第39回 古都防衛
<登場人物>
グノー 主人公の兄弟子 魔法使い
メディカス 僧侶(酔遊仙のメディカス)防御魔法、治療魔法、躰術
ホーネス スカラ国戦士(神槍のホーネス)槍の使い手
レピダス 黒虎騎士(銀弓のレピダス)弓、双頭槍の使い手
デュック 元宰相の子(斜行陣のデュック)参謀、双鞭の使い手
アスペル 女盗賊(黒豹のアスペル)スリング、手裏剣、メイスの使い手
ストレニウス 赤鬼騎士(重戦車のストレニウス)双手剣の使い手
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)バトルアックスの使い手
エコー ヘテロ青竜騎士(鎚人馬のエコー)風の魔法使い、ヴォーハンマー
フィディア 芙蓉記伝承者(譚詩曲のフィディア)竪琴
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
トリス ストレニウスの父親
ソロア ストレニウスの妹
ビリー ストレニウスの兄貴分
マリラ ビリーの妻
アビア フィディアの祖母
イーリス ストレニウスの妻
カリディアス ルミエ知県,行政長官
ガナイ カリディアスの養子
サンテス カプットの知府(行政長官)
ローム ナティビタス知府
マリタ ロームの妻、デスペロの娘
ナティビタスの庁舎城で戦が起こり、反乱軍が城を制圧したことは、町に一気に広まりました。町の住人は再び起こるであろう戦いを恐れて、戸口を閉め家に閉じこもったのでした。しかし、好奇心が恐怖を上回る人々がいて、彼等がこっそり庁舎城にやってくると、そこで彼等が見た物は古のパテリアの旗でした。それが庁舎城のみならず、王宮にたなびいていたのでした。
パテリアの国旗は何代にも渡り改編され、今は装飾がついた綺麗なものですが、初期のパテリアの旗は素朴で飾り気のないものでした。それが城壁の上に舞っているのでした。これを見た住人は郷土愛に突き動かされて、家々に戻ると話を広めたのでした。
聞きつけた多くの者が、王宮の前にやってくると、これを待っていたかのように王宮の門の上に男達が現れたのでした。
先頭にいたのはデュックでした。彼の後ろには、ドクトリと町の有力者がいました。彼は大きく息をすると、眼下に集まった聴衆に聞こえるように大声で語りかけたのでした。
「我々は、ナティビタスを再び王都として甦らせるために立ち上がった。掲げられた旗がその証である」
デュックは大きく腕を広げ、旗を示しました。
「芙蓉姫の築き上げた王国は、もはやない。王国はその名前を借りるだけの権力者によって支配された。この状態に我々は深く憂うもでのである。このナティビタスは姫が愛し、ここを中心にして彼女の栄光は成された。しかしそれは中央から使わされた権力者によって覆い隠されてしまった。誠に悲しいことである。だが、それはついに終わりを告げることとなった。そう我々が立ち上がったからである。我々はパテリアの中心を再びナティビタスに取り戻すことにしたのである」
デュックの声は遠くまで通り、彼の演説に、王宮門に集まった人々は興味深く、静かに聞き入ったのでした。
「芙蓉姫は初めてこの国にて魔法をもたらした女性であった。その力によってパテリアは拡大し、広大な領土を得るに至った。女性で魔法の技を使えるのは、彼女が最初で最後であった。以降幾多の女性が魔法を試みるも、それは哀れな末路を迎えた。だれも彼女を越えることができなかったのである。芙蓉姫はまさしく天の寵児であった。彼女が再臨したならばら、パテリアの栄光は取り戻せることであろう。
しかし、それは彼女に対する冒涜である。彼女以上に英雄的な人物はいないからである。だが、我らは欲した。勇まし彼女の姿を。
政府への力に圧倒され地下に潜った我々は、失意の中にあったが、我々は偶然にも奇貨を見出したのだった。そうある一人の少女を。
この娘は魔法の技を使い、智勇備えた人物であった。女魔法使いは芙蓉姫以外あり得ないはずである。我々はあり得ないものを疑った。しかし、その疑いは払拭された。諸君も聞き及んでいることであろう、アデベニオの獣の王の事件を。
あの恐るべき怪物の群を退けたのがその娘だったのである。信じられぬことであろうがこれは事実である」
人々のざわつく声が辺りに広がりました。暫くしてそれが治まると、デュックは先を続けました。
「そして彼女はここ、ナティビタスでも奇跡を起こしたのである。すなわちこの町の魔法の力を復活させたのである。諸君等は、見たであろう。政府の兵士が逃れる様を、彼等は娘の復活させた魔法城の力の前に逃げ去ったのである。
私はこの不思議な少女がこのナティビタスに居を構えると聞いて、これは天の計らいではないかと思うようになったのである。すなわちすなわち我らが望んだ芙蓉姫の再臨である」
人々の声には、驚きと非難が入り交じった言葉がかわされていました。
「諸君、私が再臨と聞いて、不快に思ったことであろう。これらのものが我らの妄想と思う者もいよう。それが真のこととして、芙蓉姫の再臨たる彼女を紹介しよう」
デュックが脇に控えると、奥から出てきたのはグレーティアでした。彼女は煌めく豪華な衣装に身を包み、厳かに人々が見える位置で歩み出ました。人々はその美しさに目を奪われました。
「このお方は、我らが希望、ナティビタスに栄光をもたらされる方である。驚くことなかれ、この方こそ先の王の末の姫なのである」
