57 怠惰製造システムやばい
町を一望出来る場所で一度フェイビアンを帰還させた私は、しばらく静かな時間を堪能した。
気疲れする一日だったから、こういう一人の時間はホッとする。
ちょっと寂しくて不安な気持ちもあるけどね。執事が常にいることに慣れちゃったからかな。
「やっぱり綺麗な町だなぁ……観光、いつか出来るといいんだけど」
明日からはまた別の町に向けて旅立つ。まさか滞在時間が一日もないとは思ってもみなかったよ。
ミハイルさん、良い人だと思ったんだけどなぁ……。
いや、別に悪い人だって決まったわけではないけど。貴族ってだけでいろいろと面倒そうというイメージは当たっていたということだろう。
軽く頬をパチンと叩き、気持ちを切り替える。
そろそろ魔力も回復したし、静かな時間で落ち着けたし、盛大に執事たちを呼んじゃおう。
そういえば、いつもは一人ずつ呼んでいたけど……一気に呼び出すことは出来るのかな? やってみよう。
「執事召喚! アレクサンダー、バリー、チャズ、ドム、エミル、フェイビアン!」
足元に現れる魔法陣がいつもより少しだけ大きく感じる。
それよりも何よりも、光が強くて眩しいっ!
目が、目がぁっ!!
「やった、出来た! 同時召喚……っ、あれ」
「コトリ様っ」
全員が目の前に立っているのを確認した瞬間、膝がカクンと落ちた。
その場に座り込んだ私を見て、執事たちが一斉に慌てて駆け寄ってくれる。ご、ごめん。
「大丈夫ですか、コトリ様っ」
「うん、平気。なんでだろう、急に力が抜けちゃったんだよね」
おかしいな、全員を呼び出しても魔力にはまだまだ余裕があるのに。
そう思って首を傾げていると、普段はあまり喋らないチャズが口を開いた。
「急に大きな魔力が減ると、脱力感がある」
「あ、それかぁ。なるほどね」
「コトリ様~~~っ! 無茶しないでくださいよっ!」
「アレクサンダー……え、えへへ、ごめん。ちょっと興味本位でやっちゃったんだよね」
立ち上がるのを手伝ってくれたアレクサンダーにへらっと笑ってそう返すと、アレクサンダーだけでなく他の執事たち全員がため息を吐いた。
え、何、この空気。ご、ごめんて。
「だ、大丈夫! 脱力感があると前もってわかっていればもう座り込むこともないから! 次からはちゃんと心構えするし!」
感覚としては、小さな段差に気付かずに足を踏み外してしまった、あの感じに近い。
段差さえ気にしていればなんてことがないのだ。
しかしまだ疑いの眼差しを向けられているような気がする。そんなに信用がないのか、私は。
まぁ? 長く生きているであろう彼らからしたら私なんて赤子みたいなもんで、色々と危なっかしいのかもしれないね。
それよりもさ、せっかくなんだから楽しい時間を過ごそうよ!
私はパンッ、と一つ手を打つと、元気いっぱいで話題を変えた。
「今日はみんなでご飯食べよ! ピクニックシートでも敷いてさ!」
「あら、あたくしが料理を準備するのよ。地面になんて座らせないわ」
「そうですね、私がテーブルや椅子などをご用意いたします」
「気が利くわね、アレクサンダー。じゃあよろしく」
あ、あれ? フェイビアンの言葉を皮切りに、急にみんなが執事っぽくキリッとし始めたぞ? いや、執事なんだけど。
「それなら、地面は平らになってたほうがいいよなぁ? ちょっくら整えるかぁ」
「……周辺の魔物、討伐しておく」
「あ、チャズさん、それボクもついていっていいですか? 水や木の実やフルーツを集めますから!」
「ああ、構わない」
「んじゃ、オレちゃんは薪集めにひとっ走りしてくるっす!」
あれよあれよという間に、役割分担を終えた執事たちは手際よく準備を始めた。
後に残された私はただただぽかーん、である。
「コトリ様は準備が整うまでこちらでおくつろぎください」
「い、いつの間にかソファークッションとブランケットで作られたまったりくつろぎスペースが出来てる……!?」
「食前のお茶は私が淹れたもので我慢してくださいね。私が淹れた、ごくごく普通のお茶を」
「いちいち言い方が自虐的なんだよ……アレクサンダーが淹れてくれたお茶も美味しくて好きだよ」
「恐れ入ります」
まったく、エミルやフェイビアンを召喚してからというもの、時々こうして卑屈なことを言うから困ったものだ。
にこにこしてるから冗談なのか本気なのかわかんないし。でも、半分以上は本気な気はしている。可愛いやつめ。
せっかくなのでお言葉に甘えて、まったりくつろぎスペースでのんびり待たせてもらうことに。
このクッション、すっごくふわふわで抱き心地が良いなぁ。抱き枕にしたい。
ブランケットもあったかくてこのままここで寝られそうなほどだ。
その上、眼下には夕暮れが近付いてちらほらと明かりが灯り始めるカラフルな町、というエモーショナルな風景が広がっており、贅沢の極み。
一方でこちら側ではイケメン執事たちが私のためにあくせく働いている。
……罪悪感が、少しだけ勝つなぁ。
けど立ち上がって手伝おうとする度、アレクサンダーにやんわりと戻され、数回目には迷惑そうに「いいからダラダラしていてください」とまで言われてしまった。
だ、ダメ人間まっしぐらじゃない? 一度に執事を呼び出すと、全員でお世話をされることになるんだなぁ……。舐めていたよ、執事業。学びを得た。
楽だけど、これは怠惰製造システムだわ。




