第6話 穏便に頼むと言ったのに。武力S+の家臣、到着早々ヤクザを店の裏へ連行する
ようやく辿り着いた「辻宿」は、事前情報の通り確かに大きな街だった。
立ち並んでいる店舗の数は下宿よりも明らかに多い。
だが、なんだろう。
街全体に、どうにも「活気」というものが感じられない。
行き交う人々の数はそこそこ多い。
しかし、誰も彼もがどこか事務的というか、下宿の街並みにあったような楽しげな雰囲気が一切ないのだ。
全体的にどこか殺伐とした空気が漂っている。
とりあえず情報収集の足がかりとして、街道沿いにある一軒の茶屋に立ち寄ることにした。
店先に用意された床机(腰掛けスペース)に腰を下ろすと、奥から疲れた顔をした店主らしき中年男性が出てきた。
俺はお茶と、適当な甘味をいくつか注文する。
「ねえ朝秀。この街何か殺風景というか、活気があんまりないよね」
お茶をすすりながら小声で尋ねると、朝秀は笠の隙間から街路を睨み据えながら、静かに頷いた。
「そうですな。まあ、こういう雰囲気の街は大概、原因が決まっておりまして……。おっと、主人、あそこを見てくだされ」
朝秀が顎でしゃくった方向へ目を向ける。
そこには、絵に描いたようにガラの悪い男たちが数名、道の真ん中を「我が物顔」で歩いてくる姿があった。
周囲の買い物客や商人たちが、怯えたようにサッと道を譲っていく。
「あやつらのような輩が幅を利かせていると、大体こういう死んだような街になるのです」
「なるほど。あれがスズランの言っていた、名主側の実戦戦力ということになるのかな?」
「おそらくは。あれでも一応は武士の端くれですからね。まったく、困ったものです……」
ああいう連中まで武士に含まれるのか。
どうやらこの世界では、立派な志や品格があるかどうかではなく、誰かに仕えて武力を担う立場にある者を、広く武士と呼ぶらしい。
今目の前の奴らは、武士ではあっても自警団なんて上等なものじゃない。
街を守るどころか、自分たち自らの手で治安を乱して回っている。
そんなことを考えていると、その男たちがこちらに向かって歩いてきた。
すれ違いざま、男たちはなぜか俺にだけギロリと鋭い睨みを利かせ、今俺たちが利用している茶屋の店内へと入っていった。
(うんうん、分かってたよ。隣にいるお兄ちゃん、俺と違ってヤバそうなオーラあるもんな。君たち、実に分かりやすくて正しいよ)
強そうな朝秀を無意識に避け、弱そうな俺を威嚇してマウントを取る。
そんなヤクザの小市民的ムーブに心の中で草を生やしていると、店内からけたたましい音が響いた。
――ガシャン! ガラララ!
「おうおうおう! 店主よぉ! 警護料がまだ支払われてねえって報告が上がってんだが、一体どういうことだあ!?」
「そ、そんなっ……運上金(営業税的なもの)ちゃんとお支払いしております! なんとか、もう少しだけお待ちいただきたく……っ」
「おいおい、こいつはお上からのお達しなんだよ。それを待ってくれと言われてもなぁ、俺たちも商売あがったりなんだわ」
男たちの罵声とともに、さらに什器や小物がひっくり返る荒々しい音が続く。
そーっと店内を覗き込むと、連中は本格的に店を荒らし始めていた。
「あああ! お願いですから止めてくだされ! 店を壊されては、払えるものも払えなくなってしまう……!」
「あんだとぉ!? 払えるもんがあるってことか! で、払わねえってのはどういうことだあ!? さてはお前、俺たちのことを舐めてるな!?」
男たちが店主に暴力を振るおうと凄んだその時だった。
一人の大柄な影が男たちの前に立ちはだかった。
……ん? と思ってふと隣を見ると、さっきまでいたはずの朝秀の姿がない。
「おい、にいちゃん達。こっちは今、楽しく一服してんだよ。ガタガタ騒いで邪魔すんじゃねえよ」
あらら、朝秀さん……。
できるだけ目立たないようにしてくれって、あれほど言ったのに。
朝秀は俺の視線に気づくと、「分かってますよ」と言いたげな感じでチラリと目線をこちらに配ってきた。
表情は……すごく楽しそうだ……。
絶対分かってないだろ……。
「てめえ何者だぁ!? 俺たちが誰だか分かって言ってんのか、コラァ!!」
男たちも引き下がらない。
人数は三名。
一対三という数の論理で勝てると踏んだのだろうか。
実戦パラメータの差を見たら気絶するぞ君たち……。
「知らねーよ、てめえらなんか。……おい、ちょっとここじゃ狭くて何だからよ。店の裏でゆっくり話をしようや」
そう言うや否や、朝秀は男たち二人の首を強引にホールドし、残る一人を強烈な眼力で威嚇しながら、店の裏手へと連行していった。
(穏便に……なんとか、極力穏便に頼むぞ、朝秀……)
心の中で念仏のように唱えつつ、俺はよっこらせと立ち上がり、荒らされた店内を涙目で片付け始めた店主に声をかけた。
「あの……。彼らって一体……」
――ドコッ! バキィっ!
――ヒィィィィィッ!!
言葉を遮るように店の裏から響いてくる、明らかに人を殴っている重い音と、情けない悲鳴。
しばらくすると、何事もなかったかのように爽やかな顔をした朝秀が、白目を剥いてグッタリとした男三人を引きずりながら戻ってきた。
「主人、ちょっとこいつらの『兄貴分』的な奴がこの近くにいるみたいなんで挨拶してきます。なんなら、全員やっちまってもいいんですが……」
「ま、まま、待って! 朝秀、ちょっとこっち来て!!」
俺は慌てて朝秀を呼び寄せ、周囲に聞こえないように小声で耳打ちした。
「武力制圧は困るんだよね。前言ったとおり『反乱軍』と思われたりしたら厄介だからさ。だから手下をとっちめるのはいいんだけど……」
そう伝えると、朝秀は分かったような、分かっていないような、実に「きょとん」とした表情を浮かべた。
だが、すぐにポンと手を叩く。
「なるほど、バレないようにすればいいんですね。分かりました!」
そう言うと、朝秀は再び男三人の襟首を掴み、ズリズリと店から引きずり、どこかに行ってしまった。
なんか、朝秀の表情がめちゃくちゃイキイキしているのが最高に不安だ。