人々の驚きの声がが響き渡りました。
デュックが指図すると剣で背後から脅され、震えながら知府のロームが引き出されて来ました。
「ここに知府がいらっしゃる。彼がどの様にされるか見てみよう」
デュックがロームを睨み付けると、彼は恐る恐るとグレーティアの前に進むと、拝礼すると剣と印を差し出したのでした。
「殊勝なる知府殿。今、彼はこの町の全権を姫に返上された。めでたきことである」
事が終わると、冷や汗をかきながらロームは退いたのでした。
「諸君見たであろう。ナティビタスは我らのものである。そしてパテリアの真の姫が、大いなる技を携えて我らの前にあるのである。まさしく芙蓉姫の再来である。我々は、この姫と共にナティビタスの繁栄を取り戻すために立ち上がった。諸君等も着いてきて欲しい、共にナティビタスの栄光を取り戻すのだ」
すると、群衆の中から「俺は着いてゆくぜ」という複数の声が起こり、そのあとに「炎王!炎王!」というかけ声が始まりました。それは最初は小さなものでしたが、次第に大きな大合唱となったのでした。
デュックはグレーティアに群衆に向けて手を振らせると、騒きはどんどん大きくなり、群衆は歓声を上げながら、上着を振り回していたのでした。
盛り上がったことに、デュックは満足すると、次の手を考え始めたのでした。
「彼奴、相棒を笑い物にしやがって」
この光景に怒り心頭なのはソシウスでした。
「彼奴のやり方は詐欺師のそれだ。群衆の中に、桜を送り込み、あおりやがった」
「手を出すなよ、今は我慢しろ」
そう言ったのはレピダスでした。
「パテリアの栄光を取り戻すだと、思ってもいないことをよく言うぜ」
ストレニウスはあきれ顔でした。
「だが、群衆を相手にする能力は我々にはない。逃げ回るだけの旅は終わったのだ。これからは彼の力がいる」
「どうでもいいが、ナティビタスの城外には政府軍が集結しつつある。こいつをどうにかしないと、演説の夢も醒めちまうぜ」
それについてはレピダスも心配していました、政府軍をうち倒さぬ限り、住民は着いてこないということを。
知府の妻マリタはナティビタス近郊の陣地にいました。昨夜は反乱軍の奇襲に遭い、庁舎城から逃れ、体制を立て直しすためにここにいました。夫の知府ロームは敵の掌中にあり、救出は難しい状況でした。そこで彼女は諸将を集めると、軍議を行ったのでした。
勿論、彼女には形式上命令権はありませんでしたが、実権はこれまで彼女が持っていたので、そこはなんの問題もありませんでした。
彼女が反乱の気配を察し、近郊の平野部に軍を集結させていたので、攻撃の準備は整っていました。通常は軍の補給はナティビタスよりなされるものですが、今回は別の町より確保していたのでした。
「私たちは反乱軍に町を奪われ、知府は囚われの身となっています。諸将の力を借りて奪還しようと思います」
マリタが挨拶をすると、将らは畏まりました。
「昨夜の攻撃の数から、反乱軍は二百人程度の軍勢でした。これに対し私たちは二万の兵を揃えています。またフローレオに早馬にて状況を報告し、周辺の町に散らばらせた兵を呼び寄せています。数の力で、彼等を屈服させるつもりです」
すると一人の将が意見を述べたのでした。
「しかし、力攻めでは此方の被害が大きくなります。ナティビタスは華やかな装飾で飾られていますが、外周は強固な要塞です」
「なるほど、だがしかし、相手は僅かに二百人程度、庁舎城と四方の門に配置してしまうと、いないも同然ではないか?」
「昨夜の不思議な攻撃をお忘れですか、数が少ないと油断めされると、危険です」
この様に将が忠告すると、他の将は反対の意見を述べてきました。
「戦いには勢いといものが必要です。敵の体制が整わない内に、迅速に攻め落とすのが上策です。敵に時を与えれば、我々の優位性が損なわれることでしょう」
暫く考えていたマリタは、結論をだしました。
「相手を知り、自分を知れば、危ういことはありません。本当に我々が優位にあるのか確かめる必要がありそうです。庁舎城のみならず、町の外壁まで不思議な技が及んでいるとするなら、迂闊に飛び込むのは危険です。今日攻撃をしかけ、どういった攻撃が何処から行われるのか、その射程と死角を調べるのです。まずは全軍を南門前に前進させ我らの軍勢に姿を見せ、城に取り残された兵や住人に反乱軍に荷担しないよう威圧をかけるとしましょう」
こうして、政府守備軍が前進すると、その陣容にナティビタスの人々は恐れたのでした。
デュックは王城にて慌ただしく、動き回っていました。僅か二百人程度で大きな都を支配することは大変なことでした。レピダスはドクトリとともに、デュックを呼び止め、今後について話し合いました。
「政府軍二万が南門に陣をはったようだ」
「聞いている。圧倒的数だな。演説の後、守備兵が1千人に増えたが、それでも二十倍だ。まだまだ、町の連中は半信半疑の状態でな。状況によっては政府軍に味方しかねない。こうなると、あんたたちのお仲間の娘に期待するしかないな」
「グレーティアのことか?」
「いやフィディアという娘だ。あの竪琴に、この城の装置が反応するらしい。彼娘も不思議ちゃんだったとは。予想外だった」
「庁舎城や王宮が反応することが分かったが、町の外壁は出来るのか?」
レピダスが尋ねると、デュックは肩をすくめました。
