第5話 便利すぎるクノイチ。でも、何もかも丸投げするのは違う気がする
さて、「俺、ミチル、ユキホ、五助の四人に朝秀を護衛につけて辻宿へ潜入調査に行く」、なんて計画をブチ上げたわけだが。
一晩経って冷静に考えてみると、流石にそれはハードルが高すぎると気づいた。
辻宿の武力面の問題や安全性がはっきりしていない段階で、いきなり行くのは危険すぎる。
俺自身が狙われる分にはまだしも、もし万が一、ユキホやミチルが敵にさらわれでもしたらまずい。
五助だって清々しいほどのインドアステータスだし、現段階で前線に連れて行くのはリスクしかない。
だったら「スズランに全部丸投げしちゃえばいいんじゃね?」とも思ったが、やっぱりそれは違う気がした。
辻宿という街の状況、まずは俺自身の目で確かめ、肌で感じておくべきだ。
というわけで、俺は今、予定を少し変更して、朝秀だけを伴って辻宿へと続く街道を歩いている。
まずは男二人で先行偵察というわけだ。
距離にして、上宿から約10キロといったところか。
現代の感覚なら、車なら15分くらい、歩いて行こうなんて絶対に思えない距離だ。
だが、移動手段が「徒歩」しかないこの世界の俺は、四の五の言わずに足を動かすしかない。
地味に足腰にくる。
ちなみに、今の俺たちの格好は、見た目こそこの世界に馴染む一般的な服装だが、実はこれ、昨晩ミチルに頼んで作ってもらった「ハイテク布素材」の衣服だ。
最初に作った試作品はカーボンが効きすぎてごわつきが気になったので、素材の配合を調整し、やや着やすさを重視してもらった改良版である。
着心地は普通の服と変わらないが、RPGの初期装備でありがちな「錆びた刀」くらいの攻撃なら、弾き返す強度がある(はずだ)。
さすがは技術力「A+」のドールディーラー、実に良い仕事をしてくれる。
「いやいや、やっと始まるって感じですな! いつ敵が襲ってくるか、今からワクワクしておりますぞ!」
隣を歩く朝秀が、満面の笑みで拳を鳴らす。
「いやいや、襲ってこられたら普通に困るから……」
一応、頭には笠を深く被って、辻宿側にまだバレないように配慮してはいる。
だが、もし仮にバレたとしても、そうそう大惨事にはならないだろうという算段はあった。
なぜなら、昨夜のうちにスズランから辻宿の戦力について報告を受けていたからだ。
その報告によれば、現地の戦力は大きく二つに分かれているという。
代官管轄(公的組織):10名程度。
警察のような役割で、武器として鉄砲も保有している。しかし、中身はいわゆるお飾りの、お役所仕事集団。
名主管轄(自警団的組織):約30名。
実態は周囲から集まった荒くれ者の集まりで、武器の豊富さはあるが刀や槍などの刃物が中心。
辻宿の実質的な主導権を握っているのはこの名主側であり、代官所は完全に形骸化しているという。
ちなみに、俺を突き落とした犯人である「岩松」は、やはりこの名主側に抱き込まれていた。
「平太を消せば、その後の現地の管理を任せ、莫大な報酬も与える」――そんな条件を持ちかけられ、まんまと乗せられたのだろう。
金に困っていたわけでも、致命的な弱みを握られていたわけでもないらしい。
つまり、切羽詰まった事情があったわけではなく、ただの出世欲や物欲に目が眩んで、あっさりと俺の命を奪うとした(奪った)のだ。
報告の際、スズランは表情ひとつ変えずに、
「……その名主と岩松、今夜にでも『暗殺』しましょうか?」
と、まるで庭の雑草でも抜くような調子で提案をしてきたが、俺は全力で「ちょっと待って!」とストップをかけておいた。
彼女、暗殺に特別なこだわりでもあるのだろうか……。
話を戻そう。
もし俺の生存が辻宿側にバレていたとしても、勢いに任せて即座に襲ってくる可能性は低いと踏んでいる。
向こうに岩松がいるということは、こちらの情報――つまり、俺の背後に朝秀という「とんでもない化け物」がついていることや、彼が引き連れているであろう元配下たちの戦力も筒抜けになっているはずなのだ。
まともな知恵があれば、こちらの戦力を警戒して慎重になるはずだ。
それに、万が一急に襲いかかってきたとしても、俺の隣には【武力:S+】の人間重戦車がいる。
辻宿の自警団程度では、朝秀の『無双』の錆にしかならないだろう。
正直なところ、スズランからの報告を聞いた時点で、「乙女原の奪還」だけであればイージーゲームだと思った。
朝秀の部隊で力尽くでぶっ飛ばしてもいいし、スズランの『暗殺』で、名主はもちろん、代官の首でさえも簡単に落とせるだろう。
正直、奴らの犯行(俺の暗殺)の証拠を突きつけるという手段を取るまでもない。
だが、俺は単に「乙女原の奪還」だけで終わらせるつもりはなかった。
俺には、この世界で達成しなければならない現在のメインミッションがある。
――『駿河国と友好関係を築け』だ。
戦国の大名国である駿河国と友好関係を築くためには、一介の「開墾地のリーダー」のままでは絶対に無理だ。
俺自身が、政治的にも経済的にも、もっと大きくならなければならない。
そう。
俺が目論んでいるのは、この機会に、代官所もあり商業の街としての規模を誇る「辻宿」そのものを手に入れること。
そして、駿河国本国とのパイプを築くところまで、視野に入れていた。
街道の先に見えてきた、辻宿の入り口となる大きな門を見据え、俺は笠の隙間から不敵に微笑んだ。




