第七十話 新《剣士》
皆さんこんにちは。
ヤミです。
本日は第70話を投稿させていただきました。
クラウスと《剣士》太刀川龍馬の後継、佐々木小次郎と宮本武蔵が対峙する。
彼らの戦いの結末は。
是非お楽しみください。
太刀川龍馬亡き後、新たに《剣士》となった《邪神》の佐々木小次郎と宮本武蔵はクラウスと向かい合っていた。
「お前は《暁》のクラウスだな。」
「ずいぶんと良い相手に渡り合えたじゃあねぇか。」
武蔵がクラウスに鋭い目を向ける。小次郎は楽しそうに刀を抜く。
「お前達は?」
「俺は《剣士》宮本武蔵。」
「同じく《剣士》の佐々木小次郎だ。」
「太刀川の後継か…。」
クラウスは前傾姿勢を取り二振りの剣の柄に手を掛ける。
「良い構えだ!それでこそいい戦いに期待ができる!」
小次郎はニヤリと笑みを浮かべクラウスに駆け出す。武蔵は腕を組みクラウスを観察し始める。小次郎はクラウスへ迫り刀を振り下ろす。それと同時にクラウスは両の剣を抜剣し、左の一振りで小次郎の刀を押さえ、右の一振りを小次郎の左脇腹へ振り払う。小次郎が一瞬目を見開いたが、クラウスが振り払い切る寸前に飛び退く。
「危ねぇ、危ねぇ。コイツぁ油断しちゃいけない相手だね。」
小次郎は自身の前で刀を構える。それは基本的な構えのように、見えるが隙がない。どこから打ち入ったとしてもそれを躱される、または打ち払われる。下手したらこちらが殺られる。クラウスはそんな未来を想像した。だからこそあえて真正面から小次郎へ飛び込んでいく。
「威勢が良いなぁ!そうじゃなきゃな!」
真正面から迫るクラウスへ刀を振り下ろす小次郎。しかし、クラウスはそこから足首を軸に回転し方向転換する。
「おっ!機動力がすげぇな!」
小次郎もそれを真似てクラウスのあとへ続く。
「いつまで逃げる気だぁ?」
小次郎が声を掛けるがクラウスは小次郎から逃げるように走っていく。が、途中で足を止め大きく跳躍する。
「おぉ!」
バク宙した状態から一気に降下し、小次郎の頭上から斬り付ける。
「すげぇなぁ!なんて身軽な動きだ!」
クラウスは小次郎に弾かれるが、クラウスを弾いた小次郎には先ほどのような隙のない構えは完全に出来ない。そこへクラウスは高速で剣を振るい小次郎に構えを作らせない。
「おぉ!おぉ!早い早い!」
しかし二振りの剣で斬り掛かっているのに、小次郎は一振りの刀だけで全てを捌いていく。
「くっ…!」
クラウスは剣を振り上げると同時に体勢を落とし、小次郎の脛を蹴る。
「っ!重心移動がここまで崩れずに行えるか!やはり政府が欲しがっている人材だけあるぜ!」
脛を蹴られるも体勢を崩さない小次郎は刀を力一杯に振り下ろす。クラウスは間一髪でバク転しながら躱す。
「おいオメェ。本気出せよ!」
小次郎がクラウスの奥にあるものを見つめる。クラウスはその言葉に一瞬躊躇いの色を瞳に宿す。
「何を迷ってる?怖いのか?」
「…。俺の力は…出したら俺にも制御出来ない…。自分の内に抑えておかなくては…。」
「うるせぇ!男がごちゃごちゃ言うな!オメェも何かを守る為に剣を振るう者!違うか?」
小次郎の言葉にクラウスは頷き
「俺は仲間を守るために剣を振るう。」
「ならば!リスクを恐れるな!勝つ為だけに剣を振るうことを躊躇うな!オメェの仲間に対する想いは自分のリスクよりも小せぇものなのか!」
「違う…。俺は…。」
「来いよ!全力で!」
小次郎の決意に満ちた笑みにクラウスは昔を思い出す。
「クラウス。大丈夫だ。お前が自分の力を抑え込めるようになるまで俺が付き合ってやる!ほら来い!」
あの日あの人は決意に満ちた笑みを浮かべ声を掛けてきた。それを信じてここまで来た。小次郎からはあの人と同じ何かを感じる。
「ぐっぅぅぁぁぁぁぁ!」
クラウスは体から溢れる熱気に長い髪が揺れる。そして、我を忘れたその目は動くものを破壊する為だけに機能していた。クラウスは駆け出し始め剣を振るう。小次郎はニッと笑みを浮かべ刀を振り払う。
「ぐぁっ!」
クラウスは声を上げ小次郎の刀を生身の体で受け止める。小次郎は予想外の動きに驚く。刀はクラウスの脇腹へ喰い込むがそれ以上斬ることも出来なければ、引き抜くことも出来ない。そこへクラウスが剣を振るう。小次郎は焦るも、クラウスの顎へ膝蹴りを入れ、一瞬力の抜けたクラウスから刀を引き抜き距離を取る。
「本当に自我がなくなったみてぇだな。だからこそ捨て身の攻撃を仕掛けてくる。だが…!それじゃダメだぁ!」
小次郎が叫ぶと小次郎の背後から武蔵がゆっくりと歩いてきて、二人の間に入る。
「コイツは鍛え甲斐がある。ここで殺すには惜しい。」
「オメェも分かってくれるか!」
