閣下、反乱軍はまだ迫っていません、落ち着きください」

 プロディティオは心の内と正反対に、心配してみせました。

「これまでの反乱と違うのだ!」

「と、申されますと」

「古都ナティビタスが支配された」

「たかが、古びた都一つでは御座いませんか。むしろ南では支配地域を大きく拡大している者達がいます。さらに東ではヘテロの軍が本腰を上げて、攻め込む気配をみせています」

「分かっておる。それでもナティビタスが危険なのだ」

「分かりかねますが・・・」

「空を見上げているか?」

 思いも寄らぬ問いかけに、プロディティオは思わず天井を見上げてしまいました。

「天井、南の方に第2星ヘクサドが現れた。瓊筵戦争は次の段階に移ったということだ」

「あの戦争は炎王の時代のもの、現在は国土は統一され、反乱は起こっていますが我らの敵ではありません。同等と言えばヘテロぐらいなものです」

「なにも知らないと言うことは幸せなことだのう」

 宰相に甘く見られ、プロディティオは怒りを覚えました。彼は心の中で、(身内に注意するのだな)と悪態をついていました。

「瓊筵戦争は統一戦争ではないのだ。諸国の統一などオマケに過ぎない。それは玉座の戦いなのだ。その一方の極がナティビタス起こった」

「どういう事です。まるで炎王が二つの戦いをしていたように聞こえますが」

「その通りだ。我々は諸国統一の伝承しか聞かされていないからな。無理もない」

「いったい、何と闘っていたのですか?」

「この世ならぬ、恐るべき者とだよ」

 そう言うと宰相は怪しく笑いました。

「ワルコが世界に出現し、時来るとき、天井に星が煌めき始める。千年前もそうだった。芙蓉姫なるワルコが登場し、この地は滅びかけた。同様のことが今起こり始めているのだ。私は元凶のワルコの抹殺によって、この度の戦いを終わらせようとしたが、取り逃がしたしまった。軍の魔法使いを裂いてまで、西部に投入したというのに、このざまだ。つけはは大きい。アデベニオで獣の王が一人の娘によって退けられたと聞いたとき、ワルコと確信したが、一歩遅かったようだ。ナティビタスには娘を嫁がせていたが、あれの報告によると、ナティビタスは魔法城化したようだ。おそらくワルコが居城したからであろう」

「魔法城。まさか虎の爪のあの城のようなものですか?」

「そうだ。しかし虎の爪の城は小さなものだった。おそらくナティビタスの城はもっと強固なもののはずだ。そうでなければこれからの戦いに勝ち残れない」

「では彼等が、支配地を拡大し、南下してくると?」

「おそらくそれはあるまい。目的が違うからな。これから起こることは、各地に出現したパテリア全土の怪物が一斉に移動を始めるということだ。大混乱になるのは目に見えている」

「あの怪物達がですか」

「当たり前だ、主を助けるのが、番犬の使命だろうが」

「ワルコとはなんなのです?」

「存在してはならないもの。魔法の源泉だ。そして今ナティビタスを中心として戦いの準備を始めている」

「宰相閣下はそれを阻止しようと、なされておいでなのですね。私が思いますには、逆にワルコを助けてはいかかですか。彼女を抹殺しては、敵対者を助けることにはなりませんか?」

「国家が荒れ地に意欲を湧かせないのは何故かな」

「それは価値がないからです。派兵した分損になります」

「それと同じじゃよ。パテリアは単なる荒れ地なのだよ。ならばこの荒れ地に何を求めやってくる」

 プロディティオは宰相の苛立ちも分かり始めたが、信じ切れていませんでした。彼の頭の中は上司に替わって、いかに宰相の地位に就くかという事だけでした。

「では、軍をもって、彼の城を落としましょう」

「それは既に、娘が四万の軍勢によって包囲している」

「早い対応です。思い切って十万まで投入しましょうか?」

「それには及ばない、娘には中止の指示を出した」

「何故です。このまま見逃すのですか?」

「魔法城相手には被害が大きいだけだ。むしろ圧力をかけず開放し、ワルコを外に誘き出したほうが上策だ」

「暗殺ですか?」

「そうだ」

 プロディティオは宰相の案は賛同できましたが、そんな思い通りにいくものであろうかと、疑いました。だが太子の廃位を模索していた彼は、その様な城ならば逆に役に立つかもしれないと、閃きました。太子をそそのかして、城の餌食に出来ないか、そんな事を考えついたのでした。

