第41回 会 談
<登場人物>
グノー 主人公の兄弟子 魔法使い
メディカス 僧侶(酔遊仙のメディカス)防御魔法、治療魔法、躰術
ホーネス スカラ国戦士(神槍のホーネス)槍の使い手
レピダス 黒虎騎士(銀弓のレピダス)弓、双頭槍の使い手
デュック 元宰相の子(斜行陣のデュック)参謀、双鞭の使い手
アスペル 女盗賊(黒豹のアスペル)スリング、手裏剣、メイスの使い手
ストレニウス 赤鬼騎士(重戦車のストレニウス)双手剣の使い手
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)バトルアックスの使い手
エコー ヘテロ青竜騎士(鎚人馬のエコー)風の魔法使い、ヴォーハンマー
フィディア 芙蓉記伝承者(譚詩曲のフィディア)竪琴
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
ビルトス 主人公の師(本名ダーナ)
デスペロ 魔法宰相
紀朱王 パテリア国国王
芥子菜王妃 パテリア大国王妃
歴山太子 パテリア大国王子、嫡子
那破皇子 パテリア大国王子
蘭公主 パテリア大国王女
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
ローサ ホスティスの養女
チューバ 白狼騎士(ローサの警護係)
オリス 怪物ハンターリーダー
ベル オリスの仲間若年
ウルムス オリスの仲間、剣士
モータ オリスの仲間、風の魔法使い
ドクトリ オリムメガラの魔法使い、古代魔法を復活させようとしている
ビリー ストレニウスの兄貴分
イーリス ストレニウスの妻
シルバの森にてオリスは注意深く、辺りを見渡しました。森は怪物の住処として、誰も足を踏み入れることもなく、時折、怪物等の吠える声を聞く以外、静寂を保っていました。
怪物ハンターの彼等にとってこの森は稼ぎ場であり、時々現れては村に脅威をあたえる怪物を退治するのが、仕事でした。危険と隣り合わせの仕事でしたが、人々からは賞賛を浴び、強さのプライドを満たしてくれもので、辞めることはできませんでした。
多くの仲間が怪物の餌食になりましたが、これまで生き延びたことに誇りをもっていました。今回は、シルバの森より離れた街道に出没し、通行人を襲っていた怪物を退治するのが目的でした。怪物は、何日か周期で街道に現れ、いまは丁度森に帰っているところです。この様な場合、慣れないハンター達は街道で宛もなく怪物の出現を待つところでしたが、彼等は違いました。旅人が襲われたという地点から、足跡を手がかりに森を追跡するのです。森で足跡が新しいと判断したオリスは、標的が近いことを仲間に伝えたのでした。
「小休止だ。馬から降りろ」
リーダーのオリスが命じると、一同は馬から降りて、彼のもとに集まってきました。
「今回の得物は危険度が低い、そこでベルに経験を積ませるため彼を中心に作戦を行う。私とモータは怪物をおびき寄せる、ベル、お前が仕留めるんだ。ウルムスはベルの護衛だ。」
短くオリスが命令を下すと、ベルは緊張いたしました。
「獲物は近い。ここで全員体を休めるように。容易いといっても油断は禁物だ。体力を温存したほうがいい」
そう言ってオリスは乾パンを配りました。歯ごたえのある堅いものでした。
「そういえば、虎の爪を壊滅寸前まで追い込んだ者は分かったのかい?」
魔法使いのモータはオリスに尋ねました。
「それが、未だもって謎なんだ。状況から少人数で攻め込んだようなのだが。一番敵対していた、百雷て線もあるのだが、いくらなんでもあそこまで破壊できる魔法使いはいない。他の敵対勢力も同様なものだ。そこで政府の魔法使いが、殴り込みをしかけたという噂もある」
「魔法宰相のデスペロがやったと?」
「確かに、あの宰相の魔法はずば抜けている。だが、彼の城を好きなように切りきざむことは出来ないはずだ。なんてたって、相手は魔法の城だ」
「すると、誰なんだ?」
「噂では。神童と呼ばれた魔法使いがやったと言われている」
「まさか、あの男か!」
「そう、若くして、デスペロと互角に闘った、魔法使い」
「グノーか」
モータは驚異的な魔法使いを思い起こしていました。
「彼の男は6歳の時、既に上級魔法使いだった。魔法博士ダーナに弟子入りした後、さらに磨きがかかったという話しだから、もしかしたら古代魔法を使えるようになっていたかもしれない」
「何を言うんです。モータさんの魔法はそんな奴にまけないですよ」
気を利かせてベルは、彼をもちあげました。
「しかし彼はここ何年も行方不明だ。姿を見たという話しも聞かないが」
彼等にとって、恐ろしい男が、この森に住むかと思うと気がかりなのでした。
「そういえば獣の王事件の黒幕は分かったのかい?」
ウスムスが話を変えると、オリスは応じました。
「どうやら百雷がやったようだ」
「彼奴等か」
「百雷の連中は、森の中を案内するハンターに、手当たり次第に声をかけていたようなんだ」
「俺達のところはパスかよ」
ベルはいまいましそうに、拳を振りました。
「おいおい来て欲しかったのかよ。俺は話が来ても断る。怪物の大集団が蟻のような行列でやって来るんだ。危険すぎるだろう。それに獣の王周辺の怪物には魔法が効かないときた」
「その獣の王の群を落ち着かせ、森に返した人物がいるとの噂を聞いたが」
「そうらしい。まったく謎の人物だ。獣の王が犬みたいに大人しくなって、しまうらしい」
「虎の爪城の件といい、獣の王の件といい、何かが起こり初めているような気がする」