「外壁は芙蓉姫の時代に築造されたものだ。おそらく働くであろう」
と言ったのはドクトリで、二人はそうあって欲しいものだと思いました。
政府軍一回目の攻撃が行われました。南門に政府軍が大挙攻撃を仕掛けましたが、門壁面が輝いたかと思うと、一閃将兵が薙ぎ倒されたたのでした。用心はしていたものの、一瞬にて多くの死傷者を出して、政府軍の将兵は驚き、後退したのでした。続けて、東門、西門、北門を攻めましたが、政府軍は同様の被害を受けて、城内に入ることは出来ませんでした。
政府の攻撃を四度退けたことにより、反乱軍の志気はあがり、半信半疑でだった者も次第に反乱軍に期待を持ち始めたのでした。
「城の攻撃の射程はおおよそ、分かりました。守備能力は外壁全てに及んでいるのは確かです。しかし死角もあるようです。次は土属性の魔法使いに門を攻撃させましょう。庁舎城内部では魔法が無効化されましたが、外部からどうなるか確かめましょう」
マリタが指示をすると、魔法使いの一団が集められ、射程外から、城の門目がけて攻撃が成されたのでした。だいぶ距離があったとはいえ、魔法の攻撃はうち消され城門は無傷でした。これによりマリタは、魔法使いが魔法を使えなくなるだけでなく、魔法そのものをうち消すのだと気が付いたのでした。
こうなると通常戦で落とすしかなく、彼女は次の手を打ったのでした。
「この城相手に魔法が通じないのは証明されました。私はこの城の防御がいついかなる時も働くのか確かめようと思います。と同時に不定期に攻撃を仕掛け、なかの守備兵を疲れさせることとしましょう」
政府軍は昼夜を問わず、鬨の声をあげ、城守備兵を休ませず、門を攻撃しました。しかし、何時攻撃しても、城の不思議な攻撃は続き、政府軍を退けたのでした。
「この城は誰かが攻撃を操作しているというより、自動的に反撃をしているようです。その識別を混乱させれば攻め手がありそうです、しかしそのまえに力業を行いたいと思います」
土嚢を荷馬車に積み込むと、射程外から突っ込ませ、少しずつ前進したのでした。この作戦はある程度効果を見せたのでしたが、城門に近づくにつて、その土嚢ごと切り裂くほどの城からの攻撃を前に、近づくことは出来ませんでした。代わりに煉瓦で試みたものの同じでした。
「城の攻撃力がこれほどとは予想外でした」
マリタは厳しい顔をすると、一人の将が提案をしたのでした。
「恐れ入ります。私に一つの考えが御座います」
「申しなさい」
「我々は地上の戦いだけに目を向けすぎています。地下から攻めてはいかがでしょう」
「地下からか?しかしそれは時間がかかるでしょう?」
「投入する人員次第です」
彼女はこの案に喜び、大人数を投入したのでした。
この間、地上では土嚢を頼りに、前進し、蛇のように塹壕を掘り進めていました。
戦況ははかばかしくなく、周辺の兵が集まりつつあり兵数は3万に達していましたが、打つ手を見いだせずにいました。相変わらず、城を取り囲んで、奇襲をかけ守備兵眠らせない手を打っていましたが、魔法の防衛に効果なしの状態でした。
陣地内に掘り出した土の山を見たマリタは、そろそろ城内に達したに違いないと判断し現場の将に尋ねたのでした。
「二本の地下道を掘らせていますが、そろそろ城内まで達したものがあるのではないですか?」
この問いに、将は答えられず俯いていました。
「どうしたのです、人が少ないのですか?」
「そうではないのです、掘り進むと何故か城を逸れてしまうのです」
「真っ直ぐ掘っているのですか?」
「間違いないのです。通路は真っ直ぐなのです。しかし何故か城の外に出てしまう」
困惑している将を見て、彼女はため息をつきました。
「これは貴方のミスではありません。不思議な力のせいでしょう。この作戦は使えません、直ちに中止しなさい」
彼女はついに、犠牲を覚悟で力ずくで城門を落とす決心をしました。城の防御が間に合わないように大人数で突撃し、門に取り付くといったものでした。梯子を抱え大挙外壁に押し寄せましたが、城の攻撃が早く、取り付く前に一掃されてしまいました。
この作戦は無惨な結果に終わり、甚大な被害をだしました。彼女は苦虫を咬む表情を見せ、諸将を集めると、問いました。
「兵糧責めはどうですか?」
「それしかないかと思われますが、府都です。備蓄は十分すぎるでしょう。むしろ我々は四万に達し、滞りがちです」
「これだけの兵が集まりながら、落とせないとは・・・・」
マリタは頭を抱え込んでしまいました。そして意を決したように言いました。
「城内への物資輸送は我々は許しています。これは城内平民を考慮してのことですが、これに兵に代わらせ、潜入させます」
「しかし、それでは僅かな兵。その者達が仮に城門を制圧したとしても、外から押し掛ける我々を城が不思議な力で退けるでしょう」
「いいえ、私はそれを狙いません。狙うは敵将の首。暗殺隊を送り込むのです。この城の防御は完璧です。しかしそれは誰かが動かしているはずです。その者を殺すのです」
「暗殺者ですか」
諸将は反論できませんでした。
「我々を阻んでいるのは城の防御機能。これを除かぬ限り手の下しようもないのです。標的が分からないのは悩みの種ですが、漏れ聞くところによると、先王の王女が王宮に居座っているとのこと。この娘、アデベニオにて獣の王を退けたと聞きます。おそらくこの娘が操っているのでしょう。優秀な暗殺者達を城内に送り込みます」
