8.攻略法
ダァアアアンッ‼
地鳴りのような轟音がヘッドセット内に鳴り響く。
スナイパーのヘッドショットで吹っ飛んだのは野崎さんの操るスパイラビット。
そして、B組唯一の三年生石巻さんのミリタリードッグの二体だ。
――これじゃ勝負になってない……。
練習開始から数戦。
私たちBチームはAチームに対して文字通り全敗していた。
その敗因は明らかだ。
「ごめんなさい……。私が神原さんに勝てないから」
野崎さんは酷く落ち込んだ様子で俯いた。
彼女のサイドテールが暗い顔を隠すように揺れる。
別に野崎さんが下手なわけじゃない。
私の所属する由比ヶ浜女子にいたら間違いなくエースを張れるプレイヤーだ。
しかし、対面するのは日本を世界第三位へと押し上げたJapanese Juggernaut。
現役女子高生で日本最高峰の本家スナイパー使いだ。
野崎さんも全国レベルの実力とはいえ、優れているだけでは通用しない。
「私もすみません!」
「うぅ……。ご、ごめんなさぃ……」
宮本さんとB組唯一の三年である石巻さんも続けて謝る。二人は交互に入れ替わりでゲームに参加していたものの、その戦果は野崎さん同様に芳しくなかった。
負けているすべての原因は両チームのフロントにある。
AチームのフロントはJapanese Juggernaut神原白乃。
そして、次世代最強フロントの呼び声高い兎之山咲。
私たちBチームのフロントも全国で十分通用するレベルだけれど、世界レベルを前に圧倒される試合展開が続いていた。
――しかも今回は即席チームだし戦略が……。
インターハイ予選の時は神原先輩を戦略で抑え込むことができた。
けれど、それは私のオーダーに従いながら阿吽の呼吸で動いてくれる由比ヶ浜女子のみんながいたからだ。
しかし、今回は初めましての5人でゲームをしている。
戦略もなにもあったものではない。
加えて、フロント二人の撃ち合いはボロ負け。
これでは3対5でゲームをしているようなものだ。
「一旦休憩! 15分後に練習再開するからそれまでには席についてるように」
ゲームの区切りが良いところで、足利監督の号令が部屋に響いた。
Aチームのほうに目を向けると、和やかな雰囲気でゲームの改善点などを話し合っていた。そこに私のプロアカデミー時代の恩師である瀧本伊織コーチも加わって建設的な話が繰り広げられている。
対して、私たちBチームは明るく口数も多かった野崎さんのテンションがダダ下がりでお通夜状態。シンプルな撃ち合いの実力差が原因なだけに、何か改善点があるわけでもない。ただひたすらに重苦しい沈黙が続いていた。
「どう? スナイパーでやっていけそ?」
その沈黙に切り込んだのは花道さんだ。
話を振られた野崎さんは頭を上げるものの、その顔には疲労と絶望が浮かんでいるように見えた。あそこまでボコボコにされれば精神的にきついだろう。
「あっ、いやー……野崎さんを責めるとかじゃなくてな? あたしもAチームの神原さんや兎之山さんに対抗するための戦略とか議論したいんやけど、今までフロントのスナイパーと組んだことないから正直なところ何を話したらええか分からんねん!」
憔悴しきった顔を見た花道さんは、野崎さんを傷つけないよう少し焦ったように明るく振る舞う。
「けど、実際対面してる人にしか感触って分からんと思うし、こっちが一方的にスナイパーもう無理や! って決めつけるんやなくて、野崎さん自身の話も聞いたうえで議論するのがええかなーみたいに思ってるんやけど……どう?」
負け続けるスナイパー対決。
このままでは日本代表選考会という企画そのものが破綻してしまう。
花道さんが野崎さんの感触を知りたいと思うのは当然で、精一杯オブラートに包んだ表現だったと思う。
「スナイパーが、もう無理?」
しかし、それはプレイスタイルの根幹に関わる部分。