オリスが呟くと
「それは起こりぱなしですよ、南では先王の王子が反旗をかかげたと、噂になっています」
「アウダックが鎮圧されたら、他が台頭か。いたちごっこだな」
暫くして、リーダのオリスが立ち上がると、他の者も腰をあげ、追跡を続行したのでした。いつもの足跡の追跡は狩人としては、お手の物でした、彼等は足跡を見失うことなく、どんどん森の奥に進んでいきました。何度か馬から降りて足跡を確かめていたオリスは難しい顔をしました。
「どうしたんです。なにか変わったことでも?」
怪しんだベルは尋ねました。
「怪物の様子がおかしい」
オリスは呟きました。
ウルムスは脇にしゃがむと、オリスが見つめいた足跡を自分も確かめました。そこには複数の足跡がありました。
「奴ら、集団を組んで移動を始めている」
「確かに、ばらばらだった、怪物の足跡が揃い始めている。これはこの先になにかあるぞ」
「どう思う?」
「おそらく、この先には獣の王がいる」
全員から血の気が引きました。
「どうやら集団は獣の王に集まり始めているようだ」
「同感だ。しかし、何故森の外周部に獣の王がいるんだ。」
「なにか異変が起きているに違いない。何処かに移動でもしているようでもある」
静かでしたが、森の奥から不気味な気配を感じていました。いったい何が怪物達に起こり始めたのかオリスには分かりませんでした。これは百雷によってもたらせられたのであろうかと彼は疑いました。
「追跡は打ち切る。獣の王が近くにいるとなると、逃げたほうがいい」
オリスは素早く決断すると、仲間に指示しました。
「残念です」
ベルは悔しがりました。
「いいか、強い敵には逃げよ。これがハンターの鉄則だ」
オリスはベルの肩を叩くと、馬に乗り森の外を目指したのでした。
パテリア王、紀朱は王家の一族でしたが、優雅さとは無縁の武将の気質を持った人物でした。文武両道に優れ、戦いともなると、先陣を切って挑む性格でした。彼の上には正室の兄王子がおり、紀朱は王になるはずもない人物なのでした。ですから、無謀な戦いに出かけても、昔から許されていたのでした。
この頃、パテリアの政治は合議制で、王を選ぶのも豪族の話し合いによってでした。王といっても、他の豪族と同じようなもので、自分の領地を僅かばかり持つもののようなものです。遙か昔には、大きな領地を持っていましたが、分家を繰り返し、彼の時代には僅かばかりの天領を所有するだけになっていました。王という権力を持っていましたが、経済力は弱く、有力豪族の決めたことに従うしかなかったのでした。
こういった状態に紀朱は不満をもっており、炎王の時代の様な絶対的権力を持った強い王家を作らなくてはならないと、志していました。父王が崩御すると、豪族の会議が開かれ、王として選ばれたのは、無能な道楽好きの兄王子でした。豪族等、特に財力を持った者は、無能な王を求め、自らの栄華を謳歌しようとしたのでした。
こうして、何代も茶番は繰り返され、お飾りだけの王が玉座に座り、王家には安穏とした日々が過ぎて、その背後では豪族が権力抗争を繰り広げていたのでした。
紀朱はこの事態を打破し、強い王権を作り出さなくてはと、行動を起こそうとしました。しかし、豪族の警戒は強く、彼は王の命により、軍権を剥奪され、自宅に謹慎させられたのでした。
自宅に、籠もって方策を考えた紀朱は、知恵者を仲間にしてこの状況を打破しよとしました。そこで彼が白羽の矢を立てたのが、三賢人と呼ばれるダーナ、デスペロ、ホスティスでした。このうちホスティスはデスペロの罠に陥り、ヘテロに亡命をしていたので、対象から外れました。一番最初に、訪れたのがダーナの家でしたが、ダーナは気軽に面会をしてくれたものの、政治に関心はなく、魔法に没頭しているような人物で、人の世界の住人ではないようでした。自分が求める人物はこの者でないと分かった彼はデスペロに望みを託したのでした。
ところがデスペロは紀朱が王家のものだというのに、さっぱり会ってくれない。そこで彼はデスペロの家の門の前に、座り込みを決め、何日も待ったのでした。これにはデスペロも根負けし、家に招き入れると王子の志を聞いたのでした。
話してみると、デスペロという人物は政治にも明るく、汚れ仕事も出来る、頼れる人物でした。一通り話を聞いたデスペロは暫く考えていると、紀朱に語ったのでした。
「志は分かりました。中央集権の世界を作りたいのですな。しかしそれには豪族を一掃しなくてはならず、多くの者の恨みを買うことになりますぞ」
デスペロは紀朱に覚悟の程を尋ねたのでした。これに彼は胸を叩いたのでした。
「達成したとしても、その期間は短期に終わるかもしれません。なぜなら、このパテリアでもうすぐ瓊筵戦争が起こるかもしれないのです」
紀朱は少々困惑しました。
「それは遙か古の戦いのはず」
「それが起こるのです。その時、理想の王国は滅ぶかもしれません」
「なんと」
水をさされたような気持ちに紀朱はなりました。
「私は、その戦いを避け、世界を守りたいと思っています。私の志にご協力頂けるならば、私も貴方を助けましょう」
それが何を意味するか紀朱は理解出来ませんでしたが、彼は参謀を得ることに満足しました。こうして二人は契約をし、王座を奪い取ることにしたのでした。
王は太子がナティビタスの反乱軍との交渉に直接出向いて行くと報告を聞き、驚いたのでした。紀朱王は病に伏していらい、どんどん弱っており、命数も残り僅かであることが分かっていました。長子を太子に指名し、自分が崩御したあとは、この国を統治してもらうつもりでいました。ところがその太子が、フローレオを後にして、ナティビタスに出向き、交渉をするというのです。この様な事に太子自らが反乱軍を相手にするだなど馬鹿げていました。
