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スキル「執事召喚」でコトリは異世界を優雅に歩く  作者: 阿井りいあ
二章

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73/83

73 思っていた以上に重い話だった


 ミハイルさんと別れの挨拶をした後、ロアンさんに付き添ってもらいながら買い物を済ませた私は、陽が落ちる前には宿に戻ってきていた。

 ロアンさんもこれがまた曲者で、私が買おうとしたものすべての支払いをしようとしてきたんだよね……! きっとミハイルさんに言われていたのだろう。

 結局、押し切られる形で半分以上も支払われてしまった。


 ふ、私は押しに弱い女……。


「ロアンさんも、本当にお世話になりました」

「とんでもございません。コトリ様の旅路が安全でありますようお祈り申し上げます」

「あ、ありがとうございます」


 宿のフロントまで送ってくれたロアンさんに深々とお礼を告げ、ようやくほっと肩の力を抜く。

 明日の朝には出立予定なので、今のうちに宿の人たちにも伝えておこう。


 え? 明日の朝食とお昼の携帯食まで準備をしてくれる、ですと?

 んもー、これもミハイルさんだな? 断れない形で支援してくるんだから困りものだ。これじゃあお礼も言えない。


 まぁ、お礼はこれでもかというほど伝えたけどね。

 心の中でもう一回言っておこう。ありがとうございまーす!


 さて、買い物や準備でいろいろと気も楽になった。

 いよいよ、彼らの話を聞く時。


「……執事召喚!」


 話をする執事はそちらで決めて、と言っておいたけど、なんとなく誰が来るかは予想がついている。

 その予想は大当たりで、召喚の魔法陣からはアレクサンダーただ一人が現れた。


 やっぱりね。きっと他の執事たちも、古株の彼がいればいいという考えなのだろう。


「話し合いは揉めたりしなかった?」


 開口一番に私がそういうと、アレクサンダーは片眉を下げて困ったように笑った。


「ええ、まぁ。いえ、少しだけ揉めましたが、ちゃんとまとまりましたよ」

「ならよかった」


 私が答えると、アレクサンダーは慣れた手つきでティータイムセットを準備し始める。

 珍しいことにテーブルの上にはティーポットとカップが二つ。


「今日は私も同席を許していただけますでしょうか」

「もちろんだよ。ゆっくり話そう」


 アレクサンダーが自らそう言い出すなんて本当に珍しい。

 常にお手本のような執事たる所作を意識していたし、執事として逸脱した行為や自我の主張は咎めるほうだったのに。


 今日だけは、特別なんだ。今日の話はそういう姿勢で聞くべきなんだ。


 特に何も言われてないけど、私はそう受け取った。


「ではお話させていただきます。まずは……私たち執事がどういう存在なのかを」


 紅茶の香りが漂う中、アレクサンダーは席に着くとそう切り出した。

 私は緊張を解すためにも紅茶を一口含む。良い香りが鼻に抜けて、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。


「我々は今でこそ精霊ですが、元は人間でした」

「……そっか」

「驚かれないのですね?」

「うーん、その点についてはちょっとだけ予想してたんだよね。精霊だと実感することは時々あったけど、あなたたちはあまりにも人間っぽいから」


 アレクサンダー以外はかなり自分の意志みたいなものを感じるしね。

 いや、他の執事が「らしくない」と言いたいわけじゃないんだけど……まぁ、らしくないのはたしかでもある。

 それっぽいのはフェイビアンかな。でも彼はどちらかというと執事を雇う側な気がしてならないし。


「元も、ただの人間ではありません。……その」


 急にアレクサンダーが言いにくそうにし始めた。きっとここからが本題で……執事たちが隠したがっていたことなんだ。


「我々は生前、みな……罪人でした」

「罪、人……?」

「ええ。断罪されて命を落とした者たちでございます」


 お、お、思っていた以上にヘヴィーだった……!


 罪人? 犯罪者ってことだよね? どう反応したらいいのかわからない。


「そして、強く償いを求めた者たちです」


 言葉を失っていると、アレクサンダーは続けて重々しい口調でそう告げた。

 そういえば、さっきから一度も目が合わない。よほど言いたくなかったか……私の反応を恐れているか。


 どっちも、かな。

 ふむ、私はどう反応すればいいだろうか。


「執事たち、それぞれに罪状があります。お聞きになりたければ個々に訊ねてください」

「……わかった」


 慰めの言葉も、同情も、怒るのも違う気がした。

 彼らにとっての正解はないのかもしれない。というか……私自身、そんな反応をするような感情じゃないんだよね。


 なんだろう。別に嫌な気はしなかった。すごく驚いたけど。

 反応に困る、というのが一番かな。良いとも悪いとも言えないというか。


 いや、犯罪なら悪いのだろうけど……でも、彼らは断罪されたのだと言っていた。

 それはつまり、その罪を一度は償っているということでしょ?


 それでも、さらに償いを求めて執事になっている。

 それは深く、深く後悔しているってことじゃないか。


 責めるも何もない。どうしてそんなことを、と聞くことでもないし、罪状を聞きたいとも思わなかった。


 ああ、だから「赦された」という単語に反応していたんだ。


 誰に赦されたいと思っているのだろう。迷惑をかけた人? それとも……自分自身、かな。


 結局、良い言葉が浮かぶこともないまま、私は黙り込んでしまった。

 アレクサンダーは、何かを言ってほしかったかな? それとも、今のように黙り込んだほうがよかったかな。


 はぁ……正解なんて誰にもわからないよね。

 難しいなぁ。執事たちを、傷付けたいわけじゃないのに。


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