第六十話 悪戦
皆さんこんにちは。
ヤミです。
本日は第60話を投稿させていただきました。
王たちを撃破していく中、次の戦いは《原初の悪魔》へと移る。
是非お楽しみください。
シエル、アッシュ、風靡、照井、クラールハイト、ノワールの五人は《原初の悪魔》である《憤怒》のバレン・ヴィオレ、《強欲》のヴィルヘルム・ルージュ、《暴食》のザムザ・ジョーヌ、《怠惰》のルイ・ヴェールの四体と対峙していた。
「この間モードレッドは逃がしちゃったけどぉ!今回はガレスをいただきまぁす!」
ザムザ・ジョーヌは、獲物を狙う獣のようにシエルへ駆け出した。対するシエルも、腰から抜き放った神器のレイピアを構え、迷いなくザムザへと向かっていく。
「闇隠れ!」
しかし、正面にいたはずのザムザの姿が、ふっと霧のように消え失せた。
「っ!どこに…。」
警戒に顔を顰めるシエルに、ねっとりとした気味の悪い声が背後から届く。
「こっちだよぉ!」
振り返る間も与えずに、ザムザの燃える拳がシエルの腹部を捉えた。
「くっ!」
鳩尾に叩き込まれた衝撃に、シエルは呻きながら膝をつき、腹部を抱え込んだ。
「痛かったぁ?痛かったねぇ?可哀想にねぇ!」
ザムザは、まるで子どものようにぴょこぴょこと跳ねながら、気色の悪い笑みを浮かべてシエルを見下ろす。その顔には、相手の苦痛を喜ぶ愉悦がにじみ出ていた。
「闇隠れ。」
だが、次の瞬間、ザムザの目の前からシエルもまた、煙のように姿を消した。
「あれぇ?あれれぇ?あれれれぇ?俺の技を使ったなぁ。どうしてだぁ?」
ザムザはきょとんとした顔で頭を掻き、ぶつぶつと独り言を続ける。その隙を逃さず、背後に現れたシエルがレイピアをザムザの心臓めがけて突き出した。
「ざんねぇん!」
レイピアは確かに心臓を捉えていた。しかし、その切っ先はザムザの肉体に阻まれ、それ以上深く食い込むことはない。
「硬すぎる…。」
レイピアを押し返され、シエルは悔しげに呟いた。
「身体硬化。これ凄いでしょぉ!俺の技ぁ!」
ザムザは勝ち誇ったように笑う。シエルはすぐに身を引き、レイピアを構え直した。
「ガレスのお姉さん。それで俺を倒せるのぉ?」
ザムザの言葉が、シエルの心を抉る。シエルは唇を噛みしめた。他の六人は、自身の特性を理解し、それを最大限に発揮してどんな強敵をも打ち砕いている。けれどシエルは違った。オリジンに能力を吸収され、ただレイピアを振ることしかできず、手数の多いザムザを前に、自身の無力感を痛感していたのだ。
「悔しそうだねぇ!ドンマイ!ドンマイ!」
ザムザは嬉しそうににたりと笑い、再びシエルへと駆け寄る。その大きな口が、捕食者のそれのように大きく開かれる。
「お姉さんはここまでぇ!いただきまぁす!」
ザムザがシエルに飛びかかる。その時、とある会話を思い出す。それはオベロンの別荘地下にて神器を手に取ったときのことだった。
───
「シエルさんだね?」
暗闇の中で、静かな声が響く。シエルは警戒しながら、その声の主を探した。
「あなたは?」
「ボクは踏襲の円卓騎士ガレス。七勇者の一人さ。」
目の前に、ぼんやりと人影が浮かび上がる。それが自分を呼んだ声の主だと理解した。
「ガレスさん。ここはどこなの?」
「ここは君の内なる世界。言い換えるのなら精神世界と言っても良い。」
「つまりあなたの実体は無いってこと?」