紀朱王は報告に訪れていた宰相デスペロに、何故この様な事になったのか問いただしたのでした。
「予はそなたの考えが理解出来ない。僅か一都市を支配した反乱軍相手に、交渉をするなどと。今まで通り踏みつぶして仕舞えば良いではないか。しかも交渉に太子を向かわせるなど信じられん」
「大王様。お怒りはごもっとですが。今度ばかりは違うのです」
「どう違うのだ。西のルーバス地方の反乱にはその様な事はしなかったぞ。彼等の反乱は遅々として拡大しないが、南方の反乱は急激に拡大している。こちらの方が急務であろう」
「ここに。猫の子。犬の子。虎の子がいます。大王はどの子を恐れますか?」
「むろん虎の子だ」
「三匹は子供でたわいもないものです。しかし、大きくなった後の脅威は格段の差があります。猫の子はルーバスの反乱、犬の子はルースの反乱、そして虎の子はナティビタスの乱に御座います」
「ナティビタスの乱は一都市に過ぎないが、それほど危険なのか?」
「左様に御座います。ルーバスは床に焦げ目を残す程度、ルースは家の全焼、ナティビタスは世界を焼き尽くす劫火に御座います」
「俄には信じがたいが」
紀朱王としては、兵の数が少ないナティビタスがとても脅威には思えないのでした。
「大王様、かつて私たちは世界を守ることで契約を交わしました。それを果たすときが来たのです」
「今がその時なのか?」
「ナティビタスを中心として瓊筵戦争が始まろうとしているのです」
「何故、千年前の戦いが・・・」
「古の戦いは決着しなかったからです」
「引き分けていたと。ありえん、パテリアが全土を支配したではないか」
「 瓊筵戦争は統一の戦いだけではありません。他に恐るべき戦いがあったのです」
「初耳だ。それはなんなのだ」
「魔性の者と魔性の者の、玉座を巡る戦いです」
「人でないと申すか」
「はい。その魔性の者がナティビタスに居座ったのです。それは今後手がつけられないように強大になって行くでしょう」
「何者なのだ」
「ワルコと申します。ここ数年にかけて、各地に怪物が出現しているのも、かの者が戦いに備えて呼び寄せているのです。そしてその拠点としてナティビタスが選ばれたというわけです。おそらく配下の魔将も集まってしまっていることでしょう」
「それが分かっておりながら、手だては打たなかったのか?」
「私は、ワルコの抹殺を目指しましたが、ダーナ博士が邪魔立てしたのです。彼はワルコを匿い、姿を隠していたのです。ワルコに味方をしないように彼を始末しましたが、我々はワルコを見失ってしまいました。次に発見したときは、ナティビタスに居座っていたという訳です」
「ならば、ナティビタスで待ちかまえればよかったものを」
「ワルコが何処に居を構えるかは予測不可能です。ナティビタスを押さえたのはダーナの指示によるものと思われます」
「その様な厄介な存在であるのなら、一気に始末するがよい。交渉の必要はない」
「そうは行きません。ナティビタスは魔法の城と化しています」
「なんじゃと」
紀朱王はたいそう驚きました。
「虎の爪の何倍もの強力な守備力を持っています。既に我々は四万の軍勢にて城攻めをしていますが、敗退しています」
「あそこは只の城だったはずだ。魔法の城などと」
「いいえ、その噂はありました。芙蓉姫の十将の一人、天后星のミュージカは竪琴の技にて数々の攻防戦を繰り広げています。彼女は仲間に加わった頃、パテリアは西部の魔法要塞攻略に苦しんでいました。この状況は彼女の加入で一転します。彼女は魔法城の弱点を見抜き、対策を施すと城は次々に陥落していったのです。この戦いにおいて、彼女はパテリアの防衛を強化のため、各地に魔法の要塞を築いたと言われています。彼女自身が作りだした城は鉄壁の守備力をもっていたそうです。
彼女の死後、その技は伝承されず誰も作り出すことが出来ませんでした。次第に魔法城は寿命を迎え、わずかに虎の爪の城とエルガスツルムが残るだけとなりました。
彼女は亡くなる前、その技の全てをつぎ込んだ城を何処かに造りました。彼女の最高傑作が残っていると、噂されていましたが。まさかナティビタスだとは思いもよりませんでした」
「しかし、その様な城であるならば、容易に甦らせることは出来ないはずであろう。彼女の竪琴の技は人々を魅了し、誰も真似が出来なかったと聞く」
「おそらくは、彼女自身が動かしているのでしょう」
「馬鹿な、ミュージカが甦って来たと申すか」
紀朱王は失笑しました。
「あの城を落とすとなると、主力をもって叩くしかありません」
「だが、ヘテロがそれを許さない、というわけか。ならば暗殺を試みてはどうかな」
「それは既に、失敗に終わっています」
「なるほど、それで懐柔路線に切り替えたのか」
「違います。城より誘き出し、暗殺するためです」
「太子は餌か」
王は呆れた顔をしました。
「ワルコは自らを、先王の姫と名のっています。ここで我らが交渉の相手として太子を使わせば、ワルコも城を出なくてはならないでしょう」
「そこで、襲うという訳か。しかしその方法は太子が嫌う方法だな。あれはどこか正義漢じみたところがある」
「きれい事では、支配はできません。太子にもよい経験となることでしょう」
「それでは直ぐに、行動を起こすがよい」
そう言うと、紀朱王は体を休めたのでした。