マリタの暗殺集団は諸将も噂には聞いていました。魔法宰相直属の暗殺集団であり、音もなく忍びより、始末すると、風の様に去っていくと言われていました。
折角、ナティビタスにやってきたのにストレニスは妹のソロラと再会が出来ずにいました。それは庁舎城の戦闘以降、政府軍が執拗に攻撃をしかけて、反乱軍の兵士を火の車にしていたからでした。彼等は直接戦闘はぜす、外からの侵入は城自体の防御に任せきりでしたが、平民の紛れて潜入する敵を監視する必要性があったのです。
戦闘となってから、町の人々は引き篭もり、戦いが終わるのを待っていました。しかし生活物資は必要で、それらの出入りがあったのでした。これらの運搬に兵が紛れ込んでいることがあり、先頃も不審な行動をする者達を見かけ、取り押さえたところでした。
「政府軍は取り囲んでみたものの、手も足も出ないようだな」
ソシウスは南門の上から、遠くに陣を構える政府軍の威容を見ながら、愉快そうにストレニウスに話しかけました。
「この城がこれほどの強度があるとは思わなかった。昔、虎の爪の城に政府軍が手を焼いたのは納得できる」
「頼もしい限りだな。しかし、俺達が闘わなくてはならないのは、彼奴等じゃないんだろう?」
「のようだな。この世ならざる者らしいが。この強固な城に獣の王まで使わなくてはならないなんて、どんな奴なんだ」
ストレニウスは笑いながら視線を遠くに置くと、政府軍が隊を移動させていました。
「交代だ」
やって来たのはビリーでした。彼の後ろにはもう一人着いていました。
「兄貴か」
「ソアラが王宮にいるぞ、会ってきたらどうだ?」
ストレニウスの顔が更に明るくなりました。
「そうか、それじゃ行って来る」
「美人さんになっているぞ」
「よせやい。あいつはそんな玉じゃねえ」
「お前は妹には厳しいな」
ビリーは微笑ましげでした。
ストレニウスは妻のイーリスとソシウスとともに王宮にいってみると、メディカス老師が白い階段の途中でに三人の若い女の子を相手にいちゃついていました。相変わらずの色情爺さんだなとストレニウスは眉を下げました。無差別に女の子を相手する老師より、ちゃんとえり好みしておつき合いをする自分の方が健全だと彼は思いました。ソシウスについては、グレーティアを相棒と呼んで、色のことがさっぱり分からない奴で、自分自信がグレーティアに惚れているということが分からない、堅物野郎と見なしていました。
だが、自分が女好きであることを、妻のイーリスに知られたら恐ろしいとになると、この思いは秘めることにしました。
王宮本殿に行くと、何故かプエラがシャボン玉を飛ばして遊んでいました。この娘はどこか抜けたところがあって、戦の最中なのに何処吹く風よと、行動することが多いのでした。
「ねえ、ねえソシウス、イーリス綺麗でしょう。貴方達もやってみない?」
プエラの誘いにソシウスは困ったように、彼女をなだめると、ストレニウスの後に続きました。
中に入ると、そのそこにはグレーティア、フィディア、アスペルがいました。
「なんだ、未だそんな格好させられているのか?」
グレーティアの服装を見て、ソシウスはため息をつきました。
「似合っているわ。本当のお姫様みたい」
「着せ替え人形と間違えていませんか?」
ソシウスはアスペルに意地悪く言いました。
「だって、こんな美人の素材見つからないわよ。せいぜい私を楽しませて頂戴」
「なにか言ってくれ。イーリスさん」
ソシウスが彼女に助けを求めると
「素敵、私も美人だったら着てみたいわ」
と止めの一発を受けました。アスペル達は夢中のようでした。
ソシウスは撃沈し、以前こんな光景を実家で見たような気がしました。
こんなやりとりをしていると、ストレニウスは本殿内を歩き回り、妹を捜していました。
「何処だ、何処だ」
やっとストレニウスの存在に気づいた、アスペルは彼を呼び止めました。
「誰を探しているの?」
「妹だ。ソロアてんだ。此処にいると聞いて来たんだが」
ストレニウスは必要もないのに、焦っていました。
「彼の娘ね。時期戻ってくるわ」
アスペルがそう言いかけたとき、ドアが開き、なかに入ってくる少女の姿がありました。「ソロア!」
ストレニウスが大声で叫ぶと。
少女は小震いし、恐る恐るその声の先を見ると、兄の姿がありました。
「お兄ちゃん!」
ストレニウスは走り寄ると、しっかりと妹を抱きしめました。
久しぶりの兄弟の再会でした。
ソロアも兄を抱きしめ、涙を流しながら語りました。
「お兄ちゃん、遅いよ。ナティビタスで待っていると言ったでしょう。私、お兄ちゃんと二度と逢えないんじゃないかと思ったのよ」
「すまん、道草をしてしまった」
ストレニスは深く妹に詫びました。
ふと彼が見上げると、そこにはビリーの妻のマリラがいました。ストレニウスは慌てて涙を拭きとると、彼女の手を掴みました。
「義姉さん。妹がお世話になりました」
彼は感謝の念を込めました。
「私たちは、貴方のお父上に助けられ身です。礼を述べるなら私たちの方です」
久しぶりの再会に、三人は涙しましたが、落ち着くと彼はイーリスを呼びました。
「ソロア、義姉。これが妻のイーリスだ」
「姉さん!?」
いきなり家族が増えて、ソロアは目をぱちくりとしました。
マリタの放った暗殺者達はナティビタス王宮に潜入していました。物資輸送の人夫に化け夜を待って王宮内に入ったのでした。反乱軍が支配してから、人手不足なのか守備兵の数は少なく、潜入は容易でした。しかし城の不思議な防衛力は侮りがたく、彼等は用心深く、進んだのでした。
