第七十七話 命の数
皆さんこんにちは。
本日は第七十七を投稿させていただきました。
多くの能力者が救世主を復活させるために争い合う魔境。
彼は遂に目を覚ます。生贄によって。
是非お楽しみください。
日本本州内に転移させられた人々は、須郷雅仁の洗脳によって、《堕天使》ルシファー復活のために指名手配犯を追い回していた。
「いたぞ!釈迦だ!討ち取れぇ!」
能力を与えられた人々が、束になって釈迦へ飛び掛かる。
「慈光波動。」
釈迦の身体から波動が放たれ、飛び掛かってきた人々は次々と倒れていく。
「あと、どれだけ殺せば復活するかね?」
釈迦は頭をポリポリと掻きながら、のそのそと歩いていく。他の場所でも人々は集団を作り、指名手配犯となった者たちへ襲い掛かっていた。
「俺たちが世界を救うんだ!」
「救世主をこの世に蘇らせるぞ!」
人々が自らを鼓舞しているところへ、一人の白髪の男が現れた。
「《堕天使》のために精一杯だな。でも、その生贄になるのはお前らだ。」
男は背中に背負った刀剣袋から刀を取り出す。そして抜刀すると、一瞬のうちにその場にいた二十人余りの人間を倒し、静かに刀を鞘へ収めた。
「どいつもこいつも選ばれた人間じゃないな。つまんねぇの。」
その男の背後に、一人の男が現れる。白髪の男は咄嗟に刀の柄へ手を掛け、振り返った。
「僕だよ。」
「ぁ…須郷さんか…。」
「うっかり斬られちゃうところだったよ。」
「俺に斬られるなんて、あり得ないでしょ?」
「いつかはそうなるかもしれないよ。君はこちら側の人間なんだから。」
「あぁ…そういえば、どうしてこっちに?」
「用が済んだから、様子を見に来たんだ。」
「俺は大丈夫ですよ。それより彰の方が心配ですよ。」
「大丈夫さ。彼は頭がおかしいから。」
「おかしいから大丈夫じゃないんじゃないですか?」
「いや。歩くんのように色々と考えて行動する人は、時に見落としがあることがある。でも、彰くんみたいに頭がおかしい人間は、考えるより先に本能で行動する。人間は窮地に陥った時、そういう本能型の方が打開策を見つけるのが早い。まあ、これは僕が生きてきた中で感じたことに過ぎないけどね。」
「へぇ。そうなんすね。」
「まあ、一人くらいは歩くんみたいに考えるタイプがいてくれた方が、僕としてはありがたいけどね。」
「確かに。彰みたいなのがいっぱいいたら嫌ですもんね。」
「じゃあ、このあとも励んでくれ。」
「はい。」
須郷はその場から姿を消す。そして、彰と呼ばれていた男の元へ現れた。
「彰くん。」
「お?須郷さんじゃねぇか。どうしたんすか?」
「様子見だよ。」
「あぁ、なるほど。お、そういえば少し前にダルヴィッシュを仕留めときましたよ。」
「え?」
「んぉ?」
「なんて言ったんだい?」
「え?だから、オレっちがダルヴィッシュを仕留めときましたよって。」
「本当かい?」
「オレっちを疑うんすか?」
「いや、そういうわけではないんだ。ただ、あのダルヴィッシュを討ったというのであれば凄いことだよ。」
「そうなんすか?あんま強くはなかったっすよ。」
「それで、そのダルヴィッシュは?」
「あっちの方で倒れてると思いますよ。」
「なるほど。放置したんだね。」
「はい。持って行くにも邪魔なんで。」
「わかった。君は他にもたくさん殺してきてくれ。」
「了解っす。」
彰はポケットに手を入れ、ドカドカと歩いていく。須郷は彰が言っていた方向へ歩いていった。
「まさか、本当に仕留めちゃったとは。やっぱり彼はおかしい。」
須郷は倒れているダルヴィッシュの前に屈み込む。
「はじめまして。ダルヴィッシュ。」
ダルヴィッシュは青ざめた顔で須郷を睨み上げる。
「怖い顔だ。」
「す…。」
「話せないんだね。それもそうだろう。」
須郷は淡々と語る。
「あの毒は体内に取り込まれてから変化を続ける。君にもし毒耐性があったとしても、それを凌駕する勢いで毒は変化し、君の身体を蝕み続ける。」
「…。」
「辛そうだね。」
須郷は立ち上がる。そして、ダルヴィッシュの横腹へ蹴りを入れる。
「どうだい?声が出そうか?」
須郷は何度も攻撃を繰り返す。
「どうだい?え?どうなんだい?」
「がぁ…。」
「おぉ。もう少しだ。頑張れ頑張れ。」
須郷は口角を極限まで吊り上げ、笑みを浮かべる。
「その苦しそうな顔…たまんねぇな!」
しかし、須郷の攻撃は何者かによって止められた。
