第七十六話 狂愛と閃く矢
皆さんこんにちは。
ヤミです。
本日は第七十六話を投稿させていただきました。
バラバラになった《暁》の仲間たち。そこを狙う《世界政府》。混沌としたこの戦いの行方は。
是非お楽しみください。
マーガレットとアルケインの妹であるエミリアは、現世という名の知らぬ土地を二人で彷徨っていた。
「マーガレットさん…。」
「エミリア様。大丈夫ですよ。」
マーガレットはエミリアの手をぎゅっと握り、七勇者たちと合流するために先へ先へと進んでいく。
「これはこれは。美しい女性が二人揃って。とても良い眺めね。」
突然、二人の前に一人の女性が現れた。マーガレットは警戒しながら尋ねる。
「あなたは?」
「私はアフロディテ。あなたたちを守ってあげるわ。」
アフロディテは二人へゆっくりと近づいていく。
「この辺りには、頭のおかしな者ばかりいるから。あなたたちのような美しい女性は、決して傷つけさせはしないわ。」
マーガレットとエミリアは、少し安堵した様子でアフロディテに近づく。
「私はマーガレットと申します。」
「私はエミリアです。」
「あら、可愛い名前ね。さあ、この辺りは危険だから、少し離れた場所へ移動しましょう。」
二人はアフロディテの後に続いていく。しばらく歩いたところで、アフロディテは二人を一つのビルへ案内した。
「ここは?」
マーガレットが尋ねると、アフロディテは優しい声で答える。
「ここは私たちが隠れ家として使っている場所よ。」
そこには、他にも多くの女性たちが匿われていた。
「アフロディテ様は、こうして皆様を守っていらっしゃるのですね。」
マーガレットが感心したように部屋を見渡す。
「私は昔から異性を愛せないの。だから、つい女性を愛してしまう。そして…守りたくなってしまうの。」
アフロディテは目を伏せ、少し声のトーンを落とした。
「異性を愛せないからといって、そう落ち込むものではありませんよ。人には、その人の価値観がありますから。それに、アフロディテ様は私たちを守ってくれる、とても良い方です。私はアフロディテ様のような人、好きですよ。」
マーガレットの言葉を聞いたアフロディテの頬が紅潮する。
「あぁ…なんて美しい…。」
アフロディテは涙を浮かべながら、マーガレットを強く抱きしめた。
「大丈夫ですよ。」
マーガレットもアフロディテを抱きしめ返す。
「あぁ…幸せ…。」
アフロディテは恍惚とした表情を浮かべる。しかし次の瞬間その表情が一変した。
「…可愛いわね。」
アフロディテが隠し持っていた短剣を抜く。
「え…?」
マーガレットが異変に気づいた時には、すでに遅かった。アフロディテの攻撃を受け、マーガレットはその場に倒れる。
「あはっ…素敵。」
その異常な行動に、部屋にいた女性たちは悲鳴を上げ、一斉に逃げ始める。
「あら、どこへ行くの?」
アフロディテは逃げ惑う女性たちを追いかける。
「美しいわね……。」
そして、彼女たちへ短剣が取付けられたワイヤーを振り回し一瞬のうちに屋内は血塗られた。
「さぁ…後はエミリアちゃん。あなただけよ。」
アフロディテはエミリアへゆっくりと歩み寄る。
「ひっ…。」
エミリアは腰が抜け、その場に崩れ落ちる。
「その顔…。見ているだけで興奮してきちゃう。」
恐怖に震えるエミリア。
「助けて…お兄…様…。」
エミリアの脳内には今は亡き兄アルケインの姿が浮かぶ。
「お兄さんがいるのね?」
アフロディテは笑みを浮かべる。
「でも、もう会うこともないわよ。あなたは私と一つになるのだから。」
アフロディテがエミリアへ襲い掛かろうとした、その瞬間
突然、アフロディテの身体が痙攣する。
「な…に…?」
「オリンポス十二神、狂愛のアフロディテ。」
背後から男の声が響く。アフロディテは振り返ろうとするが、身体が思うように動かない。
「だ…れ…?」
声の主が、ゆっくりとアフロディテの前へ姿を現す。
「っ!お、お前は…!」
「お久しぶりですね。」
エミリアは目の前に現れた男を見て、安堵の息を漏らした。
「流星…。」
「すいません。こんなになる前に駆けつけられなくて。」
星野流星はエミリアへ謝罪すると、アフロディテへ向き直る。
「き、貴様…!」
「僕は医者ですから。人間の身体のことなら、よく知っている。」
流星の表情から笑みが消える。
「さて…どうやって解剖してやろうか?」
冷徹な瞳。その奥には、牙を研ぎ澄ました獣のような殺気が宿っていた。流星は静かにアフロディテへ近づいていく。
「や…め…!」
そして一瞬のうちに距離を詰めると、流星は手にしたメスを振るった。アフロディテは体中から血飛沫を上げその場に崩れ落ちる。
「お怪我はありませんか?」
流星は腰が抜けて座り込んでいるエミリアの前に屈み込み、顔を覗き込む。
「はい…。」
「良かったです。」
流星はエミリアへ手を差し出し、立ち上がらせる。二人はそのまま建物の外へ出た。屋外へ出ると、流星は一度建物へ振り返る。そして静かに頭を下げた。
「助けられなくて…すいませんでした。」
エミリアは顔を伏せる。
───
田中、高橋、ルシファーの三人は、偶然にも近い場所へ転移させられていたため、すぐに合流することができていた。
「一人になってしまったかと思ったけど、高橋くんとルシファーさんがいて心強いです。」
田中がニコッと笑みを浮かべる。
「そうだな。」
高橋も同意する。
