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恋と推しは違うので〜冷たかったドS騎士に溺愛されていたなんて聞いてない〜(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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5



 ふとキースが離れる。


「そろそろ戻る時間でしょう」


 立ち上がったキースはわたしをエスコートして歩いた。

 ただ先程とは違うのは彼が無言だということ。彼がなにを考えているのか分からない。


(……それにしてもさっき『黒キース』に近くなかった?)


 キースは前半と後半で大きくキャラが変わる。

 そのため前半は爽やかで甘いことから『白キース』と呼ばれ、後半の意地悪で闇が深いことから『黒キース』とファンに呼ばれていた。

 黒キースが出るのは後半からで、それもヒロインにしか見せないはずだけれど……。

 チラッとキースを見上げる。彼はにこやかな笑みを保っていた。



「どうしましたか?」


 このままで良いのだろうか。

 他人行儀に戻った彼の態度にそう自問する。

 足を止めてすっと息を吸う。慣れない告白は何度だって緊張する。


「……わたし、キース様が好きです」

「それはありがとうございます。可愛い婚約者にそう言ってもらえて嬉しいですよ」


 嘘吐き。ちっともそう思ってないくせに。

 取り繕った笑顔はゲームで見てきた。今それと同じ顔を向けられている。

 彼にとってわたしの気持ちなんか重荷なんだろう。

 けれど、彼は一つ取り違いをしている。



(この想いは恋じゃない)


 それよりももっと重いものだ。

 開き直った気持ちで微笑む。どうせ面倒だと思われたのなら、もう遠慮するつもりはない。


***




 あれから半年が経ち、キースに会うたびに想いをつげるようになった。

 キースは想いを告げるようになった当初は丁寧に接してくれていたが、途中から面倒になったらしい。

 今では適当に流されている。


「キース様、今日もあなたが好きです」


 わたしの膝に頭を乗せたキースは目を瞑っていて、そのまま黙り込んでいる。

 きっと寝たふりをして流そうとしているのだろう。


 さらりと艶やかな髪を撫でる。


 彼が訪問するのは月に一度。休みなく働いている彼は建前のために訪問してくれていた。

 とはいってもはあまり話してはいない。

 彼はわたしと二人きりになるとそのまま目を瞑って休むようになったからだ。

 今日も応接室で休んでいる。少し開けられた扉からは時折使用人達が歩く音が聞こえてくる。人払いされていないのも、年頃の異性を二人きりにさせないための配慮からだ。


(わたしもキースに慣れてきたなぁ)


 最初は肩に寄りかかられるだけでも緊張していたが、次第にわたしも慣れてきて、今では膝に頭を乗せられても髪の感触を楽しむ余裕がでてきた。



(……綺麗な髪。どんなケアしているんだろう?)


 年頃の娘として純粋に気になる。首筋まである少し長い髪は艶やかでシルクのようだ。


(聞いたら教えてくれるかな?)


 でも一緒な物を使うのなら、わたしの髪もキースと同じ匂いになってしまう。同じ匂いを纏わせるのは特別な関係のように思えて、それを想像するだけで落ち着かない気分になる。

 ーーわたしだけが彼を意識している。

 それは半年経っても変わらない。いや、きっと変わらないまま婚約は破棄されるのだろう。



「好きです。あなたを心の底から……」


 ヒロインがこの世界に召喚されるのはあと三年後だ。

 その間まではわたしは彼と過ごせる。



「あなたの全てが好きです」


 本当は具体的に褒めたい。だが詳細を語るとなると、その情報をどこで仕入れたか不審に思われてしまう。だからなるべく具体的なことは言えなかった。



「飽きないんですか……?」


 ぽつりと彼が尋ねる。

 珍しい。いつも黙って聞いているのに。



「なにがですか?」

「私はあなたに想いを返したことはないのに」


 そろりと開けられた目。金色の目が力強くわたしを見上げた。


「鬱陶しいですか?」

「……いいえ。慣れました」

「なら良かったです」


 さすがに面と向かって拒絶されたら落ち込む。

 ふわりと微笑めば、彼はそっとわたしの頬に手を伸ばした。



「……キース様?」



 彼が自分からわたしに触れることはほとんどなかった。

 目が離せなくて凝視する。



「ああ、やっぱり……」


 固まるわたしに彼はなにか納得したようで、手が引かれる。


「私のことが好きなんでしょう?」

「それは……」

「なのにあなたは私が触れると警戒しますよね」


 起き上がった彼に押し倒される。反転した視界。起き上がろうとしても乗られた状態ではうまくいかなかった。


「あの、人が……」


 廊下からこちらに近付く足音。万が一、使用人に見られれば大騒ぎになる。

 しかし、彼はそれを切り捨てるように薄く笑った。


「大丈夫。開けられた扉は拳一つ分。誰かが意図して覗かない限りバレませんよ」


 あなたが大声を出さない限り、と呟いた彼は、ゆっくりと親指の腹でわたしの唇をなぞっていく。

 うっそりと嗤った顔は完璧に『黒キース』の方だった。



 


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