王妃芥子菜は、蘭公主が真面目に務めを果たしているか様子を窺いに彼女の部屋に訪れ、姫の口からこのことを聞いたのでした。
太子が少ないお供を連れて、反乱軍のいるナティビタス向かうことは、寝耳に水でした。
「それは本当ですか?」
「宰相が父君から了解を得たと、プロディティオから聞いたから間違いないわ」
「なんと言うことでしょう。我が一族に恨みを懐く者は数多いるというのに」
王妃は居ても立ってもいられなくなりました。
「母上様、兄上は行楽気分ですよ」
「なんてことでしょう。太子がそんな安易な気持ちでは。反乱者だけではないのですよ。内部の者も危険なのです。旅先で毒を盛られることだってあるのです」
「考えすぎです。兄上は愚かでありません」
「いいですか。私たち一家は、先王の一家を滅ぼした罪を背負っているのです。その災いが太子の身に降りかかってくる恐れがあるのです」
蘭公主は王妃の心配性に呆れました。しかし、もう少しでお勤めをサボったことで、みちりお説教を受けることでしたので、王妃の注意を逸らすことができて、内心ほくそ笑みしました。
王妃は、蘭公主に部屋から出ることを禁じると、王の寝室に足早に向かったのでした。
王は気分が良くなったのか、体を起こして地図を眺めていました。パテリアの国土は広く、全土を治めるには、あちこちに注意を向けなければなりませんでした。こういった事の心労が貯まり、彼は病気となっていたのでした。ヘテロとの果てない戦いの連続。その間、あちらこちらに反乱の火の手があがり、その度に消して回るという連続でした。王座を奪って15年近くになるといのに、一向に国が安定しないのは、どういうことかと彼は内省していました。
「陛下。お話が御座います」
許可なく部屋に入ってきた王妃に、紀朱は眉を細めました。
「その様にあわてて、いかがした?」
「太子が、少ないお供で、ナティビタスに行くとは本当でしょうか」
王妃は王の寝台の近くの椅子に腰掛けました。
「その通りだ、太子には重要な役目を与えた」
「反乱軍の交渉に、太子を向かわせるなど馬鹿げています。臣下の者で良いではないですか」
「それでは、敵の城の中での会談となろう。それでは駄目なのだ」
「申されていることが分かりませんが」
王は王妃の剣幕に押されました。
「そう、怒るでない。これは行って帰ってくるだけの務めなのだ」
「その間に、命を狙われる恐れがあります」
「母親は、これだから困る。あれもいい大人なのだぞ。予は戦いにいけと申しているのではない」
「私は、少ないお供に不安なのです」
「三千はいるのだぞ。いざとなれば近隣から三万の軍勢は直ぐに集まる」
「暗殺されたらいかが致します。私たち一家は恨まれています。あなたは先王から王位を奪い、一家を皆殺しになさいました。そのなさりように非道とののしられています。臣下の中から、この機会に恨みを晴らそうとするものが出てくるかもしれません」
「大義の前に、恨みなどどうあるものか。安寧を貪ったことのツケがそうなったのだ。いわば自業自得というものよ」
「その後、逆らう者達を根絶やしになさいました。どれだけ多くの人の血が流れたことか」
「よいか、我が身であろうと、腐った箇所は切断しないと命がないのだ。人でさえ、治療のためには痛さに絶えるのだ。国も同様なのだ、彼等は腐敗した肉にしか過ぎないのだ」
「そういって、貴方は鬼のようになられました。私たち一家は血の海の中に生き、人々の深い怨念を受けるのですわ。そして最期には罪への清算を受けるのですわ」
「馬鹿げている。その様なことはあるものか。我ら一家にどの様な不幸がくるというのだ」
「現に、受けておいでです。陛下が病に伏したのも、深い怨念を受けたためと人々は噂しています」
「これは、過労からだ。ならば平和な貧乏人は病にならないと申すか」
「私は心配なのです。私たちにどんな罰がやってくるか。先王の一家を殺害された日、私たちの下の子が神隠しにあったことをお忘れですか。非道をなせば罰が訪れるのです」
「よいかこの世界は善は栄え、悪は滅びるという世界ではないのだ。悪も栄え、善も滅びるというものだ。私達の子供が攫われたとしても、偶然だ」
「そうでしょうか。私には報いとしか思えません。まだ赤ん坊だったのですよ。彼の子は。その悲しみが貴方には分からないのですか」
「分かっているとも。その後、手を尽くしたのだ」
「でも、彼の子は戻って来ませんでした」
王妃は涙目になっていました。
「これ以上は止めよう。太子には一万の軍勢に、回りを信頼できるものに守らせよう」
王はほとほと疲れて、王妃を下がらせると、横になったのでした。
歴山太子が使者として、都を出立するとなると、それは遠征でも出かけるようなにぎわいになりました。引き連れている兵の数が、人々目を奪っただけでなく、太子自身がフローレオの住人、特に女性に人気があったからでした。王宮から西門に通じる大通りは人で溢れ歓声があがっていました。ヒパボラ河左岸は軍船で満ち、太子の乗船を待っていました。
「まったく、ナティビタスにお使いに行って来るだけで、この行列はなんだろうね」
太子を見ようと通りに集まった群衆の後ろから、みずぼらしい身なりながら、たくましい体つきの男が呟きました。
「お気をつけ下さい。変装を見破るものがいるかもしれません」
付き添いの男は周囲を警戒しながら、男に囁きました。
「しかし、この位置からは太子がどんな顔かさっぱり分からぬではないか。上等の服しか判別できないな」
「だからこそ、影武者が成り立つのです」