「なんせ七勇者のルシファーさんがいるからな。俺たちに怖いものは無しだぜ。」
「さすがにそれは言い過ぎだ。」
ルシファーが苦笑する。
「僕だって限界はある。自分たちの身は、自分たちで守らないと。この戦いは、何が起きてもおかしくない。」
田中の言葉に、ルシファーは頷く。
「ああ。一人で二人を守りきれる自信はない。特に、さっきから近くに王の気配を感じる。あれとぶつかることがあれば、なおさらだ。」
「そうか。まあ、俺たちも頑張るか!なぁ、田中!」
「そうだね。最善を尽くそう。」
三人は王からなるべく離れるように動きながら、他の《暁》のメンバーを探す。その時
「アルテミス様。そこです。」
「了解した。」
建物の間を走っていたルシファーたちは、一瞬、何かが光り輝くのを見た。
「伏せろ!」
ルシファーの命令に、田中と高橋は突如体が動かされたような感覚に陥る。二人はいつの間にか身を伏せていた。次の瞬間、強烈な風が吹き荒れた。
「なんだ、これ…。」
高橋が唖然とする。
「警戒しろ。敵がいる。」
ルシファーは周囲を見渡す。先ほどの光は、すでに見えなくなっていた。しかし、周囲に立ち並んでいたビルの一部が破壊され、何者かによる攻撃だったことだけは明らかだった。
「ルシファーさん、ありがとうございます。」
田中は立ち上がる。
「多分、敵はスナイパーです。また位置を変えて撃ってくるはずです。さっきの威力を考えると、次の攻撃を全員で避けるのは難しいと思います。だから、バラけましょう。一人でも多く敵の狙いから外れる人を作って、その人たちで敵を討ちましょう。」
「了解!」
「分かった。」
三人は、それぞれ違う方向へ走っていく。
───
「バラけましたね。誰から片付けます?」
「ルシファーからだ。」
「それでは、ルシファーの位置を伝えます。」
建物の陰に潜む男が、遠くにいるアルテミスへ位置を伝える。
「アルテミス様の目の前にあるビルより奥へ八メートル。そこから左へ三メートルの地点に彼女はいます。」
「ありがと。」
アルテミスと呼ばれた男は、弓に矢をつがえ、ゆっくりと引き絞る。
「穿て。」
矢が放たれた瞬間、凄まじい風圧が周囲へ広がる。立ち並んでいたビルが次々と揺れ、瓦礫が舞い上がった。
「っ!」
ルシファーが光を捉えた時には、すでに遅かった。矢はルシファーを直接捉えることはなかったものの、足元へ突き刺さる。
次の瞬間、強大な衝撃波が発生した。
「ぐっ!」
ルシファーの身体が吹き飛ばされる。
「仕留めたか?」
「いえ。命中はしていません。ですが、今宙へ吹き飛ばされています。チャンスかと。」
「位置は?」
「先ほどの照準地点より右へ五メートル、上へ九メートル地点に。」
「見つけた!」
そこへ田中が現れ、刀を振るう。田中は素早さに能力を全振りしている。アルテミスへ位置を伝えていた男は、突然の接近に対応できず、胸を深々と斬られ倒れた。しかしアルテミスは田中には目もくれず、再び矢を放った。瞬間、爆風のような風圧がアルテミスの周囲へ放たれ、田中は吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
放たれた矢は、空中にいたルシファーを捉えた。ルシファーは地面へ落下する。
「ヘルメス。お前のお陰で穿てたようだ。」
「お前ぇ!」
高橋もアルテミスの元へ辿り着く。二振りの剣を構え、アルテミスへ斬り掛かった。
「不可視の斬撃を飛ばす能力…だったな?高橋春樹。」
「アルテミス!」
高橋の斬撃はアルテミスの弓によって防がれる。アルテミスは高橋から距離を取った。
「お前とは相性が悪い。ここは退かせてもらう。」
「させるわけにはいかない!」
アルテミスの背後から、田中が刀を振るう。
「ちっ!」
アルテミスは避けたつもりだった。しかし、田中の速度は人間のそれを遥かに凌駕している。アルテミスは腕を負傷し、後退する。
「行くよ、高橋くん。」
「おう!」
高橋は剣を振るい、不可視の斬撃をアルテミスへ連続して飛ばす。
アルテミスは走りながら、それを次々と躱していく。
しかし、その背後にはすでに田中が迫っていた。
「殺れ!」
突然、アルテミスが走るのを止めて叫ぶ。田中がアルテミスへ迫った、その瞬間
「田中!」
高橋が叫ぶ。田中は攻撃を受け、その場に倒れ込んだ。
「まだスナイパーがいるのかよ…!」
高橋は建物の影へ隠れる。物陰から少しだけ顔を出し、周囲を見渡す。しかし、スナイパーらしき人物は見当たらない。
「くそ…どこにいやがる…。」
高橋は一旦落ち着こうと、再び物陰へ身を隠す。
「やあ。」
「っ!…ナポレオン…!」
高橋の背後に、いつの間にか一人の男が立っていた。
「さよなら。」
ナポレオンが剣を振るう。高橋はその場に倒れた。
「こちらナポレオン。高橋を仕留めた。それから田中の戦闘不能も確認した。」
『了解。お前はそのままルシファーの生死も確かめてこい。私たちも移動する。』
「了解。」
耳に取り付けたインカム越しに会話を終える。ナポレオンは、ルシファーが倒れている場所へ向かって歩き始めた。
皆さん、いかがだったでしょうか。
次から次へと倒れていく《暁》の仲間たち。
多くの命が失われていく中、遂に須郷雅仁の野望が本格的に動き出す。
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