「あぁ?僕の邪魔をするのか?」
「黙れ。下衆。」
リチャード・ノワールは須郷を睨みつける。
「悪魔か。」
「万花繚乱塵と帰せよ。神威開闢 乱舞桜花花吹雪!」
メルダインの剣を握るノワールの声に反応するように、剣が無数の破片へと変化する。ガラスの破片のような刃が、吹雪のように須郷へ襲い掛かった。
「神器持ちか…厄介だな。」
須郷は亜空間から刀を取り出し、抜刀する。迫り来る刃を次々と弾き落としていく。
「この程度で僕を倒そうと?」
「いいえ。お前を殺すのは我が主だ。」
花吹雪のような刃がさらに激しく舞い、須郷の視界を覆い尽くす。
「ちっ…逃がしたか。まあいい。あの神器の能力はわかった。」
ノワールはダルヴィッシュを抱え、亜空間へと消える。そして星影の魔力を探った。
───
「星影。みんなの魔力、感じる?」
「いや…この辺にはいないみたいだ。」
「そっか…。」
星影とアリスは話しながら、ビル群の中を走っていた。
「なぁ、あの可愛い子、星影の彼女かな?」
ダリスがアリスを見ながら久遠に尋ねる。
「なんでボクに聞くんだよ?時雨に聞いてよ。」
「なんで私が知ってる前提で振るの?ガロに聞いてよ。」
「僕も知らないですよ。」
「私も知らないですからね?」
ガロの後に話を振られるだろうと予想したフレイが、先に答える。
「ダリス。お前が星影に聞いてこいよ。」
久遠にそう言われるとダリスは少し嫌そうに
「俺ぇ?…なんか、そういうの聞くの気まずくね?」
「なんなんだ!お前は!」
久遠がダリスの頭を小突く。
「痛ぇ…。天使だとは思えないぜ…。」
「うっさい!」
久遠は再びダリスの頭を小突く。
「痛ぇよ…。」
その時、星影たちの目の前に亜空間が開いた。そこからノワールが現れる。その腕には、ボロボロになったダルヴィッシュが抱えられていた。
「っ!ノワール!ダルヴィッシュはどうしたんだ?!」
星影とアリスはすぐに駆け寄る。アリスはダルヴィッシュへ治癒魔法を掛け始めた。
「須郷雅仁にやられていました。」
「須郷…。」
アリスは歯を食いしばる。
「須郷って、あの放送してた奴か?」
ダリスが星影の後ろから尋ねる。
「あぁ。そうだ。」
「つまりだ。俺たちの敵は《堕天使》だけじゃないんだな?」
「…あぁ。」
「やってやろうぜ!お前の仲間を傷つけたクソ野郎を!」
ダリスは星影の背中を強く叩く。
「ダリス…お前、イイ奴だな。」
「あ?俺は元々イイ奴だぜ!なんてったって、クルーを引き連れる未来の海賊王だからな!」
「クルーいないじゃん。」
「これから増えるわ!」
星影はフッと笑みを浮かべ、立ち上がる。
「星影。ダルヴィッシュの治療終わったよ。まだ意識は戻らないけど、毒も分解できた。」
「ありがと。アリス。」
すると、ダルヴィッシュがゆっくりと身体を起こす。
「ダルヴィッシュ!もう大丈夫か?」
星影を見ると、ダルヴィッシュは安心したように声を漏らす。
「星影殿…ここは?」
「ここは東京だ…って言っても分からないよな。でも、須郷がいた場所からは離れた所だ。」
「そうですか…。須郷は…?」
ダルヴィッシュが星影に尋ねた、その時だった。空気が凍てつくような息苦しさを、その場にいた全員が感じ取る。
「捕食王、影塚星影。」
「時空王カイロス…深海王リヴァイアサン…。」
「名を覚えてもらっていたとは。」
リヴァイアサンが鼻で笑う。
「それにしても増えたな。」
カイロスはダリス、ガロ、フレイを見下す。ガロとフレイは身体を震わせ、立っているのがやっとのようだった。しかし、ダリスは平然とカイロスとリヴァイアサンを見上げ、ニヤけている。
「そこの人間。俺たちを恐れないな?」
「オメェらのどこが恐ろしいんだ?」
ダリスは笑みを浮かべながら、カイロスに言い返す。
「いいだろう。その面が恐怖一色になるまで、地獄を見せてやる。」
「ノワール。」
「はい。時雨様。」
「カイロスは、お前と星影、ダリスでやれ。私たちがリヴァイアサンをやる。」
「了解しました。いきましょう、主。ダリスさん。」
「ああ。」
「おうよ!」
───
「もう少しだよ、お兄様。僕たちの夢が叶うまで。」
須郷は薄暗い場所に生えている巨大な樹木の幹を撫でる。その姿は、まるで何かを慈しむようだった。
───
「こちら、ナポレオン。」
「確認はできたか?」
「うん。ルシファーは死んでたよ。」
「そうか。それではルシファーを例の場所まで運ぶぞ。」