「ナティビタスへの定期船は再開しているか?」
「はい、軍船が出航する前に出ます」
「よろしい、我々はそれでナティビタスに向かうとしよう」
「太子、宜しいのですか。危険過ぎませんか、警護の者は僅か五名ですぞ」
「その名を呼んではいけない」
「失礼しました」
男はあわてて謝りました。
「軍船の中がもっと危険だ。てぐすねひいて待っている者がいるかもしれぬ。我らは民間人として、ナティビタスへ向かう」
太子達六名が定期便の船着き場に着いてみると、出航直前でした。あわてて六人は飛び乗ると、船は岸を離れたのでした。
船の上は人で溢れ、荷物をデッキに下ろした人々が、思い思いの場所で腰掛けていました。空いた場所を探し回ると、六人が腰を下ろすには十分の場所を見つけ、一同はそこにあぐらをかいたのでした。
「お前達は!」
声のする方に、振り向いてみると、隣に見かけたような人物がいたのでした。
「おお、あなたは、港で剣を振られた」
以前、変装して港を視察行った際、平民に声をかけようとして怪しまれ、喧嘩沙汰になた時の相手でした。
「お嬢様に悪さをしたら許さないぞ!」
男は置いていた槍を手に取ろうとしていました。
「私たちはなにもしませんよ」
「お嬢様を追いかけて来たのではないか」
「偶然です」
よく見ると、男の隣には黒髪の娘が座って心配そうに此方を見つめていました。
「そんな悪人に見えますか?」
太子は、優しく少女に問いかけると、すこし経って彼女は連れの男に矛を収めるように指示したのでした。
「ご信じいただき、有り難う御座います。ところで私の名前は覚えておいででしょうか?」
「ブッハさんでしたでしょうか」
娘が恥ずかしそうに答えると、太子は大喜しました。そして、荷物の中から竪琴を取り出したのでした。
「お近づきとして、フローレオで今流行の歌を奏でて差し上げましょう」
娘は目を丸くし、お供の男は渋い顔をしました。
太子の詩は見事で、心情が伝わってくるようでした。娘は、このような粗末な服を着た人物が豊かな表現力をもった詩を歌うことができるので意外に感じたのでした。
「いかがです。楽しんでいただけましたか」
「素晴らしい演奏でした。貴方は芸人さんですか?」
「とんでもありません。ただの商人ですよ」
「まあ、不思議な方ですね。身なりは貧乏人のようで、語りは貴族のように礼儀正しく、それでいて商人ですか」
「私は変わり種でしてね。妹から道楽者と呼ばれています」
「まあ」
娘は微笑みました。
「ところでお嬢さんのお名前をお伺いしてませんでした」
「私はローサ。此方にいるのは、チューバと申します」
「チューバさんはなかなかの剣の使い手ですね。この前は吃驚しました。お嬢さんは良いお供をお連れです」
褒められたはずのチューバは、厳しい目つきで太子を見ました。
「ブッハさんは、どちらに行かれておいでなのです」
「古都ナティビタスです。番頭が煩くてね。店主の親爺が行けと命令したんですよ。うちの店は古都が発祥なんですが、最近、本家は自分だと名のる者たちがいましてね、どちらが正しいか話し合いに行くのですよ」
「それは大変ですねえ」
「大人しく、立ち退いてくれればよいのですが。そうそうローサさんはどちらへ?」
「私は、古都に聖剣伝説を調査しに参ります」
「それはどういった訳で?」
「父の趣味で、忙しい父に代わり古都にに参るのです」
「聖剣伝説ですか。確か二本の剣のうち一本は砕け散ったと」
「それは何方から聞かれたのです?」
驚いたようにローサは太子に顔を見たのでした。
「番頭です。昔語りが好きで、妙な物知りです」
「なんて事でしょう。フローレオにそんな人物がいたのですか」
ローサは目を丸くしました。
「古都にはもっと詳しいものがいることでしょう。我々は商人ですから。それ以上はありませんよ」
「でもこれから古都には、多くのパテリアの兵がやって来ます。戦いになりはしないでしょうか」
「あれは戦争をしに行くのではないのですよ。過保護な親が子供に一万人のお供をつけさせたという訳です。太子としては迷惑な事です」
「まあ、そうですの」
「間違い御座いません」
太子は微笑んでみせました。
定期船はヒパボラ河を上り、いくつかの船着き場に停泊すると、ナティビタスに到着しました。定期船の終着点で、ここで船は川下に折り返します。さらななる上流に向かうには、小型の定期船に乗り換える必要があり、ほとんどの客はナティビタスで降り陸路を取って、目的地に向かうのでした。
太子はローサ達と分かれ、馬を手に入れると、西に向かいナティビタス到着したのでした。彼等はそのまま城内にははいらずに外周を回り、古都の様子を調べました。
「太子、情緒と風情の町かと思いきや、どうして造りは頑強ですな」
「確かに、魔法の攻撃が届かぬように、外堀が遠くにある。それから幾層もの堀があり、最後は高い壁となる。雲梯もとどかぬし、攻城塔も堀が邪魔で使えぬか。普通であれば破壊鎚や投石機で城壁を破壊し、侵入といったところだろうが、魔法の城ではどこまで通用するか。」
「城を囲み、物資の輸送を止め、飢えさせてから降参させるのが最良でしょう」
「他国では、そうしているようだが。パテリアでは潔しとしない不文律がある。それで落としても民を苦しめた汚名がついて回る。戦争は貴族連中の小競り合いというのが、庶民の感覚だ」
「やっかいですな」
「この城を落とすには、魔法城の秘密を暴き、普通の城に戻さなくてはならない。間者を多く送り込み、内情をさぐる必要性があるだろう。この度の交渉も、このための下地造りといったところだろう」