「我々の標的は、姫の命だが、一つ気になる存在がある」
「どの様なことでしょうか?」
「アデベニオでの獣の王の事件にて、竪琴の紡ぎ手が獣を鎮めたと報告を得ている。つまり獣の王を下がらせた娘の他に、紡ぎ手の娘がいたということだ」
「それでは、竪琴の娘が動かしているのではないかと?」
「推測にすぎないがな」
暗殺者の二人は、王宮の深く寝所近くまで迫っていました。しかし標的とする相手の顔も分からず、居場所も分からず特定に苦しんでいました。
暫く潜んで、中の様子を窺っていると、身なりの良い服を着た美しい娘を見かけ、それが姫であると判断したのでした。姫らしい娘を探し当てた後、他にも同様の娘がいないか調べ上げ、いないと判断すると、寝所を襲うことにしました。二人が窓から忍び込み、刃を振り上げ胸に刃を振り下ろそうとしたとき、ドアが勢い良く開かれ、娘と男が飛び込んで来たのでした。
「隙あり!寝込みを襲うわよ」
飛び込んできたのはプエラでした。手を引かれてきたのは、いやいやながらつき合わされて来たソシウスでした。プエラは戯れに寝込みを襲うつもりでした。
これに驚いたのは暗殺者でした。刃物振り上げた瞬間に乱入者が入り、それに気を取られた瞬間、目標を見失い、再び振り下ろした時は、姫に避けられたのでした。いやいやながら着いてきたソシウスはこの事態に我に返り、戯れに持っていた剣を抜くと暗殺者に立ち向かったのでした。
暗殺者は再びグレーティアを襲おうとしましたが、この時彼女は剣を持ち、身を防いでいました。姫が剣術に優れ、容易く仕留められないことに驚いた暗殺者は二人がかりで襲いかかりましたが、ソシウスが加わると、支えきれなくなって、退却を余儀なくされました。
「くそ!なんて逃げ足の早い奴らなんだ」
ソシウスは地団駄踏んで悔しがりました。
暗殺に失敗した二人は、屋根をつたい王宮の外に向かっていましたが、彼等を追いかける、影を見出したのでした。追っかけて来たのは、女一人に男一人、自分たち同様に音も立てずに、屋根を疾走するので、ただ者ではないことを察したのでした。
「暗殺者をこのまま返すわけにはいかないわ、私はアスペル。あなた達には死んで貰うわ」
女の動きは、豹のように柔軟で、暗殺者の刃を尽く交わしていました。その柔軟な身体から片手のメイスが繰り出され、頭を粉砕されるところでした。暗殺者も素早い動きで翻弄させてはみるものの、女がなかなかの手練れでした。
しかし驚いたのはもう一人の男のほうで、巨大な体をしているのですが、身のこなしは早く、その中から長剣を繰り出してくるのです。暗殺者の一方はこの力に圧倒され、一刀に切り倒されたのでした。
「姫を暗殺しようだなんてふざけた奴だ。おれはストレニウス、この剣の露となってもらおうか」
反乱軍にこのような体術をもった者達がいることに驚いた暗殺者は、懐から取り出した者を屋根に叩きつけました。煙が辺りに広がり、視界を消すと、この間に彼は逃げたのでした。
暗殺者は裏をかいて先に逃げたと見せかけ、後戻りをすると、とある場所に逃げ込んだのでした。
暫く様子を窺っていると、追跡するものの姿もなく、一安心すると、その庭にある部屋に目をやりました。そこには一人娘がいましたが、その近くに竪琴が立てかけてあったのでした。これを見た彼は、もしやと思い、娘に忍び寄り眠らせると、攫っていったのでした。
「暗殺が失敗したのは残念です。当分の間警戒が強くなることでしょうから、暗殺という手段は使えません」
マリタは作戦が失敗したことに、そう簡単に世の中はいかないものだと納得していました。
「お前のアイデアの竪琴の娘が操作しているのでないかという案ですが、残念ながら外れのようです。一度試しに攻撃させて見ましたが、今まで通りでした。あるいは別の紡ぎ手がいるのかもしれませんが」
マリタは額に手を置きました。
「そうね、この娘は反乱軍の一味、ならば餌になってもらうわ」
次の日、政府軍から反乱軍に書状が送られていました。
「ソロアという娘は預かっている、返して欲しくば、奪い取りにこられたし」
というものでした。
これにストレニウスは激憤しました。机を叩き割ると、双手剣を片手に出ていこうとしました。
「まて、何処に行く!」
「しれたことよ、妹を助けに行く!」
ソシウスの制止を振り払って行きそうな気配でした。
「相手は四万の大軍だ。捕まりに行くようなものだ」
「それでも、俺はソロアを見殺しに出来ない。昨晩、一人捕り逃した俺の責任だ」
「分かった。なら俺も一緒だ」
これには逆にストレニウスが戸惑いました。
「待て、お前は関係ないだろう」
「俺達は仲間だろう。お前一人で行かせはしない」
真剣なソシウスの目に、ストレニウスは胸を打たれました。
「お前達では役不足だ、私が加わろう」
そう言ったのは、普段無口で、静かに聞いてばかりいるホーネスでした。
「敵には魔法使いもいるだろう。俺を連れていかないと失敗するぜ」
若僧のエコーが自分を指さしながら近づいてきました。
「まったく、無鉄砲な奴らばかりだ。状況が分かっているのか大海に小舟で乗りだすようなものだ」
レピダスが批判するとホーネスが答えました。
