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とりあえずユイナはそのままキースの屋敷に泊まってもらった。
城に戻れば、彼女の元によからぬ思いを持った男が訪ねてくるかもしれない。その可能性を避けるためにキースが引き留めた。
その逆にわたしは自分の屋敷に戻って、家族に明日の夜会について話を通すことにした。
三人で夕食を終えて、馬車に乗る。
(一応今回のことについて早馬で手紙を出してもらったけど)
自分の口から説明をしておけば、当日よりスムーズに付き添ってもらえるだろう。
それに……もう一つ目的があった。
(お父様は本当にキースとの結婚を承諾していたの?)
教会に祈っていたところ、戻ってきたキースに連れ去られるようにして彼の屋敷で過ごしている。
なんの連絡も入れずに、数日間キースの屋敷にいたのだ。
すっかりと流されてしまったけれど、本当は彼を振り切ってでも父に本心を尋ねに行かなければならなかった。そのことを反省しながらそわそわとした気分で帰宅する。
「カレン様、お帰りなさいまし」
出迎えた侍女はわたしを見て、多少の驚きはあったようだが反応としてはそれだけだ。
玄関のホールから辺りを眺めれば、使用人達はいつも通りの顔をしてわたしを出迎えてくれている。そこにわたしが無断で屋敷を出たことになんの戸惑いもない様子だった。
ということはわたしが屋敷に戻らないことに対して通達があったのだろう。
「お父様はもう帰ってきている?」
「ええ。カレン様をお待ちしていますよ」
案内を断って一人で父の待つ書斎に足を運ぶ。
扉の前に立つと、なるべく落ち着いて対峙できるよう深呼吸してからノックをした。
「お父様、カレンです。部屋に入ってもよろしいですか?」
「ああ、どうぞ」
いつも通りの優しい声に、ホッとする。
部屋に入ると父は執務用の机に座っていたので、わたしはその前に立つ。
「事情は早馬からの手紙で知っているよ。明日の夜会は私がきみを伴おう」
「良いんですか?」
「もちろん。可愛い娘の頼みだ。断る父がどこにいる?」
ふ、と笑い掛けられて張り詰めていた力が抜ける。
「もうお父様ったら」
「それで彼とはうまくやっていけそうかい?」
彼とはキースのことなんだろう。
聖女であるユイナが召喚されてからキースはずっと彼女につきっきりだった。父にもそれで仲は大丈夫かと心配を掛けたことがある。
「ええ、おかげさまで」
戻ってきてすぐの行動にはわたしも驚いたけど、と続けると父が苦笑した。
「私も驚いた。穏やかな顔をした彼がああも情熱的だとは……。結婚の承諾はしていたが、旅を終えてすぐにきみの元に出向くなんて思いもしなかった。本当にカレンを求めていたんだねぇ」
父の言葉に頬が熱くなる。うつむいて誤魔化そうとしたけれど、きっと父にはバレているだろう。その証拠にクスクスと笑い声が聞こえた。
「本当はね、この婚約を取り止めようと思っていた」
それはキースから聞いていたので、驚きはしない。
わたしがなんの反応を示さなかったので父は「おや」と片眉を上げた。
「……もしかして彼の噂を知っていたかな?」
「噂、ですか?」
どういうことだろう。
噂が婚約の取り止めとなんの関係があるのか……?
たしかキースの説明では彼が魔王を倒す旅の仲間に選ばれたから、命の危険があるとして婚約が宙ぶらりんの状態になったと聞いていたはずだが。
違うのか、と首を傾げれば、父は「しまった」とばかりに口を押さえた。
「いいや、なんでもない」
――絶対になにかある。
あからさまに怪しい態度を取る父を追及したい。
しかしここで下手に詮索して、父のへそを曲げれば、明日の夜会に付き添ってもらえなくなるかもしれない。その可能性は低いかもしれないが、なるべくなら穏便にいきたかった。
「お前も疲れただろう。今日はゆっくりおやすみ」
「ありがとうございます。お父様もゆっくりおやすみください」
わたしの返事に父が短くお礼を言う。
それを聞きながらもキースの噂がなんなのか気になって仕方なかった。




