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父に伴われて夜会に出る。
一応わたしは結婚した身らしいが、まだ式も挙げていなし、公表もされていないので、父が付き添っていても不思議に思われないだろう。
わたしが着ているドレスはキースから贈られたものだ。彼はわざわざわたしの実家に届けて、着るようにいってくれた。深みのある青いドレスは胸元に宝石が散りばめられていて、離れて見ても価値のあるものだと知らしめるようなゴージャスな作りとなっている。
それを着ているものだから汚さないように細心の注意を払った。
キースからの話ではわたしは夜会に出席していれば、とくべつ挨拶もいらないそうなので、後は美味しいものでも食べて適当に時間を過ごそうと決める。
(あっちに美味しそうなケーキがあったよね?)
父は知人に声を掛けられてそちらの方へ行ってしまった。
一人で自由に行動できるので、楽と言えば楽だ。
隅の方でケーキを食べながら、先程やってきたキースとユイナのところに目線をやった。
(やっぱりキース達は人に囲まれているなぁ)
会場の真ん中にいる彼らはずっと人の輪にいて、それが途絶えることはない。魔王を倒した英雄達だ。皆、こぞって彼らに会いに行った。
しかし、やはりというべきか……。キースは女性に、ユイナは男性に囲まれ始めている。
熱烈な視線をそれぞれに向けられていて、このままじゃ二人がバラバラになってしまうのではないかと心配になって立ち竦む。
ーーあまりに集中していたからか、自分の方に近寄る人に意識を向けていなかった。
「……カレン?」
「あ……」
声を掛けてきたのは兄の友人リチャードだった。キースが旅に出てからも夜会などで何度も一緒になったから気軽に話せるようになってきていた。
「今日はだれと一緒に来ているの?」
「……お父様と。リチャード様は?」
「僕は父の代理出席をして妹と。とはいっても妹は友人達とおしゃべりに興じているけれど」
リチャードの父はタイミング悪く王都から離れているため、妹と一緒に参加したのだと語った。
「急な開催だったものね」
「ああ、そうだね」
だとしても王が開く夜会に呼ばれるのは名誉なことだ。
招待されたからには都合をつけなければならない。
他の出席者達もさぞバタバタとしただろう。
「それにしてもきみの婚約者はすごいね」
――本当はわたしも知らないうちに婚約者じゃなくなっているのだと思いながらも、それを打ち明けることはできない。曖昧に笑って誤魔化す。
「ええ、まぁ……。でもなんだか実感が湧かないわ」
実感が湧かない、というのは魔王が倒されたことか、いつの間にか結婚していたことか、あるいはその両方か。判別できないまま言葉を濁そうとした。
「無事に帰ってこられたのだから良かったじゃないか。ずっと教会で祈っていたんだろう?」
「どこからそれを聞いて……分かった。お兄様ね?」
教会で祈っていることは口外していない。
それを知っているのは身内だけだ。
「わざわざ人に言わなくても……」
自分の行動を言われていた照れくささから不満をこぼす。きっとこれが社交の場でなかったら頬を膨らませていただろう。
さすがに淑女としてそのような行動ができない分、あとで兄に文句を言おうと決める。
「どうして? 僕だったら婚約者に健気な行動を取られたら嬉しいよ」
キースも嬉しいと思ってくれているだろうか?
それを想像するとカァっと頬が熱くなる。
「……彼の噂を聞いていたから友人として心配していたがどうやら杞憂みたいだ」
「噂……?」
父もキースに対して噂があることをほのめかしていた。
どうにも引っ掛かって彼に尋ねる。
「なんの噂なの?」
「いや……。なんでもないよ」
途中で言って引っ込めないでほしい。余計に気になって仕方ない。
そのもどかしさからつい頼み込んでしまう。
「だって気になるわ」
せがむわたしを「ここではなんだからと」バルコニーに案内する。その間に近くにいたウェイターに食べていたケーキの皿を渡した。
二人きりの空間で彼は切り出す。
「彼の婚約者は以前別の人だったことは知っているね?」
「ええ。事故で亡くなられたと聞いたわ」
婚約してすぐに父から聞かされていた。
以前キースと婚約していた女性は別荘から屋敷に帰る道中、乗っていた馬車が崖から落ちて亡くなったのだと。
「……事故ではないと噂があるんだ」
それはどういうことだろう。弾かれたようにリチャードを見上げれば、彼は困った顔をして頬を掻いた。伝えるべきかどうか迷っているのか迷っているみたいで目を逸らされる。それがじれったくて彼の名前を呼んだ。
「リチャード様、どうか教えてください」
黙り込んだ後に、彼が続ける。
「彼の出自は……」
出自がどうしたのか。耳を澄ましたその時、後ろからグイっと腕を引っ張られる。
驚いて振り返れば、現れたのはキースその人だった。




