78 特典的なサムシング
頭の中であれこれぐるぐる考えて、ハッと我に返る。
ジーノがちょっと切ない顔になってるじゃん……!
そうだよ、戻れない人の前で喜ぶなんてデリカシーなさすぎた!
「ご、ごめん!」
「いいんですよ。僕は最初から日本に帰ることを諦めてますし、今の人生も楽しいですし」
「でも泣いてたじゃん」
「そっ、それは、自分の前世が夢なんかじゃないってわかったからです!」
でも、今のはデリカシーがなかった私が悪いよ。本当にごめんね。以後気を付ける。
ただジーノの言うことが嘘ではないんだなってことはなんとなく伝わった。
彼は今世で幸せな家庭に生まれたらしい。両親と兄が四人もいる末っ子なのだそうだ。わぁ、男ばっかり!
両親はこの漁港で小さな食堂を経営しているという。父親が漁に出て、母親が調理担当。長男と四男が漁師を継いでいて、調理は次男が、そして三男は経営を担当しているのだとか。
「長男と三男にはすでに家族がいて、奥さんたちも手伝いをしているんですよね。ゆくゆくは子どもたちが店を継ぐんじゃないかな。次男と四男は家を出て外からの通いで。僕も手伝ってはいるんですけど、正直いてもいなくてもいいっていうか……ちょっと居心地が悪くなってきたっていうか」
「あー、わかる気がする」
「なので、最近はもっぱら冒険者の仕事で外に出てばっかりなんですけど、意外と性に合っているみたいで。結構楽しいんですよ」
なるほどねー。末っ子はなかなか大変だ。
でも、冒険者が合っているというのならなによりだ。私に冒険者は合わないから羨ましい話だよ。
「コトリさんはこれから海を渡るんでしたっけ。帰る方法を見つける旅ですか?」
「それはついでかな」
「えっ、ついで?」
「うん。ちょっとした糸口は見つけたから、焦らず探しながらこの世界を見てみようと思って」
異世界旅も、なんだかんだ言って楽しいしね。
厄介なことに巻き込まれることはあるけど、大事件にまでは巻き込まれないし、執事たちがいるから平和だし。
それに、もし見つからなかったらどうしようとか、余計なことを考えなくてすむ。
見つかる時は見つかる! ってくらいの軽い気持ちでいたいし、そうしている間にある日突然帰れたりするかもしれないし!
まぁ、その辺の個人的な事情はまだ伏せておくけど。
私が気ままな旅をしていると告げると、ジーノは少し迷ったような素振りを見せてから再び口を開いた。
「あの、僕も連れていってもらえませんか?」
「生意気なガキですね」
「ひっ」
「こら、アレクサンダー!」
私より先に反応するじゃん、アレクサンダー。
そんなに旅のお供が増えるの嫌なのかな?
どちらかというと護衛的な立場で警戒してくれてるのだろうけど、初めて出会った同郷の少年を威嚇するんじゃありません。
まずはさ、話を聞こうじゃないの。
「理由を聞いてもいい?」
「は、はい。といっても別に大した理由ではなくて申し訳ないんですけど……ただ、せっかく異世界に転生したなら、コトリさんみたいに色んな場所を見て回りたいってずっと思っていて。家の居心地が悪くて冒険者を始めたくらいですし、そろそろ別の町や国に行くのもいいかなって思っていたタイミングだった、というのと」
ふむ、せっかくの異世界を堪能したいというのは同意だ。まさしく、私が旅をする理由と同じだしね。
「コトリさんは明日旅に出るんですよね? やっと日本のことを話せる人を見つけたのに話し足りない! ……っていうのが本音です」
「うん、わかる」
正直、私も日本の話がしたい。
同郷だからって完全に信用するってわけじゃないよ? 一応の警戒心は持ってる。
でもやっぱり日本の話はしたいよ。忘れないためにも!
「わかるけど、ちょっと相談させてね」
「それはもちろん!」
私はジーノに一言断ると、少し距離を取ってアレクサンダーとバリーを呼んだ。
「旅の道連れにする気ですか? いくら同郷の者でも、信用するには早すぎます。警戒心が足りていませんよ」
「そこには俺も同意だなぁ……コトリ様はそうやってトラブルを自ら招いてるんで」
耳が痛い。その通りではあるんだけどさぁ!!
「もしや、私たちのことも話すおつもりで?」
「うーん、そこはまだ考え中……」
「甘いですねぇ。共に旅をするならどうせ気付かれますよ」
「アレクサンダーはともかく、俺はいつもいるわけでもねぇしなぁ。他の執事も呼ぶだろ?」
「うっ、それなら秘密にする約束をして……」
「口約束なんてものは幼子だって出来るんですよ」
くっ、反論できないっ! でも、でもぉ!
私がぐぬぬと唸っていると、離れた場所にいるジーノが控えめに声をかけてきてくれた。
「あのぉ。もし何かしらの秘密があるというのなら、僕は聞いたりしませんよ? 不思議なことがあっても、そういうものなんだなって受け入れます」
……察しがいいな? いや、良すぎないか?
まるで、私に人には言えない秘密があることを知っているかのような。
特殊な力を持っていることを、察しているかのような。
「……もしかしてジーノはさ、よくある転生特典的なサムシングをお持ちで?」
「……コトリさんもきっと、異世界転移特典的なサムシングを持ってるんですよね?」
私たちは互いに数秒見つめ合った。
私がそういうことを聞くということは、自分にはサムシングがあると言っているようなもので、ジーノが「コトリさんも」と言うってことは、ジーノにも何かがあると言っているようなもので。
離れた位置で見つめ合っていた私たちは、同じタイミングで曖昧に「へへっ」と笑い合った。




