6.二日目
二日目の朝、私が選考会の会議室に到着すると昨日いたメンバーの他に見慣れない三人の女子がいた。
学校都合で一日目に間に合わなかった人たちだろうか。
私はそれとなく距離を取りつつ練習開始の時間を待つ。
見知らぬ人には近寄らない。これが陰キャの世渡り術だ。
「あの、元|HoneyBeeGamingの新堂あかりさんですよね?」
「へぇっ!?」
不意に声をかけられた私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
そこには若干のあどけなさが残るサイドテールの女の子が満面の笑みを浮かべていた。
――何!? 何を言われるの!?
|HoneyBeeGamingというと、正直なところあまりいい思い出はない。
チームに所属はしていたもののトラブって抜けた身だし、アカデミー生として活動していた期間はごく僅かだ。
むしろ近々の大会で炎上したことのほうが知られている気がする。
私はどんな罵詈雑言を言われるのかとびくびくおどおどしながら身構える。
「あ、一年の野崎ほのかっていいます。私、横浜女子の神原白乃選手の大ファンで、中学時代のプロアカデミーのチームメイトとかも調べてたから新堂さんのことも知ってて!」
「は、はいぃ……」
「そういえば神奈川の県予選の開会式で神原選手が新堂さんのことを抱きしめたって噂があるんですけど、あれって本当なんですか!? 今回も神原さんが推したから新堂さんが招集されたみたいな記事も見たんですけどやっぱり二人って仲良いんですか? あっ、いきなりこんな質問したら失礼ですよね! ごめんなさい! 同じ一年生同士ですし、一緒に仲良く頑張りましょう!」
突然のマシンガントークに目が回るかと思った。何を言われたのか脳の認識がまったく追いついてない。ふわふわした頭で「は、はいぃ……」と返すので精一杯だ。
「集合~」
私が野崎さんのマシンガントークに圧倒されていると、足利監督の気の抜けた声が部屋全体に響く。
声のするほうを見ると足利監督が瀧本コーチにぺちんと背中を叩かれていた。
「気の抜けた声出さないの」
「だって眠いんだよ~。昨日もずっと調整してたし……」
足利監督の目元が若干暗いように見える。
夜遅くまで何かしていたのだろうか。
監督は仕切り直すように軽く咳ばらいをして私たちに向き合った。
「えー、皆さんおはようございます。二日目ではありますが、今日からの人もいるので改めて挨拶させていただきます。U-18 日本代表監督の足利祭です。今回は代表選考会の招集に応じていただきありがとうございます。で、こっちが……」
「チーフコーチの瀧本伊織です。よろしくお願いします」
扉が静かに開く音が聞こえる。
運営陣の挨拶を聞きながら横目でそっちのほうを見ると、私と同じ制服を着た長身ポニーテールの女の子がそろりそろりと部屋に入ってきてきた。
――あれ? なんで? なんで?
「今日はA組とB組に分かれて練習試合を行ってもらう。Aチームは昨年の代表メンバーの鏑木夕陽、雪城未菜、神原白乃、山田レジーナ。そして、兎之山咲の五名だ」
私は目をぱちくりと見開いて整列に混ざる女の子を凝視する。
彼女も驚く私に気づいたようで、にんまりとした笑みを浮かべていた。
「B組は昨日から参加している新堂あかりに加えて、今日から参加の花道香、野崎ほのか、有坂梨花、石巻燈子。そして急遽招集に応じてもらった宮本歩の六名をメンバーとする。20分後に練習試合を開始するので、それまでにデバイスやゲーム内設定の調整を済ませとくように。以上、解散」
◆
「宮本さん! 急遽招集されたってどういうことですか!?」
「へへーん。それはね~」
運営陣からの挨拶が終わった後、私は腕を組んで得意げにしている宮本さんの元へと歩み寄った。宮本さんが招集されたという話はまったく知らなかったからだ。
答えたのは、横から入ってきた足利監督だ。
「私が無理を言って頼んだんだ。観光目的でこっちに来てるところ申し訳なかったが……、宮本みたいな選手にこそ経験させておくべきだと思ってな」
「昨日いきなり連絡が来たときはびっくりしたけど、先輩も快く送り出してくれたので大丈夫です! こんな機会滅多にないので頑張ります!」
足利監督が直々に宮本さんを所望したとすれば、それはとてもすごいことだ。
宮本さんの実力がU-18代表レベルと遜色ないという評価をもらったことになる。
「宮本さんすごいです! あの足利監督に認められるなんてっ」
私が手放しで喜んでいると、足利監督は少しだけ顔をしかめた。
「喜んでるところすまないが、代表に選考する可能性は限りなく低い。エイムに限れば代表レベルと同程度のスタッツはあるが、他は話にならないレベルだ」
「うぅ……。最近は連携とか良くなってきたと思ってたんですけど……。ってことは、エイムの良さだけで呼んでくれたんですか?」
「いや、それだけじゃない。これは諸説ある話だが、世の中で求められている才能には種類がある」
足利監督は少し真剣な面持ちになる。
「何を以て才能と呼ぶか。これは私の持論ではあるけど、世の中はいきなり凄い奴を求めてる。例えばプロ野球の球団に入団して高卒一年目でホームラン王を獲ったり、16歳の高校生がJリーグで得点王を獲ったりするような才能だ。この業界だと鏑木や神原が良い例だろう」
鏑木さんは高校生にして日本を代表する選手で、若くして海外チームで活躍する唯一無二の存在だ。神原さんも高校生ながら日本のプロリーグでいきなり主力として活躍している。いきなり凄い奴に当てはまるのも頷ける。
「宮本はマウスとキーボードを初めて触ったのが今年の四月だと聞いている。完全な初心者からたった数ヶ月で、ここまで撃ち合いが強くなった人間を私は見たことがない。この選考会は今までと段違いのレベルになるが、その吸収力に私は期待している」
「はい! 頑張ります!」