「お主も、感じているだろう。ナティビタスに入城以来、どんどん力が増していることを。この感覚は俺がパテリア国にやってきた時と同様のものだ。知りたいと思わぬか、この力を」
この言葉にレピダスは暫く考え
「猪みたいに突進するしか能がない奴らには、俺が必要か」
といつものように皮肉を言いながら輪に加わってきました。
「若い者が切りきざまれるのもを見るに、忍びない。どれ儂が守ってあげよう」
半分酔いどれの老師が御輿をあげました。
するとデュックが唾を飛ばして大声で叫んだのでした。
「馬鹿やろう。敵の罠に何故はまりにゆくのか。取り返せるとでも思っているのか。ここは策を練るべきだ!」
しかしその声を無視したのはアスペルでした。
「私も加わるわ。刺客を捕り逃したのは私の責任でもあるし」
「お前まで何を言っている。政府軍相手に、この城だから守れるんだぞ。野戦を仕掛けては勝敗が目に見えている」
デュックはアスペルを止めようとしましたが、彼女はがんとして聞き入れませんでした。
かくして、ナティビタスの南門から七騎が飛び出していったのでした。四万の大軍が眼前に待ちかまえていました。
政府軍の指令マリタは城から飛び出したのが僅か七騎だったのに我が目を疑いました。彼女は反乱軍を軍勢で現れさせ、わざと救出させ、混線状態のまま南門になだれ込み、門を制圧すするというものでした。城の防御が直ぐれているとはいっても、混線状態のものを攻撃はできまいという判断でしたが、たかだか七騎では、混線状態にもっていっても、城の防御は味方ごと攻撃しかねないのでした。
策が崩れたと、思った彼女は、ならば、七騎を捕らえて再び囮に使おうと考えたのでした。
「よいか、儂の術で、矢によって傷を受けることはあるまい。ただ、無駄な殺生は控えるように、私は血を流すのが嫌いじゃからのう」
隊列は老師を中心として前方にホーネス、その左右にストレニウスとソシウス、左にアスペル、右にエコー、そして背後にはレピダスがいました。
七騎は平原をゆっくりと無数の旗が立ち並ぶほうに向かって馬を進めました。背後には白い城壁、青い空を渡って前面には、四万の大軍勢。
やがて政府軍が二騎が彼等に駆け寄ってくると、伝令を伝えたのでした。
「我々は諸君等の勇気に感銘を受けた。人質は本陣の赤い旗の所にいる。各陣を突破してこられよ」
というものでした。
政府軍としては余興のつもりのようでした。
「突破しろってか。余裕だな」
こうソシウスが言っていると、敵右翼の一角に動きがあり、それは一塊りとして此方に向かってきました。
「ざっと、二千か丁度良い」
先頭のホーネは不敵な笑いをしました。
敵軍は間近に迫ったとき、ホーネス等は馬を早めました。そうして一気に歩兵の固まりに突入したのでした。ホーネスの槍に閃光が走ったかと思うと、百人ばかりが吹き飛ばされ、その威力は以前より、遙かに増していました。これに続く、ソシウスとストレニウスの攻撃は旋風が吹き荒れるようで、次々に兵士が蹴散らされて行きました。ものの数分も立たないうちに二千の集団は真っ二つに裂かれ、散開してしまったのでした。
これには政府軍のマリタも驚き、我が目を疑いました。歩兵に対し騎兵の優位性が出たのだと判断したマリタは今度は左翼側に待機させた騎兵に襲わせることにしました。
騎兵の数は二百騎、十分な数でした。しかし恐るべきことに、ホーネスの一撃を受けて一塊りになって吹き飛ばされ、ストレニウスの剣やソシウスの斧で馬ごと薙ぎ倒され、残存の騎兵はアスペルのメイスとエコーのハンマーの餌食になったのでした。
騎兵が全滅したと知った、マリタは七騎がなかなかの使い手であることを知ると、将を呼び一騎打ちを命じたのでした。
一番最初に登場したのは、弓の使い手でした。馬上から繰り出す矢は正確で小さな標的をも射抜くものでした。これに対したのはレピダスでした。両将は馬を走らせると、すれ違いざま、矢を放しました。敵将の矢は右頬をかすめ飛び、レピダスの矢は喉を射抜いていました。一瞬の出来事でした。次に登場したのは槍の使い手でした。これにはホーネスが対戦し、敵将はホーネスの槍の回転を受け、槍を持った両腕をもぎ取られ、胸に風穴を空けて馬から落ちました。三番目の将は巨大な流星鎚を振り回す将でした対戦したのはストレニウスでした。彼は飛んできた錘を剣で弾くと胴を一閃、敵将は二つになって地面に転がったのでした。最期に登場したのは、双剣を扱う将で早さにたけた人物でした。対戦したのはエコー。両者はぶつかりあったのですが、敵将はエコーの馬捌きに翻弄され、襟を掴まれ、馬から引き落とされると、上からハンマーの一撃を浴びて果てたのでした。
送り出した全ての将が倒れたことに怒ったマリタは、弓兵の一団を前に進め、一気に掃討することにしました。生きて返さぬ方針に転換したのでした。
一瞬にして、空を埋め尽くすほどの矢が舞い上がりました。それらは一塊りになって、七騎を襲いました。しかしそれらの矢は老師の防御魔法によって防がれ、七騎はまったくの無傷でした。三度弓による攻撃を繰り返しましたが効果はなく、そうの間に七騎が弓兵の一団に到達し、ばらばらにされたのでした。
これは、魔法の技を持つ者であると悟ったマリタは魔法使いに攻撃を命じました。強烈な魔法が七騎を襲いましたが、彼等は老師に守られ無傷でした。魔法使い達が驚いて立ちすくんでいると七騎は眼前に現れ、魔法使等はエコーの魔法を浴びて消失してしまいました。 僅か七騎が無人の野を疾走するかのような様に、怒り心頭に達したマリタはお遊びはこれまでと、四万の軍勢を使って、屠ることにしました。