野崎さんはまるで自らの魂や生き様を否定されたかのように表情を歪ませた。
「ちゃうちゃうちゃうちゃう! そうやなくて――」
「あのっ!」
いてもたってもいられなくて、私はつい口を挟んでしまう。
一気にみんなの視線が私に集中する。
周囲は初対面に人ばかり。
あがり症でコミュ障の私にとってかなりきつい。
「フロントのスナイパーを使った戦略ならいくつか引き出しがあって……」
けれど、今の私は一人じゃない。
隣には宮本さんがいる。
「そうなんですよ! うちの高校で実際に神原さんと対戦したときにもあかちゃんが考えてくれた戦い方があって、実際にそれで神原さんの横浜女子に勝てたんです!」
私と宮本さんには神原先輩を倒した実績がある。
このチームでそれをやれるかは分からないけど、選考会に召集されるほどの腕前を持ったメンバーだ。やってみる価値はあるだろう。
「……そっか。今年はお二人の由比ヶ浜女子が勝ったんですもんね!」
野崎さんの瞳に少しだけ光が戻ったような気がした。
B組のみんなも私たちの元に近づいてくる。
「それで、どう動けばいいの?」
これまであまり会話に参加してこなかった有坂さんも輪に加わった。
パープルに寄せた黒髪とごてごてネイルで近寄りがたい女の子だけど、今は前のめりに私たちのほうへと向き合ってくれている。
ゲーム中も淡々と一人で仕事をこなしていただけに歩み寄ってくれて嬉しい。
「えーと、まずはスモークスキルで霧や毒ガスを発生させて、敵のフロントと後衛を分断させるんです。そこでシンプルな人数有利を活かして戦いたいので、ラウンドが浅いうちはトラッパーの有坂さんも本陣に参加する形にします」
「他のエリア捨てて、そのうえスキルもそこで消費しちゃうけど大丈夫なの?」
有坂さんは細腕を組みながら質問してくる。
「正直リスクある仕掛けなのでそれはそうなんですけど、神原さんと兎之山さんはそこまでリソースをベットしないといけない相手かなって判断です」
「そっか。まぁあの二人どうにかしないと仕方ないもんね」
相手は日本の女子高生で最強のフロントタッグと言っても過言ではない。
出し惜しみをしていては突破できないだろう。
「なるほど……。でもその後のラウンドはどうするん? 相手も一度やられたら人数寄せたりで対応してくるやんか。フロントの力量差がある以上はシンプルなぶつかり合いになったら厳しいんちゃう?」
このアニマルBOMB!というゲームでは、合計10ラウンドを先取しなければ勝利にならない。この作戦で1ラウンド取れたとして、その後はどうするつもりなのか。
花道さんの疑問はもっともだ。
「いえ、むしろ相手の援軍を呼び込んで、戦場を泥沼のぐちゃぐちゃにしたほうが勝機はあると思います。Aチームはフロント二人の強さが今のところ目立っていますけど、他のメンバーもフロントで勝ててるから手の内を出してきていない感じがするので、それを引き出す必要があるかなと……」
「たしかに! その視点はなかったわ! さっさと他の選手も引きずり出さんとな!」
花道さんは手をぽんと叩いて納得してくれた。
相手は神原さんと兎之山さんの二人だけではない。
昨年も日本代表の鉄壁のトラッパーとしてチームを支えた雪城さん。
日本代表レベルでも優れた連携力を見せる山田レジーナさん。
そして、北米のプロゲーミングチームに所属する現役プロゲーマーであり、U-18に縛られない純粋な日本代表選手でもある鏑木夕陽さん。
この人たちがまだ本気を出していないのは明白だ。
「いやー、流石は横浜女子を倒しただけあるわ! 私もめっちゃ勉強になる!」
花道さんは素直に私のことを褒めてくれる。
そう言ってもらえると思わず頬が緩んでしまう。
「でも、どうしてそれをさっきのゲーム中に言ってくれへんの?」
しかし、最後にぽつりと口から零れた声には、静かな怒りがこもっていた。




