65 そんな、でも消費魔力もお高いんでしょう?
長く暇な半日を過ごした後、ミハイルさんは別邸に滞在してはどうかと提案してくれたけど、丁重にお断りした。だって、寛げないもん。
その代わり、グリンバルドが古文書の解析を終えるまでしばらくの間、午前中はここに通うということで話がついた。
とはいえ、何日かかるかわからない中、ミハイルさんがずっとこの町に滞在するわけにもいかないそうで。
そりゃそうだよね。私を追いかける形でこの町まで来たんでしょ? 仕事したほうがいい。
というわけで、しばらくの間はヒンギス家が信頼する従者が滞在し、古文書の解析を見ていてくれるそうだ。
「ロアンと申します。この別邸に関することでも、他のことでも、お困りごとがございましたら何なりとお申し付けください」
「あ、ありがとう、ございます……」
ロアンさんは物腰の柔らかな年配の男性で、ひょっとするとグリンバルドと同年代かもしれない。いや、グリンバルドが年齢不詳だからわかんないけど。
そしていかにも執事って感じのオーラが漂っている。これを言うとアレクサンダーがまた拗ねそうなので言わない。
さて、別邸での滞在を断った私は適当な宿に泊まろうと思っていた訳だけど、そういうわけにもいかないらしく。
「せめて宿はこちらで用意させてくださいね」
などとミハイルさんに笑顔で言われてしまった。圧が……。
別邸滞在を断ったせいでこの申し出までは断りづらい小市民な私……。きっとわざとだ。ぐぬぬ。
結局お高めのお宿に泊まることとなった。
い、いや、まぁ? 人のお屋敷より高級宿のほうがまだ寛げるよね?
これは絶対に古文書の解読をしてもらわねば。グリンバルド、貴方にかかってるからね!
「は~~~、それにしてもどのくらいで終わるのかなぁ、解析。昨日の様子だと、結構な時間がかかりそうだよねぇ」
「そうですね。グリンバルドにしては珍しく進みが遅いようでしたから。解読のし甲斐があると喜んでいましたけれど」
「おもちゃを見つけたようなもんだもんね……楽しそうで何より」
高級宿の一室でベッドに倒れ込み、嘆く私に応えるアレクサンダー。
アレクサンダーは早速ルームサービスで届けてもらったティーセットで紅茶を淹れてくれている。ちゃんと出来る執事である。
「素敵な宿で寛げるのはありがたいけど……その期間は私も身動きが出来ないっていうのが辛いところだね」
だってさ、これからしばらくの間は午前中なにも出来ないってことでしょ? グリンバルドを召喚して近くにいなきゃいけないんだもん。
ロアンさんにとっても辛い仕事だろうなぁ……。同じ部屋で自分の仕事をするので問題ないとは言ってくれていたけど。
仕事すらやることのない私はただただ暇を持て余すしかない。辛い。
「海の幸にありつけるのはいつになることやら……うぅ、毎日半日も潰れるなんて、どうやって暇を潰せばいいの」
「街歩きか、冒険者の依頼でもこなしていればよいのでは?」
ベッドでゴロゴロ転がりながらさらに嘆いていると、アレクサンダーから予想外の返事が。……ん? あれっ?
「……もしかして、私、グリンバルドの側にいなくていいの?」
「ええ。たしかに召喚執事はあまり主人から離れることは出来ませんが、この町周辺にいる分には問題ありませんよ」
「初耳!」
そうだったんだ。いや、思い返してみればドムを召喚した時も一時的とはいえ町の外にまでお使いに行ってもらっていたっけ。
あの時はドムの俊足のおかげで一瞬だったからあまり実感はないけど。
「そっか。遠征に行くってことでもない限りはいけるんだ……。でも、放置する時間が長いと心配だなぁ。グリンバルド的にはどうなんだろう」
「グリンバルドは解析中、周りが見えていませんから問題ないですよ。それに、何かあっても執事界に逃げ帰れます」
「それならいいのかな……でも進捗がわからないと困るよね。一応、行き帰りは立ち寄るつもりだけど」
「ふむ。では連絡係に誰か執事を召喚しますか?」
「うーん、依頼をこなすならアレクサンダーにはいてもらいたいし、魔力的にそこまでの余裕はないかも」
町の近くで簡単な依頼しかしない予定だし、いざという時も逃げ帰れる距離にするつもり。でも、完全に一人で依頼をこなすのはやっぱり不安だ。
なんか私、執事たちに依存気味だなぁ。異世界だし、仕方ない!
となると、アレクサンダーより消費魔力の少ない執事にいてもらうという手もある、か……?
んー、でもなんだかんだいってアレクサンダーがちょうどいいんだよねぇ。なんでもそつなく一定以上にこなせるのってやっぱりすごいよ。万能。
「魔力の消費を押さえたい、かつアレクサンダーとグリンバルドの二人は召喚し続けておきたい。なーんて今の私じゃ無理か」
「そんな悩めるコトリ様に、今回はなんと! 消費魔力1の執事をご紹介出来ます!」
「な、なんだってーっ!? 詳しく!!」
通販番組のようなやり取りをしてしまったじゃないか。
でもこんなの食いつくしか! はやく、はやく教えてーっ!
アレクサンダーは満足そうに微笑むと、こほんと一つ咳をしてから教えてくれた。
「まぁ、そうはいっても消費魔力1なので、出来ることも少ないのですが。偵察や連絡係としては適任です」
「そんな執事が……! 1ならアレクサンダーも入れて三人、半日くらいならいけるかも。でもそんなにお誂え向きな執事が本当に消費魔力1で……?」
「召喚いただけます」
「なんてこった」
こんなおいしい話が転がってるだなんて。しかもこれは詐欺なんかではないのだ。
当然、召喚するに決まってるよね! どうせ今日はもうやることもないし、早速執事召喚だーっ!