いままで、様子見の状態であった四万の軍勢は、ホーネス等を消し去ろうと動きだしました。本陣の中央にはソロアがいるであろう赤い旗が見えていましたが、瞬く間に多くの軍勢が取り囲み、行く手を拒んでいました。僅か七騎はその兵士の海の沈みつつあるようでした。
しかし次の瞬間、歩兵集団の固まりは、次々に吹き飛ばされ、大きく崩れていったのでした。七人は鬼神のごとく、周囲の兵士を薙ぎ倒し、本陣に迫っていったのでした。マリタはこれだけの軍勢がいるのに、僅か七人を止められないことに驚き、彼の者達は何者なのかと目を見張りました。昔、アウダックなる男が反乱を起こし、その勇猛な武芸をでもって政府軍を苦しめたということがありましたが、彼等はそれ以上でした。これはとんでもない敵を相手しているのではと、マリタは下唇を咬みました。
前衛の武将が、ホーネスに挑みましたが、槍の餌食となり、盾で密集して迫った歩兵軍はストレニウスとソシウスに力に圧倒され、砕け散り、引き裂かれてしまいました。こうして七騎は赤い旗まで、近づきましたが、そこにはソロアの姿はありませんでした。
これには、ストレニウスは怒り、卑怯者呼ばわりしました。気が付けば彼等は敵のど真ん中にあって、周囲に分厚い軍勢の垣根がありました。無理な突撃を敢行しましたが、大勢の兵に囲まれるのは、良い状態ではありませんでした。
するとレピダスはそう遠くない所に、身分の高そうな女が立っているのを発見すると、ひょいと矢を放ったのでした。女の直ぐ近くに矢が刺さり、彼女は驚いていました。
これを見届けたレピダスは、満足し、笑みを浮かべたのでした。
そして留まっていることは、危険であること感じだレビダスは、すぐさま退却を指示したのでした。まだ納得できないストレニウスは周囲を見回しましたが、妹の姿はなく、しかたなく敵を罵りながら、外を目指しました。強引な突進を受けて、浮き足立った政府軍は敵が退却するそぶりをみせると、立ち直り、追撃を始めました。七騎は外を目指して、まっしぐらに進み。その後を政府軍の兵が追いかけしました。背後を守るレピダスは、勇んで後を追いかける将を狙って、振り向きざま矢を放すと、見事心臓を貫き、将は落馬をしたのでした。残された兵は躊躇し、追撃をやめ、他の一団と交代したのでした。
こうしてホーネス等は背後に沢山の軍勢を背負い、城の近くまで戻ると、南門から中にはいったのでした。好機と七騎を追いかけた軍勢は、そのまま城内に侵入しようとしましたが、門の直前で城からの攻撃を受け、退却を余儀なくされました。
「くそ!嘘つき野郎どもが。赤い旗のもとにいるから取りに来いだと。いないじゃないか!」
ストレニウスが近くのにあった、壁を叩くと、そこは大きくへこみました。
「焦るな、今度は夜、奴らの陣営に潜入し、妹さんを捜し当てるとしよう」
いらついて治まらないストレニウスをソシウスはなだめたのでした。
そこに、城壁の上から眺めていたデュックがゆっくりと降りてくると、面白げに彼等のもとにやってきたのでした。
「遠乗りはどうだったかな?」
汗だくの彼等に他人事のような問いかけでした。
「こっちは命がけだったんだぞ!」
ソシウスが言うと、デュックはお構いなしでせせら笑っていました。
「命がけで成果無しでは、話しにならない」
「デュック何を言うの、妹さんを助けたい一心でやったことなのよ」
アスペルは怖い顔をしました。
「どうして俺に心配をかけさせるんだ。いつもいつも、お前は無鉄砲に飛びだしてゆく。それを待つ俺の身になってくれないか。こいつ等はおつむが足りない。腕が立つのは分かったが、猪突猛進なのが欠点だ。そんな者に着いてゆく必要性はないだろう?」
「そんなに私がやったことが嫌いなら、どうぞそちらの観覧席にお座りください。今度は見事、妹さんを取り戻してみせるわ」
彼女の言葉にデュックは頭を掻き、悩ましげにしました。
「そうやって、君はいつも俺を悩ませてくれる。俺ってなんて不幸な男なんだ」
「だったら、妹さんを助ける方法を考えなさいよ。唐変木」
デュックの瞳が光りました。
「考えたら、好きになってくれるかな?」
「そうね、妹さんを取り戻したら、かもね」
デュックは指を鳴らすと、レピダスに問いました。
「頼んだように、女に矢文は届いたか?」
「大丈夫だ。あれで気が付かぬものはいないはずだ」
「作戦は成功だ。俺は彼に文を届けるように頼んでいたのだよ。これで妹さんは助かる」
デュックは手を広げ、アスペルのご機嫌をとろうとしましたが、彼女は冷淡でした。
「信じてくれないか・・・仕方ない。まもなく知府の妻マリタからの使者がやってくるはず」
アスペルは、彼の言葉を信じないで、次の出撃に備えて馬を交換にいこうとしました。すると城の外を監視していた兵士から連絡があり、政府軍の使者が旗をもって門のすぐ下までやって来ているということでした。デュックは使者を通すと、一同の前で話を聞きました。
「使者殿、どうぞご自由にお語り下さい」
すると使者は、デュックに遠慮なく語りかけました。
「あなた達は、何故古都を占拠するようなことをするのです。中央政府はこのまま見逃しはしませんよ」