「了解。」
耳に取り付けたインカム越しにリュドミラとの会話を終えると、ナポレオンはルシファーを抱え、例の場所へ向かう。
───
ある場所では、鈴木義文、アダム、彗星率いる《世界政府》軍が、周囲の人々を無差別に襲っていた。
「もっと殺せぇ!そして《堕天使》をこの世に降臨させるのだぁ!」
義文の声に鼓舞された軍隊が、次々と攻撃を仕掛けていく。アダムも人々へ襲い掛かり、ゼウス、ポセイドン、ヘルメス、アルテミス、アフロディテを除くオリンポス十二神たちも、それぞれの能力を生かして人々を追い詰めていく。世界中で、数え切れないほどの命が失われていた。
───
そして、ある場所では
「撒けたか?」
キツネの治癒魔法によって傷が癒えたクラウスが、背後を見渡す。
「悠都と鈴木くん、大丈夫かな…?」
茜が心配そうに震えた声で呟く。
「彼らなら大丈夫よ。」
リリィが茜の隣に寄り添い、背中を擦る。
「見つけましたよ。」
そこにオーディンが現れた。茜はオーディンの姿を見た瞬間、涙を流す。
「悠都…と、鈴木…くんは…?」
「彼らの誇り高き魂は天へ還りました。そして、誇り高き彼らの仲間であるあなたたちも、彼らと共に還るのです。」
クラウスは剣を腰から抜く。
「悪いが、死ぬのはお前だ。」
クラウスはオーディンへ飛び掛かる。
「遅い。」
オーディンは手に握る槍、グングニルを振るい、クラウスの剣を弾き飛ばす。
「妖術 劫火紅蓮!」
キツネが放った紅蓮の炎がオーディンを包み込む。しかし、オーディンは光り輝くグングニルを高速で振るい、炎を掻き消した。
「っ!そんな…!」
「ドラゴン!死神!ヤマタノオロチ!オーディンを倒せぇ!」
ヤミによって召喚された式神たちが、一斉にオーディンへ迫る。
「紅蓮炎・獄。」
次の瞬間、辺り一面がキツネの炎を遥かに上回る熱量に包まれる。ヤミの式神たちは一瞬にして消し飛んだ。
「え…?」
「悠都を返してぇ!」
茜が掌に炎を灯し、オーディンへ放つ。しかし、オーディンはそれを片手で払った。
「さようなら。誇り高き者たちよ。」
オーディンは宙へ舞い上がる。
「雷霆・獄。」
空から雷の槍が雨のように降り注ぐ。辺り一面が光と轟音に包まれた。
───
「龍王は動かないの?」
「そう言う貴様も動かぬのか?」
龍王グラヴィールへそう尋ねた夢幻王ルミナスへ、グラヴィールは逆に問い返す。
「私は面倒くさいし、眠いから…。」
「そうか。」
「でも、面白そうなのがいたら行こうかな。」
「そうか。」
二人はそれ以上話すこともなく、沈黙に包まれる。その時だった。皆が感じた恐怖。ただ一人だけが、その恐怖を楽しむように高らかな笑い声を上げた。
「どうだい!千年ぶりに目覚めた気分は!」
「貴様は…?」
「お忘れかい?お兄様。」
「クックックッ。ミカエルか。」
目覚めた男は須郷を見るとそう呼んだ。それに須郷は頷く。
「そうだよ。」
「よく生きていたな。」
「僕は殺された。過去の英雄たちは、そう思っているさ。でも、僕は僅かな魂を人間に写し、転々と宿らせながら生き長らえてきた。この身体は、その中でも一番しっくりくる。」
「ほう、そうか。我が授けた魂の転写か。」
「そう。お兄様には感謝してるよ。この力のおかげで、こうしてこの世にお兄様を呼び覚ますことができたのだから。」
「それで、ここはどこだ?」
「ここは日本という国の地下施設。」
「日本?聞かぬ名だな。」
「そう。ここは、僕たちが生きていた世界から見れば異世界と呼ばれる場所。」
「お兄様を匿うには、七勇者たちの存在しない世界にした方がいいと思ってね。だから、こちらの世界の者に協力してもらったんだよ。」
「今は二つの世界を融合させてあるけどね。」
「そうだったか。では、後でそいつらには褒美をやらなくてはな。」
「では、行こうか。お兄様。」
「ああ。今一度、世界を我の手中に収める時だ。」
《堕天使》ルシファーの降臨により、世界の均衡は崩れ始める。そして、ここから新たな時代が始まる。
《終末世界》――その幕が、今上がる。
皆さん、いかがだったでしょうか。
《堕天使》ルシファーが蘇った今、終末世界は一気に加速していく。
そして《堕天使》ルシファーを目覚めさせた男、須郷の正体は彼の弟、ミカエルだった。
彼らがここから全てを新たな世界に創り変える為に今以上の地獄を再現する。
第七十八話 時空王




