58 一期一会は逃すこともある
居た堪れなさを感じつつも、六人の執事に世話をやかれ、準備を進めてもらい、あっという間に食事の準備が出来た。
正直、ロイヤルな気分が味わえて楽しかったです。
「よし、それじゃあみんなで食べよう! しばらくの間は私のお世話禁止! 全員楽しむこと!」
ラズベリーのジュースが入ったグラスを掲げて宣言すると、それぞれが違った反応を見せてくる。
ニコニコ笑ったままのアレクサンダー、苦笑しながらグラスを持ち上げるバリー、無表情で頷くチャズに、いいのかな?とキョロキョロするエミル。
ひゃっほう!と遠慮なく喜ぶドムと、呆れたような目を向けてくるフェイビアン。
いいのです。これは主人の命令なのです。言うことを聞くのです。
「楽しい時間を共有したいんだよ。ね? お願い! というわけで、かんぱーい!!」
「誰も返事をしていないというのに強行するその姿勢、嫌いじゃないですよ」
アレクサンダーのツッコミが冴えわたっている。構わん! 楽しめ!!
というかそろそろ我慢も限界だ。フェイビアンの作ったおいしそうなご馳走を前に、これ以上は待てないっ! いっただっきまーす!
「やっばい! 天才! フェイビアン、プロの料理人なんじゃないの!?」
「やめてちょうだい。あたくしはスタイリッシュ執事。何事もスマートにこなす天才であって料理人ではなくってよ」
「フェイビアンがカリスマオーラをまき散らすスマートな美の化身なのはわかりきっているから」
「あ、あら、そう……? ならいいのよ」
その上でこんな特技もあるんだからさらにすごいってことだよ!
これはご褒美にしては豪華すぎじゃない? いや、せっかく用意してくれたんだから細かいことは考えずにおいしくいただいちゃおうっと! 幸せ〜っ!
「無自覚にたらしてますね……! さすがはコトリ様です」
「まぁ、フェイビアンもああ見えて単純だからなぁ」
エミルとバリーが何か言っているけど……別にたらしてないもん。
フェイビアンが意外と単純なのは同意する。
ふと顔を上げてみると、執事たちは私の言った通り、思い思いに食事を楽しんでいた。
食べる必要のない精霊だと聞いてはいたけど、美味しいと言って嬉しそうにしている様子を見ると、みんなを呼んでよかったなって思う。
私だって、一人で食べるよりずっといい。
「みんなで食事をするのって、やっぱりいいなぁ。賑やかだと安心するよ」
「コトリ様……ホームシックですか?」
アレクサンダーに声をかけられてハッとする。
思わずしんみりしちゃったけど、寂しいって泣かずにいられるのはみんなのおかげだよ。
せっかく楽しい雰囲気なんだから、台無しにしたらもったいないよね。
「少しだけね。でも、みんなのおかげで平気! ほら、アレクサンダーも食べてる? どれが好き?」
「私は食べてますよ、美味しいです。コトリ様はお母さんみたいなことを言いますね」
「誰がお母さんよ。あっ、ドム! お肉だけじゃなくて野菜も食べな!」
「やべっ、見つかったっす〜!」
いや、でも母親というのはこういう気持ちなのかもしれないな。
せっかくだから一人一人と話をしてこようっと。
まずはあっちで一人黙々と料理を食べてるチャズの下へ。
「チャズは食べてる? あ、いや、すっごく食べてる。びっくりするほど食べるね……実は食べるのが好き?」
「……好き」
「ふふっ、うんうん、いいことだね。たくさん食べてよ! フェイビアンが作った料理だけど!」
きっとこれがチャズなりの楽しみ方なのだろう。
本当は食べるのが好きなんだって知れてよかった。定期的にご飯に誘えるしね。
でもそんな小柄な体で本当によく食べる……よく見たらおかずが山盛りに乗ったお皿が数枚テーブルに並べられている。
一方で、バリーのお皿をみるとサラダばっかりでメイン料理はほとんど乗ってない。これまた意外過ぎる。
「バリーはあんまりたくさん食べないんだね。野菜が好きなの?」
「俺か? 俺は緑の野菜が特に好きだ。あとは……酒が」
「あー、お酒か。……飲む?」
「い、いいのか?」
「もちろんいいよ。羽目を外さなければね」
「コトリ様、あんたは最高のご主人様だぜ!」
「と言っても、私が用意できるわけじゃないから……執事界にあるならいいよ」
私が許可を出すとバリーはうきうきした様子でお酒を取り出した。
なるほど、食べるより飲む派でしたか。納得。
腕を組んで頷いていたら、少し離れた場所から私を呼ぶ声が。
「コトリ様ーっ! オレっち、歌って踊っていい?」
「え、ドムは歌って踊れるの?」
「もち! 下手くそだけど!」
「下手なんだ……ま、まぁ、楽しいならいいよ」
「やったーっ! 一番、ドム! 歌いますっ!!」
一体どんな歌と踊りを披露してくれるのか興味もあったのでどうぞと言うと、ドムは張り切って歌い出した。
歌声は、あー……うん、なんていうか、独創的な、音感をお持ちで……。
それに踊りもすごい。目で追えない速さだ。さすがはスピード執事。残像しか残さない踊りは初めて見たよ。踊りってそういうものだっけ?
ま、まぁ楽しいならいいや。騒音ってほどでもないしね。放置で!
「エミルは甘いお菓子が好きなの?」
「うえっ、あっ、えと。……えへへ。好きです。あと、ボクはスープが好きです」
かっわいいな、おい。本当にこの子はうちの子にしたいよ。すでに弟みたいなものだけど!
エミルとは定期的にアフタヌーンティーしたいかも。メモしておこっと。
「ああ、本当に賑やかで楽しいな。嫌なことも疲れたことも、全部忘れちゃう」
美味しいご飯に、楽しそうな雰囲気。
疲れも吹っ飛ぶってもんよ!
「やはり、少しだけでもこの町を観光してから旅立ちますか?」
「んー……」
珍しく気遣わしげに聞いてくるアレクサンダーの言葉に、少しだけ考えてから答える。
「これからもっといろんな場所を旅してさ、しばらく時間が過ぎて、ミハイルさんが私のことなんかすっかり忘れた頃。またこの彩の都に来てのんびり観光出来たらいいな」
「物理的に忘れさせましょうか?」
「物騒」
ふふっ、もうアレクサンダーなりのフォローだよね。わかってる。
そうだよ、一面だけ見て判断するなんてもったいない。今回はたまたまそういう時期じゃなかったってことだ。
いつかこの町を観光するのを楽しみにしながら、先に進めばいい。その途中で元の世界に帰れるなら、心残りごと帰るだけだ。
一期一会は大事に出来るのも通り過ぎるのも人生である!