「宰相閣下。誘き出すには大きな餌がいります。ナティビタスを占拠した者達は、先王の姫を頂き反乱を起こしています。そこで太子のお力を拝借し、会談を求め、暗殺を謀るのです。本物の太子とあれば、ワルコも姿をみせるはずです」

「太子を使うのか。しかし、反乱した賊に太子が会談を持ち込むとは変な話だな。それに危険であるし、太子が同意されるかどうか」

「閣下のお話では、他の反乱よりワルコの件は重要であるとお見受けいたしました。ならば餌は大きくなければ、城からワルコを誘き出すことはできません。私に勝算があります」

 デスペロはまだ、ワルコを城外に誘き出す手を考えて居ませんでしたので、プロディティオの積極的な行動に疑念が浮かびましたが、心動かされたのでした。

「どの様な手だ?」

「太子は人相書きに夢中になっておいでです。これを利用するのです」

「なんだそれは」

「太子は以前は倉庫に眠っていた美人画でしたが、我蘭公主がお持ちだった人相書きを手に入れれると、今はその美女に心奪われているようす。そこで太子にナティビタスの偽りの姫がその人相書きに似たような人物であると伝えます。さすれば、太子の食指が動き、話しにのってくることでしょう」

「面白い話だ。ではそちにその役目を命じよう。太子が、向かわれるとなるとまとまった警護のため軍隊の数も必要であろうな」

 プロディティオが頷くと、この案に満足したのか、宰相の床を杖で叩く仕草は治まりました。


 太子の歴山は二人の従者をつれて、フローレオの船着き場にいました。次期の王となる人物が王都とはいえ、僅かな従者をつれて城外にいるのは危険で、いつ暗殺が襲ってわからないはずでした。しかしこの太子大胆なところがあり、そんなことはおかまいなしでした。かれの服装は平民のものであり、どちらかというと、浮浪者を思わせるものでした。金目のものを狙って、襲いかかれる心配はありませんでしたが、逆に貴族や役人の難癖をうけそうな感じでした。太子はナティビタスが反乱軍の手に落ち、敵船が運航を見合わせていると聞きおよび、それを確かめに来ていたのでした。

 港には帆を畳んだ多くの船が停泊しており、白い帆を広げ出入りしているのは下流を行き交いする船だけでした。太子は桟橋まで行くと、暇なので船を洗っている船員に話しかけたのでした。

「あまり話しかけられては、我々の正体がばれかねません」

 従者は、あまりにも気さくに話しかける太子に注意を促しました。太子は王道を教育され文武両道にすぐれていましたが、行動において、自己の感性のまま動く傾向にありました。王は太子のその部分に価値を認めていましたが、家臣は無鉄砲な行動に眉をひそめていました。今回も、危険を冒して、自ら調査に行くことは立派なことであると、二人は思っていましたが、それだけでは済むまいと覚悟していました。

 というのも、これまでも、行った先々で女に手を出し、追いかけられたことが度々だったからです。上位を笠に、ねじ伏せるということもありますが、お忍びをしているため逃げ切るというのが第一だったのです。

「何を心配しておる。宮中に籠もって、書面だけにより実体というものが分かるか。この手に掴んでこそ、感覚として捉えられるのだ」

 太子の言葉は正しく、従者は反論できませんでしたが、そう言いながら太子の顔が二人の方でなく別の方に向けていたので、いやな予感が過ぎったのでした。二人は太子の視線の方向を慌てて追いかけると、そこには船着き場に来た、黒髪の少女と従者がいました。


 ローサとチューバは今日も波止場に来ていました。相変わらず定期船運行は見合わせの状態でした。幾分明るい話では、ナティビタスでの政府軍と反乱軍の戦いは終わり、現地の緊張は和らいだということでした。かの地が政府軍が支配しようと、反乱軍が押さえようと安全が確認できれば定期船は再開しそうなのでした。それがいつなのか定かではありませんでしたが、このまま足止めが続くようであれば陸を使おうと、計画していた二人には吉報でした。

