33
あのまま彼に抱かれて、次に目が覚めると夕方になっていた。
慣れない筋肉を使ったからか身体中が痛い。
のそりと起きあがろうとすれば、キースが居ないことに気が付く。
(どこか出かけたのかしら?)
部屋の辺りを見渡しても、キースの影はない。
自分だけ呑気に寝ていたことに気まずさを覚えながら、ベッドから降りようとすれば、うまく力が入らなくてよろめいてしまった。
「あっ……」
転びそうになったのを堪えて、なんとか立ち上がる。
反射で出た声はいつもより掠れていた。
どうやらさんざん大きな声をだしてしまったせいで、枯れてしまったようだ。
こんなところにも抱かれた名残りがあるのだと思うと恥ずかしい。けれど幸いなことに今は一人だ。
だれにも聞かれてないのだからと開き直って、部屋の中を歩く。
部屋の中には扉が一つ。そこを開ければ廊下に出るのだろう。
(だけど勝手に出て良いの?)
ここに住むことになったとキースから聞いているが、まだ屋敷の中を案内されていないし、使用人も紹介されていない。
ベッドサイドのテーブルには使用人を呼ぶ鈴があったが、なんとなく使いにくい。
結局、少し扉を開けて様子を窺うことにした。ほんの少し開けると、廊下に控えた侍女と目が合い、すぐに彼女がやってくる。
「カレン様、お目覚めになられたんですね」
「ええ、まぁ……」
ゆったりとした雰囲気の彼女はにこやかに笑って、自分の名前を教えた。
そしてわたしの声が掠れているのだと知ると、蜂蜜入りの紅茶を用意してくれた。
部屋の真ん中にある白いソファに座りながら用意されたお茶を飲むとホッとする。
「ところでキース様は……?」
「城へ魔王討伐の成果を報告されに行かれました」
「そう……」
もしかして国王に報告する前にわたしの元へやってきてくれたのだろうか?
――いや、まさか。
(陛下への挨拶だってあるでしょうし)
そう思うのに、なぜだろう。
キースならやりかねないと思ってしまった。
(そういえばわたしを逃がさないために戻ってすぐに教会に来たって言ってたわ)
すぐに来た、と言っても必要な用事を済ませた後だと思っていたが……。
(……本気でわたしを優先していたの?)
真実を聞きたいようで聞きたくない。
さすがにわたしよりも王族を優先してくれないと申し訳なさで胃が痛む。
頬が引き攣りそうになったのを誤魔化そうとお茶を飲んだ。ついでにお茶と一緒に用意されたクッキーを味わうとその美味しさに少しだけ癒される。
「昼過ぎに出掛けられたので恐らくもうそろそろお戻られになるかと」
必要な情報を与えてくれるのはありがたい。なにかいるものがあるか、と聞かれたので「とくになにもいらない」と答える。
「お着替えになられるのでしたら、キース様がご用意したドレスがございます」
いそいそと彼女は他の侍女を連れて何着かのドレスを用意した。
どのドレスも見るからに高価で、夜会でもないのに袖を通すのがもったいなく感じる。しかし侍女達は「せっかくキース様がご用意したので」と言って、引かない。
だが、よく考えればわたしの身体には至るところに赤い所有印を付けられている。
今、着ているものは足首まで隠れるナイトドレスの長袖だったので、なんとか人と対面することができたが、その跡を見られるのは避けたかった。
「ドレスなら自分で……」
コルセットを付けない簡素なドレスなら自分で着ることができるだろう。
そう提案すると彼女は首を横に振った。
「いいえ。カレン様のお着替えを手伝わないなんてキース様に叱られます」
そう言われては弱い。
自分のせいでだれかが叱られるのは避けたい。
けれど、人当たりの良いキースならそんなことで怒らないのではないかと思う。
「まさか。それくらいで」
怒らない、と言い切る前にぴしゃりと彼女が言い切った。
「キース様はカレン様をとても大切に思っておられますので」
胸を張って答える彼女に苦笑する。
しかし彼女の顔は真剣そのものだ。
「部屋にある家具も内装も、カレン様が着られるドレスも全てキース様が自ら手配していらっしゃるんですよ」
「え……」
そんな素振り見せなかったのに。
意外な事実に目を丸くする。
「今までキース様がご自分で用意されることはなかったので、わたくし達も驚きました」
キースは虐待されて、この家に引き取られた。
その過去があるから遠慮して欲しいものがあっても口に出さなかった。
そんな彼がわたしのために用意してくれたのだ。
「わたしのために……」
言葉にするとさらに胸がジンとする。
――どうしよう。泣きそうだ。
彼女がうなずいたのを見て、鼻がツンとする。しかし……。
「ええ、奥方となったカレン様のために」
「……え?」
その一言に涙が引っ込む。




