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スキル「執事召喚」でコトリは異世界を優雅に歩く  作者: 阿井りいあ
二章

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62/64

62 本当の目的はそれかぁ


 胡散臭いなぁ、と思いながらジト目でミハイルさんを眺めていると、アレクサンダーが口を開いた。


「会話に入ることをお許しください、コトリ様」

「あ、うん、いいよ」


 私だけだとうまく対応出来る気がしないからね。ここで間に入ってくれて正直とても助かる。


 私が許可を出すとアレクサンダーは一度礼をしてから改まった様子で口を開いた。


「失礼ながら、無償の善意ほど信用出来ないものはありません。おっしゃる通り我々は精霊ですから、貴方のような人間の助けなどなくてもどうにでもなります」

「そ、それは」

「ただ、貴方の貴族という立場はコトリ様が旅を続けるにあたっていろいろと役に立つでしょう。お望み通り貴方の助けを受け入れてもいいかと」

「っ! では!」

「ただし」


 おぉ……アレクサンダーの言葉一つにミハイルさんが一喜一憂している……!

 なんか、この世界の人たちにとって精霊って本当に上位の存在なんだな。まるで神様でも相手にしているかのような態度だもん。


 私は軽口を叩く上に、お世話までしてもらっているけど。……居た堪れない。気にしたら負け。


「正直に、そちらの要求をおっしゃってください。対等な交渉はそこから始まるのですよ。もちろん、隠し事もなしです」


 ピリッとした空気が漂う。

 本気のアレクサンダーは笑顔でも怖い。いや、笑顔だから怖いのかもね。


 さしものミハイルさんもわずかに顔を強張らせている。やっぱり人ならざる者のオーラっていうのかな、迫力が違うからビビるよね。わかる。


 普段はふざけた態度を見せてくるくせに、こういう本気をたまに見せられると私としては複雑な気持ちになるよ。

 私、本当に今のままの態度でいいのかな? ダメと言われてもすぐに直せる気はしないんだけどさ。


 そんなことよりこっちだ、こっち。

 ミハイルさんは一度呼吸を止め、長く息を吐きだした後、観念したように軽く両手を上げた。


「降参だ。わかった、正直に話そう」


 眉尻を下げ、わずかに微笑んだミハイルさんは、これまで見たどの顔よりも肩の力が抜けているように感じた。


「コトリさん。推測するに、貴女が召喚出来る精霊は複数いますね?」

「まぁ、はい」


 また丁寧な話し方になった。どことなく緊張しているようにも見える。

 あれかな、神様のような扱いの精霊を召喚し、仕えさせているからかな。

 私はただの小娘にすぎないのであんまり態度を変えてほしくはないんだけど。


 まぁいい。話が進まないからね。


「その中に、古代語に明るい精霊はいますか?」

「え? えっと、どうだろう」

「もしいれば、なのですが……」


 そもそも、古代語というものが私にはわからない。

 達筆すぎる古文とかそういう感覚かな。専門の勉強をしてないとミミズがのたうっているようにしか見えないやつ。

 この世界にもそういう分野があるのかもしれない。


「この古書の解読と解析の手伝いをしていただけないでしょうか!!」


 そう言いながら、ミハイルさんは見るからに古い本を差し出してきた。圧がすごい。


 本、というより表紙のついた紙の束を紐でまとめたもの、といった感じ。でも、すごく大事にされているんだな、ってのがわかる。

 博物館とかにありそう……。ガラスケースとかに入れられて、展示されているような、そんな歴史の重みを感じる。


 ……というか、ミハイルさん。すっごく目が輝いてません?

 ほしいものがあっておねだりする時の子どもの目だよ、それ。


「えーっと、まず。その古書は一体……?」


 なにはともあれ、事情を聞かねばと古書について尋ねたのがいけなかった。

 ミハイルさんは「よくぞ聞いてくれました!」と私の言葉を遮る勢いで前のめりになると急に早口で話し始めた。


「この国、というより我がヒンギス家に代々伝わる歴史書です。前半部分はただの古文なので読み解けるのですが、後半部分はこのように、記号のような文字が並びまったく読めないのですよ」


 すごい勢いで古書を開いて見せてくるじゃん?

 っていうか、大事なものだろうにそんな扱いで大丈夫?


 ミハイルさんのマシンガントークは続く。


「恐らく古文を扱う時代よりもはるかに昔に使われていた文字、あるいは魔法文字ではないかというところまでは判明しているのだがそれ以上の解読が一切進まなくてね。お手上げ状態で数年が経過している。ああっ、我がヒンギス家に纏わる逸話や過去の出来事がもう少しでわかりそうなのにわからないジレンマ! まるで解答編寸前で続きが出ない推理小説のようだ! そんな思いを代々我がヒンギス家の者は背負わされているのだ!!」


 だんだん興奮してきたな、ミハイルさん。口調が戻ってる。

 こら、アレクサンダー。あからさまに冷めた眼差しで見るんじゃありません、失礼でしょ。


 油断していると私も同じ顔になりそうなので、誤魔化すためにも開かれた古書に視線を向ける。


「なるほど……本当だ。文字というより図形みたい」


 当然ながら、私には一文字だって読めない。アレクサンダーも首を傾げているから、精霊だからわかるってわけでもなさそうだね。


 そうなると専門的な知識を持つ人ってことになるのだろうけど……一人だけ心当たりがある。まだ呼び出したことがないんだけど。


「協力してくださるなら、今後コトリさんの頼みはいつでもいくらでもお聞きします。私に出来る範囲での協力を惜しまないと約束しましょう」

「えっ。それは対価としては、私がもらいすぎでは?」

「それほど、我々にとってこの本の解読は重要ということです!」

「なる、ほど……?」


 まぁ、何に価値を感じるかは人それぞれだし。私としてもこの先の旅が助かるっぽいし。

 ちらっとアレクサンダーを見ると、小さく頷いている。私の判断に委ねるといったところかな。それならば。


「まず、出来るかどうかを確認させてください。もし可能なら、その条件でお引き受けします。うちの執事でも無理ならこの話はなかったことにしてください。……私の秘密は守った上で」

「それはもちろん! コトリさんが危険な目に遭ったり誰からに利用されるのは絶対に許せませんからね!!」

「勢いがすごい」


 この人、なんかキャラ変わってない? 口調も行ったり来たりしてるよ。

 いや、もともとこういう人がこれまで皮を被っていただけなのか。


 ……拍子抜けと言うか、威厳のある公爵様のイメージがガラガラ音を立てて崩れていくなぁ。は、ははは……。


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― 新着の感想 ―
まぁ、貴族なんてものはウサギにもオオカミにもタヌキにもなりますからなぁ …おや? ミハイルの頭にケモミミが…見え…ないな
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