 二人は船着き場で、いっこうに出航しない船が帆を広げ上流を目指す姿を思い描いていると、桟橋から三人の汚らしい格好をした男達が近づいてくるのが分かりました。男達はつぎはぎだらけの服を纏っており、あちこちほころんでいました。浮浪者ではないようでしたが、働きもせず弱者から金をせびって生活している人のように思えました。

 男の先頭を行くのは、長身の男で堂々たる体格をしていました。この人物は都でなく、田舎で出逢ったら山賊の首領と勘違いしそうな、自信に満ちていました。後ろに付き従うのは子分で、そんなリーダーに振り回されているといった感じでした。

 ローサはそんな三人組関わり合いを持たないように、視線を逸らしていましたが、男達は近づいてくると、声をかけたのでした。

「船をお待ちですか?」

 男は歴山太子でした。

 ローサは無視をして、河の流れを見つめました。

「これは、失礼いたしました。私はこの町に住む、ブッハという者です。お美しい姿を拝見しまして、一度ご挨拶をしたいと、参りました」

 その丁寧な言葉に、視線を外していたローサは思わず男を見ました。そこには柔和な顔立ちの、たくましい男がいました。

「美しい黒い瞳だ。ご存知ですか?その瞳は異国の宝石なのです。パテリアの王族の中でも黒い瞳を持つ者は僅かなのです。それほど貴重なのです。あなたはさらにその見事な黒髪、これでは、振り向かぬ男などおりません」

 太子はローサが好意を持った事を感じましたが、後ろの従者から殺気なるものを放している事にも気が付きました。しかし彼はお構いなしに話を続けたのでした。

「どうやら、異国から見えられたご様子。私はフローレオに長年済んでおりまして、隅々まで知っています。よろしければご案内さしあげたいのですが」

 ローサは男が外見と違い、良い人なのではと思い、言葉を交わそうとしましたが、その時チューバが前に進み出て二人の間に入ったのでした。

「案内の必要はない。お嬢様がお困りだ」

 そう言って、剣を抜くと、三人を遠ざけようとしました。ところが歴山太子はおかまいなしに、ローサに語りかけたのでした。

「直ぐ近くに、面白い大道芸人がいます。一緒に見ませんか?」

「こいつ俺の話を聞いているのか!」

 チューバが斬りつけてみると、太子はこれを素早く交わしたのでした。これにチューバは怒り、本気を出して、斬りつけると太子は流れる水のように交わしたのでした。

己の剣が通じない相手に出会ったチューバは焦りにも似たものを感じました。その時、男は、仲間二人に抱き留められると、そのまま遠くに引っ張られて行きました。男は仲間を罵倒していましたが、そのまま街角に消えていったのでした。

「俺の剣が通じない」

 チューバは剣を見た後、街角に消えた男の姿を目で追いかけました。

「あの者はなに者だったのでしょう。貴方の剣が通じないとなると、単なる浪人でもなさそうですね」

 ローサがそう言うと、チューバは歯ぎしりし、再び出会うことがあれば、この決着をつけると決意したのでした。 


「太子、騒ぎを起こされては困ります。もしものことがあれば我々は」

 王宮に戻った太子は、従者に哀願されました。

「私は何か悪いことをしたのか、彼女を誘っただけだぞ?」

「それがいけないのです。ご自重を」

 従者が疲れ切ったように、下がると。代わりに部屋に入って来たのは、蘭公主でした。

「あの二人の顔色が悪いところをみると、また女性を追っかけていらしゃったのですね」

 意地悪く彼女は言いました。すると太子はお構いなしに、近くにあった竪琴を取り出すと優しく弦を弾いたのでした。柔らかな音が部屋に響き渡りました。

「しかし、あの娘は珍しかった。ここでは黄色いのや茶色い髪がほとんどなのに、黒だからな。しかも瞳も黒だ」

「まあ、黒がお好きなのですか?」

「黒はパテリア王家の色だ。今は失われて無いが。なにか惹かれるものがある」

 太守は明るい和音を鳴らしました。

「だったら、私が国中から黒い瞳の娘をかき集めて、ごらんにいれましょうか?」

「よしておこう。お前には美的センスがない」

「まあ、お言葉ですわ。私のもとから、人相書きを持って帰られたのは何方でしたか?」

「なるほど、そうであれば訂正しなくてはならないな」

 太子は微笑みました。

 太守と公主が語り合っていると、そこに従者がプロディティオがお目通りを願いでたいるとの報告がありました。太子の所に姿を表すことの無い人物が訪ねてきたので、これは面白いと太子は許しました。


