第13話 証拠は揃ったけど、妻(設定)の心はズタボロです
俺たちは今、ひさご屋に集まっている。
店主が気を遣って店を閉めてくれたおかげで、店内には俺たちしかいない。
「どう五助? やっちゃってる?」
「はい。確実にやっちゃってますね。これで証拠はバッチリかと」
五助の手元には、先ほど代官側からコピーしてきた帳簿と、なぜか辻宿の名主の帳簿までが並んでいる。
そう、俺たちは狙いの帳簿をすべて手に入れることに成功したのだ。
なぜ名主の帳簿まであるのかって?
その名主は今、俺たちの目の前で正座している……(なぜか、その隣にはあの鉄五郎までいる)。
先日、「できれば名主の帳簿もあれば」と五助がポロッと漏らしたのを聞き逃さなかった朝秀が、独断で入手してきたのだ。ご丁寧に本人と関係者ごと……。
ちなみに、この名主の名前は「彦次郎」というらしい。
「何? やっちゃってたのかお前ら? いったい何をやっちゃってたのだ?」
「「ええ……いや、その……」」
細かい事情をあまり把握していない朝秀が凄んでみせると、彦次郎と鉄五郎は完全降参といった様子で首をすくめた。
普通なら「お前ら、こんなことしてただで済むとと思うなよ!」と喚き散らすところだろうが、どうやらその手のやりとり(物理的教育)は、とうの昔にすんでいるらしい。
彦次郎はともかく、鉄五郎はすでに散々な目に遭わせてるんだから、もうそこらへんで許してやってくれ……。
一方、ミチルとユキホはというと。
店の隅のテーブルで、二人ぽつんと地面(床)を見つめている。
なんだろう、あの空間だけ凄まじい「陰」の空気が流れていないか?
実を言うと、二人のお屋敷潜入作戦は、俺の計画では完全な「おとり」だった。
メインはやはり、クノイチであるスズランだ。
ミチルとユキホが代官の気を引いている間に、スズランが帳簿を盗み出し、俺が裏で『コピー』を発動。
そして再びスズランが帳簿を元の場所に戻す、という手筈である。
正直、おとりを使わなくても、スズランの実力なら単独で実行できたと思う。
だが、やはりこの世界、ただ結果を出すだけではなく「どうクリアするか」というプロセスそのものが肝になってくる気がしてならないのだ。
代官がミチル(?)を見初めたことといい、朝秀が自警団のボスに収まったことしかり、今目の前で彦次郎が正座していること自体もそうだ。
あまりにも話がうまく進みすぎている。
だからこそ俺は、今回の攻略のポイントとして、作戦にミチルを組み込むことを重視した。
とは言いつつ、「代官はミチル目当て」という部分に一抹の違和感があり、念のためユキホを同行させたのだが……どうやら案の定だったらしい。
俺としては単なるリスクヘッジの策だったが、あの落ち込んだミチルの背中を見ると、なんだかものすごく悪いことをしてしまった気がする。
後で慰めてあげようと思ったが……俺にそんな気の利いたことができるだろうか。
一体どうやって声をかければいいのか見当もつかない。
「平太さん。これで名主と代官、両方の不正の証拠がそろったわけですが、ひょっとして平太さんの狙いは、最初から代官のほうだったんですか?」
「そうだね。名主のほうは……まあ、朝秀もいるし、こんな感じでさほど苦労せずに落とせるかなと思ってたから」
辻宿の実権はこの名主(彦次郎)が握っているとのことなので、乙女原を取り返すだけであれば、名主を潰すだけで事足りるだろう。
辻宿自体を手に入れることも、名主さえ抑えればさほど難しい話ではないのかもしれない。
ただ、今のミッションである「駿河国との友好関係」に繋げるためには、やはりお上とのパイプが必要不可欠だ。
「じゃあ、証拠もそろったことだし、早速明日にでも代官のところに乗り込もうか」
「えっ!? いきなりですか? こ、心の準備が……」
「あっ、そうそう。名主さんと鉄五郎さんも同行よろしくね。もちろん朝秀も」
「私も行ってよいのですな!」
「当たり前だろ。朝秀は自警団のボスだし、そこに名主と元ボスまでそろえたら、これ以上ない完璧な布陣じゃん」
俺がニヤリと笑うと、朝秀は嬉しそうに拳を鳴らした。
「ミチルとユキホも、できれば同行してもらいたいんだけど……」
そう声をかけると、ミチルがものすごい形相でこちらを睨みつけてきた。
「なんで私が同行するのよ! 代官相手に、私なんて必要ないでしょ!」
自虐的な言葉を吐き捨て、ミチルはさらにガクリと肩を落とす。
「いやいやいや! この作戦……いや、俺にとってミチルは絶対に必要なんだよ。だから、できれば一緒に来てほしい」
なんとなく、精一杯の慰めの気持ちを込めて言ってみたのだが、案の定、特に良い反応は返ってこなかった。
うん、知ってた。非モテ陰キャの俺に、女性を慰めることなどできるはずはないのだ。
「ユキホは……」
「私も嫌よ!! 気持ち悪い気持ち悪い……もうっ、気持ち悪すぎて怖いくらいなのよ!!」
あー、だからそんな感じだったのね。トラウマになるレベルのキモさだったか……。
……俺も、「擬態」が解けないよう細心の注意を払わないと、いずれ彼女から代官と全く同じ評価を受けそうだな……。
もう俺の中では、なんとなくのシナリオができあがっている。
だが、正面から代官を追い込むとなると、どうしても名主の自供に頼らざるを得ない状況でもある。
代官が「すべては名主が勝手にやったことだ」と責任を押し付けてきた場合、それを完全に跳ね返すほどの決定的な証拠は、まだ俺たちにはない。
まあ、その点も踏まえて、ちょっとした「秘策」があるんだけどね。




