61 胡散臭いのはアレクサンダーだけではないらしい
ミハイルさんと話す前にアレクサンダーと少しだけ相談した結果、もはや隠しても余計に知りたがって面倒になるだけだろうとのことで正直に打ち明けることにした。
その上で、ミハイルさんが私の執事召喚を利用しようとするような者だった場合は全力で排除するという。
……排除!? 待って、もう少し穏便にっ!
ものすごく不機嫌そうではあったけどなんとか宥め、私はミハイルさんに改めて事情を説明した。
ただし、異世界から転移してきたことだけは伏せる。だって荒唐無稽だし、そこまで話す必要はないしね。
「なるほど、やはりそうでしたか。コトリ様がただの一般人ではないことは出会った瞬間から気付いていましたが、まさか精霊召喚の使い手であったとは……」
「あ、あのー……ミハイルさん? 出来れば話し方も呼び方も以前のようにしてもらえると助かるのですが」
執事召喚のことを伝えた辺りから様子がおかしいな、とは思っていた。
ミハイルさんはもちろん、護衛の人もそわそわし始めたというか。
そんなにか、精霊召喚。
アレクサンダーから聞いてはいたけど、あまりにもわかりやすい反応でびっくりだよ。
「とんでもない。精霊召喚の使い手はもはや王族と同等の立場で……」
「それをやめてくださいって言うんですよぉ! むずがゆいし、何より小娘相手に公爵様がそんな態度してたら周囲に怪しまれるじゃないですかぁ!」
「む、それはそう、ですな……本当に良いのか?」
「むしろお願いしています」
「……わかった」
はぁ、良かった。あのままだったら「話はこれで終わり! じゃっ!」してたところだ。
それにしても、まさか精霊召喚の使い手がそこまで貴重だとは。王族と同等というのは言いすぎだと思うけどさ。
……言いすぎ、だよね? ね? あえて確認はしないでおこう。
「ひとまず、場所を移そう。この町にも私の別邸があるので、そちらに」
「なんか、手のひらの上で踊らされている気分……」
「はっはっはっ! たまたまさ!」
たまたまで居場所を当てられてたまるかっ!
魔石の追跡を当てにせずとも行動を読まれてたってことでしょ? やっぱり怖いよ、貴族っ!!
ああ、ちょっと! 殺気をしまって、アレクサンダー!
「では改めて。この度はコトリさんを怖がらせてしまって大変申し訳なかった」
「わわ、頭を上げてくださいっ! それはわかりましたから!」
「……言い訳させてもらっても?」
「き、聞きます」
ミハイルさんの別邸でもてなしてもらい、改めて話を伺う。
以前、本邸にお邪魔した時よりも緊張していないのは、普段通りの私だからかな。
やっぱり場の雰囲気と装いって大事なんだね。あ、お茶美味しい。
「コトリさんと初めて会った時はそこまで疑問に思わなかった。ただ、平民にしては身だしなみが整っているし、話し方が丁寧で、そこが少し気になったくらいで」
「えぇ、そんなにですか? 普通では?」
「普通の平民はそこまで流暢な敬語は使えないよ」
「そうなの!?」
初耳っ! ちらっとアレクサンダーを見上げるも、にこっと微笑まれただけ。
さては「聞かれませんでしたので」か? お得意の。ちくしょう!
「しかも私の申し出を断っただろう? 平民であったならみな委縮して首を縦に振るし、何よりお礼をすると言っているのだからむしろ喜んで共に行動してくれる。安全も守られるしね。それなのに君は必死で私たちから離れたがっているように見えた」
「うっ」
「この時点で訳ありだとは思っていたよ。ただ、悪い人物には見えなかったからね。美しい人だと思ったし、口説こうともした」
「えぇ……?」
そこが一番謎だよ。本人の口から聞いても謎。
まぁいい。スルーしよう。
「何か事情があるなら助けになりたいと思ってね。けれど屋敷に来た時、エミルくんはいないし婚約者を名乗るとんでもない美形がやってきた。ますます素性がわからない」
「なんかすみません」
「何かを隠そうとしていることだけはわかった。だから君たちのことを警戒対象として見ざるをえなかったんだ」
「不審だった自覚はあります……」
つまり、フェイビアンと一緒に屋敷に行った時の私の演技はバレバレだったってことかぁ。は、恥ずかしいな。
「結論として、どこかの国から逃亡中の貴族令嬢が婚約者を名乗る者たちと旅をしている、ということになったのだが……」
「あ、貴族令嬢ってところは疑ってなかったんですね?」
「そこは間違っていない自信があるよ」
残念、ハズレです。
こんな貴族令嬢がいてたまるか……。いや、あるいはそれほど日本の教育や環境のがレベルがこの世界基準では高いってことなのかな?
……いや、でもやっぱりないな。
「それにしてはエミルくんといいフェイビアン卿といい、只者ではない雰囲気を纏っていいる。そして今日、執事の彼を見て確信したんだ。彼らは人ではない。つまり……コトリさんは極めて希少な精霊召喚を行えるご令嬢なのだ、とね」
あー……令嬢であるということ以外はだいたい合ってますね。
でもあまりにも自信満々なのであえて何も言わないでおく。
「希少な存在だからこそ、祖国でトラブルでもあったのだろう。スキルがバレればこの国でだって狙われかねない。コトリさんはこの先ずっと、秘密を抱え、隠しながら逃げ続けなければならないのかと思ったらいてもたってもいられないんだ!」
ガタッと腰を浮かせたミハイルさんにビクッとなる。アレクサンダーがさっと間に入って警戒してくれた。
ごめん、そこまでしなくても大丈夫。
一方、ミハイルさんはそんなこと気にもせず目を輝かせて提案を口にした。
「どうかな、私に君の手助けをさせてもらえないか? 行きたい場所があるなら移動手段の手配も出来るし、どこかに永住したいなら気に入った土地で暮らせるよう取り計らおう」
「な、なんでそこまでしてくれるんですか……」
「善意さ!」
善意、ねぇ。
……そんなにワクワクした雰囲気で言われても説得力なんてないんですが!?




