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スキル「執事召喚」でコトリは異世界を優雅に歩く  作者: 阿井りいあ
二章

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55 反省会in森の中


 森の中で小休憩を挟むため、私は大きな木の幹にもたれながら地べたに座った。

 フェイビアンは少しだけ嫌そうな顔をしたけど、すでにドレスから着替え終えているからか文句を言うことはなかった。


 もちろん、彼は立ったまま。

 普段の執事服でも隙のない佇まいだね。いつもそんなに完璧で疲れないのだろうか……。


「ちょっとだけ休憩させてね。さすがにここで野営とは言わないから……」

「そうね。こんな場所で一晩明かしたら翌朝身体を痛めるわよ。あたくしは平気だけれど」

「お気遣いどうも……」


 今いる場所は森の中とはいえ、木が多くてテントなどを張れる場所さえない。

 だからここで寝るということはろくに横になれないということで、野営に慣れていない軟弱な私ではたしかに身体を痛めそうだ。


 ただ、その分隠れられるので人目を避けるのにはちょうどいいかなと思って。

 小休憩なので大目に見てもらいたい。


 冷静になって屋敷での出来事を思い返してみると……なんか、ミハイルさんには怪しまれていた気がする。


 いや、よく考えてみれば怪しい要素しかないよね、私たちって。

 公爵家でさえ知らない家名、いかにも訳ありな姉弟、急に現れた婚約者を名乗る美青年。うん、怪しさ満点。


 町を守るという観点からしても、怪しい人物をそのまま素通りさせるわけにはいかないのかもね。あれこれ探られたし。

 でも強引に聞いてこなかったのは、きっと私とエミルが助けたからだ。あれがなかったらもっと徹底的に調べられていたかもしれないなぁ。


 悪いことをしているわけじゃないから別に調べられたって構わないけど……執事召喚が知られたらちょっとややこしくなりそうだからね。


 ままならないな、異世界旅。人助けってこんなに難しいんだっけ。


「明日の朝一にはこの町を出たほうがいいかもね……」

「賛成よ。不審者として捕まえられちゃたまんないもの」

「やっぱり? やけに口説いてきたもんね。どう考えても怪しまれてるよねぇ」


 私があはは、と笑いながら言うと、フェイビアンがきょとんとした顔を浮かべた。


 え、なに? 変なこと言った?


「……口説かれていた自覚はあったのね」

「そりゃあ、あんなに露骨に言われたらわかるよ! あっ、もちろん本気だなんて思ってないよ? 私たちが怪しいから気を引いたんでしょ?」

「……ま、そういうこともあるかもね」

「そうでしょー!?」


 私だってさすがにあそこまで露骨なら気付くよ! もちろん、本気で口説かれているなどという勘違いだってしません。


 一目ぼれなんてするわけないでしょ、私に。


 さて、少し身体も心も休めたところでそろそろ移動しないとね。

 重たい腰を上げて立ち上がると、フェイビアンに告げる。


「あまり長居すると偶然を装ってまた出会っちゃうかもしれないし、急いで逃げないとね」

「はぁ、釈然としないわね。まるで犯罪者にでもなったみたいで不快だわ。何も悪いことはしていないのに。むしろ救ってやったのはこっちでしょう?」

「それはそう」


 私も本当にそう思うよ。

 やっぱりあの時、そのまま知らんぷりしていれば……いやいや、魔物に襲われているんだもん。どうにか出来る手段があるのに無視なんてしたら一生後悔するよ。何度遭遇しても同じことをするよ、私は。


 つまり、今さら言っても仕方ないんだから気持ちを切り替えていかないとね!


「とにかく! 今日は本当にありがとうね、フェイビアン。私のマナーや所作はまだまだだけど、すっごく勉強になったよ」

「実践に勝る訓練はないもの。ボロを出さなかっただけ上出来よ」

「お褒めに与り光栄です」

「あら、やるじゃない」


 ただ、やっぱり堅苦しいのは苦手だよ。

 それでもマナーや所作、そして教養は武器になるから定期的に授業は続けようと思います! 押忍!


「さっそく移動しよ! 野営するのにいい場所があるんだ」

「いい場所?」

「うん。町に入る前、アレクサンダーに連れて行ったもらったの。町が一望できる素敵な場所でさ、そこでみんなでピクニックしたいって思ったんだよね」

「ピクニックって……あんた、本当に呑気な女ね」

「えへへ」

「褒めてないわ」


 いやいや、呑気なのは誉め言葉として受け取っておくよ。

 いつまでもくよくよしないんだよ、私は! 旅をしていたらこういうこともあるでしょ!


 へらへら笑っていると、フェイビアンはわざとらしくため息を吐くと、腕を組んで思わぬことを言ってくれた。


「まぁ、いいでしょう。あたくしがいれば野営でも一流ホテル並みのおもてなしが出来てよ」

「えっ、でも……フェイビアンだって疲れたでしょ?」

「ふん。及第点を取ったご褒美よ。それに、あたくしもゆっくりとお茶を飲みたい気分なの」


 ご褒美……! そうだよ、上手く出来たらご褒美をもらえるシステムを提案したんだった!

 よくやった過去の私。フェイビアンのおもてなし、頼みしすぎるっ!


「ふふっ、楽しみになってきた! 早速向かおう!」

「現金なご主人様だこと」

「えへへ……あっ!」


 早速あの眺めの良い場所に向かおうと一歩進んだところで、私はとても大事なことに気付いてしまった。


 恐る恐るカバンの中から高級な小箱を取り出す。

 あれです、ミハイルさんに返そうと思って結局返せずにいた例の魔法石だ。


「……これ、持って帰ってきちゃった」

「ああ、それね。気付いていたわ」

「そうなの!?」


 気付いていたなら言ってよーっ! またお屋敷に行かなきゃいけない流れ? やだやだ、このまま何も言わずに立ち去りたい!


「どうしようっ!」

「向こうが持っていてくれと言ったのだもの、別に返さなくても問題ないわ。それより、その魔石、あたくしたちに預けてくれない?」

「え? 別にいいけど……なんで?」


 たしかにやや押し付けられる形ではあったし……良いのかな? フェイビアンが言うならいいか。


 けど、それを預かりたいというのは疑問だ。

 首を傾げると、フェイビアンは少し嫌そうな顔をしながら教えてくれた。


「執事界に放り込んでおけば、たとえ何かしらの魔法が込められていたとしても無効化されるわ」

「え、何かしらの魔法って……あ、いやいや聞かないでおく!」


 質問しかけて、不穏な笑みを浮かべたフェイビアンを見て止める。


 なんか、あれだ。追跡とか、考えたくはないけど盗聴とか……あんまりよくない系の魔法がかけられてるかもしれないってやつ、だよね? 察した。


「執事界、便利すぎ」

「人間が干渉出来ない領域だもの。あと、執事の中に頭のいいヤツがいるのよ。魔石の解析をしてくれると思うわ」

「頭のいい……それって、まだ私が召喚してない執事ってこと?」

「そうなるわね」


 へぇ、まだ見ぬ執事か。それなら今度召喚してお礼でも、と思いかけたところで、私の思考を呼んだフェイビアンに止められた。


「しばらくはそいつを呼ばないほうがいいわよ。解析中に邪魔したら怒るし、集中している間は何も聞こえなくなるヤツなのよ」

「あ、研究者気質ってやつね。把握」


 それなら魔石に関しては報告があるまで待っていようかな?

 でもいつか、その執事も召喚してお話を聞いてみたいなー。


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