71 優しく尋問を始めます
高級宿の一室に戻ってきた私たちは、早速アレクサンダー、グリンバルド、ホープの三人の執事を座らせてその前に仁王立ちした。
「さて、君たちには聞きたいことがあります」
「私とグリンバルド、ホープにですか?」
「本当はみんなに聞きたいよ。でもとりあえず今はこの三人で」
今は全員を召喚するほどの魔力はないのだ。
もうすぐお昼になるし、この三人だけってのも時間的にギリギリなので聞きたいことはさっさと聞いてしまいます。
「貴方たちは、チヨって人を知ってる?」
まず気になるのはそこだ。答えはなんとなくわかるけど、確認のためにもね。
案の定、全員が首を横に振った。
「いえ、存じ上げませんね。私が一番の古株なので、私が知らなければ他の執事も知らないかと」
「アレクサンダー、古株だったんだ」
「スタンダード執事は汎用性が高いですからねぇ。最初に配属されるのかもしれませんね」
「まぁいいや。それならアレクサンダーに聞けばわかるってことだもん」
「……余計なことを言ったかもしれません」
アレクサンダーが知らなければみんな知らないってことだもんね。
本人はそっと目を逸らしているけど。
私はズイッとアレクサンダーに顔を近付けた。
「なにさ。私と二人で話すのが嫌って言いたいの?」
「とんでもございません! 大変光栄でございますとも!」
「笑顔で誤魔化さないでちゃんと答えてね?」
「……もちろんですとも」
間が空いたな……まぁいい。
腕を組んでじっとアレクサンダーを見つめていると、隣に座るグリンバルドが控えめな声を上げた。
「で、ででで、では、僕たちは帰っても……?」
「ステイ!!」
「ヒィ」
「オイラまで!?」
まぁ、話を聞くのはアレクサンダーだけでいいけど、他の執事の反応も見ておきたいからね。逃げようったってそうはいかないんだから。
さ、次の質問いってみよう。
「じゃあ、セバスチャンっていう老執事については?」
「……会ったことはございません」
「会ったことは、ね。じゃあ知ってはいるってことかなぁ?」
「ぐ、コトリ様が珍しく鋭い……」
「珍しくは余計だよ」
執事は主人に嘘を吐けないらしいからね。上手い言い回しではあるけど、そんなことで騙されるコトリ様ではない。
というわけで、知っていることを話してと笑顔で告げると、アレクサンダーは諦めたように説明を始めた。
「……セバスチャンは伝説の執事と呼ばれています。執事たちは全員、執事界のマニュアルが事前に刷り込まれているのですが、そこに彼に関する情報も含まれている、というわけです」
「マニュアル……つくづく不思議なシステムだなぁ、執事界」
刷り込まれている、というのも不思議だ。というかちょっとだけ不穏。
システムとして組み込まれている、みたいな感じでさ……執事たちが、まるで替えの利く道具かのように思えて少しだけ嫌な気持ちだ。
私があれこれ考えている間にも、アレクサンダーは説明を続けてくれた。
「簡単に言うと、彼はスタンダード執事である私の上位互換の存在といったところです。私はなんでも『それなりに』こなせる執事ですが、セバスチャンはなんでも『完璧に』こなせる執事ですから」
「本当に伝説だった」
なんでも完璧にってすごいよね。マジでスーパー執事じゃん。セバスチャンの名にふさわしい……いや、セバスチャンって名前の人がみんな執事ってわけじゃないことはわかっているけど。
「会ったことはありませんし、我々はそのセバスチャンのような執事を目標に精進せよ、ということなのかと思っておりました。まさか実在したとは」
「実在したのはみんなも知らなかったんだね」
「左様でございます」
なるほど。グリンバルドも含め、例の古文書の内容には本気で驚いていた様子だったもんね。
さて、そろそろ魔力的にも限界だ。今聞いておきたい最後の質問をしよう。
「じゃあもう一個聞くね。真なる主ってなに? 赦されたって、どういうことかわかるの?」
「そ、れは」
最後はミハイルさん含め三人で同時に叫んじゃったから何を言っていたのかまでは聞き取れなかったけど……たぶん、アレクサンダーが驚いていたのはその部分だったと思うんだよね。
今も真なる主という単語を聞いただけで顔色が変わったし。
アレクサンダーだけじゃない。グリンバルドや、常にへらへらしているホープも動揺しているのがわかる。
一体、なんだというのだ。執事召喚の秘密が何か隠されている気がしてならない。
なんとなく、不穏な雰囲気の何かが。
「アレクサンダーたちがさ、何か事情を抱えてるのかなってことには……薄々気付いてるんだ。聞かれたくなさそうだなってのも」
私が聞かれたくないことも、彼らは聞かないでいてくれるからね。
その気遣いのお返し……ってほどでもないけど、彼らから教えてくれるのを待っていた部分もある。
でもたぶん、今が潮時なのだと思う。
話を聞くタイミングが来たんだ。
可能性は薄そうだけど、私の帰還に関する何かがわかるかもしれないし……何より、彼らに何か問題や悩みがあるなら、今の主人である私に何か力になれることがあるかもしれないじゃん。
情がうつる? 別れがつらい? そんな悩みはすでに結論が出てる。
私にどうにか出来る問題ではないかもしれないけど、出来る可能性だってあるし?
私は一度息を吐ききってから、顔を上げて告げた。
「元の世界に帰る手がかりになるかもしれない今、そんなこと言ってられない。そろそろ……執事たちの事情を少し聞かせてもらえないかな?」




