第7話 「お上の内偵です」(大嘘)。コピー能力で帳簿を丸ごと回収します
「……大変申し訳ございません。お見苦しいところをお騒がせしてしまいまして……」
ヤクザたちが去った(連れ去られた)後、店主がペコペコと何度も頭を下げてきた。
「いや、こちらは大丈夫です。それよりも、お怪我は大丈夫ですか?」
「あはは……毎度のことですので、慣れておりますわ……」
店主は力なく笑うが、その目は完全に諦めきっていた。
「毎度って……。彼ら、この街の自警団か何かですよね? 街を守る立場のはずなのに、こうやってお店を壊して回るなんて」
「……この街は、もう仕方ないんですわ」
店を片付けながら、ぐったりと肩を落とす店主。この様子では、他の商店も同じような目に遭っているに違いない。
ここで、俺はふと思いつく。
このまま世間話として愚痴を聞き続けるだけでも、何かしらの情報は得られるだろう。
だが、より深く、確実な情報を引き出すために、ここで俺の「お家芸」を発動させることにした。
そう、「嘘の役職」アピールだ。
これに、ステータス【魅力:A+】を掛け合わせる。
まさに、一般NPCを瞬時に落とす最強のハメ技である。
俺はすっと真面目な顔を作り、声を潜めて店主に告げた。
「あの……実は、さっきの男(朝秀)と私は、お上から密かに派遣されてきた内偵の者なんです。この辻宿に、ある『不正の疑惑』がありましてね」
案の定、効果は覿面だった。
店主の目が見開かれ、次の瞬間には、警戒心が目に見えて氷解し「すがるような表情」に変わる。
「……お、お上の方でしたか……! ああ、やっと、やっと来てくれた……」
店主は周囲を気にするようにしながらも、堰を切ったように早口で話し始めた。
「この街は、名主の奴のやりたい放題なんですわ。通常の税とは別に、ことあるごとに『追加の税』を徴収されてましてね。さっきのヤクザどもは『お上のお達しだ』なんて抜かしてますが、どうせ名主と代官が裏で結託して、勝手にやってるに決まってます」
「追加の税、ですか」
「ええ。さっき奴らが取りにきたのは『警護料』って名目なんですがね……。警護対象はお前ら自身だろって話です、まったく」
(うん。絵に描いたようなヤクザのみかじめ料だな)
心の中で毒づいていると、店主はさらに悔しそうに拳を握りしめた。
「しかも、それだけじゃないんです! 俺たち商店にかかる通常の『運上金』も、他の町に比べて税率が格段に高いんですよ。これもきっと、名主と代官が裏で手を握って、俺たちからむしり取った分を山分けしてるんですわ」
「なるほど、それは酷い。組織的な横領と職権乱用ですね……。あの、もしよろしければ、お店の『帳簿』を見せていただくことは可能ですか?」
「はい、もちろん! あいつらを追い出していただけるってんなら、なんだって協力します!」
店主は力強く頷くと、店の奥へと帳簿を取りに走っていった。
一人残された俺は、ふと、この世界に戻ってきた時に獲得したボーナス報酬を思い出す。
そう、運営からのカムバックボーナスとして獲得した、スキルカード『コピー』だ。
コピーってことは、見たものをそのまま複製できるってことだろう。
だったらこのスキルを使って、店の帳簿をデータとして丸ごとコピーして、後で五助に見てもらえば、この街で行われている、不正の証拠が掴めるかもしれない。
俺は視界をシステム画面に切り替え、インベントリからスキルカード『コピー』を選択。自分自身のスロットへと装着した。
目の前に、半透明のポップアップメッセージが躍り出る。
─────
スキルカード『コピー』を装着しました。
─────
改めてステータスを確認してみると、スキル欄の『手芸(ミチル由来)』の横に、新しく『コピー』が追加されている。
手芸に加えて、コピーか……。俺の能力、どんどん事務職のおばちゃんみたいになっていってないか……。
そんな地味すぎるチート能力に複雑な気分になっていると、店主が分厚い冊子を大事そうに抱えて戻ってきた。
表紙には、墨文字で「大福帳」と書かれている。
「これです。うちの店の商いの記録ですが……」
「ありがとうございます。拝見します」
俺はそれを受け取り、システム画面を開いた状態のまま、意識をその「大福帳」へと集中させた。
─────
スキル『コピー』を使いますか?
[ YES ] / [ NO ]
─────
俺は迷わず [ YES ] を選択する。
すると、光の輪がふわっと出現し、大福帳を包み込む。直後、視界の端にあるインベントリのアイコンに、新規獲得を示す赤い⚫︎ががついた。
インベントリを開いて中身を確認すると、スロットの中にしっかりと「ひさご屋 大福帳」というアイテムが生成されている。
よし、コピー大成功だ。
しかし、俺はその「大福帳」という文字を見て、ふとある疑問が頭をよぎった。
……大福帳って、確か江戸時代に普及した商業帳簿だよな? 『戦プリ』の世界だから、てっきり戦国時代ベースの時代設定だと思ってたんだけど……。もしかしてもうちょっと先の時代なのか? それとも、ただ単に設定が適当なだけか?
まあ、異世界ファンタジー系のゲームだし、細かい時代考証を気にするだけ野暮か、と自分を納得させる。
俺はパラパラと内容を確かめるフリをして適当にページをめくった後、すぐに店主へと帳簿を返した。
店主は「えっ?」とした顔で俺を見つめている。
「あの……もうよろしいのですか?」
「ええ、内容はすべて頭に入りました(大嘘)。……ところで店主さん、他に帳簿を見せてくれそうな商店って心当たりありますかね? できれば紹介していただきたいのですが」
そう言うと、店主は言葉がないと言った感じで目を丸くした。
一瞬ページをめくっただけで、すべての数字と不正の形跡を完全に把握した「超天才内偵官」だとでも勘違いしたのだろう。
【魅力:A+】の効果もあって、彼の俺への信頼は今やカンスト状態だ。
「も、もちろんです! すぐにご案内いたします!」
その後、店主に案内され、いくつかの商店を巡り、お上の内偵を装い「大福帳」をコピーして回った。
もちろん、これは内偵捜査ということで、名主はもちろん代官にも知られないようにと、念押しも忘れない。
各店舗の店主たちも、俺の真に迫った警告に深く頷き、厳守することを約束してくれた。