「なるほど、さすが太子。そこまで読んでおいででしたか」
「いいや、単に人相書きそっくりの娘がこの町にいるという、プロディティオの口車に乗ってしまっただけさ」
「太子、本音でもそれは申されないほうが・・・」
太子達は東に馬を走らせ、下船した兵士四千と陸から集まった六千が合流する地点に達すると、変装を解き、影武者と交代したのでした。
そのまま兵1万はゆっくりと西に進み、ナティビタス近郊に達したのでした。
ここで同行していたプロディティオが困惑した顔をして、太子の前に現れたのでした。
「太子、一大事に御座います」
「何事だ!」
「蘭公主が紛れ込んでいらっしゃいました」
プロディティオの背後から、見慣れた妹の姿が飛び出してきました。彼女は舌を出し戯けてみせ、太子はあっけにとられ、一瞬声がでませんでした。
「公主、なんでここに??」
「変装して、召使い達の中に紛れ込んでおいででした。私もいままで気が付きませんでした」
プロディティオもほとほと困っている様子でした。
「蘭!どうしてそんな事をしたんだ。母君が心配されるではないか」
「大丈夫よ、私は保養地に行っていることになっているから」
「これは物見遊山ではない、公務だぞ」
「とか言って。本当はあの人相書きの娘に会いに来たんでしょう」
本音を言い当てられ、太子は公主が小悪魔に見えました。
「実は、私も会いたかったのよ。その娘に」
公主は怪しく微笑みました。
「いいか、これから会う相手が、人相書きの娘なのか定かでないんだぞ」
「違うわ、その娘だわ。女の直感よ」
「分かった。仮にそうだとしても、俺の邪魔はしないでくれるか」
「嫌だわ。私は直接、その娘に一言言いたいのよ」
「何を?」
「私の彼を誘惑しないでくれるて」
公主の顔は怒りの満ちていました。
「まさか、黒虎騎士のレピダスのことか?」
「そうよ、あの娘。彼を虜にして放さないのよ。騎士二人が説得したんだけど戻ってこないの」
「亡くなったと聞いていたが、生きていたのか」
「そうよ、人が変わってしまったのよ。それもぜーんぶ。この娘のせいよ。だから私は文句をいいたいの。そしてレピダスを助け出すの」
女の執念のようなものを感じて、太子は暫く声がでませんでした。
「わかった。落ち着け、もしかしたら、ものすごい誤解をしているかもしれないじゃないか。お互いゆっくり話し合えば解けるというものだ。本当にその娘だったとしても、不作法な真似はしないでくれよ」
「お兄さまは私の憎しみがお分かりでありません。私は百雷に彼の娘の暗殺を依頼しました」
「なんだって!」
太子は飛び上がらんばかりに驚きました。
「だってレピダスは帰ってこないんですもの」
感情が高ぶったのか、公主には涙が溢れていました。
太守は妹の愚行には呆れたものの、政府の暗殺者が仕留められないものを、百雷が遂行可能とは思えず、許すことにしました。
「ならば、直接レビダスと話したらよかろう。会談で彼がいれば、同席するように交渉しよう。話し合って駄目なら、きっぱり諦めろ」
妹は一途過ぎると太子は頭を抱えました。
そのころ、政府からの手紙を受け取った、グレーティア達はどうするかで協議していました。太守は同族ということで、グレーティアとの直接会談をもとめていました。
「政府軍が一万でやって来たかと思ったら、こんな手紙をよこしてくるとは。いったい奴らはなんの思惑があるんだ」
ストレニスは書状を、何度も読み返していました。
「なんて書いてあるの?私字読めないだからさあ」
プエラが不満そうにしました。
「丁重な言葉で、会談を申し込んである。ナティビタスの今後について話し合いたいそうだ」
レピダスが内容を教えると、プエラは興味なさそうにしました。
「会談て何処でやるんだ」
ストレニウスが問うと
「白泉の岡のようだ」
とレピダスが答えました。
「ナティビタスと政府軍の丁度中間地点だ。妥当といえば妥当だが。どちらも救援には時間がかかる」
ドクトリは納得したようでした。
「太子ならこの宮殿にお招きしたらどうかしら」
とアスペルが陽気に言いました。
「馬鹿だなあ。太子がむざむざ敵に捕まりにいくようなものだ。それにお迎えといっても母屋を乗っ取った盗人に主は面白い顔をしないぞ」
デュックは窘めました。
「そうだったわね。でも太子でどんな人かしら」
「風流な人物らしいが、愚か者ではないらしい。都に籠もっているからわからん」
「我々に何の益もあるとは、思えないし。断るか?」
ソシウスが言うと
「太子じきじきのお出ましだ。礼は尽くしたほうが良いかもしれない」
とレピダスは行く気でした。
「そういえば、レピダスも同行するようにと書いてあるが何故だ。太子と知り合いか?」
「親しい間柄ではないが、何度かお会いしたことがある。気さくな方だ」
「本物か?」
エコーは怪しみました。
「それについては、フローレロから軍船が出航したとの情報を得ている、おそらく本物だろう」
ビリーは調査済みのようでした。
「やはり罠ではないか?主が心配だ」
黙って聞いていたホーネスが口を開きました。
「大丈夫です。私の探査の目を放しましょう。近くに兵を潜ませていたとしたら直ぐに分かります」
グレーティアがホーネスを安心させると、デュックが言いました。
「双方5名の出席となっている。グレーティア、レピダス、俺として、残る二人は誰にする」
「私とフィディアはどうかしら」
アスペルが手を組んでみせると、あっさり否定されてしまいました。
