66 執事服を着てたらそれはもう執事なんよ
頭の中で偵察が得意な執事、としっかり思い浮かべる。
一体どんな執事なんだろう。やっぱり新しい執事を呼ぶときはわくわくしちゃうね。
では、いざっ!
「執事召喚っ!」
いつものように魔法陣が現れて光を放ち……放ち? あれ? なんか魔法陣がめっちゃ小さくないか?
いつもなら直径二メートルくらいの魔法陣なのに、目の前に現れたのは直径二十センチくらいだ。
ぽかんとしている間に執事が姿を現した。
蝶ネクタイに白シャツ。上着はなくベストを着用し、背中には透明な光輝く羽を持つ……七センチほどの小さな執事が。
え、ええええええっ!?
「小さい! え、妖精!?」
「チビって言うなーっ!」
「え、ごめん。でもそこまで言ってない」
思わず声を上げると、小さな執事は両手を上げてぷんぷん怒り出した。ごめんて。可愛いな。
「おいらはフェアリー執事のホープなんだぞ! ご主人、甘いもんくれ!」
かと思えば生意気な口調で生意気なことを言い始めたぞ。甘い物好きなのかな? 可愛い。
密かにほっこり癒されていると、ホープはアレクサンダーによって首根っこを指先で摘み上げられてしまった。あーっ。
「この羽虫が。どの立場で物を言っているのですか!」
「ぐあー、離せー、アレクサンダー、離せー!」
アレクサンダーの指先でジタバタ暴れるホープくん。
かーわーいーいーっ!!!
エミルとはまた違うベクトルの可愛さ! なんだこの生き物!
っと、今は助けてあげないとね。
「甘い物くらいあげるよ。アレクサンダーに出してもらうことになるけど」
「くっ、コトリ様の命とあらば……」
「やったー! やさしー! ご主人、一生ついていくー!」
「あ、あはは、ありがと」
安いものだなぁ……。いや、お菓子も執事界にあるものだし、私は許可を出すだけの簡単なお仕事だよ。
ひとまず、ホープのステータスを調べてみようか。タブレットを開き、いつものように確認!
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【ホープ】
タイプ:フェアリー
HP:5
MP:999999
攻撃力:F
防御力:F
素早さ:A
賢さ :C
器用さ:A
運 :S
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ちょ、運Sぅ!? 私より運がいいってこと、だよね?
私はトラブルも起こしちゃう系の運の良さだった気がするんだけど……これは大丈夫なやつ?
疑問に思ったらすぐ質問!
私が聞くと、ホープにお菓子を渡してあげたアレクサンダーがステータス画面をのぞき込んで頷いた。
「Sまでいけば何もせずとも幸運が舞い込むので、コトリ様のようにトラブルに巻き込まれることはないかと」
「よ、よかった。相乗効果でより巻き込まれやすくなったらどうしようかと」
「今回もヒンギス家に関わったことで面倒にはなりましたが、結果的に良い思いもしていますからね」
「うぐぅ」
運Aの微妙さよ……! 結果的に恩恵を受けることになるからありがたいのかもしれないけど、手放しで喜べないっ!
ま、まぁいい。ホープの運Sにリスクがないってことがわかっただけで安心だ。
「あとMPとHPの差がエグい」
「こんなものでしょう。フェアリーですからねぇ」
「本人はカップケーキに埋まりながら幸せそうな顔をしてる……」
「緊張感のない顔ですよね。執事と呼んでいいものか少々疑問が残ります」
「ま、まぁ、執事服着てるし……」
「執事判定、緩くないですか?」
気にしたら負けだよ。そんなもの。
「でもさ、HPはさすがに少なすぎない? 風が吹いただけで死んでしまいそうで心配なんだけど」
「ご心配には及びません。基本的にフェアリーは見つけることすら困難と言われている種族ですからね。その上、物理的な攻撃は通りませんから」
「そうなの!? どういう仕組み!?」
「フェアリーですので」
体のいい言葉だな、フェアリー。そういうものだと思っておけばいいってことね。りょ。
あっ、と。忘れちゃいけないチェック事項がもう一つあるんだった。
私は幸せそうにカップケーキに埋まるホープに神妙な面持ちで声をかける。
「ホープ。君は体のどこに紋章があるかわかる?」
「んー? 紋章? ほい、ここだよ」
「はわっ」
ホープはおもむろにシャツを胸までまくり上げた。
ぽっこりお腹がとってもキューーーーート!! そのお腹にどどーんと紋章が描かれているっ!
今回ばかりは似合う。可愛い! 許す!!
それに服をまくらないと見えないしね! ん~~~っ、何度も言うけどキュート!!
「コトリ様、本題をお忘れでは?」
「わ、わわわわ忘れてないよ、ダイジョブ」
「怪しいですねぇ」
そんな変態を見るような目で見ないで、アレクサンダー。ちゃんと聞くから。今聞くから。
えー、ごほん。
「ホープには明日からしばらく、午前中の間グリンバルドを見ていてほしいの」
「えーーー、あんな陰気なおっちゃんとぉ?」
「お、お菓子の山を用意するから」
「えっ!? 食ってていいのか!? それならいいぞ!」
「ホープ。仕事もちゃんとするのですよ。グリンバルドの解析に変化があったらすぐにコトリ様にお知らせするように」
「わーってる、わーってるよぉ! ご主人~、おいらクリームたっぷりのシュークリームが食べたいんだぞ!」
食い意地が張ってるなぁ……。生意気で扱いが難しそうと思っていたけど、お菓子を貢ぐだけで働いてくれるならまぁ、いいかな。
「アレクサンダー、お願い出来る?」
「コトリ様はこの羽虫に甘すぎますっ!」
そうかなぁ? そうかも。だってこんなに美味しそうに食べる姿を見たらさぁ、与えたくなるじゃん?
小動物にエサをあげたくなる気持ちと一緒だよ。
「さ、最初だけだから。ね? 無理、かな?」
「……ご用意できます」
「ひゃほー!!」
「羽虫は少しくらい遠慮なさい!」
もしかすると一番食費がかかるかもしれない、この子。精霊は食事の必要がないんじゃなかったっけ? むしろ制限なく食べられるみたいな? 恐ろしい。
でも永遠に見ていられる。可愛すぎて。恐ろしい。
「で、でも! 今後は一日にあげるおやつの量は制限するからね! よく考えて大事に食べてっ」
「んー、わかったんだぞ!」
よしよし、聞き分けがいいじゃないか。
というわけで、初回の今は思う存分食べたまえ!
しっかし、幸せそうだなぁ。クリームで溺れないようにね!