「そうだね。君はあの地下でボクの神器を手に取ったことで、ボクたちの精神世界に干渉できるようになった。手に取れば誰でもってわけじゃないけどね。」
「そうなんだ…。」
シエルは納得したように頷く。
「君もボクたちとこうやって干渉できるようになったんだ。それに君は現七勇者だ。だからボクたち踏襲の円卓騎士の能力について伝授する。」
「うん。分かった。」
「ボクたちは踏襲の円卓騎士と呼ばれている。それが能力の所以なんだ。つまり、模倣し、それを応用する。」
「模倣…。」
「そう。見たものを最大限に模倣し、それを活かして発展させる」
「なるほど…。」
「以上。」
ガレスの言葉に、シエルは目を瞬かせた。
「え……?」
「以上だよ。」
「えっと…つまり模倣しかできないってこと?」
「そうだね。その代わり、模倣したものは君の魂に刻み込まれる。いつでも最大限に活かせる。模倣したあとは君次第で次の技へと発展する。どんな形にも」
───
「見たものを最大限に…。」
シエルはぼそりと呟いた。ザムザはそんなシエルの様子など気にも留めず、貪欲に食らいつこうと迫る。その寸前、シエルはレイピアを左手に持ち替え、右手を握り込んだ。
「灼拳!」
燃える拳が、ザムザの顎を正確に捉える。突然の出来事にザムザは訳が分からないといった様子で吹っ飛んだ。
「なんでぇ!なんでぇ!なんでぇ!なんでぇ!」
ザムザは地面に転がりジタバタと暴れながら、血走った目でシエルを睨みつけた。
「何でさっきから俺の技ばかり使うんだよぉ!ムカつくなぁ!おかしいだろ!許せない!殺してやる!ぐちゃぐちゃに引き裂いてから食ってやる!」
ザムザから放たれる憎悪の念に、シエルは思わず怯む。しかし、それでもシエルは臆することなくザムザへと歩み寄っていく。
「来い!ベルゼブブ!あのクソ女をズタズタにしろ!」
ザムザの眷属、ベルゼブブが巨大な影を伴って現れると、両手に握った剣をシエルへ振り下ろした。
「身体硬化」
ベルゼブブの剣は確かにシエルに命中した。しかし、剣はシエルを斬り裂くことなく、呆気なく折れてしまう。
「はぁ!おかしいだろ!なんなんだよ!」
ザムザは地団駄を踏み、ベルゼブブを追い越すようにシエルへ飛び込んでいく。
「氷瀑砕!」
ザムザの拳が淡い青色に輝き、シエルへと放たれる。シエルはそれを紙一重で躱した。ザムザの拳は地面を砕き、周囲に強烈な衝撃波を生む。
「流石ザムザ様。」
ベルゼブブは感心したように拍手をしている。
「当たり前だよぉ!俺は最強なんだからぁ!」
「見たものを活かせ…。発展させろ…。」
シエルはぶつぶつと何かを呟いている。その目は、ザムザの技の一挙一動を、貪るように捉えていた。
「どうしたのぉ?もしかしてビビっちゃったぁ?」
ザムザは嬉しそうに跳ねると、シエルは静かに、しかし明確に告げた。
「氷輪月花!」
シエルを中心に、円形状に何重もの氷が展開され、ザムザとベルゼブブの脚を瞬く間に凍り付かせた。
「はぁ!何だこれぇ!」
ザムザは脚を溶かそうと燃やすが、溶けても溶けてもすぐに氷が纏わりついてくる。
「氷槍!」
動けない二人に、鋭い氷槍が幾つも勢いよく迫る。
「爆炎弾!」
ザムザの放った巨大な炎の塊が、周囲に存在した全ての氷を溶かしきる。そしてシエルへ迫るが、それは間一髪で躱されてしまった。
「くそぉ…これ魔力消耗激しいのにぃ…。」
ザムザが忌々しそうにシエルを睨みつける。
