第11話 異世界モテ期到来!? 29歳元保育士、男たちの視線にちょっと気持ちよくなる
「いらっしゃいませー!」
ユキホが、これ以上ないほどの愛らしい笑顔でお団子を売りまくっている。
私は私で、営業スマイルを必死にキープしながら、お盆に載せた湯呑みを次々とお客さんへ配っていく。
……って、これ本当に営業スマイルなのかな?
自分でも驚くくらい、自然に口角が上がっている気がする。
「おいおやじ! 新しい女の子入れたのかい? えらく別嬪さんじゃねえか。どこから見つけてきたんだ」
客席のあちこちから、そんな言葉が口々に聞こえてくる。
別嬪さん?
それって……もしかして、私のこと??
最初は絶対にユキホのことだろうと思っていた。
だって本当にお人形さんみたいに可愛いもの。
でも、ユキホみたいな小さい子に「別嬪さん」はおかしいよね?
ということは、元保育士で自称家事手伝い兼コンビニ店員、さらにドール衣装自作勢の私が?
生まれてこのかた、まともにモテたことなんて一度もない、二十九歳のこの私が……!?
(これはやっぱり、異世界のチートスキルってやつなのかしら……)
もしかして本当に『超絶美少女化』のスキルを手に入れてしまったんじゃなかろうか。
そう言えば、今朝の平太の目が、なんだか妙にいやらしかった気がする。
私の着物姿を見て、ぼーっと固まっていたし。
うん、間違いない。私の『超絶美少女化』はガチだ。
それにしても……スキルのおかげとはいえ、なんて気持ちが良いんだろう。
男の人たちからチヤホヤされて、好意的な目を向けられるのって、なんだか心がすごく満たされる気分になる。
お客さんはひっきりなしにやってくるけれど、これならいつまででも働いていられる気がする。
現代のコンビニ時代は、あんなに嫌だったのに……。
そんな風に調子に乗って働いていた、その時だった。
街道の向こうから、周囲の人たちがサッと怯えたように道を譲る、明らかに独特のオーラを纏った一団が近づいてくるのが見えた。
中心にいるのは、仕立ての良い上等な着物を着た、いかにも「この地域で一番偉い人」といった風貌の中年男性だ。
(……うわ。また来た……)
なんで「うわ」かって、このおじさん、今日だけでこの店にやってくるのが「三回目」なのである。
この辻宿を管轄しているお代官様一行とのこと。
ひさご屋の店主さんがそう教えてくれたのだけれど、お付きの男たちが「お代官様、お代官様」とやたらと大きな声で持ち上げるもんだから、聞かなくてもすぐに分かった。
二回目にやってきた時までは、「お団子が相当好きなんだろうな」くらいに思っていた。
だけど、三回目となると流石に異常だ。
不審に思って様子を窺っていたら、案の定だった。
ねっとりとした、それこそ全身を舐め回すような視線を、代官が私に向けていることに気づいてしまったのだ。
(このスキルがあると、こういうことも起きるのね……)
代官の年齢はおそらく平太と同じくらい。
三十代中盤から四十代前半といったところだろう。
だけど、大変申し訳ないのだけれど、私の好みは韓国ドラマに出てくるような美形で高身長の、要は絵に描いたようなイケメンなのだ。
身分が高かろうが、おじさんには全く興味がない。
そう言えば、この間朝秀さんの家で出会った「勝俣州平」さんはすっごく格好良かったなぁ……。
朝秀さんも、大人の色気的なものがあって良いとは思うのだけれど、私はやっぱり州平さんみたいな正統派イケメンがタイプなのだ。
笑顔がちょっと可愛かったら最高だと思う。しかも、ふとした真剣な顔にゾクッとするほどの美しさがあったりして……想像したら興奮してきた……。
ちなみに、一緒にいた「諸星弾正」さんも、ニヒルで影がある雰囲気が素敵だとは思うのだけれど、私のド真ん中の好みとは少し違う。
そんな私の脳内イケメン品評会を置き去りにして、代官は相変わらず私の方をじーーっと見つめ続けている。
なんだかものすごく露骨だ。
一度気がついてしまうと、その露骨さにも気付いてしまう。
そう言えば、高校時代。
同じクラスにいた大好きな男の子のことを、隙あらばジロジロと見ていたことがあったっけ。
……ひょっとして、あれも相手に気がつかれていた?
いやいや、私はあのおじさんほど露骨には見ていなかったと思いたい、思わせてほしい。
急に恥ずかしくなってきた……。
私が一人で悶絶していると、代官一行の席から、やたらと大きな声が響いてきた。
「この辻宿の代官職も、わしにとっては少々手狭になってきてな。実は近々、駿河の本国から直々に、城へ上がれとのお声掛けをいただいておるのだ。わしの有能な働きが、ついに中央の耳に届いたというわけよ」
はいはい、出た出た。
コンビニにもたまにいたわ。
レジでいきなり「俺、来月から本社の重要プロジェクトに抜擢されてさ〜」とか大声で話しだす痛いおじさん……。
つーかあんた、さっき来た時も全く同じ話してなかったっけ?
お供の人たちも、話を合わせなきゃいけないから大変ね。
「京の都から極上の茶葉を取り寄せてな。我が屋敷には、南蛮の商人から譲り受けた器や、触れるだけで時を刻む不思議な『からくり時計』など、珍しい宝が山ほどある。やはり本物の価値が分かる者でなければ、これほどの品は集まらんからのう」
あー、はいはい。
これ、インスタで高級時計とか限定スニーカーをこれみよがしに写り込ませて投稿するタイプの奴だ。
趣味でお人形の服を作ってる私から言わせてもらえば、そういう成金の見せびらかしほどダサいものはないから!
しかし、それにしても声がでかいっつーの。
自慢話をしながら、なんかこっちのほうをチラチラと何度も見てくるし……。
はぁ……これが、モテる者の悩みってやつなのかしら。
贅沢な悩みなのかもしれないけれど、普通にウザい。
うん。あの代官にはなるべく近づかないようにしよう。