「メディカス老師いかがです?」
「ふぉふぉふぉ。男子には興味ない」
「デュック。いい加減、エロ老師だと悟れよ」
ストレニウスが囁きました。
「では、ドクトルとエコーにしよう。残ったものは、出撃出来る体制にしていてくれ」
こうして、グレーティア、レピダス、デュック、ドクトル、エコーが会見に出向くことになったのでした。
白泉の岡、麓に小さな泉があり人々の喉を潤したために、だれもが知る場所でした。そから流れ出る水は窪地に数個の池を作りだしていました。岡自体は小さなもので古木が何本か立ち、ほとんどが草地でした。その頂上には石柱が立ち、憩える建物が建てられていました。
グレーティア達の返事を受け取った、太子たちは、その場を清め、グレーティア達を待っていました。会見に臨むのは、歴山太子、蘭公主、プロディティオ、他二名でした。
大使達が暫く待っていると岡を登って来た者達がありました。二名ほど姿を表したとき、蘭公主が思わず駆け出しそうになりました、姿を見せたのはレピダスでした。太子は彼の以前と変わらない姿に、生きていたかと納得し、妹のこの後の行動を心配しました。
しかし、その心配もつかの間で、最後に現れたのは息を呑むばかりの少女でした。
太子は人相書きの娘がこの人物であると確信しました。半ばプレディティオのでまかせであると、思っていたのでしたが、本当であったので太守は心躍りました。気が付けばプレディティオ達が笑顔で出迎えて、太子も挨拶のあと席を勧めたのでした。
「私はパテリア国太子歴山です。私の呼びかけに応じて頂き感謝いたします。まずは葡萄酒など用意いたしましたが、いかかがです」
デュックは代表して辞退いたしました。
しばらく、儀礼のような会話があり、太子が公主を心配になって様子を窺うと、衝動を抑えて耐えているようでした。話がうち解けて来たとき太子は切り出しました。
「私は、あなた方がナティビタスを占拠されている意味がわかりません。いったい何がご不満なのです」
「紀朱王は王座を強奪し、パテリアの秩序を破壊した。国は腐敗した官僚で溢れ、ヘテロの戦争は果てなく、重税に民が苦しんでいる」
「それは認めます」
あっさり太子が降参したので、デュックは拍子抜けしました。
「それであなたはどの様な国を作りたいのです。以前のような多くの領主によって統治された国ですか」
逆に太子は尋ねました。
「無論だ」
「かの時代、果たして民の税は軽かったでしょうか。民はその地から動けないし、官僚のかわりに領主が重い税を気分次第で掛けていました。ヘテロとの戦いはありませんでしたが、領主たちの戦いがありました。そに度に国が二分三分したのです。王はたんなるお飾りで、領主たちの覇者を認めるためのものでしたすぎなかった」
「太子の言われるとおり、領主はなくなり貴族と平民の差は縮まりつつありますが、貴族だけの戦いが、平民までも狩りだした大規模なものとなっているではないですか」
「私は全ては過渡期だととらえています。国を急激に造り替えたのです。その反動がまだ残っているのだと思います」
「失敗だったのではないのか」
デュックが太子に詰め寄ったとき、突然、蘭公主は机を叩き叫びました。
「レビダス、貴方はなんでこんな所にいるのよ。騎士の誇りも忘れたの!」
公主の声に皆、何事かとそちらを振り向きました。
「私はどんなに心配したか。騎士を使って貴方を調べさせれば、忘れてくれって、それはないでしょう。どうしたの、なんで変わってしまったの。私のことが嫌いになったの」
公主は身を乗りだし、レピダスを睨み付けていました。
「蘭公主。それは違う」
「ごまかさないで、私には分かるわ、この小娘よ。だってついて離れないじゃない」
蘭公主の指が真っ直ぐグレーティアを指していました。
「誤解だ。彼女とはそのような関係でない」
「ではどの様な関係よ。ただ居るだけなら私と一緒にフローレオに帰りましょう」
「今は、出来ない」
「なんなの、嘘じゃない。分かったわ。こんな女に渡すくらい一緒に死にましょう。貴方を刺したあと、私も胸を刺すわ」
そう言うと、蘭公主は懐から短刀を取り出し、鞘を抜いたのでした。一同は突然のとこに、呆気に取られていましたが太子は公主のところに駆け付けると、彼女の頬を勢い良く叩いたのでした。
「いい加減にしないか。レピダスの事は忘れろと言ったではないか。公主が騎士の妻にはなれないのがまだ分からぬか!」
太子の剣幕に、公主はいたたまれなくなって、泣きながらその場から走り去ったのでした。すると、公主を見失ってはとプロディティオは慌てて公主の後を追いかけて行きました。
「申し訳ない。会談の場にこの様な者を連れて来たことを深くお詫び致します」
太守が頭を垂れると、グレーティアはこの人は偉ぶったところがなく、心正しき人の様だと感じたのでした。
「私どもの改革は、それは納得のいくものではないでしょう。始めから完全なものはないのです。これまでの反乱の首謀者はほとんどが、前政権の支配階級の者達ばかりでした。この者達は過去の栄光を夢見ている人達です。それが民の意志といえるでしょうか」
太守は思い切った批判をしました。
「言ってくれるね。民は不満があっても、その矛先を何処に向けたらいいかわからないものだ。彼等の代弁をする者が必要だ。ご存知のように、貴族階級は文字が読めるなど、学問にひいで平民の知恵を越えている。指導者となったとしても当然の帰結だ」
「しかし、指導者は煽動者でもある。民が求めたのか、自分が求めたのか表裏一体というものではないですか」