「ベルゼブブ。お前が食ってもいい。その代わり必ずあの能力を手に入れろ。」
「御意。」
ザムザとベルゼブブは、同時にシエルへ向かって地面を蹴った。
「爆炎弾!」
「なっ!」
「っ!」
シエルへ飛び込んでいった二人へ、業火の火炎玉が衝突する。
「あぁ!クソ!何で!こんな!」
《暴食》の眷属であるベルゼブブは、丸焦げとなって消滅していった。しかし、その隣にいたザムザは、それでも倒れることなくピンピンしていた。
「よくもベルゼブブを!絶対食ってやる!」
ザムザは少し小柄に変化し、身軽になる。それから腰に下がる二振りの剣を両手に握り、一瞬のうちにシエルの間合いに入り込んだ。
「っ!速い!」
「死ねぇ!」
ザムザが高速で振るった剣は、シエルを捉える。シエルは致命傷だけは躱すも、体中に鋭い切り傷が生まれていく。
「ぃ…!」
それでもシエルは怯むことなくレイピアを振るい、ザムザの攻撃を少しでも捌こうと努めた。
「へへぇ!いい気概だぁ!」
ザムザは剣を振り回しながら、段々とシエルへと迫っていく。
「氷輪月花!」
シエルは再び周囲を凍り付かせた。しかし、ザムザはそれを予測していたかのように高く跳躍し
「二度も喰らうかよぉ!バカがぁ!」
そして上空から一気に降下し、見えない斬撃を放った。
「真空斬!」
見えない斬撃がシエルを襲う。シエルは躱そうとしたものの、ザムザの初動でしか技を捉えられなかったため躱しきれず、横腹に深い切り傷を負った。出血が止まらず、シエルは膝をつく。傷口が鋭い痛みとともに熱を持っている。
「痛そうだねぇ!可哀想にねぇ!これでようやく食べられるよぉ!」
ザムザが、勝利を確信したようにシエルへ一歩近付いた、その時だった。
「ぁ!」
気づいた時にはもう遅かった。既に氷輪月花は発動されており、ザムザは足を氷漬けにされていた。
「油断したね。」
シエルはゆっくりと立ち上がる。その顔には、先ほどの苦痛の表情はもうなかった。
「はぁ…。マジかよ…。そんな…。」
シエルの出血はもう治まっていた。否、傷口を凍らせ、出血を防いでいたのだ。膝をついた際にザムザの死角になった横腹を凍らせ、それでもそれをザムザに悟られないように痛みに悶えるふりをしていた。それがザムザを油断させ、今の結果に至らせたのだ。
「終わりだよ。」
シエルは静かに告げる。
「こんな氷!」
ザムザは体を燃やし、氷を溶かそうと試みる。
「火達磨!」
氷が溶け始めたその時、シエルはレイピアを構え、氷漬けとなったザムザへと狙いを定めた。
「真空斬。」
見えない斬撃が飛翔し、ザムザの首は、宙を舞った。身体だけがバタリと倒れ、そのあとに頭が落ちて転がる。
───
風靡、照井、そしてクラールハイトは《怠惰》のルイ・ヴェールと対峙していた。
「照井、援護頼む。クラールハイト、いくぞ!」
「はいよ。」
と風靡の声に照井は短く応じ、ライフルを構える。クラールハイトは静かに頷き背から首切り包丁を引き抜く。そして、風靡とクラールハイトは同時にルイへ向けて駆け出す。
「三対一とかめんどくさ…。ベルフェゴール、おいで。」
ルイの声に《怠惰》の眷属であるベルフェゴールが現れる。ベルフェゴールは駆けてくる風靡と目が合う。その刹那、風靡はピタリと走るのを止め、クラールハイトに蹴り掛かる。
「っ!」
不意打ちにもかかわらず、咄嗟にクラールハイトは腕でその蹴りを受け止める。
「どういうつもりだ?迅。」