「もともとナティビタスは王の住まわれるところ、フローレオの指図を受けるのはおかしい。この町は他の町と違い、王の直轄地である。そこに知府を送り、組織の一部とするなど言語道断。勝手に役人を据えて占拠したのはどちらかな?」
「かつてその様に、地方の豪族が政治権力を持った時代は終わったのです。王の天領も同様です。王に権力は集中し、かつてない繁栄をもたらしているではないですか」
「ヘテロとの長い戦いにより、軍費を増大させ、国を疲弊させていることが繁栄ですか?」
「確かに隣国との争いは続いているが、国内の権力闘争は終わりました」
「なにかお忘れでないかな。国内では小規模な反乱が続いてますぞ」
「天領の臣民が、王に従わぬのはおかしくはありませんか?」
「我々は王に反旗を翻したのではありません。むしろ我々こそパテリアの良心」
「しかし、王に逆らっておいでだ」
「その王は実の兄弟である王に謀反を起こし玉座を奪いましたが」
「それはやもう得ないこと、王権を強くするためなのです」
「だから我々は、前王の系統を選んだ」
「双子の姫君のことですな。同じように、南でも双子のもう一人の王子が正統政府と名乗り反乱を起こしていますぞ。どちらが正統なのですか?」
「むろん我々だ」
デュックは不敵な笑いをしました。
「マリタ殿から言付けはありませんでしたか?」
「貴殿等の申し出を受けるとなされました。娘は城の外、凱旋門で引き渡しましょう。その時、我らの知府をこちらに引き渡していただきたい」
「あい分かった。日が頂点にあるとき、互いに五騎のみで、立ち会うこととしましょう」
こうしてソロアと知府ロームの交換は成立し、使者は帰っていったのでした。
「人質交換て、いつ話がついていたのよ?」
アスペルは非難しました。
「敵陣営に突っ込むと言うから、俺がレピダスにマリタ宛の矢文を頼んでいた」
「なんて書いていたのよ」
「知府は人質として預かっている。亭主の命が欲しくば、こちらの娘と交換だ。娘に手出しをしたら亭主の耳、鼻、男根は無いと思え。拒否するなら明日の飯に亭主の肉を食うことになると書いた」
「まあ、なんて下品。まるで山賊じゃない」
「俺達そうだったじゃないか」
「なに言っているの、それになんで早くその手打たなかったのよ。私がどんな危険な目に遭ったか分かっている?」
「それは、止めるのを聴かずに、出発したからじゃ・・・」
「あなたが、早く提案しないからよ!」
「お・俺のせい?」
自信満々だったデュックは彼女に責められ、釈然としないまま、人質交換の準備をすることになったのでした。
正午、凱旋門に十騎が揃いました。ソロアは攫われて疲れきっていましたが、体は無事でした。ストレニウスと再び涙の再会をしたのでした。知府のロームはやせ細るどころか、デュックが懐柔させようと、酒浸りにしていたので、脂ぎり、その日もほろ酔い加減でした。デュックに健康のため遠乗りをしようと誘われ、凱旋門についてみると妻のマリタが恐ろしい顔をして睨んでいたので、腰がぬけたのでした。
亭主を取り戻し陣営の戻ったマリタは、疲れたように腰を下ろしました。直ぐ側にはおろおろして落ち着かない亭主のロームがいました。
「マリタ様、やはり凱旋門に弓兵隊を送り、人質交換後暗殺すればよかったのではないでしょうか」
側近の一人が言いました。
「彼の者達は、四万の中を駆け抜けた者達です。打ち漏らせば私たちが返り討ちになったことでしょう」
「では、再びナティビタス攻略を」
と言いかけたとき、マリタは止めました。
「もう必要ありません。フローレオのお父様から早馬で連絡がありました。ナティビタスを放棄せよとのことでした」
「なんと。そのような。これからと言う時に」
「魔法に守られた城にむやみに戦いを挑んでは、兵を無くすだけです」
「では、町への物資の輸送を遮断しましょう」
「ナティビタスに招へいした兵は、各町に帰還させます。そしてナティビタスの軍勢は西のタベラナに向かいます。ルーバス地方の反乱軍が府都を狙っているようです。これを防ぐのです」
「残念です」
側近は悔しがりました。するとマリタは天を指さして語ったのでした。
「空を見上げてご覧なさい。昼だというのに青い空の中に二つの星が燦然と輝いているわ。一つはヘプタト、もう一つはヘクサド。これらの星が天井を覆い尽くすようになると、世界が滅びに向かっていくらしいの。王国内も怪物の出現が頻発し混乱の始まりを見せたわ。
そして今度は魔法の城の登場。しかもたった七騎が四万の軍勢をものともぜず、駆け抜けた。なにかが変わりはじめているのよ」
マリタに言葉に空を見上げると、異様な二つの輝く星があり。彼はなにかが起こり初めているのだと、不安な気持ちに襲われたのでした。
ストレニウスと妹のソロアが再会しますが、この兄妹が分かれ離れに何故なっているか
お忘れの方は、第15回 チャリオット を読み返して下さい。主人公達の目的地到着が長くなったので、記憶の彼方に飛んでいってしまうのは、しょうがないことでしょう。
過去を語る、芙蓉記が不思議の城まで書けるかわからないので、解説すると、魔法の城(機械仕掛けの魔法)は西部一帯にかつて存在し、パテリアと戦ったものです。このことは第6回なんかで語られています。
現在パテリア国内には3つの反政府勢力が有り、これに外国のヘテロが加わっており、どうなるんでしょうか。多分全部の勢力は書ききれないので、2勢力だけになりそうです。