太守はデュック意味ありげな眼差しを向けました。
「あなたは私が何者かご存知なのでは?」
「存じ上げていますよ。先の宰相の子デュック殿でしょう。反乱の大きな動機は恨みによるものです」
「生憎だが、それは俺には当てはまらない」
「ではどんな理由なのです?」
「女だよ」
今度はデュックが不敵に笑いました。
「まあ、だとしてもナティビタスの反乱は不自然でした。これがカップト近郊であれば不満者が多くいつ蜂起してもおかしくないのですが、安定した古都で蜂起したのですから。もちろん、この地にも懐古主義者はいますが、反旗を翻すほどの力はありません。あなた達は何故ここで蜂起したのです。この娘は本当に先王の姫なのか?」
「降参だ。確かに我々は政策に不満があって蜂起したわけでない。全ては姫のため」
「なるほど南の反乱と同じと言うわけですか。しかし私たちを滅ぼした後、兄弟二人は争うことになりますよ」
「そうならないことを祈っている。姫には住まうところが居る。それがこのナティビタスだ。その後は北半分は我々が頂戴する」
それを聞いて太子は大笑いをしました。
「あなた達は小さい、私はもっと大きな物を姫に与えることができますよ」
「なんだと」
侮辱されてデュック眉間にしわを寄せました。すると太子はグレーティアの方を向いて深々と礼をしたのでした。
「姫。私は北半分といわず、このパテリアの全土をあなたに差し上げます。どうか私の后になってください」
突拍子のない、申し出に一同は驚き、太守は気でも違ったのかと唖然としました。言われたグレーティアというと、目を回しそうでした。
「太子お気は確かですか?相手は反乱軍の首魁ですよ」
太子側の者が諫めました。
「本気も本気。この娘を后にしたい」
「兄弟揃ってなんて無茶苦茶な」
「私はこの娘を得るために、はるばるやって来たのだからな」
おかしな展開になって、ドクトリとレピダスは顔を見合わせると太子に語りかけました。
「太子、彼女をお后になさるというのは結構ですが、お守りできるのですか?」
「守れるかだと。馬鹿を言うな、パテリアの力を見くびるなよ」
「ならば申し上げますが。姫の命を狙っているのは、パテリア王家です」
「なにい?」
太子が声を上げたとき、地を打つ雷撃の音が響き渡りました。すこし離れた所に大きな窪みができ、砂煙を上げました。
「これは一級魔法使いの攻撃だ。しかしいったいどこから」
エコーは辺りを見渡しました。
「敵は近くではないぞ、恐るべき使い手が遙か彼方から、技を放ったのだ。並の術者の仕業でない。だがもう一つ不思議なことだが、奴はしくじった。雷撃は本来直撃だが、何者かが我々の上空の空間を歪めたのだ」
「ドクトル本当ですか。そんなことが出来る魔法使いなど聞いたことありません」
「敵は透視術をを使って、再び攻撃を仕掛けてくるぞ!」
言うが早いか、二撃目が舞い降りて地面を揺らしました。
「再び、何者かによって救われたようだ。全員城に退却だ!」
ドクトリがそう叫ぶと、太子は軽々とグレーティアを腕に抱え上げると岡を駆け下りたのでした。エコーが慌てて後を追いかけると、太子は彼女と共に馬に飛び乗り、なんと古都めがけて疾走していったのでした。空から舞い降りる雷撃は二人の乗った馬の後ろに、何度でも落ち、平原を穴だらけにしました。
雷撃が治まり始めたころ、今度は谷間の影から、騎兵が後を追いかけてきました。明らかに政府軍でした。馬上の主が太守と分からないのでしょうか、それは何処までも追いかけてきます。古都までもう少しのところで、それは迫ってきました。
するとどうでしょう。森の影から別の一団が飛び出してきました。ホーネスとストレニウス率いる騎兵でした。瞬く間に政府軍と反乱軍はぶっかり、二人の得物によって政府軍の騎兵は倒されて行きました。太子がそのまま、ナティビタスの外堀に近づくと、そこにはソシウスが待ちかまえて、わずかに残った騎兵を残らず始末しました。太子は大門をくぐぐり、やっとのことで難を逃れたのでした。
「グレーティア大丈夫?」
待ちかまえていたのはアスペルとイーリスにフィディアでした。彼女たちは外が騒がしくなったので、グレーティア達になにかあったのだと心配してやって来ていたのでした。
「奇襲に遭って、逃れて来ました。この方に救って頂きました」
「この人は?」
「歴山太子です」
「なんですて!」
三人が二人に気を取られている間に、次々とデュック、ドクトリ、レビダス、エコーが帰還したきました。
そして彼等に囲まれるように、太子は敵のまっただ中にいたのでした。
ご無沙汰致しました。ちょっと忙しく、何ヶ月もお休み致しました。
再会した事に、お気づき頂き有り難うございます。
以前に述べましたように、ラストがあるので途中で終わることはありません。
あるとするなら、いきなりラストでしょう。
さて今回は、国の偉い方と主人公達の語らいですが、かなり無理しちゃってます。
ライトノベルに「七姫物語」という、朝鮮半島のような土地に七つの国があり覇権を争っている物語があります。この小説に対して、主人公の姫とラスボスみたいな存在の姫がお忍びで語らいなど、ナンセンスだという批判があります。
これについて、その通りだなあと思っていましたが、翡翠記でもおもっきりやっちゃいました。
もっと困難なのが、トラボーと紀朱王を会わせることですかなねえ。だいぶ先の話ですが。プロディティオについては賢い人で描くつもりが、段々愚か者になって意外。キャラクターの操作は難しいです。