小次郎が嬉しそうに武蔵を見る。しかしクラウスは唸り声を上げながら武蔵に飛び付いてくる。武蔵は刀を抜くことなく、クラウスの腕をつかんで地面に投げ付ける。
「がっ…!」
クラウスは地面に叩きつけられ鈍い声を上げる。
「武蔵さんよぉ。コイツどうするよ。」
「コイツには太刀川さんのような天性の才能はない。ただコイツの本能は戦う事に何かを見出そうとしている。」
「…それで?」
「クラウスが死ぬまで戦い続ける。死を直感した時にこそ力は開花する。本能的に生き物にはそういったものが備わっている。」
クラウスは体を起こし、目の前の二人を唸り声を上げながら睨みつける。
「いくぞ。佐々木。」
「はいよ!」
クラウスが二人に襲い掛かってくる中、二人は冷静に構え、武蔵が峰打ちでクラウスの首を打ち、小次郎が掌底を鳩尾に放つ。
「がっ!」
「まだまだいくぜ!」
小次郎はニッと笑みを浮かべ声を上げるとクラウスの腹部を三連続で殴り、最後に顎を蹴り上げる。そして武蔵とチェンジすると武蔵は腕を振り払い、クラウスの首へ叩き付ける。クラウスは鈍い声を上げ俯く。そこへ武蔵の拳がクラウスの顔面を捉える。クラウスは避ける気力も無くもろに拳を額に受ける。クラウスは首の骨が折れたかという勢いで仰け反る。
「武蔵さんよぉ。今のは強すぎないかい?」
「このくらいで死ぬようであればそれまでだ。最初から本気でいかなくてはコイツの本気を引き出すのは出来ない。それ以前に武の道を歩む者として無作法と言うもの。」
「ほう。」
小次郎が関心しているがクラウスは仰向けにバタリと倒れる。意識を失っているのかピクリとも動かない。
「コイツ死んじまったか?」
小次郎がクラウスの側で腰を下ろし、指先でクラウスの頬を突く。
「やっぱりオメェやりすぎだぜ。」
「死んだならそれまでのこと。次へ行くぞ。佐々木。」
「はぁいよ。」
二人は次なる獲物を目指し歩み始める。だが、二人は足を止め、狂気じみた笑みを浮かべる。
「マジかよ!」
「やはり見込み通りだったな!」
二人が振り返ると白目を剥いたクラウスが立ち上がっていた。小次郎と武蔵は刀を抜き構える。
「来い!クラウス!」
小次郎がクラウスを呼ぶとクラウスは姿を消す。否。その凄まじい速さは姿を眩ましたように錯覚するほどであった。それでも小次郎も武蔵もその速さに付いていく。クラウスは剣を振るう。小次郎は刀で受け止め、跳ね返す。
「いいねぇ!」
小次郎と武蔵は同時に駆け出し、同時にクラウスへ斬り掛かる。クラウスは二人の攻撃を受け流していく。
「素晴らしい動きだ!」
武蔵はクラウスの動きを称賛し、小次郎と共に連続攻撃を仕掛ける。両者に挟まれた状態で斬撃が迫るが、クラウスは二人の攻撃をすべて捌く。そして、キリのない斬撃の嵐の中から跳躍して脱すると、その目に二人を捉え、地面を蹴る。クラウスがまるで放たれた矢のように小次郎へ突き進む。小次郎は刀を両手で握り、切っ先をクラウスへ向けて放つ。クラウスは矢の如く迫る中で、小次郎の初動を見てインパラがチーターなどの捕食者から逃れるようにジグザグに走り、小次郎の刺突を躱す。
「コイツ!」
小次郎は嬉しそうに笑みを浮かべ刺突を放ってしまった状態からどうにかクラウスへ向き直ろうとするが、クラウスに対応するには手遅れだった。クラウスは剣を逆手に持ち替え、目にも留まらぬ速さで小次郎を通り抜けていった。武蔵は何をしたのか見えずに呆然としていた。小次郎は体中から血飛沫を上げうつ伏せに倒れた。だがその顔には後悔は無かった。それよりか笑みを浮かべていた。合計十五カ所の切り傷をあの一瞬で与えたクラウスは武蔵へ飛び掛かる。
「ぬぅっ!」
武蔵はもう一振りの刀を抜刀し、迫りくるクラウスへ飛び掛かる。両者の武器が交わると火花を散らし軋み合う。
「やはりお前は《剣士》に相応しい!俺を超えてさらに高みを目指せ!クラウス!」
クラウスはその言葉に太刀川の事を思い浮かべる。そして、歯を食いしばると
「うぁぁぁぁ!」
と猛獣のような唸り声を上げ、武蔵の刀を斬り落とす。逆手に握っていた剣を元の持ち方に戻し、胸の前で交差して構える。そこから目にも留まらぬ速さで剣を振るい武蔵は胸を深々と斬り付けられ鮮血を噴き出す。クラウスは返り血を浴び紅く染まる。まるで鬼のように。クラウスは剣に付いて血を振り払うと鞘に収め、次の敵へ向けて駆け出していく。
皆さん、いかがだったでしょうか。
《剣士》たち意志とクラウスの意志が共鳴し、彼らは互いを高め合う。それゆえにクラウスは内に秘めた力を解放することができた。
そしてここからクラウスは覚醒への道を辿ることになる。
次回第七十一話 《龍神》




