34
「結婚ってだれとだれが?」
自分でしておいて馬鹿な質問だと思う。
彼女は不思議そうに答えた。
「キース様とカレン様です」
どういうことだろう。
わたしは婚約を受け入れているが、結婚の書類にサインをしていない。
だが、相手はキースだ。彼の性格を考えるとなにかしらやっている可能性があるのは否定できない。
(なんかどんどん暴走してない?)
ゲームでは両想いになると意地悪な黒キースが出てきた。
今のところ優しい白キースのままだ。
抱かれていた時だって優しかった。むしろ出会った頃の方がよほど冷たくあしらわれている。ゲームでは最初が優しく、両思いになってから黒キースとしてヒロインに接していた。
これからわたしにも黒キースの顔を見せるのだろうか?
わたしがヒロインではないとしてもゲームとは正反対の展開になっていることに違和感を抱く。
「……カレン様?」
黙り込んだわたしを不審に思ったのか侍女が尋ねる。違和感を抱いていることを悟られないように笑って誤魔化す。そんなことばかりしている自分が情けない。
「ごめんなさい。少しぼんやりしてしまっただけなの」
「いいえ。こちらこそ……」
彼女はぺこりと頭を下げ、ドレスを持ってこようかと提案した。
持ってこられるからには着替えなければならない。それも人の手を借りて。だが、彼女の言う通り結婚しているのなら、やましいことはない。
どうせ今日着替えを手伝ってもらわなくたって、彼女らの立場を考えればそう何日も手伝いを拒むわけにはいかない。
この際、恥ずかしさは我慢しようと決意する。
「カレン様はどんなドレスがよろしいですか?」
「できれば今日は着やすいものを」
まだ身体が辛いので宝飾品が多く付いた重たいドレスは避けたい。彼女はそれにニコリと笑って候補を選びに行った。
一人になるとホッとする。体調が整っていない状態で初対面の人と喋るのはいつも以上に気力が必要だった。
ましてわたし達が結婚しているなんて、キースからは聞いていない。戻ってきたらすぐにそのことを聞こうと決意する。
(なんで勝手に……)
結婚なんて大事なことを勝手にしていることが信じられなかった。
――わたしの気持ちは必要ないの?
そんな憤りすら感じていた。
抱かれて甘い時間を過ごしたはずなのに、少しの間彼がいないだけで疑念が増えていく。
それを考えていると、侍女が他の侍女も連れて戻った。
「お待たせしました」
彼女らがドレスを持ってどれが良いか選ばせてくれた。どのドレスも煌びやかでいかにも高級であることが一目で分かる。
明るい気持ちになりたくてイエローのドレスを選んだ。胸元には精緻な金の刺繍が施されていて、可愛らしさの中に洗練した印象を受ける。その上、タートルネックのおかげで首に付けられた跡が隠されることに安心した。
彼女らは手際良くドレスを着せた後、髪や化粧も施してくれた。
「大変良くお似合いです」
侍女達三人は「良い仕事をした」とばかりにわぁっと歓声をあげた。
手鏡を渡され確認すると、確かにいつもの自分より整って見える。
ハーフアップの髪は複雑に結われていて、不器用なわたしではとても再現できないだろう。
「ありがとう」
「いいえ。とんでもない」
一番年下の侍女が恐縮した様子で頭を下げる。
「以前よりキース様からカレン様がいかに可愛らしいか聞かされていたんですよ」
そう教えたのは最初に入ってきた侍女だ。三人の中で年上らしい彼女は朗らかにそう言った。
「聞かされていたって……?」
「キース様はずっとカレン様を慕っておいででしたから」
うんうん、と彼女らがうなずく。
しかし、そんなの知らない。
確かに再会した時からは優しいけれど、その前はひどく冷たかった。
もし彼女らの言う通りなら、もう少し分かりやすい態度を取ってほしかった。
そんな不満を表に出さないように注意する。
「どんな話を聞かされていたの?」
彼が話していたことを聞くくらいは許されるだろう。
彼女らが嬉しそうに語ろうとした矢先。
廊下で荒々しい足音と、叫び声が聞こえる。
なんだろうと侍女らと顔を合わせていると、足音の主はこの部屋の扉をノックをして外から声を掛ける。
――その人物はゲームのヒロイン、ユイナだった。




