第4話 ゴミからカーボン!? 元保育士妻(設定)はまさかのドール衣装ガチ勢でした
『必要なものはこっちでそろえるから、何かあったら遠慮なく言ってくれ』
『開発に必要な道具や資材があれば、そっちも遠慮なく言ってくれ』
……さっきの会議で、俺はみんなに向かって実にかっこよく大見得を切ったわけだが。
ついこの間までケーキやカップラーメン、エナジードリンクくらいしか出せなかった俺が「一体何を偉そうに」という話である。
だが、これにはちゃんと訳がある。
そう、新しく覚醒した『リサイクル』のスキルだ。
なんでもかんでも万能に、というわけには行かないが、実はこのスキル、宝箱で獲得したアイテムや使用後のゴミを原材料にして、割とさまざまな「素材」を生成できることが分かったのだ。
昨晩、納屋でミチルとユキホと三人でわちゃわちゃと実験してみた結果がこれだ。
ケーキのトレイやカップラーメンの空き容器(プラ・ビニール系ゴミ)
→ 綺麗に引き伸ばされて、頑丈な「ビニールシート」に変換。
エナジードリンクの空き缶(アルミ・スチール系ゴミ)
→ 不純物が取り除かれ、ピカピカの「金属板」に変換。しかもアルミ以外の金属にも変換可能。
ここまではまだ想像の範囲内だった。
ここからがチートスキルの本領発揮である。
なんと、プラスチック系のゴミにタバコの吸い殻を組み合わせることで、現代の超ハイテク素材である「カーボン素材」が生成できてしまったのだ。
さらに、そのカーボン素材と、ユキホが俺の留守中に発見したというアイテム「手拭い」と掛け合わせてみると――。
繊維の隙間にカーボンが浸透、高分子樹脂でラミネート硬化させたような、防刃・防水・超軽量という、戦国時代の世界観を完全に置き去りにした「ハイテク布素材」まで作り出せてしまった。
組み合わせ次第で、わりと無限の可能性が眠っている。
そしてもう一つ、この『リサイクル』に付随する形で『ファブリケーション』という超重要機能があることも判明した。
これは、リサイクルで生み出した各種素材を、「製品」の形に加工・ビルドする機能らしい。
ただし、この機能を高度に使いこなすには、【技術力】のパラメータだけでなく、本人のセンスも関わってくるようだ。
まあ、そりゃそうか。いくら技術があったところで、何でも上手く作れるとは限らない。
俺がそんな仕様について「うーん」と唸っていた時のことだ。
横にいたミチルが、生成したばかりのハイテク布素材を手に取り、おもむろにその機能を起動させた。
「えっ? ミチル、なんか作るの?」
驚いて尋ねる俺に、ミチルは首を傾げてさらっと言い放った。
「え? はい。簡単な服をちょっと」
システムから光の粒子が溢れ出し、ミチルの手の中でなんだかめちゃくちゃ可愛らしい洋服の形にビルドされていく。
これのどこが簡単な服なんだ……?
あまりに鮮やかな手際に俺が呆然としていると、ミチルは「あっ」と声を漏らし、なんだかすごく気まずそうに指先をいじり始めた。
「私……実は趣味でお人形の洋服とか作ってて……」
「……あっ。もしかして『ドールディーラー(衣装自作勢)』さんですか?」
「……(こくり)」
まさか、こんなところで噂に聞くガチ勢と出会うとは。オタク界隈でも、とりわけ業が深く、技術力がバグっているとされる「ドール沼」の住人……。
いや、本当にドール衣装の自作勢ってすご(ヤバ)い。
人間サイズの服をただ縮小というわけではなく、人形特有の頭身やボディラインに合わせて、ミリ単位……いやコンマ数ミリ単位で修正を繰り返すから、やってることはガチの高級仕立て屋以上の変態技術(最大級の褒め言葉)なんだ。
自作の豪奢なドレスを着せたドールを専用のスタジオで撮影して、SNSで見せ合っている奴らの情熱。本気で恐ろしく感じたことを覚えている。
そんな超絶技能の持ち主が仲間に加わっていたことに戦慄しつつ、俺は改めて、ミチルを含めた俺たち3人の「共有ステータス」を確認してみた。
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名前:田中未散
年齢:29歳
属性:救世主
体力:C
武力:C
技術力:A+
知略:C
魅力:A+
スキル:手芸
─────
お分かりいただけるだろうか。
以前、俺とユキホの二人だけでステータスを共有していた時、俺たちの【技術力】は無残にも『D』だった。
それがミチルが加わって三人共有になった途端、一気に『A+』へと爆跳ねしている。
さらに【魅力】も『A』から『A+』にアップ。
スキル欄の『手芸』という一見大人しそうな文字が、目の前のミチルの姿を鑑みると、どれほど凶悪なチートスキルなのかがよく分かる。
「できたーっ!」
ミチルの明るい声とともに、目の前にパッと完成品が具現化する。
……いや、早すぎだろ。
できあがったのは、まさに高級アパレルショップのマネキンが着ているような、ミチル渾身のデザイン衣装だった。
「ユキホー、見てみて! 可愛くない!?」
「ええっ! 何これすごい! 私、これ着ていいの!?」
「もちろんよ! ユキホのために作ったんだから!」
「わーい!」と大喜びするユキホ。
と、そこで二人がふと動きを止め、俺の方をじっと見つめてきた。
……あ、はい。
出ていけってことですね。
「じゃ、俺、ちょっと外の空気吸ってくるわ……」
そそくさと納屋の外に出る。
見上げれば、今夜も月が綺麗だった。
夜風が少しだけ目に沁みる。
とはいえ、この『リサイクル』と『ファブリケーション』のコンボは、間違いなく俺たちが初めて手に入れたと言ってもいい本格的なチート能力だ。
「よし、明日からの辻宿調査と並行して、このスキルの調査研究もガッツリ進めていくか」
月明かりの下、俺は奪還作戦の成功を確信しつつ、静かに拳を握りしめた。




