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7.B組のメンバー

二日目から参加するB組のメンバーがデバイスやゲーム内の設定を整え終えた頃、私はノートを手にもじもじしていた。


――どうしよう……。なんて声を掛ければ……。


 昨日、足利監督に言われた言葉を思い出す。


『全員の能力、性格、気質、勝ってるときと負けてるときのパフォーマンス、思考の傾向も含めて、すべてを把握しろ。それをこのノートに記せ』


 しかし、そう言われたものの一つだけ問題があった。

 私にそれを聞き出すコミュ力がないことだ。


「あ、あの……。野崎さん。もうデバイスの設定って済みましたか?」

「ん? 終わったよー」


 私は監督の挨拶の前に一方的なマシンガントークを受けることで交流を深めた?野崎ほのかさんに声を掛ける。サイドテールが可愛らしい同じ一年生の女の子だ。


「あの……、もし邪魔じゃなければ、その……みんなのこと知りたくて……」


 ああ……。なんて切り出せばいいのか分からない。

 野崎さんもよく分からないといった様子で《《?の顔》》をして首を傾げている。


「えっと、監督からノートを渡されてて……。みんなことをもっと知るように言われてて……。だ、だから野崎さんの得意なこととか聞きたくて……」


 私がおろおろしていると、元気よく反応してくれたのは私の後ろにいた人だった。


「お、面白そうなことやってんねぇ!」


 振り向けば、にかっと爽やかな笑みを見せているのは花道香さん。

 昨日、学校を抜け出して選考会にやってきた宮本さんより背の高い一年生だ。


 所々赤いメッシュの入った黒髪からは、トップの位置から編み込まれたお下げが伸びていて、その根元には朱色の派手な布飾りが結ばれている。


「今日が初めましてだし、自己紹介も兼ねてB組のみんなでやっていこうや! おーい! B組のみんな集まれぇー!!」


 陰キャの私とは対極に位置してそうな、声が大きくて活発で常にテンションの高そうな女の子。普段だったら関わることのない私の苦手なタイプ。


 けれど、不思議と嫌な感じのしない気持ちの良さそうな人だった。

 もじもじして野崎さんを困らせた私とは大違いだ。

 他のB組メンバーもなんだなんだと自分の席から私と花道さんのところへ集まってきた。


「あー、そういうこと。それなら自分からいかせてもらおうかな」


 B組の六名が集まったところで野崎さんから自己紹介が始まった。


「一年の野崎のざきほのかです。茨城県の鹿島女子から来ました。ポジションはフロントで、横浜女子の神原選手みたいな前衛型のスナイパーが得意です! 今日は憧れの神原選手とのゲームですけど臆さず頑張ります!よろしくお願いします!」


 元気いっぱいの素直な挨拶にみんなが拍手を送る。

 フロントでスナイパー使い。神原先輩と同じスタイルの選手のようだ。


「じゃあ次は時計回りで!」


 野崎さんがそう言うと、彼女の左隣にいた女の子が少し怪訝な顔になった。


「私か……。えーと、同じく一年の有坂梨花ありさかりか。よろしく」


 気だるそうに簡素な挨拶をした有坂さんは、私よりも少し背の低い細身の女の子だった。


 パープルカラーに寄せた黒髪。組んだ細腕からちらりと見える指先からは、いちごデザインのごてごてネイルが顔を覗かせている。なんだかギャル味を感じる女の子だ。


 ただ、もうちょっと自己紹介をしてほしかった。

 ポジションとか、得意なこととか、うーむ。


「確か岡山県の倉敷女子で全国出るよな? ポジションはトラッパーやっけ?」


 そこに切り込んだのは花道さんだった。

 有坂さんは驚いたように目をぱちくりとさせる。


「え、……よく知ってるね」

「まーね! 全国出る選手は全員チェックしてるから。てか野崎さんも全国出るやろ? 言えばええのに」

「う、うん。なんかそこアピールするのも変かなーって思って……。ていうか全部チェックしてるの凄いね」


 野崎さんも花道さんの知識量に驚いている。

 インターハイの県予選が終わったのはつい最近のことだ。各地の予選はネットで配信されているとはいえ、 全国に出場を決めたメンバーをポジションレベルで把握しているのは凄まじいの一言だ。


「ほらほら! もっとみんな自分のことアピールしてこ! ここには知り合いなんて誰もおらんのや。こんなとこで引っ込み思案を発揮しても一銭の得にもならへんで! ()()()もどんどん自分を売り込んでいかな!」

