顔を見せないストーカー
「…………」
しばらく待ってみたが、返事はない。
……なるほど……協力する理由が無いと、そういうことか。
「……ガッカリだな」
てっきり彼女もまた、俺と同じ考えでいてくれていると思ったんだけど。
「分かんないか? このままジルがあのお人好しさを発揮したまま彼を助ければ、彼の家柄に傷が付くかもしれない。彼のことが好きなら、それは望まないことじゃないのか?」
相変わらず、何の返事も来ない。
しかし間違いなく、ここにいる。
民家の屋根の上。
さっきまでいた場所の斜め向かい、ちょうど俺たちがいた屋敷の入口が正面に見据えられる位置。
姿は見えないが、間違いない。
俺自身が気配を感じ取っている訳じゃない。
身体がずっとここにいると教えてくれている訳でもない。
ただ一瞬、さっき家の前で皆と話している時に、ここに気配があっただけ。
だから移動される前にここへと駆けつけた。
少しでも気配を発するようなこと……それこそ移動や会話などを行えば、いくら姿を消す魔法を使っていようともどこにいるのかが分かる。
あくまでも認識できなくするだけだからだ。透明人間になるような便利魔法ではない。
それがあるから尚の事、ここにストーカーがいることも確信が持てている。
だってここに来て声をかけた辺りから、気配を感じ取らなくなったのだから。
「…………」
……にしても、ここまで気配が無いとは……実は本当にいない、とか……?
「それともお前は、ジルのことだけが好きで、家柄はどうでも良いっていうのか?」
「……はぁ……」
これで返事が無ければ恥ずかしい姿を晒すだけ晒したことになるが立ち去ろう、と腹を括ったところでようやく、返事が聞こえた。
……いや、返事、というよりかは、ため息、だろうか。
その吐息が聞こえたのは、隣の建物の屋根の上。
こちらからだと見上げる形になる。
「くっ……」
逆光で顔が見えない。少しばかり小柄なその子は、俺に顔を見せる気がないからそうした登場の仕方を取ったのだろう。
「あのね……あなたは勘違いをしている」
抑揚の少ない、小さな声。
「勘違い?」
「そう。私は別に、ジル様のことが好きな訳じゃない」
は?
「ただ、彼には立派な騎士になって欲しいという応援の元、動いているだけ」
「いやいやいや……」
そんな理由でストーカーまでってお前……。
……いや、逆光で表情を見せていない……? もしかして、コイツ……。
「えっと……じゃあもしかして、ジル個人を応援してるから、彼の家のことなんでどうでも良いってこと?」
「そう」
「あくまで彼を応援したいだけ?」
「そう」
「好きなの?」
「違う違う」
両手をアワアワと振る姿が影になって見える。
やっぱり……こいつは俗にいう、ツンデレ……!
……ではないけど、極度の照れ屋か……!?
……いや、素直になれない系女子ってやつか……!
いやもうどう言えば良いんだ! ストーカーだしちょっとしたことで恨み言も吐くし! その癖好きな相手のことを追求しても認めないし……!
属性過多すぎるだろっ!
「あ~……っと」
窮しながらも、なんとか言葉を探る。
「でも、応援したいなら、助けない? 普通」
「私は、ジル様が騎士になることを応援したい。だからヴェイルロイド家なんて無くなっても構わない」
「その家もまたジルの一部じゃない?」
「でもその貴族の家はきっと、彼を“彼の望む騎士”にすることを認めない」
まあ、確かにそうだろうな。
人の上に立つ人が、進んで前衛に立って人を守ったり救ったりしていれば、万が一が起きればすぐに指揮系統が乱れてしまう。
貴族がなる騎士とは、そういう兵士とさして変わらない騎士ではなく、周りに守らせながら周りを導いていく象徴のような騎士のことだろう。
確かにそういう意味では、ジルの目指している騎士とは真逆の位置に存在する騎士となるに違いない。
「だから、協力出来ないって?」
「うん」
「好きなのに?」
「好きじゃない好きじゃない。彼に騎士になって欲しいだけ」
なんだ……あの照れてるシルエット……結構可愛いな。
「まあ……じゃあ、協力はしてくれないってこと?」
「もちろん」
「話だけでも聞かない?」
「聞かない」
「ジルのためになるとしても」
「……どうしてもって言うなら、聞いてあげる」
乗ってきた……!
だったらちゃんと、教えなければいけない。
どうして俺が、彼女と接触しようとしたのかを。
「じゃあ、ちょっとしたお願いもあるんだけど――」