「いつもはウーマーが訪ねてくるが、今日はどうしたのだ。病気か?」

「彼は、別の任務がありまして、代わりに私が使わされました」

「それで何の用なのだ」

「太子は。ナティビタスが賊の手に落ちたことはご存知ですか?」

「知っている。反乱軍と我が軍が戦闘をしているそうだな」

「戦闘は終わりました。我が軍の敗北です。宰相は撤退を命じられました」

「なんと真か?」

 太子は持っていた竪琴を置きました。

「はい、ナティビタスが魔法の城と変わり、通常戦力では太刀打ちできなくなったからです」

「そうなると、黒髪の娘は喜ぶことだろう」

 太守の顔に満足そうな笑みが浮かびました。

「黒髪?なんのことです」

「なんでもない次を続けろ」

 太子は咳きをすると、ごまかしました。

「賊は、旗頭は自らを先王の姫と名のっており、ナティビタスを占拠しております。そこで彼等が住民を虐待しないように働きかけ、古都以外に拡大させないように、休戦協定を結ぼうと考えています」

「一方的な譲歩だな。よいアイデアはないのか」

「魔法の城攻略には時間がかかります。その時を稼ぐのです」

「私が出向く必要があるのか?」

 太子は納得行かない様子でした。

「彼等は古都を手に入れたものの、猜疑心で一杯です。我らを簡単には信用しないでしょう。しかし交渉の場に太子がおいでとなると話が違います」

「反乱はほかでも起こっているはずだが、何故そこだけ特別視する?」

「一つはナティビタスが、将来最大の敵になること。二つ目は太子のことを考えました」

「私のこと?なんだそれは」

 するとプロディティオは懐から人相書きを取り出しました。

「恐れながら、殿下はこの人物にお会いないなりたいと思われませんか」

「それを何故お前が持っている?」

「公主。お気に入りの絵師からもらいました」

 歴山は顎をなでました。

「殿下。この者こそ。賊に祭り上げられている娘です。助けてあげたいと思われませんか?」

太子は言葉を失いました。

「この機会を逃せば、太子は二度と娘に会えませんし、おそらくその娘はなにも分からず反乱者によって祭り上げられているだけでしょう。その娘を助ける機会も無くします」

 プロディティオの言葉が太子の心に刺さります。

「太子が自尊のためナティビタスを離れなければ、名を汚すこともないでしょう。しかしその時は人相書きを相手にお話をなさるとよいでしょう。しかし、危険を冒してナティビタスに向かわれば、かの娘を救い出すことも可能です。いかがなさいますか」

 プロディティオは太子の顔を目で掴んで放しませんでした。太子は眉間にしわを寄せ

「私は行こう」と小さく言ったのでした。

 プロディティオは太子腰を上げることに成功し満足しました。気がかりは、ナティビタスタスの娘と、人相書きの娘が同一人物で無いことを太子知った場合の対応でしたが、娘共々亡き者ものにすればなんの問題もないと、暗殺計画を練り始めたのでした。


 ガニメティオの反乱軍の首魁トラボーは本拠地にアミコスと残され、退屈な日々を過ごしていました。王子には旗頭としての役目があり、政府の刺客に教われては大変なことになるとの、ハレエレシスの判断によるものでした。その意見はごもっともでしたが。トラボーとしては、隔離された城で日々を過ごすことがつまらなく。自分も戦いに参加したいものだと思っていました。いつまでも老人まかせでは、いけないことだと、剣を鍛錬し馬を調練し戦にそなえていました。