クラールハイトの問いに答える気はなさそうで、風靡は次から次へと蹴り技をクラールハイトへ繰り出す。クラールハイトは鎧付きの血で汚れた布を脱ぎ捨てると、一気に体勢を低くして風靡の足を取り体勢を崩させた。その隙を突き、ベルフェゴール目掛けて地を蹴る。
「目が見えない…。」
クラールハイトは鉄製の視察孔のような形状のゴーグルを付けているため外界からその瞳を捉えることができない。自身も視界が遮られ良く見えないらしいが、気配を探るためにはうってつけだという理由で付けている。そのおかげでベルフェゴールと目が合わずに洗脳されずに済んだのだ。クラールハイトは一気にベルフェゴールへ寄り、長く大きな首切り包丁を閃かせた。ベルフェゴールは躱すことが出来ず、その首を切断される。それと同時にクラールハイトへ体勢を整え迫っていた風靡は正気を取り戻す。
「…何を…していた…?」
「正気に戻ったな。」
クラールハイトの言葉に風靡は事態を呑み込めずにいた。
「マジか…。ベルフェゴールヤラれちゃったじゃん。はぁ…、一人で三人倒さなきゃいけないのか…。めんどくさ…。」
そういうルイは風靡と奥に控えている照井と目を合わせる。突如、照井はクラールハイトへ迷いなく発砲し、風靡もまたクラールハイトへ蹴り掛かる。
「今度は…照井まで…。」
クラールハイトはルイの背後にあっという間に移動していた。
「よりによってジョーヌみたいなすばしっこいの相手か…。めんどくさいな…。」
クラールハイトはルイへ首切り包丁を振るう。
「はぁ…。」
ルイは深い溜息を吐くとクラールハイトは地面に伏していた。そしてクラールハイトの背中にはルイが座っていた。
「…。」
「そこのお前。こいつ撃ち殺せ。」
照井はまたも迷いなくルイの下敷きにされているクラールハイトの脳天に発砲する。クラールハイトは足掻き、背の上にいるルイを退かせようとするも、ルイはがっちりと自由を奪ったままだ。
「これで一人…。」
クラールハイトは脳天を撃ち抜かれ頭部から出血する。
「うーん…。生きてたらあとがめんどくさいからな…。おい…。もっと撃て。」
照井はその命令に従い、クラールハイトの頭に向け何度も発砲する。
「良くやった。次は…その女を撃ち殺せ。」
照井は銃弾を填装し終えると、風靡の頭を三発撃ち抜く。風靡は頭部から血を噴き出して倒れた。
「最後は自分を撃って死んで…。」
ルイの言葉に照井はライフルを口に咥えて、発砲する。照井は頭蓋骨内部を損傷し倒れる。
「ようやく終わった…。疲れたなぁ…。寝よ…。」
そしてルイはその場に横になる。
「あ…。あいつら手駒にするのも良かったな…。まあいいや…。殺しちゃったし…。」
ルイは遂には寝息を立てて眠り始める。
───
「よぉ!デカブツ!」
《憤怒》のバレン・ヴィオレは目の前のアッシュを見て邪悪な笑みを浮かべる。
「バレン・ヴィオレ…。」
「名前覚えてくれてたのか!」
バレンは嬉しそうにアッシュを小突く。
「痛い…。」
「わりぃな!だがお前がこうして俺の所へ来てくれて嬉しいぜ!」
「ウム。」
「そんじゃ行くか!奴らを殺しに!」
アッシュは背中から大斧を手に取るとバレンのあとに続き、ルシファー達と巨人王アトラスが戦っている戦場へ向かう。
皆さん、いかがだったでしょうか。
《原初の悪魔》に敗れる者、勝利する者。
その中でアッシュはバレンと接触する。
次回 第六十一話 漆黒の悪魔




