68 古文書の解読が終わったぞー!
明日には解読が終わる、と昨日後出しで言われたので、今日は朝から依頼に集中出来ずにいる。
今日は依頼をせず、一緒にミハイルさんの別邸で待っていようかな、とも思ったんだけど……あの場所は落ち着かないから。
それにロアンさんに今日はどうしたんですか? とか聞かれても反応に困る。今日終わる気がしたので~、とか胡散臭すぎるでしょ。
グリンバルドがロアンさんにも私にも「明日には終わります」というたった一言を言ってくれていれば問題なかったんだけどね!
本人曰く「ほ、本当に予定通りに明日終わらなかったら悪いじゃないですかっ」とのこと。
そう言われちゃったら仕方ない……
わけあるか! そういうことも含めて! 全部報告するんだよ! 判断は! こっちでする!!
しっかり言い聞かせておいたので次に同じようなことがあった時はきっとちゃんと報告してくれるだろう。たぶん。
「ご主人~っ! 解読、終わったってさ!」
「わ、わかった! アレクサンダー」
「ええ。一度戻りましょうか」
ヤキモキしながらの採集だったので、今日の成果はイマイチ。まぁ、いい。ここ最近で結構稼げたし、最低限のノルマ分はすでに採集済みだ。
今日は早く切り上げたという体で冒険者ギルドに採集品を納め、私たちはその足で屋敷に向かった。
「コトリさん! なんていいタイミングなんだ!」
「ミ、ミハイルさん……今日はいらしてたんですね」
「ああ。一応、五日に一度は確認に来ていたんだ。私がいる間に良い知らせが聞けてよかったよ。運は良いほうでね」
運は良いほう、か。中途半端に良すぎても困りもんですよ、はは。
「えっと、良い知らせということは、解読が終わったんですか?」
一応今の私は知らないはずなので、さらっと聞いてみると、ミハイルさんは目を輝かせて答えてくれた。圧がすごい。
「そうなんだ! これから君を探しに行こうと思っていたところなんだよ!」
「探しにですか? どうして……」
「それはもちろん、一緒に解読結果を聞くためさ。当たり前だろう?」
「えっ、先に聞いてよかったのに」
「そういうわけにはいかない。こういうワクワクはみんなで一緒に共有すべきだ」
「そ、そうですか? でも、ヒンギス家と関わりのない第三者が聞いてはいけない情報だったら……」
だから今だってホープからの報告が来た後、わざわざ冒険者ギルドに寄ってから来たのに。
一緒に聞くのが当然とばかりに言われちゃうとさすがに戸惑う。
「君の執事に頼んだ時点で、情報を隠し切れないだろう。それとも彼は、コトリさんの命令であっても情報は漏らさないのかい?」
「あり得ませんね! 我々は特に、ご主人様が絶対ですので」
「なんでアレクサンダーが答えるのさ……まぁ、そうだよね。そうでした」
別にダメって言われたらわざわざ命令してまで聞き出そうとはしないけどね。
でもそれが出来るということが問題なのだ。それをわかった上でミハイルさんも私に依頼したのだろう。
「それに、コトリさんならたとえ機密事項だったとしても、簡単に漏らしたりしないという信頼があるよ」
「そんな簡単に人を信じないでくださいよ……嘘ついて逃げようとしたじゃないですか、私」
「いや? 秘密を守ろうと必死になっての行動だろう? より信頼出来ると思ったね」
それでいいのか。言いふらすタイプではないのもたしかだけど。
まぁいい。正直、古文書の中身はちょっと気になるしね。歴史とかワクワクする気持ちはわからないでもないし。ミハイルさんほどじゃないけど。
「さぁ、君の執事が待っている。早速みんなで聞こうじゃないか!」
そう言われて案内されたのは、これまでグリンバルドが作業していた部屋ではなく、少しだけ広い応接間。
お茶の準備が整えられており、ミハイルさんと向かい合う形で座る私。
私の後ろにはアレクダンサーが控えていて、ミハイルさんの後ろにはロアンさん。そして前方にはグリンバルドが立っており、いつでも発表してください、どうぞ! な場が用意されていた。
さて、グリンバルドはというと。
「はぅ……ひぃ、ひぃえ」
「グリンバルドはあまり注目しないでほしいと言っているようです」
「なんでわかるの、アレクサンダー」
すでに慣れたであろう少人数しかいないにも関わらず、注目されてご覧の通り人語を操れていません。やれやれ、困ったものだ。
けれどアレクサンダーは慣れたもので、肩をすくめながら言う。
「まぁ、スイッチさえ入ればあとは勝手に喋り出しますよ。皆さん、ご準備はよろしいですか?」
たしかに、喋り出してしまえばいけると思う。
私もミハイルさんもロアンさんも揃って神妙に頷いた。
「では。……グリンバルド、古文書にはとんでもないことが書かれていたんですってね? 歴史を紐解くのはさぞ楽しかったことでしょう」
「そ、そそそそそうなのです、僕も本当に驚いたのです、解読の途中で言ってしまいたかったのですが、そんな中途半端なネタバラシなどまったくもってナンセンスですからな! 言いたい気持ちをグッと堪えてひたすら読み進めたところ、ついつい楽しくなってまいりましてなぁ! ひひひ」
「もう少し落ち着きなさい」
「ひぁ」
コントか。スイッチ入れた瞬間暴走するのも困りものだよ。
アレクサンダーに叱られ、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻したグリンバルドは、私たちを見ず古文書を開いて顔を隠しながら説明を始めた。
貴重な古文書の使い方、それで合ってる?
「この古文書はヒンギス家の成り立ちが書かれておりまして。初代ヒンギス公が精霊召喚士と出会い恋に落ちたというロマンス要素もあり、読み物としても実によく出来た——」
「ま、待ってください。今、なんと? 精霊召喚士?」
ミハイルさんがそこでグリンバルドの言葉を止めた。
そ、それは私も気になるワードかも……!
「せ、せせ精霊召喚士との馴れ初めは、そ、その、あまり興味がないので飛ばしたい……」
「依頼主の要望を自分の好みで無視しない!」
「ひぃ」
うーん、アレクサンダーがいい仕事をしてくれているなぁ。今後もグリンバルドにはアレクサンダーをつけよう。
「それに、精霊召喚士だなんて……私みたいじゃん。私も気になるよ、その話」
「ふ、ふふひ、コトリ様も女子ですものなぁ! やはりロマンスがお好きで?」
「そういうことじゃない」
「ひぃ」
今度は私が叱ってやった。まったくもう。
ま、人のロマンスも嫌いじゃないけどね!
いいから洗いざらい吐いちゃって!!




