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「そういうものなの? いいな……。僕もそんなお父さんだったらよかったのに。母さんは褒めてくれるんだけど父さんは褒めてくれないんだ。頑張りなさい、努力しなさい、っていつも言うんだ。僕は必死に努力しているのにそれを認めてもらえないんだよ」
それを聞いた彼女がこんなことを言いました。
「そうなの? じゃあ、私が褒めてあげるよ! 君は努力していて偉い! その努力は誰にでもできることじゃないと思うから。適度に休憩をはさみながら頑張ってはいっちゃいけなかったね。ごめん。うーん……、頑張れ以外の言葉かなんていったらいいのかな?」
彼女は考え込んでしまいます。その様子を見て彼が笑い出します。
「そんなに考え込まなくても大丈夫だよ! でもありがとう。嬉しいよ。確かに。努力を認めてくれる人が近くにいると嬉しいかも。それに、君の前なら素の自分でいられる気がするからこういう場を作ってもいいかな?」
「もちろん! いいよ。話して楽しかったし。もうこんな時間! 今日は私食事当番なんだ! 買い物して帰らなきゃ! これ、私の連絡先だから連絡して」
それだけ言うと彼女は鞄を無造作につかむと駆け出していきました。彼一人を教室に残して。その様子を見て彼はつぶやきます。
「あの子面白いな……。クレアちゃんか。もっと彼女のことが知りたい。さて、僕も帰りますか」
彼もいつも通りに鞄を持とうとしますが、ある違和感に気づきます。彼が持っている鞄にはキーホルダーなんてついていません。しかし、この鞄にはかわいいキーホルダーがついています。どうやら、鞄を取り間違えたようです。よほど焦っていたのでしょう。これでは、家の鍵が開けられません。そしてコート掛けを見ると彼女のコートらしきものがマフラーと一緒にかかっていました。外は暗くなりこれから寒くなってくると予報では言っていました。彼女に連絡を取ろうとしましたが、彼女の携帯にはロックがかかっていてパスワードが解りません。彼は、校門の前で待ってみることにしました。それから三十分程たったころでしょうか。彼女が現れました。彼女の話によると、家の近くのスーパーで買い物をしようとして、携帯のメモに買い物のリストが書いてあるのでそれをみようと鞄を開け携帯を取り出した瞬間自分の携帯ではないことに気付いたようです。彼女の携帯は、きれいな薄ピンク色をしているのですが、その携帯の色は黒だったからです。その携帯を見てこれが自分の鞄ではないことに気づき、急いで走ってきたのか息を切らしていました。
「ご……ごめ……か、かばん、間違え……」
「落ち着いて、ゆっくり深呼吸しよう。息整えてから話して」
彼女は頷き息を整えます。それから数分後、ようやく息が落ち着いてきたのか彼女は頭を下げました。
「ごめん! 鞄を間違えるなんて! おかしいな……鞄は取り間違えないように右側においたはずなのに」
それを聞いた彼は謝ります。
「こっちこそごめん! それを移動したのは僕だ。君の鞄を少し横にずらしたんだ。まさか取り間違えるとは思わなかったけどそれに、コートとマフラーを忘れていくなんて随分うっかりなようだね」
彼はコートとマフラーを彼女に見せながら話します。彼女はそれをみて顔が真っ青になりました。
ここで瑠璃はまた話をやめました。すると、今まで出てきていた少女と少年も消えました。彼女は、本を閉じました。少し疲れたのでしょう。ぐったりとしています。今日はここまでのようです。そこで、ロイドは、今日は最後の質問をしました。
「ここで彼女はなぜ、真っ青になったのだと思いますか?」
「そうだな……恥ずかしくなったとか?」
「そうだね。恥ずかしくなったのと迷惑をかけてしまって申し訳ないという気持ちがあったからだと思います。これは推測ですけど、迷惑をあまりかけたくないとおもっているのでないかと」
その答えを聞き、ロイドは満足そうに頷きました。