 時々ハレエレシスからもたらされる報告では、支配地を拡大させ、投降者を受け入れたので、その兵員は増加し、ルース一帯の支配は固まりつつあることのことでした。先頃の報告では、陸上を制圧したものの、依然海軍は対岸に船を集め、海上航路に脅威を与えていることでした。海の航行を妨害されては港町のルースは死んでしまいます。そこでハレエレシスはフィデズを中心とした水属性の魔法使いの部隊を編成すると、夜、霧を海に発生させ、敵陣に突入させました。ここで政府軍の水属性の魔法使いとの戦いになりましたが、反乱軍の魔法使いのレベルは高く、これを撃破。混乱の中敵同士の相打ちが行われ、政府軍を指示系統は混乱のまま、回復せず、指揮官は海軍の砦で、海からの敵の実体を把握しようと、海に釘付けになっていました。この時、反乱軍の陸の部隊は陸から密かに基地の背後に回って、一気に襲いかかったのでした。海からの攻撃に注意をそらされた海軍将校は慌て、海兵を陸への防御に向けまししたが、時既に遅く、ファルコ率いる陸軍が軍港内に侵入していたのでした。電撃の早さで、反乱軍は軍港を支配すると、将校に降伏を求めたのでした。かくして多くの船を炎で焼き払うことなく、反乱軍は手に入れ、ルース一帯の制海権を手に入れたのでした。

(まったく手際の良い老人だ)とトラボーは感心し、いつまでも軍師に頼ってはいけないことだと、自戒しました。あの老人はかってはっきり述べていました。協力するのは自らの目的のためだと。それが何なのかトラボーに分かりませんでしたが、やがて老人は自分たちのもとを去る存在であることは、こころに留めておかなくてはならないのです。本来であれば、この反乱は自分が先頭になって起こさなくてはならないものでした。父を殺した簒奪者の王はフローレオでパテリアの玉座を占拠したままであり、自分が正義の鉄槌を下さなくてはならないのです。老人はガッリア国の力を借りるの事の愚を自分に説きました。王位を取り戻すには、自分の力で成さなくてはならないのです。いつかフローレオに進軍するときは、自らが先頭にたって、軍をひきいて向かおう。偽りの王は自分が仕留めるとトラボーは強く心に誓ったのでした。

 それと合わせて、北の政変について、報告を受けていました。それによるとナティビタスが反乱軍の手に落ち、それを奪還しようと政府軍四万が町を囲み、戦闘状態にあるとのことでした。西にルーバス地方の反乱、南に自分たちの蜂起、そして新たに北の反乱と続き、パテリアはこれらの対応に手こずることでしょう。これらの勢力と手を組みべきか、どうかはなかなか悩ましいところでした。自分たちは正統政府軍でありそれが他の反乱軍と手を結ぶなどと、おかしな話で、現政府軍を打倒した後は倒さなくてはならない存在となるのです。しかし気になることが一つありました、ナティビタスの反乱軍は旗頭として、自分の妹が立っているということでした。これが事実とするなら、兄弟同士闘うことになりかねません。このことは、何れハッキリさせなくてはならないことだとトラボーは思いました。

 王の一家は惨殺され、虎口を逃れたのは自分だけのはず、それが双子のもう一人が生き残ったなどということが、あり得るのだろうか。トラボーは偽物の化けの皮を剥がしてやろうと心に誓ったのでした。


 過去の歴史がまた語られました。怪物をワルコが操っていたということですが、この事は物語で何回も語られました。一番最初は第十三回 矛と盾 でした。だいぶ前で皆さんお忘れのことでしょうが、ここでは芙蓉姫が怪物を使っていたと、フィディアが証言しています。主人公が正体が解き明かされるにつれ、ちょっとダークになって行っているのが気になるところです。世界は、これからどんどん混乱してまいります。

 今回、双子の王子と王女のお話も出てきますが、この一番最初は第二十七回で双子と紹介しています。ハレエレシスとアミコスの会話の中で兄妹とまでは、明かされていませんでしたが、これは、二十七回の次点でそこまで話を進めるわけにはいかなかったからでした。四十回に至り、この関係を語っても大丈夫になって少し詳しくなりました。

 この物語はお姫様とゴブリンを読んで、自分も書いちゃおうということで始まっており本来軽いのりの作品です。ですから登場人物にかなり無理な行動をさせちゃいます。太子が古都に出向くなんかもそうで、ありえない事だと思います。この翡翠記では恋愛ものを一切排除しているので、(その部分は芙蓉記におまかせ)あっさりとしたものになる予定です。

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