第14話 代官屋敷へ殴り込み! 悲しいことに、こいつから俺と同じ匂いがする
代官の屋敷へと続く道を歩きながら、俺は後ろを歩く彦次郎に声をかけた。
「名主さんさ。俺たちがいきなり先頭に立って訪ねても、門前払いを食らったり揉めたりするかもしれないだろ。だから、名主さんが先導して、俺たちはその同行人ってことでお願いできるかな」
「なんで、儂がそんな役回りを……。ただでさえ破滅するかもしれないというのに……」
彦次郎は足取りも重く、恨みがましい目をこちらに向けてくる。
「まあまあ。破滅させるようなことにはしないから、そこは安心してよ(名主の座からは失脚してもらうけど)」
俺が爽やかな笑顔で適当な慰めを口にすると、すぐ後ろから、低い地鳴りのような声が響いた。
「……おい。主人の頼みが聞けねえのか?」
「ひいぃっ!! わ、分かりました! 私が! 私が先導いたしますゆえぇぇ!」
名主は情けない悲鳴を上げ、凄まじい勢いで首を縦に振った。
朝秀の物理的教育による恐怖は、すでに骨の髄まで染み込んでいるらしい。
そんな心温まる(?)やりとりを経て、俺たちは代官の屋敷へと向かった。
空を見上げれば、雲一つない見事な快晴。清々しい風が吹き抜ける、まさに秋晴れといった空模様だ。
俺は今回の秘策である「とある物」をしっかりと小脇に抱え、震えながら歩く名主の背中について進んだ。
◇
屋敷の立派な門前につくと、彦次郎の顔を見た門番らしき男が怪訝そうに声をかけてきた。
「今日はどのようなご用件で?」
「あ、あはは……。要件というほどの用ではないのですが、たまには儂も代官様と世間話でもしたくてな……」
「そうですか。で、後ろの者たちは? 鉄五郎殿はともかく、見ない顔もいるようなのですが」
門番が警戒するように俺たちへ視線を向ける。
「あ、えっと、それは……」
彦次郎がしどろもどろになっていると、後ろから朝秀がヌッと前に出た。
無言でギロリと睨みつけると、門番はどうぞと言わんばかりに慌てて門の扉を開け放った。
門番たちは、辻宿の「警察」のような立ち位置ではあるが、そういった役割は名主側の自警団に奪われ、彼らの好き勝手を黙認し続けている、要するにお飾り以下の存在だ。
案の定、朝秀の放つ圧倒的な「強者のオーラ」を浴びただけで、彼らは抵抗する意思すら失ってしまったらしい。
(……もう、最初から朝秀の武力頼みでもよかったかもな……)
そんな考えが頭をよぎるが、すぐに首を振る。
何でもかんでも武力で解決っていうのも、なんだか癪に障るのだ。インドア系の代表として、俺はこれからも「頭脳」で戦い続けるのだ。
門をくぐると、お手伝いさん的な人たちが出てきて、あっさりと応接室らしき部屋に通された。
外観も絵に描いたような洋風のお屋敷だったが、内装もまた見事に豪華だ。地方の代官程度の給料で、こんな贅沢が許されるものなのだろうか。
しばらくすると、部屋の奥から恰幅の良い男が出てきた。
(……こいつが『気持ち悪い』って噂の代官か。なんだか俺と同じ匂いを感じてしまうのが悲しい……)
「どうしたのだ、名主よ。で、こやつらは何者だ?」
代官が傲慢な態度で言い放った瞬間、朝秀がスッと立ち上がり、凄まじい眼光を放った。
ビクッとした代官は、まるで糸の切れた操り人形のようにストンと椅子に腰を下ろす。
(ほんと便利だな、君は……)
さて、いよいよ俺の出番だ。
視界をシステムモードに切り替え、インベントリから格納していた「帳簿のコピーデータ」を取り出す。
ポンッ、ポンッ! と光の輪が連続して弾け、何冊もの分厚い帳簿が次々と具現化し、テーブルの上に積み上がった。
それを見た代官は、まるで信じられないもの、あるいは幽霊でも見たかのように目を剥いた。
まあ、普通に信じられない光景なんだけど。
「さて。私たちはこの街のことをいろいろ調べていましてね」
「な、なんだ! 何を調べていたのだ! 儂は何もやってないぞ!」
いきなり「儂は何もやってない」って……。
それ、もう「やってました」って自白しているようなもんじゃん……。