「待って、ありピって私?」

「そらそやろ! ありピはこれが得意ですーとか、この人には負けたくないみたいのないの?」


 有坂さんは諦めたように頭に手を当てて嘆息した。

 寄り切り成功。花道さんの一本勝ちである。


「……得意かどうかは知んないけど、ラーク(単独行動)の動きには自信持ってる。あと対面のトラッパーとの読み合い。あとは……。いや、そんなもんかな。次どうぞ」


 ぱぱっと話して次にバトンを渡す有坂さん。私は急いでノートにメモを取る。

 えーと、野崎さんはフロント型スナイパーで協調性高そう。有坂さんはラークの得意なトラッパー。まだちょっとだけ壁を感じるけど気難しい感じじゃなさそう。


「あ、あの……。ええと……。次って私……ですか?」


 蚊の鳴くような小さい声を出したのは、有坂さんの左隣にいる方だった。

 160センチに満たないぐらいの平均的な背丈の人で、もさっとした毛量の黒髪は背中まで伸びて後ろで縛られている。


 そして、びびっと私の陰キャセンサーが反応した。

 きっとこの人は同類だ。


「えっと……、石巻燈子いしまきとうこです。三年生です……すみません。ポジションはフロントですけど……全国には出てないです。……あっ、学校は長野県の安曇野あずみの女子です」


 今にも倒れてしまいそうな弱々しい声で自己紹介する石巻さんに私は親近感を覚える。eスポーツ界隈の上位層は結構イケイケな人が多いので陰キャサイドの人材はとても貴重だ。三年生の先輩だけどお友達になれるかもしれない。

 

「石巻さんって一年生の頃から三年連続で選考会に呼ばれてますよね?」

「え、そうなの!? すごいっすね!!」


 花道さんの補足情報に野崎さんが驚きの声を上げる。

 私も当然知らなかった情報だ。


「な、な、な、な、なんで知ってるの……!? 今回はB組に知ってる人いないと思ってたのに……。違うんです……、私はただ呼ばれてるだけで、別に代表になれるほどの実力があるとかじゃなくて……」


 石巻さんは手で顔を覆って塞ぎ込むようにぶつぶつと呪文を唱え始めた。

 ネガティブマシーンの私には石巻さんの気持ちが手に取るように分かる。

 けれど、陰キャの私は何かしてあげることはできない。

 無力ですみません……。


「いやっ、驚かせるとかそういうつもりはなかったんすけど……」


 流石の花道さんも少し焦ったようで、宮本さんに何か目くばせをしている。

 次の自己紹介に移って欲しいということだろうか。


「……えーと、一年の宮本歩みやもとあゆみです! 隣のあかちゃんと同じ神奈川の由比ヶ浜女子で全国にも出ます。ポジションはフロントとトラッパーをメインでやってて、撃ち合いには自信あります!」

「へー。同じ学校から二人で招集されるってすごいね」


 野崎さんは関心したように私たちへと視線を向ける。


「いえ、私のほうは人が足りないからってことで急遽おこぼれで呼んでもらった感じで、今年の四月に初めてFPSゲームを触ったのでまだまだなとこも多くて」

「え!? 数か月前に始めて選考会に呼ばれたの!? そっちのほうがすごいよ!」


 実際、初めてマウスとキーボードを触ってから数か月でここまで上達したのは異次元の成長速度だ。それを間近で見てきた私としては、宮本さんが褒められるのを見るとすごく誇らしい気分になる。


 私が後方腕組み彼氏面で悦に浸っていると、みんなの視線が自分に集まっているのに気づいた。まずい。私の番だった……。


「あ、ええと……、同じく由比ヶ浜女子一年の新堂あかりです……。メインポジションはクリエイトで、部のほうでは一応IGLやらせてもらってます」


 私が自己紹介をしていると、部屋全体が少しだけ静かになったような気がした。

 A組のほうに視線を向けるとちょうど準備が終わったようで、そろそろ練習試合が始めるようだ。


――うわぁ。すっごく静かになっちゃった。花道さんやりにくいだろうな……。


 部屋全体が私たちの自己紹介が終わるのを待っているような雰囲気になっている。

 残すは花道さん一人。

 自分がこの立場であることを想像したらとても耐えられる気がしない。


 しかし、花道さんはすぅーっと大きく息を吸い込んで挑戦的な笑みを浮かべた。


「灘田女子一年! 花道香! ポジションはクリエイト!」


 大きな、部屋中に響き渡るようなとても大きな声だった。


「世界大会で日本を頂点に導いて大会MVPになる! その第一歩としてこの場に馳せ参じました! 必ず代表への切符を持って帰ります! よろしくぅ!!」


 一点の曇りもない爽やかな笑顔に、部屋中の全員の視線が吸い込まれた。


 「私以外みんな一年生なのぉ……? おばさん辛いよ……」


 石巻さんの悲痛な声もよく響いた。

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