16
帰宅してすぐに人払いをして部屋に閉じこもる。
落ち着きなくウロウロと部屋を歩いて、動揺を露わにしていた。
こんな姿、伯爵家の令嬢としてだれにも見られるわけにはいかない。
(キスをしちゃったんだ)
口に残る生々しい感触を思い出すだけで顔が熱くなってくる。
それと同時にはっきりと「嫌い」と告げられた事実に胸がチクチクと痛んだ。
(なんであんなことを……)
嫌いな相手にキスをするなんて彼らしくない。
そう思うのはわたしがゲームをした影響だからだろうか。
キースの性格なら、嫌いな相手をさらりと躱しそうなものを……わざわざ口付けるなんて。
(それもあんな濃いやつ)
初めてのキスが舌を絡め合うものになるとは想像もしていなかった。
それも相手はキースだ。ずっと推していた彼とキスした衝撃に頭がクラクラとしている。
「次に会った時、どんな顔をすればいいの?」
一人きりの空間で呟いたところで無意味に響くだけ。
そんなこと分かっていても、吐き出さずにはいられなかった。
(だってこんなの誰にも相談できないし)
いくら婚約者といえど、性的な接触は望ましくない。
心配性な父にはとくにバレないようにしておこう。
――キースはなにを考えてあんなことをしたのだろうか。
本当に彼の考えていることが分からない。
考えるのも疲れて、ベッドに寝転がる。
唇と唇が重なり合う。それだけでこんなにドキドキするなんて知らなかった。
(……ううん。これはきっと相手がキース様だから)
動揺しているのだろう。
けれど、聖女が召喚されたらわたしはどうなる?
ゲームでは絶対に婚約される当て馬。それがわたしだ。
自分の立場を再確認して重たい溜息を吐き出す。
(とにかく、これ以上深入りしないようにしないと……)
胸がドキドキするのは彼が推しキャラだから。
ーーこれは恋じゃない。
そう自分に言い聞かせる。
それに彼はわたしのことが「嫌い」だと言っていたじゃないか。
せめてこれ以上嫌われないようにしないと。
きつく目を閉じて意気込む。
(あと二年……)
あと二年もすればヒロインが召喚され、わたしはキースに婚約を破棄される。
そのことは覚悟している。
けれどその先、わたしはどうなるんだろう?
キースとの婚約が駄目になったのなら、他の人の元に嫁がなければならない。
それは貴族の令嬢としての義務だ。
「やだなぁ」
無意識のうちに呟いた言葉に驚く。
自分でもなんでそんなことを呟いたのか分からない。
だけど、きっとキースにとってわたしの気持ちなんか関係ないのだ。




