青年のお願い
次でジル編終わります。
「っ!」
そうジルが言うと同時、街角から急に殺気が膨れ上がった。
それを察知したジル自身がその方向へと顔を向けるが、そこには空が広がるのみ。
「――だ、ジルくん」
「えっ?」
だが、リビットが何か返事をすると同時、その殺気が一吹きのもとに消え去った。
「だから、それは出来ないと言ったんだ。ジルくん」
借金の肩代わりを断れたジルは一瞬、何を言われたのか分からなかった。
今度はちゃんと、一字一句聞き逃さないようにしたというのに。
「……えっと……それは、どうしてだい?」
辛うじて言えたのは、その言葉だった。
でもそこから堰を切ったように、思っていたことが口から出ていく。
「だって、あなたが逃げ出さず、ちゃんと借金を返す約束をそのまま果たしてくれるのなら、何も問題は
ないだろ?」
「そういうことじゃないんだ、ジルくん」
「そういうことじゃない……?」
「だって俺と君が知り合ったのはつい最近で、しかもまだ二回目だろ? そんな人に、お金に関することで貸し借りを作ってはいけない」
そのしっかりとした答えは、まるでジルのコネを利用しようとした人には思えない。
……いや、違う。
本来ならそこまでしないのに、“そこまでして”好きな人に会いたかったのだ。
自分を捻じ曲げてまで会いたかった人……それだけで、彼がどれだけ真剣なのか伝わるだろう。
そしてそこまで真剣だからこそ、尚の事ジルのお金を利用したくない。
「だ、だがそれだと、君は好きな人と……!」
「それはもう、仕方がない」
「でもそれは、僕のせいで……!」
「だとしても、だ。そのことに君が責任を感じることはない」
「しかし――」
「それに、だ。君は騎士を目指しているから、俺を助けてくれたんだろ? それなら、こんな助けはダメだ」
「なぜ!?」
「騎士は、全員を平等に助けなければいけない。もしここでそんなことをすれば、皆に同じことをしなければいけなくなる」
「それがなんだって――」
「理想は、所詮理想のままさ」
ソレは正に、理想どおりに事が運ばなかった、リビットらしい言葉だった。
「皆にも同じことをするなんて言って、君が意地を張って本当に同じようなことをしては……すぐに君は崩壊する。俺はそうして崩れる君を、見たくない。優しい君は、優しいままでいて欲しい」
「…………」
真摯な言葉に、何も言えなくなる。
「だから、重荷を上手く処理する方法を、覚えて欲しい。理想と現実に折り合いを付けて欲しい。それが、騎士になるということだと、俺は思う」
言って、リビットはずっと待ってくれていた、背後の二人に声をかける。
「それじゃあ、街に行くための馬車乗り場に移動しましょうか。あ、でも、荷物を取りに行きたいので、一度家に行って良いですか?」
何事も無かったかのように、落ち込んですらいないかのように――けれども、間違いなく、落ち込んでいるのを無理に隠しているのが分かる言葉を掛ける。
「「…………」」
それに子供たちも、何も言えない。
何か難しいことを言っていた。
内容がほとんど分からなかった。
でもただ、彼が好きな人に会うのを諦めたことだけは、分かった。
そしてそれは、自分たちではどうすることも出来ないことだって、何となく察しがついて……いくら言葉を重ねても、もうどうにもならないことが、幼いながらも分かってしまって――
「だけどあなたは、折り合いを付けすぎ」
――そんな、重い空気を払拭する一人の女性の声が、不意に聞こえた。
「もっと足掻いても良いと思うんだけどね」
頭の後ろを掻きながらやってきたその女性は――不意に姿を消したリフィアだった。




