60 コトリの旅はここまで、か!?
ついにMPが100を超えた。
これでアレクサンダーを二十四時間召喚し続けられるようになった、ということだ!
さすがにまだ何日もぶっ続けで、とまではいかないけどこれは大きい。
HPに比べてMPは一つレベルが上がるだけでかなり増えてくれるので次はもっと余裕が出来るだろう。
「というわけでアレクサンダー。明日の朝まで一緒にいてね!」
「よろしいのですか? ああっ、光栄です! コトリ様のお側に二十四時間張り付いていられるなんてっ!」
「……まぁそうなんだけど、アレクサンダーの言い方だとどうもいかがわしく聞こえるんだよなぁ」
わざわざ微妙な気持ちになる言葉を選んで言ってくるんだもんなぁ……。この照れ屋さんめ。
まぁいい。慣れたもんよ。名残惜しいけど今はこの彩の都から離れないとね!
「そんなことより、さっさと出発しよう! さっき紅茶と軽食は食べたから、すぐにでも行けるよ」
「承知いたしました。次はどちら方面へ向かいますか?」
「それなんだけどさ、海に行かない?」
「海ですか。渡るのですか?」
正直、逃げるというよりはただ海が見たいという気持ちと海の幸が食べられるかもしれないという気持ちが半々ってところだ。
建前として海を渡って他国に逃げると言っておく。
船旅もね、ただの船旅ならいいんだけどこの世界って魔物がいるじゃん? 出来ることなら避けたい気持ちのほうが強い。
わくわくはするけど、嫌な意味でのドキドキは体験したくないんだよ。私は命が惜しい。
さて、アレクサンダーには建前のほうを伝えておこうかな。
「まぁね。さすがに公爵家といえど、国までは簡単に超えてこないでしょ」
「その通りでございます。いやぁ、コトリ様はやはり天才ですねっ!!」
「素直に受け取れないんだよなぁ、どうしてそんなに胡散臭いの、アレクサンダー」
「心外ですね。本心ですのに」
「そんなに褒められたら居た堪れないじゃん。本音は海の幸が食べたいだけなのに、言い出しにくいじゃん」
「言えてますよ、コトリ様」
だって飢えてるんだもん、海の幸に……。
理由はどうあれ、行けるのか行けないのかが大事だ。
情報を求めてアレクサンダーを見つめていると、やれやれといった様子で肩をすくめてから話し始めてくれた。
「海まではそこまでの距離ではありませんが、海を渡ろうとすると港町へ向かう必要があります。少し時間がかかりますよ」
「なるほど……海は見えても渡れなきゃ意味がないもんね」
「ええ。特に港町までは大きな森を迂回しなければならないので、余計に時間がかかります」
「大きな森? これまでも森は通ってきたよね? もしかして、危険だったり……?」
森を突っ切れたら簡単に着くのでは、なんて安易に考えちゃったんだけど、理由を聞いて納得した。
「強い魔物はそれなり、というところでしょうか。厄介なのは幻視の魔法を使ってくる魔物がいるということです」
「幻視……」
「簡単に言うと、めちゃくちゃ迷います。場合によっては数年森を彷徨うことに」
「それは嫌っ!!」
改めて怖いな、異世界。まぁ、幻視なんてものがなくても森や山って遭難者が出るものだし、危険なことに変わりはないけどさ。
森で迷っていればたとえ誰かに追われていても逃げ切れるかもしれないけど、数年も無駄にはしたくない。元の世界に帰ることだって諦めてないんだから!
「安全第一でお願いします」
「かしこまりました。ではまず西へ向かいましょう。そこから一度北にある町を通り、迂回して港町へ」
「よくわかんないけどわかった! 道案内も全面的に信頼してるからね」
「ああっ、コトリ様の運命を私が握っているのですね!」
「言い方ァッ!」
実際、アレクサンダーに裏切られたら私は詰む。でも、そんなことはしないのが執事だからね。
この世界で知り合っただけの相手だったら、ここまで信頼は出来なかっただろう。つくづく、ありがたい能力だ、執事召喚!
◇
アレクサンダーに運命を託して五日ほど。
西に向かって北にある町に到着したところで私の顔は引きつった。
「奇遇ですね、コトリ。ああ、呼び捨てにしては婚約者殿に叱られてしまうんでしたっけ」
「ミ、ミハイルさん……どうしてここに?」
町でばったり貴族様に出会いましたとさ。完。
いやいやいや、どうしてここにいるの!? ああ、ちょっと、敵意をむき出しにするんじゃありません、アレクサンダー!
「ちょっと野暮用でね。それにしてもコトリはいつも違う男性と一緒にいるね。エミルくんを男性に入れて、だけれど」
「は、はは……」
「そこの彼は執事かな? エミルくんやフェイビアン卿とはまた別行動かい?」
「えっとぉ……」
あー、なんかこれ……もしかして詰んだ?
じりっと一歩近付いてくるミハイルさんに気付き、アレクサンダーが私の前に立った。
「単刀直入に言うよ」
ミハイルさんは笑顔のまま、アレクサンダーに視線を向けた。
それからすぐに私に視線を戻すと、声を潜めて告げる。
「コトリ、彼らは人間ではないんじゃないかな?」
「貴様っ! 大目に見るのもここまでです!」
「アレクサンダー!?」
「コトリ様、下がってください」
ミハイルさんの言葉を聞いて、アレクサンダーが臨戦態勢をとった。
慌てる私、そして迎え撃とうと武器を構えるミハイルさんの護衛二人。はわ、はわわわっ!
「やめなさい。今、不審人物は我々のほうだよ」
「し、しかしミハイル様!」
「これは命令だ」
「っ、はっ!」
けれど、この場をすぐに収めてくれたのはミハイルさんだった。
どこまでも穏やかな声で護衛たちに声をかけると、有無を言わさぬ迫力で護衛を下がらせた。
それから両手を小さく上げて、敵意がないことをこちらに示している。
「怖がらせてしまったようだね。私はやり方を間違えてしまった。……貴女方に危害を加える気は一切ありません。どうか話だけでも聞いてもらえませんか?」
途中からとても丁寧で柔らかな口調になった。その言葉に嘘はないように感じる、けど。
ちらっと視線を隣に向ける。アレクサンダーはミハイルさんを凝視したままだ。
うぅ、どうしたらいいんだろう。
「海を渡りたいのでしょう? 我が公爵家の名を自由に使っていただいて構いませんから。悪い話ではないはずです。それに……」
ミハイルさんは再び声を潜めたままダメ押しとばかりに告げる。
「秘密を守る手助けも出来るかと」
あー……これ。
絶対にいろいろとバレてる、ね……?
こうなったらちゃんと話し合いをしたほうがいい気がした私は、黙って首を縦に振った。




